ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク (アンドリュー・チェン)の書評

black laptop computer turned on displaying man in yellow shirt
ネットワーク・エフェクト 事業とプロダクトに欠かせない強力で重要なフレームワーク
アンドリュー・チェン
日経BP

本書の要約

サービスやプロダクトを成長させたければ、ネットワーク・エフェクト(コールドスタート理論)を活用すべきです。ネットワーク・エフェクトの5つのフレームワークを実践することで、ベンチャー企業は優位性を獲得できます。特に初期段階のコールドスタート問題を解決することが重要になります。

サービスやプロダクトを急成長させる戦略「ネットワーク・エフェクト」とは何か?

私はウーバーで初めてネットワーク、需要と供給、ネットワーク効果の本質に触れ、それらがすべて合わさると、ひとつの業界を形づくるほど大きな力になることを知った。読者の想像の通り、ウーバーで過ごした時間はロケットとジェットコースターを足し合わせたような波瀾万丈なものだった。ちょっとしたアイデアから生まれた小さなスタートアップは10年足らずで2万人の従業員を擁する巨大グローバル企業へと成長した。その道のりはまさに「ロケット・コースター」だった。(アンドリュー・チェン)

シリコンバレーのトップベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーや、クラブハウスなど注目のスタートアップの取締役として活躍しているアンドリュー・チェンは大成功しているベンチャー・スタートアップの共通点は、「ネットワークエフェクト」であると指摘します。

著者はネットワーク・エフェクトを深掘りする中で、ネットワーク・エフェクト(コールドスタート理論)の5つのフレームワークを明らかにします。
1 、コールドスタート問題:初期段階で破壊的な作用をもたらすステージ
2 、転換点:拡大ペースが速まり、拡大しやすくなるステージ
3 、脱出速度:製品の成長が軌道に乗るステージ
4 、天井:成長が停滞するステージ
5 、参入障壁:ネットワークを駆使して競合他社から自社を守れるようになる

1、コールドスタート問題

ベンチャー、スタートアップは必ず「コールドスタート問題」に直面する。ユーザーが少なく、交流する相手のいないSNSは誰も使わない。社員が誰も使っていないチャットツールを会社が導入することはない。買い手と売り手が十分にいないマーケットプレイスでは商品を掲載しても何カ月も売れないままだ。製品の存続は、コールドスタート問題をいかに早く解消するかにかかっている。

メッセージアプリのユーザーが少ないとアプリを削除するユーザーが出てきます。ユーザー数が減れば、他のユーザーも離脱する可能性が高くなり、最終的には使われなくなり、ネットワークが崩壊します。フェイスブックにユーザーを奪われたマイスペースや、グーグルやアップルのスマートフォンに消費者やアプリ開発者を奪われたブラックベリーがマーケットを失ったのもここに理由があります。

事業を立ち上げても「アンチネットワーク効果」が働き、多くの起業家は失敗します。製品を使い始めても友人や同僚が誰も使っていなかったら、ユーザーはそこから離脱します。それを解決するには、ネットワークの参加者全員が定着する最小のネットワーク「アトミックネットワーク」を構築する必要があります。

「コールドスタート問題」を解消するには、望ましいユーザーとコンテンツを同時に集めなければなりません。安定的に機能し、自律して成長できる最小限のネットワークである「アトミックネットワーク」をつくることがその解決策になります。アトミックネットワークをつくれれば、そこからネットワークを大きくできます。この最小単位のネットワーク=アトミックネットワークがすべてのスタートラインになるのです。

ネットワークを立ち上げるときには事業を大きくするための「ハードサイド」のユーザーの獲得が重要になります。マルチサイドプラットフォームのハードサイドのユーザーが増えれば、イージーサイドのユーザーも増加します。
・ウィキペディア・・・少数の編集者が記事の大部分を執筆。
・ウーバー・・・ドライバーの約5%にあたる少数のドライバーが迎車依頼の大部分を引き受けている。

ハードサイドという希少なユーザーを獲得するには、彼らが使いたくなる魅力的な製品を提供しなければなりません。また、ハードサイドのユーザー獲得に加えて、キラープロダクトの開発も重要になります。ユーザー同士の交流を軸にしだシンプルなズームのようなサービスを見習い、自社のキラープロダクトを生み出す必要があるのです。

ズームはシンプルだからこそ、アトミックネットワークが早々に成立しました。ユーザーが2人いれば、ズームは機能します。ズームはウェブ会議や営業電話といった典型的な利用法だけでなく、ユーザーが1日に何度も定期的に利用するサービスへと発展したのです。

無料という価格設定がズームの成長に大きな影響を与えました。Web会議はサービス内容を人に説明しやすいだけでなく、すぐに体験できます。サービス開始直後から有料でも使いたいというユーザーによって、ズームの成長は加速します。

無料枠がさまざまな製品で設定されているのは、コールドスタート問題の解決に役立つからでもある。最初から顧客に課金すれば売上は立つが、ネットワークに参加するハードルが上がってしまう。アトミックネットワークをひとつ成立させるだけでも難しいのに、難易度をさらに上げるのは理に適わない。ネットワークを早く立ち上げなければバイラル成長は弱まってしまうのだ。

フリーミアムモデルはズームの魅力をユーザーに伝え、事業を成長させる上で必要不可欠だったのです。

使いやすいキラープロダクトと最適な料金形態が揃うと、バイラル成長を通じて収益が上がるようになります。コールドスタート問題の解消は、製品を正しく利用してくれる人に使ってもらう方法を見つけることから始まります。

ネットワーク効果を活用し、如何に成長するか?

バンク・オブ・アメリカはクレジットカード事業をカリフォルニア州全域ではなく、シェアが高いフレズノでビジネスをスタートします。クレジットカードを同日に町の全世帯に郵送し、短期決戦で勝負に出ます。この方法でネットワークの閾値を超えるほどの利用者を一気に創出しました。

バンク・オブ・アメリカはクレジットカードを消費者に配り、繁華街の小規模商店というネットワークのもう一方のユーザーを取り込みます。こうした施策をエリアを広げながら拡大することよって、史上最も価値のあるネットワークに成長するクレジットカードの最初のアトミックネットワークが成立させたのです。

多くのネットワーク製品は初期の成長戦略に、アトミックネットワークをつくるために重要な短期ブースト施策=グロースハックを組み込んでいます。

・スラック・・・立ち上げ時の新規会員登録を招待制にし、スタートアップコミュニティのアーリーアダプター間でバズらせた。
・ペイパル・・・5ドルの友人紹介キャンペーン。
・ドロップボックス・・・バズるデモ動画。

コールドスタート問題が解消されると、ユーザーが「魔法を感じる瞬間」(マジックモーメント)を継続的につくり出せるようになります。製品を使い始めたときにはすでにネットワークがあり、探している人やものが見つけられるようになります。そうなればネットワーク効果がさらに高まり、やがて転換点を超え、ユーザーの方が積極的にサービスを使うようになります。

アトミックネットワークをつくるという手法が強力なのは、ひとつつくれれば同じ施策を繰り返して規模を拡大できるからだ。そして機能しているネットワークと隣接するネットワークは取り込みやすくなるため、どんどん広げやすくなる。

ネットワークのハードサイドのユーザーを取り込めることが増えれば、マルチサイドのネットワークも増やせます。ユーチューブのコンテンツ制作者(ハードサイドのユーザー)が増えれば、視聴者(イージーサイドのユーザー)の増加も期待できます。ウーバーの場合はドライバーが増えれば、乗客の乗車料金が下がって、待ち時間が短くなります。逆に乗客が増えれば、ドライバーは稼ぎやすくなり、互いに恩恵を得られます。

そのためには、顧客を定義することが重要です。
・ハードサイドのユーザーはどんな人たちで、どのようにこの製品を使いたいのか?
・ハードサイドのユーザーにどんな価値を提供できるのか?その結果イージーサイドのユーザーはどんな恩恵を受けることができるのか?
・ユーザーはどのような経緯で製品を知るのか?
・ネットワークの拡大に伴い、ハードサイドのユーザーの利用率やエンゲージメントが高まる要素はあるか?
・ネットワークから離れづらくなる要素はあるか?

ハードサイドのユーザーの利用動機を明らかにし、多面的に捉えることで、どんなサービスを提供すればよいかが見えてきます。

2、転換点
アトミックネットワークはひとつ立ち上げるだけでも大変ですが、それだけでは十分ではありません。製品を軌道に乗せるには、さらに多くのネットワークを立ち上げ、市場を広げなければなりません。

ネットワークを広げていくと、ある時点から追い風が吹くようになります。ネットワークごとの拡大ペースがどんどん速まり、市場を広げやすくなるのです。。これがフレームワークの第2ステージ「転換点」になります。

ネットワークの広がり方はドミノ倒しに似ています。ネットワークをひとつ立ち上げる度に近接ネットワークの立ち上げが楽になって拡大の勢いが増すという法則を覚えておきましょう。

ライドシェア、職場向けアプリ、SNSなどうまく機能したネットワークの多くは、都市ごと、会社ごと、大学ごとに規模を広げていったのです。SaaSでは、まずは社内で広まり、社員が提携先や取引先に紹介することで企業の垣根を越えて広まっていきます。

3、脱出速度
脱出速度のステージではネットワーク効果を強化し、成長を持続させるために猛烈に働く必要があります。以下の3つの効果を組み合わせることで、ユーザー規模を一気に拡大できます。
①ユーザー獲得効果・・・ネットワークが広がるほど、ロコミと紹介によるバイラル成長よって、低コストで効率よくユーザーを獲得できるようになります。(ペイパルのユーザー紹介制度やリンクトインの知り合いレコメンド機能)

②エンゲージメント効果・・・ネットワークが広がると、ユーザー間の交流が促進されます。ボーナスの提供、マーケティング、ユーザーとのコミュニケーションの改善、新しい使い方の紹介などを実施します。

③経済効果・・・ネットワークが広がると、収益を得やすくなり、コンバージョン率も高まります。ネットワークの拡大と共に高まり、収益化につながるコンバージョン率やユーザーあたりの収益が上がりやすくなります。スラックでは、ある会社の社員が使えば使うほど、その会社が有料顧客になる可能性が高まります。

これら3つの効果がすべて合わさると、ユーザー数が大規模に拡大していきます。

4、天井
製品の成長はやがて「天井」にぶつかり、停滞する時期がやって来ます。市場が飽和状態に近づき顧客獲得コストが高騰したり、バイラル成長が鈍化したりすることなどが原因になります。

マーケティング手法が古くなるとユーザーは離れ、時間とともにエンゲージメントとユーザー獲得の効率が低下します。ネットワークが成長するにつれて、スパムや荒らしの横行などの問題が大きくなります。問題に対処すると再び成長は加速しますが、必ず次の問題が起こることに留意し、事前に対策を練りましょう。天井を打ち破るのは簡単ではありませんが、対策を実行し、問題を抑えなければ、やがて成長は止まります。

5、参入障壁
ネットワークと製品が成熟した段階になれば、ブランド力が高まります。独自技術、パートナーシップなども参入障壁となりますが、テック業界ではネットワーク効果が特に重要になります。

ネットワーク製品同士の競争では、他の競争とは違う「ネットワークの競争」が繰り広げられます。競合に勝つためには、ネットワークの質と規模で勝る必要があります。

サービスやプロダクトを成長させたければ、ネットワーク・エフェクト(コールドスタート理論)を活用すべきです。ネットワーク・エフェクトの5つのフレームワークを実践することで、ベンチャー企業は優位性を獲得できます。特に初期段階のコールドスタート問題を解決することが重要になります。


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