イノベーションの競争戦略―優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?(内田和成)の書評

three person standing near wall inside building

イノベーションの競争戦略―優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?
内田和成

本書の要約

イノベーションとは、顧客に行動変容を起こさせることです。技術革新ではなく顧客の行動を変化させることをゴールに取り組むのであれば、そのプロセスは一変します。イノベーションの競争戦略とは、顧客の行動を引き起こし、市場における優位性を築くことなのです。

イノベーションとは何か?を改めて定義する

世の中に存在しなかった画期的な発明やサービスは、企業におけるイノベーションの必要条件ではないということである。それよりも新しい製品・サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそがイノベーションの本質である。我々はこれを行動変容と呼ぶが、これこそが企業がイノベーションを起こすためのカギとなる。(内田和成)

イノベーションとはアイデアを生み出し、技術革新を起こすことだという認識が広がっていますが、その考え方では成功は手に入りません。イノベーションを起こすためには、テクノロジーだけに頼るのではなく、人々を取り巻く環境の変化や商品やサービスを利用する人の心理変化が、企業を成功させる要素として必要だと言うのです。

経営学者でコンサルタントの内田和成氏は「イノベーションとは、これまでにない価値の創造により、
顧客の行動が変わること」だと定義します。

iPhoneとウォークマンを対比するとイノベーションの本質が見えてきます。アップルは「どうすれば顧客の行動を変えられるか」ということをゴールに据えましたが、ソニーは「自社による革新的な技術の開発」をひたすらに目指していたため、アップルにプラットフォームを奪われてしまいます。

イノベーションを「技術革新」と捉えるか、「顧客の暮らしを変えること」と捉えるかによって、結果が大きく変わります。顧客の行動変容を起こす取り組みや技術を活かすための戦略、さらには企業や事業の生き残りをも左右してしまうのです。

新しい製品サービスを消費者や企業の日々の活動や行動の中に浸透させることこそが、イノベーションの本質です。長い時間をかけて、ウォシュレットは人々の行動を変え、トイレに対する態度変容を起こしました。トイレを嫌な場所ではなく、くつろぎの場所に変えたのです。結果、ウォシュレットの有無が、ホテル選びや賃貸住宅の選択にも影響を及ぼしたのです。

イノベーションの3つのドライバーとイノベーションストリーム

技術革新ではなく顧客の行動を変化させることをゴールとして取り組むのであれば、そのプロセスは一変することになる。イノベーションの競争戦略とは、顧客の行動変容を引き起こし、市場における優位性を築くことである。

イノベーションには以下の3つのドライバーがあります。
1、社会構造
社会や業界の根幹を覆すような構造の変化を指します。人口動態や法規制等の社会変化もあれば、特定業界の需給バランス変化等も含まれます。

2、心理変化
心理変化とは、消費者を代表とする市場参加者の行動、常識や嗜好の変化を指します。

3、技術革新
自社の技術のみならず、業界や社会インフラの技術も含みます。たとえば、5GやIoTといった社会全体におけるテクノロジー変化をドライバーと考える場合でも、その組み合わせをどう切り取るかで、意味合いは大きく変わるのです。

3つのドライバーにイノベーションストリームという4つの創出プロセスを掛け合わせることで、企業は顧客の行動を変容させ、大きなマーケットを獲得できます。
ステップ1 トライアングルによりドライバーを捉える
ステップ2 ドライバーを梃子に新しい価値を創造する
ステップ3 顧客の態度が変わる
ステップ4 顧客の行動が変わる

以下、アイロボットのイノベーションを4つのステップで考えていきます。

ステップ1 トライアングルによりドライバーを捉える
表面化しつつあった共働き世帯の増加という社会構造の変化を背景に(社会構造)、家事からの解放や効率化を切実に必要とする人々が想定されました。(心理変化)。アイロボット社は、ロボットの最新技術競争に注力するのではなく、顧客の家を理解して部屋を綺麗にする技術開発に注力しました(技術革新)。

ステップ2 ドライバーを梃子に新しい価値を創造する
ルンバは「人の代わりに掃除をすることで、家事から解放された時間を提供する」というこれまでにない新しい価値を提供しました。これは旧来の掃除機市場の「人が掃除をするのを機械が手伝う」という考え方とまったく異なるアプローチでした。

ステップ3 顧客の態度が変わる
ルンバが提供した新しい価値は、「掃除はロボットに任せてもよい」という価値観を生み出し、「掃除をロボットに任せるなんて家事の手抜きだ」という古い社会通念を大きく塗り替えたのです。顧客の態度が変容することで、不可逆性が発揮されました。ロボット掃除機が顧客から評価されることで、ライフスタイルに大きな影響を及ぼしました。

ステップ4 顧客の行動が変わる
ルンバは「掃除は外出中に行なう」ライフスタイルへと変化させ、さらには「ルンバが掃除をしやすいように床上スペースを10センチに上げた家具を揃える」というような顧客の行動変容を引き起こし、家具業界のトレンドにも大きな変化をもたらしました。

顧客の不可逆な行動変容にまで至れば、その市場での競争は優位になる。すなわち企業が目指すべきイノベーションとは、新しい技術の開発ではない。

他社が開発したものを活用しても、イノベーションストリームの4つのステップを先に完成させることで顧客の行動を変えた者が、勝者になることもあります。

イノベーションを起こした企業は、環境変化を自社の成長につなげているからこそ、優位性を発揮できるのです。成長する企業は、環境変化の中に自らのドライバーを見出し、これを挺子に行動を起こし、その波を捉えて大きな飛躍を遂げています。これがイノベーションを起こせる企業と、そうでない企業を分けることになるのです。


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