小売再生――リアル店舗はメディアになる(ダグ・スティーブンス)の書評

assorted flower bouquet near flower shop

小売再生――リアル店舗はメディアになる
ダグ・スティーブンス
プレジデント社

本書の要約

ネットショップに品揃えや利便性で勝てないリアル店舗が、生き残るために必要なことは、店舗のメディア化です。自社をメディアにし、ここでしかできないわくわくな体験を提供することで、顧客から支持されるようになります。顧客の期待を上回る買い物体験を提供するリアル店舗によって、自社のECサイトの売上も伸ばせます。

リアル店舗が生き残るために必要なこと

好むと好まざるとにかかわらず、わたしたちの暮らしはますます技術と無縁ではいられなくなっている。買う商品、タイミング、場所、そして買い物の理由までもが劇的な影響を受ける。今や小売の取引の少なくとも50%に何らかのかたちでウェブが関わっていて、携帯での取引の割合は一貫して右肩上がりの状態だ。デジタル技術のおかげでいつでもつながっていられるという状況が生まれた結果、消費者として知りたいこと、手に入れたいもの、見たいもの、やりたいことなら何でもちょっと画面をタップするだけでたどり着けてしまう。(ダグ・スティーブンス)

テクノロジーの進化で、顧客の買い物体験が劇的に変化しています。コロナ禍の中、買い物に行きづらい状況が続き、リアル店舗の苦戦が続きます。今後、数十年でリアル店舗が消滅すると投資家のマーク・アンドリーセンは述べていますが、本当にリアル店舗は生き残れないのでしょうか?

ECサイトでの買い物には、わくわく感が足りず、顧客体験という視点で考えるとまだまだやれることがあります。小売コンサルタントのダグ・スティーブンスは、既存のリアル店舗は顧客体験を高めるために、店をメディア化すべきだと指摘します。

ショッピングの本当の楽しみは、妥当性と偶発性の絶妙なバランスにあります。あらゆるものがアマゾンなどのECで買える中、店舗の役割が変わり始めています。買い物客は商品との偶然の出会いやデジタルでは体験できないわくわく感をリアル店舗に期待しています。しかし、多くの既存店はこの買い物体験を提供できずにいます。

ショッピングモールや店にいるとき、客が買い物に熱狂している様子を見ると私たちは興奮します。そこに「何かありそうだ」と感じたときの興奮やわくわく感によって、顧客の財布は緩みます。

買い物客のドーパミ ンは、探し求めていたものが手に入ると期待できるときに最高レベルに達し、入手できないリスクもあるとわかっている場合には、さらにドーパミンが増えることがわかっています。何でも手に入る時代には、気に入った商品が見つかるかどうかわからないという状況を作ることで、顧客の行動を変えられます。何が見つかるかがわからないような店舗が、顧客の脳に刺激を与えることを忘れないようにしましょう。

実店舗でのショッピング空間に、ほんのわずかな無秩序感が上手に仕込んであれば、発見のわくわく感が生まれる。言い換えれば、充実したショッピング体験の肝は、確実性と偶然性の絶妙なバランスにある。

店舗は顧客と関係を築く重要な手段になります。実店舗がそれぞれの地域でのブランド認知を高めるだけで、オンライン販売の促進につながります。自社の存在を地域の住民に認知させ、体験すること、わくわく感を提供することで、オンラインショップの売上もアップします。

ブランドや顧客体験への期待を打ち出すための5つの要素

実店舗は身体性を大事にし、製品に対して本能的に「触れる」、「試す」、「感じる」、「体験する」という行為が楽しめないといけないのである。 客の五感を刺激し、店を出た後も長らく客の印象に残るような体験だ。全身のすべての細胞で感じることのできる体験である。

オンラインショッピングやデリバリーが顧客の買い物体験を劇的に変えていますが、リアル店舗は顧客の心を揺さぶったり、圧倒する場所にならなければ、存在意義が失われます。

店舗は顧客に以下のメディア体験を提供すべきです。
■身体的な関わり合いや五感に訴えるさまざまな働きかけを通じて、魅力ある明確なブランド・ストーリーを伝えるようにします。
■没入型の環境で実際に身体を動かして製品を体験できる機会を提供します。
■客の話を聞きながら、製品、サービス、別の購入候補などを網羅するブランドのエコシステム全体に誘う入り口の役割を担います。

店舗は自社のブランドストーリーの内容を練り、明確に表現すれば、客の心をつかむ効果的な物語になります。自社をメディアにし、ブランドストーリーを発信することで、顧客をこのストーリーに巻き込めるようになります。

結局のところ、ストーリーとは、わたしたちが目で、耳で、舌で、肌で体感し、深く関与するものにほかならない。あるいはまた、わたしたちが言葉を交わす人々であり、帰る道々思い出すような記憶である。 未来の店は、多彩な商品と関連のある活動やライフスタイルを謳歌する場になる。想いを同じくする仲間と交流するために店に行くのだ。

リアル店舗というスペースでの体験や交流が、顧客とブランドを結ぶ強力な絆を生み出します。

既存のストーリーにサプライズがなくなれば、顧客は店舗から離れていきます。自社のストーリーの台本を書き換えることで、顧客の驚きや興味を喚起し、圧倒的に独自性あふれる体験を生み出せるようにします。ストーリーの中には、自社の価値を感じてもらえる要素や新しさを取り入れるべきです。

低成長の企業を成長させるための解決策としてベイン・アンド・カンパニーのジェームズ・アレンが示しているのが、「創業メンタリティ」です。これは、会社の業績を再活性化できるようなビジョンと重点を徹底的に明確化することです。

創業者が指揮をとる企業は、革新志向、オーナーマインド、現場重視といった特徴があり、業界の反体制革新者になりやすいとアレンは指摘します。大企業や老舗と言われる存在になっても、「創業メンタリティ」を失わず、顧客体験を高めるブランド・ストーリーを語るべきです。

優れた小売業者は、独自のブランド・ストーリーを効果的に目の前で訴求することこそが顧客体験と捉えている。ストーリーを一連の重要な場面に分解したうえで、1つひとつの小さいながらも重要な顧客とのふれあいに、壮大な設計の意図を丹念に反映していくのである。お店に入って、売り場を見て回り、製品の使い方を調べたり、試しに使ってみたりして、サービスを受け、支払いをして、配送を依頼し、店を出る。アフターサービスも含め、こうし た場面はすべてブランド・ストーリーを構成する重要な節目なのだから、徹底的に考え抜かれた魅力あふれるひとときになるよう、細心の注意を払って検討し、手抜かりなく設計しなければならない。

独自のブランド体験を顧客が本当に素晴らしいと感じ、この体験をいつまでも繰り返し味わいたいとか、その体験談を他の人々にも伝えたいと思ってもr会うことで、クチコミが起こります。類まれな体験を提供することで、顧客がファンとなり、SNSでシェアしてくれ、新たな顧客を創造できます。

ブランドや顧客体験への期待を打ち出すためには、以下の体験の5大要素を実践すべきです。
①惹きつける力
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてに訴え、顧客を理屈抜きに惹きつけるものであること。

②個性
特殊性、意外性、固有性のいずれかがあるが、見掛け倒しではなく自然な手法、言語表現、あるいは習慣を取り入れていること。

③パーソナル化
体験が自分のためだけにあるような特別感を顧客に感じさせること。

④驚き
まったく想定外の要素ややり取りが含まれていること。

⑤再現性 
所定のルールに沿っていて、有効性が確認されている手法で実行され、全社的に一貫性と傑出性を一定水準に維持できること。

店舗は繰り返し楽しめる場所になるために、惹きつける力、個性、パーソナル化、驚きを提供する努力を重ねなければなりません。オンラインストアにはない魅力を絶えず発信することで、リアル店舗に賑わいを取り戻せるのです。



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