世界の取扱説明書 理解する 予測する 行動する 保護する(ジャック・アタリ)の書評

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世界の取扱説明書 理解する 予測する 行動する 保護する
ジャック・アタリ
プレジデント社

世界の取扱説明書の(ジャック・アタリ)の要約

現在、私たちは「死の経済」から「命の経済」へと方向転換する必要に迫られています。地球の持続可能性を確保し、未来の世代に安全な環境を残すためには、このシフトが不可欠です。生き残りをかけて、正確な未来予測を行い、地球を守るための具体的な行動に今すぐ着手することが求められています。

未来の予測は歴史を学ぶことから

世界の仕組みに関する教育が不充分だからだ。(ジャック・アタリ)

ジャック・アタリは「世界の仕組み」を理解することが重要だと語ります。世界を実際に動かしているのは一体誰なのか、人類はいずれ地球での生活が困難になるのではないか、格差社会や富の偏りは避けられないのかといった疑問に答えを見つけることができると言います。 現代社会では、様々な問題が存在しています。その中でも、経済の不安定化や環境問題、領土や宗教が関わる紛争といった世界的な課題は、特に深刻です。

アタリは、これらの問題に対処するためには「世界の仕組み」を正確に理解することが重要であると主張しています。 具体的には、経済、政治、文化、環境、地政学、社会のメカニズムを学ぶことで、問題の本質を把握し、適切な対策を講じることができると述べています。また、高品質な情報源を活用することも重要であり、正確な予測を行う能力を身につけることが求められます。

アタリは時間の制約も指摘しています。現代社会は急速に変化しており、問題解決には即座の行動が求められます。したがって、若い世代に対しては早期に「世界の仕組み」を理解し、さまざまな危機に対する問題解決の手法を学ぶことが重要になります。

また、経済学だけが「世界の取扱説明書」ではないと言います。世界を形成するのは、経験や伝統に基づく「慣行」と、広範囲にわたる「歴史」の科学です。「常識」とも称されるこれらの「慣行」は、経験、ことわざ、寓話、逸話、さらには冗談を通じて、数千年にわたる社会生活から生まれた様々な行動規範を示しています。これは、世界中の経済学、社会学、地政学、ビジネスに関する教科書よりも、はるかに有用な知識源となり得ます。

「歴史」のあらゆる側面(人類学、民俗学、神学、社会学、政治、文化、経済、環境、金融、人口、哲学、科学、技術)を研究すれば、(理論的にではあるが)「世界の仕組み」を見出し、少なくとも2050年くらいまでの未来は予測可能だ。歴史を学べば、とくにイデオロギーに翻弄されることは避けられる。また、歴史はその人の社会層や視点とは関係なく、未来に関心を持つ者全員に、鋭敏な分析ツールを提供してくれる。

アタリは本書で、彼が到達した物語の概要を示し、その枠組みからいくつかの原則を導き出して、現代と未来の世界をどのように理解し、扱うかを教えています。

彼は歴史を3つの時代に区分し、それぞれの時代の支配者(宗教者、軍人、商人)に基づいて、これらの時代を「儀礼秩序」、「帝国秩序」、「商秩序」(現在)と名付けています。それぞれの秩序には、独自の予測方法、権力の認識方法、価値観、富の分配方法が存在します。これらの理解を深めることで、現代の複雑な世界をより良く理解し、未来を形作るための洞察を得ることができるというのが彼の主張です。

まず、彼の主張する「儀礼秩序」とは、古代の社会で宗教者が支配する時代を指します。この時代では、予測方法は神秘主義的であり、権力の認識方法は神聖なるものによって行われ、価値観は宗教的なものが中心でした。また、富の分配方法は階級制度に基づいて行われました。この時代の特徴は、信仰心や儀式の重要性が高く、社会が宗教的な秩序によって統制されていたことです。

次に、「帝国秩序」とは、中世の社会で軍人が支配する時代を指します。この時代では、予測方法は戦略や征服に基づいており、権力の認識方法は武力によって行われ、価値観は勇気や忠誠心が重視されました。また、富の分配方法は征服した領土や財宝の獲得によって行われました。この時代の特徴は、戦争や領土拡大が頻繁に行われ、軍事的な力が社会を支配していたことです。

最後に、「商秩序」とは、現代の社会で商人が支配する時代を指します。この時代では、予測方法は科学的な手法や市場の動向に基づいており、権力の認識方法は経済的な成功によって行われ、価値観は利益や競争が重要視されました。また、富の分配方法は市場経済や資本主義の仕組みによって行われます。この時代の特徴は、経済成長やグローバル化が進み、商業的な活動が社会を牽引していることです。

2050年の「心臓」はどこか?

過去8世紀の経済、技術、文化、政治、軍隊に関するおもな歴史は、都市や国が「心臓」になる、「心臓」であり続ける、「周縁」に成り下がるために用いた戦略によって説明できる。現在と未来を読み解くには、過去の「形態」、「心臓」、「危機」から法則を導き出す必要がある。

アタリは、過去8世紀にわたる経済、技術、文化、政治、軍事の主要な歴史を、都市や国が「中心地(心臓)」となる、中心地であり続ける、または「周縁」になるために用いた戦略によって説明することができると述べています。彼の見解によると、過去の「形態」や「中心地」「危機」について学ぶことで、現在と未来を理解するための法則を導き出せると言います。

歴史を振り返ると、都市や国が経済、技術、文化、政治、軍事の中心地となる例は多く見られます。これは、それらの地域が人々の生活の核として機能し、経済活動や政治的な決断が集中する場所としての役割を果たすためです。これらの地域をアタリ氏は「中心地」と呼んでいます。

一方、都市や国が「周縁」に陥る場合もあります。これは、経済や政治の焦点が他の地域へ移行したり、文化や技術が他の地域で発展したりすることに起因します。その結果、かつての「中心地」は影響力を失い、やがて「周縁」となります。

過去の歴史を分析し、都市や国の変化のパターンを理解することで、現在や将来の動きを予測することができるのです。

アタリは、商秩序が9つの形態を経て、9つの異なる「心臓」地域に移行してきたと述べています。14世紀のヴェネツィアは、一世紀以上にわたって商秩序の「心臓」になっていました。

ヴェネツィアには、パオロ・ヴェロネーゼやジョルジョーネなどの偉大な芸術家が集まり、彼らはこの地で人類史上最高の傑作を生みだした。こうした傾向は、ヴェネツィア後のすべての「心臓」に当てはまる。 「中間」を形成したのは、フランスをはじめとする残りの西側ヨーロッパだった。この時代の「周縁」は、東ヨーロッパ、ポーランドからロシア、北アフリカからビザンツ帝国、アフリカ沿岸部からインドと中国にまで広がっていた。

商秩序の遷移は、13世紀のブルッヘから始まり、ヴェネツィア、アントウェルペン、ジェノヴァ、アムステルダムを経てロンドンへと至り、19世紀末には大西洋を渡り北米へと広がりました。その後、ボストン、ニューヨークを経て、現在はカリフォルニアがアタリが指摘する「心臓」になっています。

アタリの考えによると、現在の「第九の形態」は、多くの経済学者や社会学者が提唱する「ポスト工業化社会」とは異なります。彼は、サービスを新しい工業製品に変えることを目指す「サービスの工業化社会」の出現を指摘しています。

アタリは、10番目の「心臓」と形態に関して、従来の流れとは異なるシナリオを提示しています。富の蓄積を司るのは、今後も商秩序が担うと言いますが、現在とは異なるものになりそうです。

この商秩序は、地政学、政治、価値観を支配し続けますが、現在の第九の「形態」は崩壊するでしょう。アメリカは第九の「形態」を維持しようとしますが、失敗することになります。これが最初の難局です。

2050年にはアメリカが経済、地政学、文化の面で支配的な勢力でなくなり、新たな第十の「形態」が現れると考えられます。

化石燃料の利用形態や、消費財を中心とする経済成長の原動力に変化がないと仮定し、各国の経済成長率を考慮して各国の経済力をGDP(購買力平価)で計測すると、2050年の世界ランキングは、中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル、ロシア、メキシコ、日本、ドイツ、イギリスの順になる。

最も可能性が高いシナリオでは、「心臓」は東洋へと移動し、中国のどこかの都市が新たな中心となると考えるのが妥当です。

しかしながら、未来は予測通りには進まない可能性が高いです。商秩序は、これまでの900年間で最大の挑戦に直面するでしょう。これが第二の難局です。さらに、「心臓」のない「形態」への移行が試みられますが、これも失敗に終わる可能性があります。これが第三の難局です。

アタリは2050年に中国が世界の経済や政治の「心臓」となるとは考えていません。その理由は、世界の「心臓」となるためには、イデオロギー、外交、金融、経済、軍事の面で世界を支配する必要があるが、中国はこれまでバランスの取れた多国間主義には関心を示さず、自国中心主義の「中華帝国」モデルに満足してきたからです。

「死の経済」から「命の経済」にシフトすべき理由

2050年の人類は気候変動、超紛争、人工化という3つの大きな脅威に直面することになります。これらの脅威を事前に理解しておくことは、対応や回避策を立てる上で重要です。これが今後30年間で最も重要なポイントです。

また、アタリは日本の未来も予測します。日本の人口が高齢化するにつれて、貯蓄残高が減少し、投資能力も低下しています。既に外国からの直接投資額はGDP比でわずか1%未満になっています。この傾向が続けば、2050年までに公的債務残高はGDP比で320%以上に達する可能性があります。その結果、日本のGDP成長率は低迷し、1人当たりのGDPは世界で26位まで下がることが予想されます。

さらに、海面の上昇、沿岸部の浸食、台風の傾向の変化によって、少なくとも400万人が水害のリスクにさらされることになります。日本は世界第6位の温室効果ガス排出国であり、2050年までにカーボンニュートラルを達成するとしても、気候変動の影響は避けられません。また、少子高齢化が進む日本は核保有国になるとアタリは述べています。これらの要因が日本の未来に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

アタリによると、これらの危機を避けるためには、大胆な転換が必要だと言います。気候変動に対処するためには、環境対策を強化し、持続可能なエネルギーの開発が必要です。超紛争の回避には、国際協力と対話を促進することが重要です。また、人工化による社会の変化への対応には、教育と技術の進展を活用し、柔軟な対策を講じることが必要です。

歴史の流れの方向性は、まだ修正可能だ。急旋回すれば、豊かで幸福感に溢れる公正で民主的な世界を築くことができる。ただし、そのためには今日の最悪の罠である無気力から抜け出す必要がある。また、過去の成功と失敗から教訓を見出し、現在の傾向が続くとどうなるのかを理解し(これが本書のこれまでの目的)、そこから抜け出すための計画と戦略を練り、万人に役立つ斬新な「世界の取扱説明書」を作成しなければならない。これは、従来の政治とはまったく異なるアプローチだ。

「死の経済」とは、短期的な利益や経済成長を最優先し、その結果として地球の環境や人々の生命を危険にさらす行動を指します。これに対し、「命の経済」とは、経済的な成長よりも持続可能な社会や環境を重視する考え方です。

現在、私たちは「死の経済」から「命の経済」へと方向転換する必要に迫られています。地球の持続可能性を確保し、未来の世代に安全な環境を残すためには、このシフトが不可欠です。生き残りをかけて、正確な未来予測を行い、地球を守るための具体的な行動に今すぐ着手することが求められています。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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