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BCGが読む経営の論点2022
ボストン コンサルティング グループ
日経BP
本書の要約
社会が分断する中で、さまざまなトライブが生まれています。トライブ化が進むということは、価値観が異なる生活者のセグメントがいくつもでき、自らのブランドを支持するトライブもあれば、支持しない、極端にいえば不買運動につながるリスクをはらんだトライブも存在するということです。企業はパーパスとSXを意識し、自社のビジネスモデルを再考すべきです。
分断が進む中でトライブへの対応が鍵を握る
コロナ禍はこれまでもあった格差をさらに拡大させ、デカップリング(分断)を深刻なものとしている。あらゆる軸で「1つの地球に2つの世界」が生まれているのだ。先進国ではワクチンの接種がいち早く一巡し、結果として力強い経済活動を再開して いるところもあるが、これから接種が本格化する国における経済の先行きは見えない。(森田章)
今回のコロナ禍が分断を加速しています。アメリカは中国の武漢での初期対応の失敗を非難し、中国はそれへの抗議を繰り返します。ワクチン外交によって米中が新興国を自らの陣営に引き込こむことで、二極化がさらに進展しました。今後はテクノロジー、データを軸としたエコシステム、そしてサプライチェーンまでが2つに分かれていくとBCGの森田章氏は予測します。
コロナ禍によって富の偏在は激しくなっています。各国の財政拡大と金融緩和が常態化したために、資金がマーケットに向かい株価を押し上げています。結果、持つ者と持たざる者の格差を広がり、経済でも二極化が進んでいます。これが反エリート主義や大衆迎合主義を後押しすることにつながり、宗教や人種、世代、都市と地方に分断の軸を広げているのです。
コロナ禍でアメリカの若者は就業機会が減り、対面を強いられるサービス業に就かざるを得ず、所得も上がらないという不満を抱えています。若い世代はかつての経済成長によって「逃げ切った」高齢世代に怒りの矛先を向けています。
分断の末に生まれたのは、似た価値観を持つグループ(「トライブ(部族)化」)が、まだら模様に点在する世界です。コロナ禍によって生まれた余剰の時間を持った人々は、ネット上に居場所をつくり、トライブを形成しています。
ネット上では、自らに合う意見を多く目にし、自らに合うコンテンツが推奨されるので、その価値観はより強化され、時に先鋭化していきます。これが世界の分裂を後押しします。
コロナ禍によって経済活動が止まったことで、ヴェネチアの海が綺麗になったことがニュースになることで、環境に対する意識が変わりました。在宅で考える時間が増えることで、サステナビリティを「自分ごと化」する人も増えています。環境や資源などあらゆる面でリスクが高まっていることを多くの人が知ることで、企業に対する視線も厳しいものになる中で、SXがキーワードになっています。
サステナビリティの本質は「競争戦略」
多くの企業が、サステナビリティを前提に、自社の歴史や強みを活かすパーパス経営を取り入れようとしています。トライブ化する社会は、日本の消費財企業に以下の3つの影響を与えると著者は指摘します。
①市場を捉える枠組みの再考を迫られる
トライブ化が進むということは、価値観が異なる生活者のセグメントがいくつもでき、自らのブランドを支持するトライブもあれば、支持しない、極端にいえば不買運動につながるリスクをはらんだトライブも存在するということです。マーケットを拡大するためにリーダーは、市場を捉える枠組みをトライブを軸に見直す必要があります。
②強みとビジネスモデルの再考を迫られる
大量生産、マス広告、大量販売で効率を追求してきたトップメーカーの優位性は今後薄れるはずです。顧客の多様化に備えるために、自社の強みの再考、それに基づくビジネスモデルの進化を考えなければなりません。
③サステナビリティが競争の軸として加わる
サステナビリティの本質は「競争戦略」であることを忘れてはいけません。欧州の企業は自社の取り組みを戦略的にパブリシティをする ことで、先行優位を確立しようとしています。SXで遅れをとる日本企業は、官民、業界を超えて手を携え、迅速かつ効果的な対抗策を打つべきです。
コロナ禍を契機にしたトライブ化の影響を踏まえ、企業はどのように進化すべきでしょうか?著者は3つの方向性を示しています。
①トライブを軸に成長するポートフォリオを組み立てる
トライブを分ける軸にはさまざまなものがありますが、何が自社にとって重要なのかを見定める必要があります。企業は価値観だけでなくライフスタイルなども似通ったそれなりの規模の「カタマリ」を見つけることが大切になります。トライブの中に共通性を見つけ、それを集約してある程度の規模にし、資源を集中できるよう、市場の捉え方の枠組みを変えることが成長につながります。
②パーソナライズと規模の経済を両立させる
人々はパーソナライズされた体験をすると、その体験を同じ価値観やライフスタイルを持つトライブに拡散します。そのトライブにいる人々がその人を見て真似したくなるので、消費が広がりやすくなります。トライブ化する世界では全体に対して最大公約数の メッセージを訴求するよりも、ある個人にとって心を動かすような体験を届けることがより有効になります。
ただ、モノづくりまでをパーソナライズすると、規模の経済が活きなくなり、大手消費財メーカーの強みが消えてしまいます。つくっているモノは同じ、あるいはさほどカスタマイズされていなくても、提供価値や体験がパーソナライズされていることを大企業は目指すべきです。
アンバサダーを取り入れ、意味のあるトライブをネット上に形成し、そこからデータを取得する仕掛けをつくり、データを活用してメッセージや体験をよりパーソナライズしていくことを考えるなど、プロダクトではなくコミュニケーションでトライブとの関係を構築するという方法もあります。同じモノに対しても異なる意味を見出し、集うトライブを掘り下げていくことで、新たな需要を生み出す努力を重ねましょう。
③サステナビリティを競争の軸に据える。
1、欧州主導の「ルール」に乗るものと、日本が独自に「ルール」を定めるものを峻別する
2、社会課題を解決する業界横断の「ビジネスモデル」(= エコシステム)をいち早く確立する
3、生活者がサステナブルな商品を選択するような「行動変容」を促す。
環境に配慮するだけでなく、人権などへの消費者への関心が高まる中、リーダーは自社のサプライチェーンの中からリスクの高いものを見つけ、それをスピーディに置き換える必要があります。トライブがSNSでネガティブキャンペーンを始めたり、不買運動を起こすこと、それがメディアに連鎖することでブランド価値が棄損します。
それを避けるためには、リーダーは自社のパーパスを見直し、社会的意義を積極的にトライブに伝えるようにすべきです。企業に明確なパーパスがあること、サスティナブルな社会を実現することが、従業員のモチベーションも高めます。傾斜は今こそ、サステナビリティを競争の軸に置き、パーパス経営を実践しましょう。
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