BCGが読む経営の論点2022の書評


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BCGが読む経営の論点2022
ボストン コンサルティング グループ
日経BP

本書の要約

2022年を、アフターコロナへ移行していく年、新しい経営環境への備えを万全にしながら前向きな挑戦をしていく節目の年と捉えて、これから3~5年単位、10~20年単位で何が起こるかを考え抜き、対応策を構築しアクションをスタートさせることが、激変する将来での成功のカギになるとBCGは指摘します。

2022年に企業が直面する4つのパラダイムシフト

ビジネスリーダーが変化の潮流を捉え、構造変化の本質を見極め、自社の状況を踏まえ、ビジョンと実行力をもってジャンプを牽引することが、企業変革を成功させるカギだ。(東海林一)

オミクロン株という変異株が現れたことで、新型コロナウイルスとの戦いがまだまだ終わりそうもないことを実感しています。ニューノーマルの時代はまだまだ始まったばかりで、生活者の意識や新たな働き方が元の時代に戻ることはないと経営者は覚悟を決めるべきです。今回のコロナパンデミックによって変化した事業環境に適応できるよう、経営者は企業変革を続けるべきです。

BCGボストン コンサルティング グループ)の東海林一氏は、ビジネスリーダーに必要な3つのことを明らかにしています。
①コロナ禍とその水面下で起こっている事業環境の変化を正しく理解すること
ビジネスリーダーは、10年単位で起こっている変化をしっかりと認識することで「なぜ」企業変革が必要なのかを理解し、変革への思いを確固たるものにし、周囲と共有することができます。

②事業環境の変化によって、企業経営の「何が」構造変化をしているのかの本質を捉えること
ビジネスリーダーには、日々、多くの企業のさまざまな動きが飛び込んできます。そのなかで、構造変化の本質を理解することにより、必要なジャンプの方向性を的確に定めることができるようになります。

③幅広い業界の多様な事例から、「どのように」企業変革を実現するかを学ぶこと
デジタル化の進展は業界の垣根を低くし、競争優位性を構築するうえで異業種の競争・協業が重要になってきました。ビジネスリーダーは、多様な業界の動きを知ることで自社の企業変革アクションについて洞察を得られます。

BCGはその上で2022年以降の世界を読み解くための2つのポイントを掲げています。
■ニューノーマル時代の到来
■経済活動の前提の地殻変動的揺らぎ

●2022年に企業が直面する4つのパラダイムシフト
1、企業目標:「財務的な利益の実現」から「社会的な利益の追求」へ
SXが重視される時代には、拡大を前提とする資本主義のあり方を見直す必要があります。経営者は「社会的な利益」を「財務的な利益」の上位概念として捉えるべきです。カーボンニュートラルや中間層の地位の再向上を実現しなければ、顧客や従業員、サプライチェーンとの関係を構築できなくなります。

2、戦略策定:「先を読む」から「先が読めないことを前提にした経営」へ
企業はいま、地政学リスクをはじめとした不確実性の増大に直面しています。あらかじめ定めた計画に固執することは、環境変化に対する経営の柔軟性を損ない、企業経営に壊滅的な打撃を与えるリスクを生みます。企業は「先が読めないことを前提にした経営」にシフトする必要があります。

不確実な時代には、ナラティブとDXが欠かせません。
●企業がさまざまな変化のなかで起こりうるシナリオを描く構想力を高めること
●リアルタイムのデータに基づきいち早く変化の兆しを捉え、シナリオへの対応力を高めること
●組織の学習スピードを高めること

3、組織:「決めたことを実現する」集団から「付加価値を追求する」集団へ
人々の行動様式や価値観が大きく変容し続けるなか、企業の競争優位性の源泉は、顧客が求めるニーズを素早く把握し、柔軟に提供する力にシフトしています。高い能力を持った個人が、組織が目指す方向性を深く理解し、変化に対して自律的なアクションをとること、企業がそれらの能力を統合的にまとめあげ、1つの付加価値に仕上げていくことが極めて重要になります。

リーダーはパーパス・ビジョン・ミッションを明らかにし、従業員と行動を共にできる環境を整えるようにしましょう。同時に組織単位で意思決定のあり方、ガバナンスのあり方も進化させていく必要があります。

4、人材マネジメント:「企業に即した人材マネジメント」から「変化に対応する人材マネジメント」へ
大きな環境変化に伴い、事業のありようが大きく変化するなか、企業はいま、特定事業に高い遂行力を有する人材とあわせ、事業領域の変化・多様化に対応する人材を確保し、人材ポートフォリオを構築することが求められています。ダイバシティな職場を作ることが競争優位の源泉になります。リーダーは多様なスキルを持った人材から選ばれるような風通しのよい組織をつくりましょう。

2022年に経営リーダーに特に求められる5つの戦略的なアクション

4つのパラダイムシフトに備えるためにリーダーは、以下の5つの戦略的なアクションを行う必要があります。
1、企業が目指すべき方向を再定義する
このブログではMTP(MassiveTransformativePurpose)の重要性を何度も書いてきましたが、社会的意義が重視される時代には、自社のパーパスを再定義する必要があります。組織が実現を目指す価値を定義し、軸を示すことで、構成員の自律的な価値実現を促す決め手にもなります。

「世界のニーズは何か?」「我々は何者か?」が交差するところから、パーパスは生まれます。そのためには自社の歴史のなかで培ってきた強みを深く理解することが重要になります。当然、社会が求めていることに敏感になる必要があります。また、今後のマーケットリーダーになるZ世代との対話も忘れないようにしましょう。

パーパスの再定義にあたって大切なことは、社会的なインパクトの実現、ビジネス戦略の構築、ブランド・顧客体験の高度化、組織設計、人材マネジメントをそれぞれ単独の取り組みとして捉えるのではなく、パーパスというーつの傘のもと、統合的に考えることです。パーパスへの取り組みを通じ、企業は永続的な付加価値の増大と競争優位性の向上を実現することができるようになります。(BCGのパーパスの関連記事

2、不透明への耐性を高める
キャッシュマネジメントカとサプライチェーンの持続性の向上がリーダーの資質になります。
第1ステップ
徹底した見える化。全体を監視・管理するコントロールタワーを経営に近いところに置き、ビジネスの流れを整理します。
第2ステップ
資金やサプライチェーンに影響を与えうるシナリオを想定します。シナリオとの関連性を意識しながら情報を収集することも必要になります。
第3ステップ
各シナリオが発生したときにとりうるオプションをあらかじめ明確化します。
第4ステップ、経営に近いところに置いたコントロールタワーにより、有事には体系的な打ち手を素早く実行します。これらの実行にあたっては、経営リーダーが意思決定のあり方を変えることに強くコミットメントすることが求められます。

経営リーダーは、有事になってから状況を把握し判断するのではなく、普段から有事への備えに関わり、いざことが起きたら対応に関する意思決定を迅速に実行する必要がある。ここでは、経営リーダーが、キャッシュマネジメントやサプライチェーンといった一機能に閉じた思考ではなく、事業・機能横断的に、あるいは外部関係者も含めたネットワークのなかで、全体デザインを構想する姿勢も大切になる。

3、シナリオの構想力を高める
シナリオを構想することで、経営リーダーは、戦略上のブラインドスポット(気づけていない領域)を把握することができます。結果、大きな変化に対して兆候を素早く把握し、より的確な打ち手を実行できるようになります。

シナリオを構想するためには、まず自社の将来像に影響を与えるようなメガトレンドを抽出します。次にメガトレンドのなかから、自社に特に大きなインパクトをもたらしうるキートレンドを整理します。さらにはそれらのキートレンドの組み合わせにより、自社の将来像に関するいくつかのシナリオを創出し、同時に何がシナリオの分岐点・発生要因となるかを理解します。各シナリオが発生したときにとるべきアクションとその発動基準を明確にします。

経営リーダーは「何かが起きた場合にどうするか?」という問いに集中することが重要になります。事業環境の不確実性が高まるなか、将来予測の確度を高めることよりも、想定外のことが起こったときの対応方法を準備することが経営者の最重要課題になっていることを忘れないようにしましょう。

リスクは、同時に企業にとっての事業機会につながる側面も大きい。経営リーダーにとっては、一定の時間軸のなかで、リスク克服と事業機会の創出を同時に見据える視点を持ち、それらを実現する仕組みを構築することが重要になる。

時にリスクはチャンスをもたらします。そのチャンスの芽を見逃さないようにすることが経営者に求められています。

4、環境変化への対応力を高めるためにデジタル基盤を強化する
デジタル基盤の強化にあたっては、目的とプロセスを明確に定め、データ優位性を構築することが大切です。まず、事業の優位性構築につながるデータを特定し、データの獲得方法を明確化します。次に、多様かつ大きな可能性が存在するなか、事業インパクトと実現可能性から優先順位づけをし、ロードマップを定め、価値創出への道筋をつくります。そのうえで、基盤を整備し、アナリティクス(分析部隊)との連携を強化するのです。また、データ優位性を実現するうえで、縦割りではないコミュニケーションがスムーズにはかれる組織を目指すべきです。

5、従業員のエンゲージメントを高める
社会的なニーズと自社の強みの交点で定義されるパーパスを設定し、そこから従業員一人ひとりが実現する付加価値を定め、目標にしていきます。パーパスや目標は企業と従業員の間で積極的にコミュニケーションしていくべきです。企業が目指す方向が明らかであれば、それと動機が一致する人材が集い、自律的に付加価値を生み出す組織がつくれます。

変化が大きく先が読めない環境にあっては、企業のパーパスのもとで、高い動機を持ち、学習し、進化し続ける人材こそが企業の競争力の源泉になります。経営リーダーは、これまでの人材育成施策からさらに踏み込んだ形で従業員のエンゲージメントを高める努力をしていく必要があるのです。

アフターコロナ期においては私たちがコロナ前にノーマルと考えていた状態に完全に戻ることはなく、ニューノーマルというべき状態が訪れるということである。コロナの前と後には、いくつかの断層が生まれるであろうことが見えているが、企業視点で重要なのは、人々の行動様式・価値観が変容したこと、企業・社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)がこれまでとは違う次元で加速化し始めたことの2点である。(内田有希昌)

SXが経営に欠かせなくなったり、地政学的リスクが高まる中、リーダーは今までとは異なる経営を行う必要があります。資本主義経済の大前提のいくつかで、揺らぎが決定的になったことである。  

コロナが明らかにした「ニューノーマル時代の到来」「経済活動の前提の地殻変動的揺らぎ」の顕在化は、これから数年の経営環境を決める大きなドライバーになります。

2022年を、アフターコロナへ移行していく年、新しい経営環境への備えを万全にしながら前向きな挑戦をしていく節目の年と捉えて、これから3~5年単位、10~20年単位で何が起こるかを考え抜き、対応策を構築しアクションをスタートさせることが、激変する将来での成功のカギになるとBCGは指摘します。

経営者はニューノーマルな時代に適応するために、新たな経営を実践する必要があります。その際、パーパスやDXがキーワードになることは間違いありません。MTPを設定し、自律的自走的な組織をつくり、顧客やサプライチェーンとの関係を強化しましょう。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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