ブラッド・スタルバーグ、スティーブ・マグネスのパッション・パラドックスの書評


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パッション・パラドックス
著者:ブラッド・スタルバーグ、スティーブ・マグネス
出版社:左右社

本書の要約

情熱にはよい情熱と悪い情熱がありますが、その取り扱いを間違えると幸せな人生を歩めません。情熱を味方にできれば、恩恵を得られますし、その取扱を誤れば災厄を生んでしまうのです。情熱とうまく付き合うことで、私たちは結果を出せるだけでなく、素晴らしい人生を送れるようになります。

情熱は取扱注意!

ものごとに熟達し、大きな成功を収められるのは、情熱をもっている人たちだ。しかし、慎重に注意深く向き合わなければ、情熱はたちまち災厄の原因になりかねない。弊害が恩恵を大きく凌駕する場合もあるのだ。(ブラッド・スタルバーグ、スティーブ・マグネス)

人生によい影響を与えると思われている情熱が、時に弊害になることがあります。情熱にはよい情熱と悪い情熱があることがわかっています。情熱を味方にできれば、恩恵を得られますし、その取扱を誤れば災厄を生んでしまうのです。情熱とうまく付き合うことで、私たちは結果を出せるだけでなく、素晴らしい人生を送れるようになります。

情熱を持つことは正しいと言われていますが、情熱には4つのリスクがあると著者達は言います。
1.目に見える結果と外的な評価の奴隷になる。
2.情熱の追求以外にいっさいに関心が向かなくなる。
3.燃え尽きる。
4.喜びを感じられなくなる。

情熱はか弱く、注意深く扱わなければなりません。さまざまな研究から明らかなように、やりたいことがうまくできない場合、不安や抑鬱状態になりがちです。情熱の使い方を間違えると燃え尽きや非倫理的行動につながり、貴重な時間を失うことになります。また、情熱をもつことは依存症と似たようなものであることもわかっています。

モチベーションを高める3つの要素

情熱が大切なことは間違いありませんが、その扱い方を間違えると悲惨なことになります。パッションと脳内ホルモンのドーパミンには親密な関係があります。好きなことに情熱を傾けることで、ドーパミンが脳内を駆け巡り、人は目標に向かって行動できるようになります。目標が達成できれば、私たちはすぐにご褒美を得られるという期待をいだきます。

しかし、このご褒美(達成感)は幻想でしかありません。目標を達成した直後は満足感を味わえても、翌日には再び渇望感が湧き上がってきます。実は、ドーパミンが放出されるタイミングは、目標が達成される前、言い換えれば目標を追求している最中に起こります。私たちの脳は達成感を味わうよりも、目標を追求することについつい夢中になってしまう理由がここにあります。

人は同じ行動を繰り返せば繰り返すほど、ますますドーパミンを欲するようになる。この傾向は、同じ行動をもっと取りたくなるような結果(金メダルに輝いたり、昇進したり、恋人ができたり)が得られる場合にとりわけ著しい。そのような活動に臨むたびにドーパミンが放出され、精神が高揚し、集中力とモチベーションが高まる。問題は、ほかの依存性のある物質の場合と同じく、それを繰り返すうちに、ドーパミンに対する脳の感受性が弱まっていくことだ。

激しい欲求が人を行動に駆り立て、時に自分を追い詰める破滅的な行動をさせてしまうのです。ドーパミンが様々な依存症の原因になっているのです。

情熱と満足感という2つの素晴らしい感情が両立しないのには、生物学的な理由があります。情熱は、際限なくエスカレートしていく性質をもっており、情熱を追求すればするほど、その活動がもたらす快感への依存状態が強まってしまうのです。

情熱には、生物学的起源だけでなく、心理学的起源もあります。つらい経験をしたという感覚、すなわち「トラウマ」は、生産的な情熱を生む場合があります。 情熱を追求することにより、人生の不満足な側面と向き合わずに済み、心理的な逃げ場を得られることもあるのです。それは、破滅的な行動を避けられるなど、好ましい結果につながる可能性もありますが、根本的な問題を直視する妨げになるなど、悪い結果を生む場合もあります。 

ただ、このようなリスクがあっても、自分の人生をよりよくするためには、情熱を持つことはとても重要なことです。人生100年時代には、様々なことにチャレンジできます。自分がやりたいことや興味の対象を明確にし、先延ばしをしないようにすることで、幸せな時間を過ごせるようになります。

興味を引かれたものを追求してみなければ、自分が正しい道を歩んでいるかわからない。それまでどのような経験をしていようと、自分をひとつの枠に押し込むことは避けるべきだ。新しいものを受け入れる姿勢をもたず、試すこともせずに、新しい活動や考え方をくだらないと早々と決めつけた結果、情熱が形を成さずに消えていくケースはあまりに多い。探求の精神をもつことはきわめて重要だ。

最初の時点で「完璧」だと感じられないとしても、新しい活動をすぐにやめないほうがよいと著者たちは言います。関心を追いかけ、それが本格的な情熱の対象へ成長する可能性があるかを試してみましょう。その際、自己イメージや過去の経験に縛られないようにすべきです。

今の興味の対象が「好ましい結果にはならないだろう」と決めつけるのは、自分の可能性の扉を閉じてしまいます。この「私にはぜったいムリ症候群」が生む抵抗感を克服し、これまで歩んできた道からはずれているように思えたとしても、興味を引かれたものに関心を向けるようにするのです。

ある活動が情熱の対象になりうるかは、その活動が3つの基本的な条件を満たしているかで決まる場合が多いと著者たちは指摘します。 モチベーションの主たる原動力は、カネや名誉や他者の評価などの外的報酬ではなく、次の3つの基本的なニーズが満たされた時なのです。

■有能感
自分がやっていることに手応えを感じるようにしましょう。日々の小さな行動を褒めることで、情熱を育め、物事を継続できるようになります。

■自律性
立ち止まり、自らに深く問いかけるための内省の時間を持つことで、人は有意義な時間を過ごせるようになります。本当に情熱を傾けることを見つけたければ、自分との対話の時間を持つようにしましょう。

■関係性
他者とのつながりが、モチベーションを高めてくれます。仲間と一緒に行動したり、ソーシャルメディアでつながることで、人は力を出せるようになります。

有能感、自律性、関係性の3つのニーズを満たす活動はとても楽しく、長続きする可能性が高いのです。私がこの書評ブログを続けられたのも、この3つのニーズを満たしていたからだと納得できました。

起業にはハイブリッド戦略がよい理由

ウィスコンシン大学の2人の研究者が、アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル誌に「仕事を辞めるべきなのか起業へのハイブリッド型の道」という論文を掲載しました。情熱を利益に変え、起業する場合に、いまの仕事を続けるべきか、やめるべきかを調査したのです。

2人は何千人もの起業家に話を聞き、以下の結論を導きました。個人としての新事業への挑戦と並行してそれまでの仕事を続けた人(ハイブリッド型起業)は、仕事を辞めた人に比べて、起業に失敗する確率が33パーセント低いと言うのです。

ある特定のことにすべてを賭けている人は、きわめて脆弱で、特に早まって行動してしまった場合は、その傾向が目立つと言います。

経済的にせよ心理的にせよ、成果へのプレッシャーにさらされている人は、筋道立てて慎重にものを考えることが難しくなる場合が多い。非合理な意思決 定をくだしがちなのだ。すべてを賭けている人は、成功したいからではなく、成功しないと困るから行動する。

投資家でブラックスワンの著者のナシーム・ニコラス・タレブは「バーベル戦略」を取るとよいと言います。重量挙げのバーベルは、左右の両側に同じ重さの重りがついていてバランスが取れています。片側に、リスクは小さいけれど報酬も小さい活動、反対側に、リスクは大きいけれど報酬も大きい活動を配したバーベルのように、「ある領域で安全策を取り、別の領域でリスクのある行動を取るという2本立てのアプローチ」を実践するのです。そうすれば、安全が確約されるわけでもないのに報酬もさほど大きくないという、中途半端な状態を避けられると、タレブは言います。

バーベル戦略の2つの大きな利点。
1、失敗しても破滅はしないとわかっていれば、大きな報酬と引き換えに大きなリスクを伴う行動が取りやすくなります。もっと手堅くやったほうがよくないかと心配したり、迷いが振り払えなかったりすることがなくなります。

2、滑り出しが期待はずれだったとしても、仕事を辞めていないので、窮地に陥らずに済みます。ある戦略がうまくいかなければ、ほかの戦略を次々と試し続ければよいのです。

バーベル戦略は、段階的に情熱を追求するアプローチだ。これを実践すれば、プレッシャーがやわらぎ、ミスをする余裕がもてる。失敗を経験し、それから学ぶことが可能になるのだ。まだるっこしくて退屈に思えるかもしれない。しかし、長い目で見れば、そのほうが成功の確率が高まる。

イチかバチかという挑戦をする人は、たいてい大失敗する羽目になります。それに対し、時間をかけて段階的に前に進む人は、最終的に大きな成果を手にできることが多いのです。情熱が人生のなかで占める割合を拡大する最善の方法は、少しずつそれを大きくし、育むことなのです。

当然、起業にはタイミングが大事です。やりたいことと得意なことを試しながら、よりよい起業を見つけ、成功できるタイミングで起業しましょう。段階的に情熱を追求することで、起業でも成功できる可能性が高まります。

最後に本書で紹介されているジョン・ボン・ジョヴィの言葉を紹介します。

何よりも大切なのは情熱だ。 人生で何を目指すにせよ、情熱をもって生きよう。 この世界に灰色はこれ以上いらない。 世界の色彩は豊かであればあるほどよい。 誰も凡庸でありたいとは思わないが、 人は完璧を目指すべきでもない。 人がものごとを完全に究めることなどありえないからだ。 それでも、3つの「P」は頭に入れておいてほしい。 情熱(passion)に粘り強さ(persistence)が加われば、 可能性(possibility)が拓ける。(ジョン・ボン・ジョヴィ)

情熱とうまく付き合い、育むことを忘れないようにしましょう。情熱に粘り強さが加わることで、私たちは結果を出せるようになるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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