そのビジネス経済学でスケールできます。
ジョン・A・リスト
東洋経済新報社
本書の要約
シカゴ大学経済学部教授のジョン・A・リストは、スケーラブルなアイデアに備わっている5つの特徴を明らかにしています。①偽陽性 ②人口の代表性 ③状況の代表性 ④スピルオーバー ⑤コスト この5つのバイタルサインをすべてクリアできれば、その事業はスケールできるのです。
アイデアをスケールさせるために必要な5つのバイタルサインとは?
成功と失敗は、運の問題ではない。アイデアが失敗するのか、成功するのかには理屈がある。アイデアにはスケーラブルだと予想できるものもあれば、スケーラブルでないと予想できるものもある。スケーラブルだと見込めるアイデアを選んでスケールアップを図ったほうが、間違いなく幸運だし、効果をあげられるはずだ。(ジョン・A・リスト)
アイデアを生み出しても、それをスケールさせなければ、事業を軌道に乗せることができません。シカゴ大学経済学部教授のジョン・A・リストは、スケーラブルなアイデアに備わっている5つの特徴を明らかにしています。彼スケールアップを図る前に、はこの「5つのバイタル・サイン」を使って、見極める必要があると指摘します。
以下の5つのサインのうちどれか1つでも欠ければ、どんな才人であっても、アイデアをスケールアップすることはできません。
①偽陽性 偽陽性や詐欺ではないか
②人口の代表性 対象者を過大評価していないか
③状況の代表性 大規模には再現できない特殊要素はないか
④スピルオーバー ネガティブなスピルオーバーはないか
⑤コスト コストがかかりすぎないか
逆に、この5つのサインをクリアすれば、事業はスケールするのです。
では、順番にバイタルサインを見ていきましょう。
①偽陽性 偽陽性や詐欺ではないか
人はバイアスによって、だめなアイデアをよいアイデアだと誤認します。
アイデアを思いついた当人が、その検証役を兼ねている場合が少なくない。もつと広く言えば、どんな企業も組織も、その構造のなかに、悪魔の提唱役をしてくれる補佐、チーム、機能多くのデータや証拠を常に求める勢力を埋め込んでおくべきだ。ほんとうに良いアイデア、スケーラブルなアイデアなら、徹底的に突っこまれても持ちこたえるはずだ。
特定のグループのあいだでアイデアが証明されたとしても、それがそのまま一般の人々にあてはまるわけではありません。マーケットが多くなれば、マジョリティに受け入れられるアイデアでなければならないのです。
②人口の代表性 対象者を過大評価していないか
現在の対象者(顧客)がどんなタイプなのかをほんとうの意味で理解していなければ、スケールアップした場合にどんな人たちが反応してくれるか正確に予測することはできません。自分のアイデアがどれだけ支持を集められるかを過大評価しないように注意を払う必要があります。
ビジネス、科学調査、教育、政策立案、いずれの場合も、アイデアがどれほど良くても、将来の対象者のニーズを適切に考慮していなければ、スケールする可能性が下がってしまうのです。
コストコントロールがスケールの最後のカギを握る。
③状況の代表性 大規模には再現できない特殊要素はないか
交渉不可能財の価値は無限大だ。スケールアップする際、それなしでは機能しないのだから。一方、交渉可能財の価値は有限である。スケールアップは、交渉不可能財が入手できる限りにおいて成功する。
車においての交渉不可能財・・・4本のタイヤとエンジン(自動車本来の目的を果たすために必要なもの)
車においての交渉可能財・・・最先端のナビや後部座席のTV(なくても構わないもの)
成長の源泉であるスケーラブルな交渉不可能財を企業は守り続けなければなりません。エアビーアンドビーの交渉不可能財は、デジタル・プラットフォームとホスト(宿提供者)のネットワークで、同社はこれらの素材を拡張することで成功を手に入れました。魅力的なホストが世界中に増えることで、エアビーアンドビーは成長を果たしました。
ネットフリックスの当初の交渉不可能財は、DVDの郵送に必要な配送インフラでしたが、現在では交渉可能財になっています。新たに交渉不可能財になったのが、ストリーミング配信用のコンテンツのライブラリと、そのコンテンツを配信するオンライン・プラットフォームです。
規模の構築、利用可能なテクノロジー、安全上の懸念、押しつけ行為など、規模拡大に伴って組織上の制約が出てくると考えられるなら、最初の調査で、これらの制約が交渉可能か否かを検証する。交渉不可能財で、規模を拡大したとき利用できないなら、そのアイデアはスケーラブルではない。
規模が拡大する際に交渉不可能財を維持できるかどうかが、勝負の分かれ目です。インスタグラムはこの点が秀逸でした。実は、インスタグラムのシンプルさと使い勝手の良さが、交渉不可能財になっています。世界で10億人以上が利用するようになった今も、利用者が100人しかいなかった当初とおなじようにアプリは動いています。
イノベーターは多少操作が難しくても使ってくれますが、一般ユーザーはすぐに挫折することを忘れないようにしましょう。顧客はテックおたくではなく、生身の人間なのです。
④スピルオーバー ネガティブなスピルオーバーはないか
スピルオーバー効果とは、ある出来事や結果が別の出来事や結果に意図せざる影響を及ぼすことを指す。
エコノミストのジョナサン・ホール、ジョン・ホートン、ダニエル・ネフルが、ウーバーの基本料金引き上げの影響を、36都市について105週にわたって検証したところ、興味深いパターンが見つかりました。
基本料金を引き上げると、数週間はドライバーの収入も増えたのですが、6週目には、引き上げ前の水準を若干上回る程度にまでに下がり、15週目には増収分が完全に消滅しました。
基本料金の引き上げによって、ウーバー車を運転することがより魅力的となり、既存のドライバーは乗車回数を増やす一方、新たなドライバーも参入します。その結果、市場の供給サイドの競争が激しくなり、平均して個々のドライバーが受け取るチップの総額が減ってしまったのです。
スピルオーバーはさまざまなことに影響を及ぼします。ネガティブなスピルオーバーを見つけたら、すぐに対処しなければなりませんし、ポジティブなスピルオーバーを見つけたら、それを活用すべきです。
⑤コスト コストがかかりすぎないか
アイデアがいくら良くても、製品の生産コストが収益を上回る場合、あるいは非収益事業で支出を正当化できるほどの成果がない場合、ボルテージは失われ、アイデアはスケーラブルではない、ということだ。
スケールアップに伴ってコスト負担に耐えられなくなる場合があります。事業計画をつくる際に、コストの算出が甘ければ、スケールは難しくなります。
初期費用と営業費用をできるだけ、引き下げることを意識しましょう。マーケットが拡大するタイミングで、営業費用やマーケティングコストがアップするモデルではスケールが難しくなります。
著者は確実にスケールするための4つの解決策を明らかにしています。
①スケールするインセンティブを使う。
②「限界革命」を導入する。
③やめるが勝ち
④スケーリングの文化に変える
解決策の詳細はこちらの記事を御覧ください。
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