「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋 (遠藤功)の書評

three men sitting on chair beside tables
「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋
遠藤功
東洋経済新報社

本書の要約

日本企業の多くは「カルチャー(土壌)」が大きく傷んでいます。これでは「ケイパビリティ(根っこ)」が高まるはずはありません。健全な組織風土(組織の心理的基準)、独自の組織文化(組織の心理的エンジン)、卓越した組織能力の3つの要素が欠かせません。まずは、「健全なカルチャー」を育むことから始めましょう。

カルチャーが経営に重要な理由

カルチャーとは次のように定義することができる。──カルチャー(良質な土壌)=組織風土(整地化)+組織文化(肥沃化) (遠藤功)

経営において、企業のカルチャーが重視されるようになってきました。カルチャーとは組織風土という土台に組織文化を築いていくことですが、多くの日本企業にはこのカルチャーがなく、これが経営の敗因になっています。

GAFAMや海外のエクセレントカンパニーにはカルチャーがあり、これが競争優位性になっています。多くの日本企業は組織風土が著しく劣化し、活力を失い、沈滞していると著者は指摘します。一方GAFAMなどのエクセレントカンパニーの経営者は、カルチャーこそが「目に見えない最大の資産」であると認識しています。

人を発奮させ、チームで仕事をすることの喜びを説き、社員をその気にさせる良質な「土壌」(カルチャー)こそが最大の競争優位であり、最強の模倣困難性なのです。

彼らはカルチャーを経営のど真ん中に据え、独自のカルチャーを意識的、戦略的に創造し、進化させる努力を惜しまない。

良質な「土壌」(カルチャー)と強くたくましい「根っこ」(組織能力・ケイパビリティ)が揃ってこそ、植物は大きく育ちます。組織に内包される能力が高ければ、事業という「幹」は大きく育ち、やがて、利益や顧客満足という「花」や「実」がなります。

組織風土は組織のあり様です。時間の経過とともに、組織固有の空気感や雰囲気を形成され、リーダーやそこで働く人たちの「あり様」に影響を与えます。
・経営トップのリーダーシップスタイル
・組織構造
・社内のルールや制度
・コミュニケーション

組織風土のよい企業には以下の特徴があります。
・風通しがいい
・前向き
・主体的
・挑戦的
・楽観的
・協力的
・開放的

組織風土のよい組織はやる気に満ち溢れ、ティームワークもよく、新たなことにチャレンジできます。組織風土こそが活力の源になります。経営における組織風土の意味や価値をみんなが正しく理解し、「自分は何ができるのか」を考え、実践することが、風土改革の第一歩になります。
 
やる気に満ち溢れる「健全な組織風土」を形成するだけでなく、それを維持させていくことがきわめて重要な経営のテーマなになるのです。

組織文化をよくするLOFTとは?

組織文化とは「組織内で働く人たちが当然のように信じている価値観、信念」のことである。

組織文化は、各企業の成功体験をもとに培われたものであり、組織文化を形成し、高めることによって、企業の競争力が高間あります。「組織風土」という「心理的基盤」=活気に満ち温れていることと「組織文化」という「心理的エンジン」=独自の価値観が浸透していることで、組織が強くなれるのです。リーダーと現場がカルチャーを共に築いた上で、組織能力を高めることで、企業は成長できるのです。

世界中のエクセレントカンパニーの多くは、組織文化にこだわり、独自の組織文化を形成しています。例えば、グーグルは利益を追求するビジネスを営んでいながら、研究・教育機関である大学のように運営します。社員が自分のやりたいテーマを持ち、自由に研究する空気をつくり、維持することがグーグルの組織文化なのです。

このようにカルチャー中心の経営を行うことで、社員たちは自分の仕事に誇りを持ち、会社に対する帰属意識、仲間意識が芽生えてきます。グーグルのサーゲイ・ブリンが「社員にしっかりと忠誠心を持ってもらいたい」と語りますが、カルチャーがあることで、個と組織の間の「絆」が強まります。「強い組織文化」は強烈な「アイデンティティ」を生み出し、それが社員たちの潜在力を引き出してくれます。

エクセレントカンパニーは、自分たちの「らしさ」(組織文化)にとことんこだわり、それを愚直に実践し、成功や失敗を積み重ね、他社では到底及ばないレベルの深度を追求します。

サントリーのやってみなはれは有名ですが、ここには成功するという強い意志があります。

『やってみなはれ』という言葉はどんなことも自由に挑戦させてもらえるという意味ではありません。そこには必ず『やりきってみせます』という強い意志のこもった『みとくんなはれ』という言葉がセットで存在するのです。

サントリーの社員は、失敗しても頓挫してもそこで挫けたり、諦めたりせず、「みとくんなはれ」と再び立ち上がります。この「反骨精神」こそがサントリーの「らしさ」(組織文化)なのです。

組織文化の形成において重要なのは、「過去における成功体験とそれが生まれる過程で生じたさまざまなエピソード」だと著者は指摘します。そのために、自社の過去の歴史を掘り起こし、それをエピソードとともに言語化することを行いましょう。

大事なのは、この「らしさ」を社員たちの日常的な「行動習慣」にまで落とし込み、組織の「くせ」にまで昇華させることです。社員がこの組織の「くせ」を実践するためには、とてつもなく時間とエネルギーが欠かせません。組織文化を社員が当たり前に感じるようになり、積極的に行動することで、企業は他社から真似されない優位性を手に入れるのです。トヨタの「カイゼン」やアマゾンの顧客体験を高める文化は、リーダーと社員の「くせ」になっています。

現場の主体性は次の3つの要素で形成されます。
・自主性(自らの力)
・自発性(自らの意志)
・自律性(自らの規範)

社員一人ひとりが自らの「力」で考え、行動し、自らの「意志」を持ち、「規範」で律するようになれば、個から大きな活力が生まれてくる。 そして、そんな個が連携し、チームを組めば、そこから生まれる活力は最大化される。それこそが「カルチャーとしての現場力」である。現場力という概念は、現場の「意志」と「行動」によって成立する。

社員の主体性を取り戻し、自らチャレンジできる組織にするためのLOFTというtipsを著者は紹介しています。①Light──身軽で気軽、軽快かつ軽妙で、フットワークのいい組織
②Open──開放的で風通しがよく、壁のない組織
③Flat──対等で上下を感じさせない仲間意識の高い組織
④Tolerant──異質を受け入れる耐性があり、受容性の高い組織

まずは、良いと思えることを自分たちから始めることが重要です。自ら体を動かし、チャレンジするプロセスを通じて、人と組織は成長するのです。成長する過程の失敗を認め、そこに対する適切なフィードバックや感謝の念が、組織を強くします。社員の主体性を引き出し、心理的安全性のある組織文化をリーダーは実現する必要があります。

LOFTな組織とは、「みんなが先生」「みんなが講師」を勤める組織だという著者の言葉が響きました。著者の組織文化の抽象度のある話とケーススタディから多くの学びを得られました。


 

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