アンドレ・アンドニアンのマッキンゼーが読み解く食と農の未来の書評

マッキンゼーが読み解く食と農の未来
著者:アンドレ・アンドニアン
出版社:日本経済新聞出版

本書の要約

新農業のバリューチェーンの構築に成功し、オーケストレーターがしかるべき役割を果たし、機能すれば、農業とは縁遠かった他業種から参入してくる企業も増えるはずです。 農業の可能性を信じ、様々な企業が農業のバリューチェーンに参加することで、日本の農業を強くできるのです。

新たなバリューチェーンが農業を強くする!

我々は、日本農業が将来抱える長期的な課題を予見した上で、それらの課題を乗り越え、さらなる発展を遂げるためには、「新たな農業バリューチェーンの構築」こそ理想の姿であると考えます。(アンドレ・アンドニアン)

マッキンゼー日本支社長のアンドレ・アンドニアンは、新たな農業のバリューチェーンをつくることで、問題山積みの日本の農業を再生できると述べています。

農業を取り巻く環境は、激変しています。ITやバイオ技術が進展することで、参入起業が増加し、業界再編が起こることで、農業のビジネススタイルが変わっています。

1、食と農のグローバル・メガトレンド
2、アグリテックなどの抜本的な技術革新
3、政策・規制の変化
4、食習慣・ソーシャルファクターの影響、
5、農薬・種子・肥料など上流プレイヤーの変化
6、消費者ニーズの変化
7、代替品・代替手法の進化
8、新規参入プレイヤー
という8つの視点から、著者は農業の可能性を明らかにしています。

現在の日本の農業バリューチェーンは、生産、加工、物流、販売など各ステップが別業種で、「業界の壁」が存在しています。また、第一次産業である農業は、金融業や保険業、製造業、テレコムといった、第二次・第三次産業とは縁遠い業界でした。

農業ビジネスの未来を切り開き、理想像に近づけるためには、この「業界の壁」を取り払い、バリューチェーン上のプレイヤーと、バリューチェーン外にいたプレイヤーたちを有機的に協働させなければなりません。今こそ、コネクテッドされた食料供給システムを構築すべきです。

また、協働を最適化するために必要な、バリューチェーンの各プレイヤーに指示を与える「オーケストレーター」(指揮者)という存在が欠かせません。農業以外の製造業、金融・保険、メディア、物流といった他の業種からの適任者を得て、新たな農業ビジネスの展開を考えることで、日本の農業の未来を明るくできるのです。

異業種とメディアが農業を強くする!

オーケストレーターは、国内の消費動向や海外でのトレンドなどの情報を吸い上げ、バリューチェーンのしかるべきステップに臨機応変に指示を出し、農業バリューチェーンの効率化を図って利益につなげます。またそればかりでなく、メディアを活用して消費行動をも刺激する役割を担います。こうしたコネクト&オーケストレートという食料供給システムの構築が、「変曲点を迎えている今だからこそ、一足飛びに大変革する」理想の姿、と我々は考えています。

農業にマーケティングを取り入れることで、顧客との関係も変わります。 最近ではマーケットインの考え方が浸透し始め、産地側も消費者側のニーズを汲み上げ、そのニーズに合わせた作物を作ろうという方向に変わってきています。定期的に多様な産直食品を楽しめる「食のサブスクリプション 」などが、消費者から支持されるはずです。

SNSやメディアを使って消費を刺激し、農産品を販売する動きも加速しています。生産者側から消費者に販売を仕掛けていくことが、今後コネクト&オーケストレートにより、実現していきます。生産者が売ろうとする農作物を、その食材を使った料理をレシピ付きでSNSなどのメディアに投稿することによって需要を生み出しています。

コネクトされたバリューチェーン上では、これまで明示的に考えられてこなかった「メディア」というプレイヤーを積極的に巻き込んだ、新しい食料供給システムが作り上げられます。オーケストレーターが起点となって、バリューチェーン上のプレイヤーを調整し、販売したい農作物が滞りなく、消費者に提供される、それにより、フードロスも解消される。こういった食と農のビジネスが生まれていくことが期待されます。

農業バリューチェーンをその周辺領域まで広げてビジネスと捉えた場合には、従来のバリューチェーン上のプレイヤー以外にも、例えば保険会社や銀行、テレコム企業など、あらゆる業界にビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

バリューチェーン上の各プレイヤーのつながりが見え、環境データの取得とAIの導入によって多くの事象・変数を捉えられることで、農業のリスク管理が保険ビジネスとして可能になっています。デジタルテクノロジーを持つテレコム企業にも、自社で農業を始めるケースや生産者へのサービスを提供するケースなどでコラボレーションしています。

例えば、サファリコムという会社は、農家への助言、融資、種子や肥料の調達を提供するた めに、アフリカのケニアにディジファームを立ち上げました。ディジファームは、農業バリューチェーン全体をつなぎ(コネクトして)デジタル化することによって、小規模農家を豊かにすることを目指しています。

提供するサービスは、農場をプロファイリングして、土壌データにもとづいて何を、いつ、どのように植えるべきかなどの情報提供を行い、また農家の需要にもと種子や肥料などを調達・提供し、さらには必要によっては融資も行っています。ITを駆使することで、最適な農産物を生産する仕組みを構築することで、リスクを減らしながら、農家の収入を増やすことに成功しています。

コネクト&オーケストレートによる新しい農業バリューチェーンが構築されれば、生産者から消費者までの連動性が画期的に良くなります。そうなれば、天候等の変化によるバリューチェーンの上流・下流にリスクが生じても即座に対応することができ、従来の農業リスクの把握・改善に役立つことになります。 そうなれば、これまでボラティリティ(変動性)が高いと捉えられていた農業に、保険業・金融業といった異業種の参入も今後より一層進むと思われ、それによって農業は、資金面でも強固なビジネスとして展開していく可能性が高いと考えます。

農林中央金庫は、農業法人を対象に経営数値の分析や取引先の紹介などを柱とするコンサルティングサービスを提供しています。国内外の金融系プレイヤーは今後、農業のバリューチェーンをさらに経済的に安定で強固なものにするための、重要なプレイヤーになると考えられます。

新農業のバリューチェーンの構築に成功し、オーケストレーターがしかるべき役割を果たし、機能すれば、農業とは縁遠かった他業種から参入してくる企業も増えるはずです。 農業の可能性を信じ、様々な企業が農業のバリューチェーンに参加することで、日本の農業を強くできるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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