Amazon Mechanism (アマゾン・メカニズム) ― イノベーション量産の方程式(谷敏行)の書評

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Amazon Mechanism (アマゾン・メカニズム) ― イノベーション量産の方程式

谷敏行
日経BP

本書の要約

アマゾンには、イノベーションを起こし続けるための幾つもの仕組みがあります。彼らはシンキング・バックワーズ(逆算思考)を活用し、リリースというゴールから顧客視点に立って、新しいサービスを説明することで、顧客体験を高めることを絶えず意識できるようになるのです。

シンキング・バックワーズでイノベーションを起こそう!

すでにアマゾンは、誰か1人の天才──すでに引退した創業者ジェフ・ベゾスのような──がすべてに目を配り、指示できる規模ではありません。にもかかわらず、さまざまな分野で、しかも破壊的なイノベーションが起きているとすれば、それを突き動かしているのは誰かのひらめきやセンスではなく、そこには再現可能な「仕組み」があるはずです。

GAFAの中で、最もイノベーションを起こしているのは、アマゾンだと私は確信しています。「地球上で最も顧客を大切にする企業になること」を目指すジェフ・ベゾスが長年リーダーをつとめてきたアマゾン。彼らは顧客体験を最大化するために、数々のイノベーションを起こし続けてきました。

アマゾンには「イノベーション・メカニズム」があり、これは日本企業にもフィットしたもので、模倣可能だと著者は指摘します。エンジニア出身の谷氏は、「リバースエンジニアリング(逆行工学)」を駆使し、そのメカニズムを24個の「仕組み・プラクティス」に分解し、イノベーションを起こす秘訣を明らかにしてくれました。

イノベーションを創出するための思考プロセス「ワーキング・バックワード(Working backwards)」をアマゾンでは活用しています。「顧客ニーズからスタートしてそのソリューションとなる製品・サービスを発案する」ために彼らはPR/FAQのフォーマットを用います。

最も驚いたのが、その仕組みの1つである「PR/FAQ」というイノベーション提案フォーマットであり、まさにシリアルアントレプレナーという天与の才能を持った人たちが個人の脳のなかで行っていることを、1人の脳ではなく、チームのディスカッションで実現できるようにデザインされたものでした。探していたのはこれだ、と興奮したことを覚えています。

アマゾンではサービスをリリースする前に、「プレスリリース」「FAQ」「ユーザーズマニュアル」を作成することが義務付けられています。自分たちが提案しようとしている商品やサービスがどのようなものなのかということが明らかにすること、顧客へのメッセージや資料を他の部署やステークホルダーに共有することで、チームが一眼となれるのです。

シンキング・バックワーズ(逆算思考)を活用し、リリースというゴールから顧客視点に立って、新しいサービスを説明することで、サービスをよりよいものにできるのです。顧客体験を高めるために、何をすればいいかを考えるアプローチを取り入れることで、メンバーが最高のストーリーを考えられるようになるのです。

PR/FAQを書く際に重要なことは、次の5点を明確にすることです。
1)顧客は誰か?
2)顧客は、どんな課題を抱えているのか?
3)顧客の課題に対して、このサービス・製品が提供するソリューションは何か?
4)そのソリューションは、顧客の問題を本当に解決するのか?
5)顧客はこのサービス・製品を心から「欲しい」と思うか?

アマゾンのイノベーションサミットとは何か?

「イノベーションサミット」の目的は、イノベーションのアイデアを出し合い、高め、実現に近付けることにあります。

アマゾンでは1年に1回イノベーションを起こすためのイベントである「イノベーション・サミット」が開催されます。

「イノベーションサミット」が開催される数日間、参加者は日常業務を離れ、普段、所属する部署の垣根からも解放されます。他の組織のメンバーとチームを組み、新しいイノベーション提案にチャレンジします。

1)参加メンバーがそれぞれ、イノベーションのアイデアを持って集まり、発表します。
2)全員が発表を終えた後、似たアイデアを持つ人たちとチームを組きます。
3)チームごとにディスカッションをして、アイデアをブラッシュアップしてまとめます。
4)チームごとに、アイデアをプレゼンテーションします。
5)マネジメントメンバーが、優れたアイデアを選び、選ばれたアイデアはPR/FAQの形式にまとめ、会社として実行に移すかどうかをジャッジします。

このイベントに参加することで、メンバーは イノベーションを起こすことは誰でもできると実感できます。人事でも法務でも営業でも、どんな部署のどんな役割の人であっても、自らの発案でイノベーションを起こす力を持っていることを体感でき、それを社内で共有することで、メンバーひとりひとりの小さなアイデアが力を持ち始めます。

ディスカッションする際、メンバーは「顧客のために」「普遍的」「潜在的に大規模」を意識します。予測できる売上・利益の議論よりも、「地球上で最も顧客を大切にする企業になる」というビジョンを実現することを真剣に議論することで、未来を変える斬新なアイデアが生まれてきます。

「イノベーションサミット」を開催することで、顧客体験を向上させるという文化が醸成され、メンバーはポジティブに行動できるようになります。

PR/FAQを使って提案されるアイデアには、未成熟なものもあれば、クレイジーなものあります。しかし、どんなクレイジーなアイデアであっても、リーダーたちは真面目に検討し、アイデアのエッセンスだけでも何かに生かせないかと考えるように努力します。

アマゾンという会社には「自分たちのやり方は変わっている」という強い自負があると言います。アマゾンのリーダーたちは、変わったやり方を肯定し、推奨し、促進しています。「Amazon’s Peculiar Ways(アマゾン流の奇妙な方法)」という企業文化が、社員のモチベーションを鼓舞し、失敗を恐れない組織を生み出しているのです。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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