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おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス
藤野英人
日経BP
本書の要約
10年後、20年後のメガトレンドを予測し、起業や転職・投資をすることで自分の未来を変えられます。日本にはさまざまなペインがありますが、現場の視点を持つことで、それをビジネスチャンスに変えられます。課題先進国日本は、可能性の塊であると考え、行動することで未来を明るくできます。
日本の20年後は明るいのか?
世界はさまざまな要因によって常に揺れ動いています。紛争が起きることもあれば、疫病が蔓延したり災害が起きたりすることもありますから、3年、5年といった短期的な視点では世の中がどう変化するのかを正確に言い当てることはできません。 一方で、たとえ天変地異が起きたとしても、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んで私たちの生活が大きく変化していくことは間違いないでしょう。そのようなメガトレンドを追えば、10年後、20年後の世の中がどうなっているのかを描き出すことは可能です。(藤野英人)
レオス・キャピタルワークスの藤野英人氏は数年後の未来より、10年先、20年先を予測する方が簡単だと言います。ITバブルがはじけた20年の前アメリカでは多くのベンチャーが生まれ、イノベーションを先導しました。現在のGAFAMの隆盛も優秀な人間がベンチャーを目指したり、起業を行う選択をしたことも一因になっています。
アメリカに遅れること20年、ようやく日本でも優秀な学生が同じ道を選び始めています。世の中のペインを見つけ、それを解決する起業家が増えています。私が客員教授をしているiU大学でも、起業を選択する学生が増えています。
これからの10~20年間で、課題先進国である日本は大きく変化していくはずです。日本は多くのチャンスが見つかる場所だと考え、行動することで、起業の道が開けます。
「変化を見据えて動く人」と「変化に備えることなく動こうとしない人」、言い換えれば「未来志向で生きる人」と「そうではない人」との間で、大きな格差が生じるでしょう。
アメリカで起こったことと同じことが日本でも起こり、小さなベンチャー企業が日本を代表する企業と入れ替わるかもしれません。未来に賭けた人は、楽しく幸せに生きられますし、間違った選択をした人は不幸になる可能性が高まります。著者は居場所次第で、20年後は天国と地獄に分かれると指摘します。
もしも「自分の居場所は今後、衰退していく可能性が高い」と思うのであれば、ものの見方や考え方、行動などを変える努力が必要でしょう。転職や起業の道を選んだり、未来のGAFAMに投資するということも選択肢になります。自分の周りの起業家を応援することで、自分のマインドセットを変えられます。普段付き合う人を変えることで、自分の価値を再発見できますし、起業家や経営者から多くの学びも得られます。
広告会社に勤めている頃、当時ベンチャーだった企業のマーケティングをサポートするうちに、私は自分のマインドセットを変えられました。当時の取引先の多くが上場し、世の中のペインを取り除いていることが、私の背中を押してくれました。社外取締役やアドバイザーとして、ベンチャー・スタートアップの支援を行えるようになったのも当時のクライアントのおかげだと感謝しています。
ダイバーシティから生まれる新たなビジネス
世界でダイバーシティが進む中、日本の歩みは非常に遅いと感じます。障害者やシニアの社会参画も増えてはいますが、いずれもまだまだ不十分ですし、外国人、LGBTQ(性的少数者)などについての取り組みは大半の企業ではほとんど手つかずといっていいのではないかと思います。
私たちがテクノロジーを社会実装していく上で、ダイバーシティは非常に重要になる著者は言います。このところ、日本でも多くの変化が生まれ、ダイバーシティの取り組みが進み始めました。男尊女卑が当たり前った日本企業には、まだまだその名残がありますが、一人一人の思考を変えなければ、老害を駆逐できません。
「老害というのは思考が古い人ではなく、思考がアップデートしない人」だとすると、変化に抵抗する人は全て老害になります。
心の底でダイバーシティやSDGsについて「道徳や人権だけの問題として仕方なく取り組んでいる」「面倒だがコンプライアンス上、留意しなければならない問題」などと考えている人は、思考をアップデートできない人だと言えます。
実はダイバーシティにはさまざまな課題があり、これを解決することから新たなビジネスが生まれます。
今後、DXによって消費者一人ひとりの個別のニーズにきめ細かく対応することが可能になり、実際に個別のニーズに対応する商品やサービスはどんどん登場してくるはずです。そのような環境の変化の中、従来のように消費者をマスで捉え、世代や性別、国籍などで分類して商品やサービスを当てにいくやり方ではうまくいかなくなるでしょう。大事なのは「男性か女性か」「何歳なのか」「どの国の人なのか」ということではなく、「ひとりのユーザーが何を求めているのか」です。
DXが進化することで、一人一人にアプローチできるようになります。当たり前のことですが、人間は一人ひとり異なる価値観や個性があり、60歳の高齢男性でも20代の若者と価値観が似通っている人もいます。
テクノロジーを活用しながら、よりきめ細かに個別のニーズに対応することにフォーカスする必要が出てきます。それに対応できる企業が成長していく一方で、ダイバーシティの真の意味を理解できずニーズの個別化対応ができない企業は失速していくはずです。
ダイバーシティが進めば、これまで傷ついてきた人たちが傷つかずに済む社会がやってくるでしょう。若者、女性、障害者、外国人、LGBTQなどの人たちが本来の力を発揮できるようになれば、それが日本の底力を上げていく大きな要因になるのは間違いありません。
そして、それを支援していく企業にとってダイバーシティの進展はそのままビジネスチャンスになります。本書の中で紹介されているミライロIDも今後、成長が期待される一社です。
同社はバリアバリューというコンセプトを提示し、障害をバリューに変えることを目指しています。ミライロの創業者の垣内俊哉氏は、生まれつき骨が弱く折れやすい遺伝性の病気があり、幼い頃から車いすで生活してきた障害者です。
ミライロは、障害者手帳を電子化することで、障害者のペインを取り除いています。 障害者手帳の問題のひとつは、発行権限が国から地方行政に移されており、国としてのフォーマットがないことです。発行は都道府県と政令指定都市、条例により一部の中核市がそれぞれ行っており、また障害者手帳には身体障害、精神障害、知的障害の種別があるため、全国各地で内容もデザインも紙の質もバラバラという状態になっているそうです。
公共交通機関などの事業者側が障害者手帳をチェックするのに非常に手間がかかります。また、フォーマットが統一されていないために複製や偽造がバレにくいことを悪用し、健常者であるにもかかわらず車いすに乗って偽物の障害者手帳を提示して予約するといった「障害者詐欺」も発生しています。障害者の権利を証明する手帳がその役割を果たしていないことで、障害者が手帳を使用する際にペインを感じているのが実態です。
障害者手帳を電子化してスマホで利用できるようにすれば、事業者の確認の手間が軽減し、ユーザーもポイントカードのように気軽に提示できるようになって、外出時の物理的・心理的なハードルを下げられます。電子的な本人確認機能を備えれば、今後、窓口に並ばなくてもオンラインでチケットを予約したり、改札でスマホをかざすだけで入場したりといったことも可能になります。
当初ミライロIDの導入社数は限られましたが、信頼性が高まったことで、わずか2年で3000社が導入するようになりました。 ミライロIDは障害者と企業だけでなく障害者と自治体を結ぶ役割も果たせます。ミライロIDのユーザーが増加すれば自治体とのコミュニケーションツールとしての活用が期待できます。ミライロIDが障害者のためのプラットフォームになることで、多くの障害者のペインを取り除け、彼らの能力を世の中のために使えるようになります。
障害者が勤労者としても消費者としても活躍していくための土台づくりを行うことで、日本の労働力不足も解決できます。ダイバーシティーとDXを掛け合わせることで、起業のチャンスが広がるはずです。
本書には、ミライロID以外にも著者が投資しているベンチャー・スタートアップが紹介されています。ドローンで農作物の生育状況を把握するスカイマティクスや山形の地域再生に取り組むヤマガタデザインなどから多くの刺激を受けました。
10年後、20年後のメガトレンドを予測し、起業や転職・投資をすることで自分の未来を変えられます。日本にはさまざまなペインがありますが、現場の視点を持つことで、それをビジネスチャンスに変えられます。課題先進国日本は、可能性の塊であると考え、行動することで未来を明るくできます。
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