日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか (永濱利廣)の書評

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日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか
永濱利廣
講談社

本書の要約

低所得・低物価・低金利・低成長からなる日本病のために、日本人の貧困化が進んでいます。この30年間日本はデフレを放置したために、経済は成長せず、賃金が上がらなくなっています。これを脱却するためには、大胆な財政主導と量的金融緩和の継続が求められています。

日本病とは何か?

「低所得・低物価・低金利・低成長」──バブル崩壊以降、日本に定着したこの「日本病」は、海外の国々からは「日本化(Japanification)」と呼ばれています。(永濱利廣)

物価が上がらないと給料が上がらないというルールを無視すること、デフレを放置したことで、日本人は確実に貧しくなっています。

日本はバブル崩壊後、不良債権処理に失敗し、長期間デフレに悩まされています。一方、リーマンショックの際にアメリカなどの先進国は一瞬デフレに陥りますが、彼らは日本病を研究していたがために、果敢な経済政策を行います。

アメリカや欧米の政府や中央銀行はデフレを放置せずに、迅速かつ大胆な経済政策を行いました。 その結果、デフレを回避し、「日本化」を免れることに成功しました。リーマン・ショック後、欧米は大胆な金融政策と大規模な財政出動を行うことで、デフレを回避したのです。

「量的金融緩和政策+大規模財政出動」が、デフレ対策の定石となっています。ちなみにこのとき、日本はこれに加わらず、慎重な姿勢を崩さなかったため、異常な円高・株安を招きました。それによって引き起こされたのが、多くの生産拠点の海外移転とそれに伴う地方経済の破壊、いわゆる「産業空洞化」です。これはバブル崩壊で傷んでいた地方経済を完全に疲弊させました。完全な失策です。

しかし、日本政府も日銀もリーマン時にこの政策を行うことはなく、デフレ退治に失敗します。安倍政権が登場し、黒田日銀総裁の大胆な金融緩和を行うのは、リーマンから遅れること6年、2013年になってからでした。

政府と財務省の緊縮財政政策が続くことで、日本経済は成長できずにいます。リーマン後の対応が日本病をより重くし、日本人の貧困化を加速させています。

日本の貧困化を防ぐためには?

欧米では今日より明日は良くなる、と感じられるから、楽観的になり、貯蓄より買いたいものを優先できる。だから経済が回るのです。逆に、「明日は今日よりも生活が苦しくなるかもしれない」という不安があれば、将来のためにお金を取っておこうと過剰に貯蓄をしてしまいます。

経済が成長する先進国は未来に期待を持てます。明日は今日より良くなると考えるアメリカと日本は、この30年で全く異なる道を歩みます。日本との経済戦争に苦しんでいたアメリカのGDPは30年間で2倍になっていますが、日本は1.2倍に留まっています。

未来に不安を抱える日本人は貯蓄を増やします。企業も従業員の給与や設備投資に回すより現預金を増やし、リスクを取るよりも小さく安定することで、成長しなくなります。

一方海外では経済が成長するので、物価が上がります。食料・エネルギーといった生活必需品を、価格が国際市況で決まる輸入に頼らざるを得ない日本では、全体の物価は上がらないのに食料・エネルギー関連の物価だけは上昇していきます。

特に、コロナショック以降の日本経済は、中産階級の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」が深刻化し、人々の生活を苦しめています。悪いインフレを避けるためには、経済を成長させ、賃金の上昇により国内需要を強めることが欠かせません。

しかし、この厳しい状況下では日本は緊縮財政を続け、増税や社会保険料などの負担を高めています。未来に不安を抱える日本人はますますお金を使わななくなり、貯蓄に励むようになります。

日本では「年収200万円未満」の世帯の割合は増加傾向にあるだけでなく、「年収1500万円以上」の世帯の割合が減っています。海外では貧しい人はより貧しく、裕福な人はより裕福になることで格差が広がっていましたが、本は「総貧困化」に向かっています。日本が経済成長しないために、日本に貧困化が進んでいるのです。

日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。それによってもたらされた過度の将来不安を、いろいろなところから解凍していくことができれば、日本が復活できるチャンスは大いにあるのです。

永濱氏は他国の政策と比較することで、政府と中央銀行の失政を明らかにしています。私もこの30年日本がデフレ脱却できていない状況を見ると、現状の緊縮財政は間違っているように思えます。未来を明るくするというマインドを作るためにも、量的金融緩和と大規模な財政出動が今こそ求められています。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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