ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント
川内イオ 楠木建(解説)
PHP研究所・freee出版
ウルトラニッチ (川内イオ)の要約
ウルトラニッチ市場では、小さい市場で高価格の商品を提供することが競争優位性を生む鍵です。通常市場では価格を上げることは難しく、多くの企業はコストを下げる方に注力します。しかし、ウルトラニッチ市場の強みは、高価格でも求められる独特の商品を開発する能力にあります。結果、長期的な利益を得ることが可能になります。
ウルトラニッチがうまくいく理由
①夢や熱狂はやっていく中で見いだされる。 ②ものづくりに集中するほど、売り方や届け方にも集中する。(楠木建)
「ウルトラニッチ」とは、ある分野への絞り込みの度合いを高めた規模の小さな事業です。本書では、非常にニッチな領域で大活躍されている方々のエピソードが語られています。この本では、10人のパイオニアたちの類稀なストーリーと足跡が紹介されています。彼らはスプーン作家や動物専門の義肢装具師、おやさいクレヨン、独立時計士など、それぞれ異なる分野でウルトラニッチな市場を生み出しています。
起業家の個々のエピソードには、苦労しながらウルトラニッチに到達し、成功するストーリーがあります。彼らは自分のアイデアと努力で熱狂的なファンを獲得しています。彼らには自分の人生を自ら選択し、楽しんでいるという共通点があります。自分の情熱と才能を追求し、自分の道を切り拓いているのです。
この本は、彼らの想いやストーリーだけでなく、経営のリアルも描かれています。彼らが直面した困難や経済的な苦境も赤裸々に描かれており、スモールビジネス経営のヒントを提供しています。
また、一橋大学の楠木建教授による解説が秀逸で、さまざまな視点からモノづくりやスモールビジネスの競争優位性を学ことができます。 彼らのエピソードは、私たちに新しい生き方やチャレンジのヒントを与えてくれます。彼らのように自分の才能や情熱を追求し、自分の道を切り開くことの大切さを学ぶことができるでしょう。
ウルトラニッチとは、非常に狭い範囲に特化したスモールビジネスの新しい概念です。このアプローチでは、競争のない独自の分野を切り開いています。ウルトラニッチなビジネスを展開する人々は、他者との競争に捉われず、自分自身の得意分野で光り輝いています。
彼らは、他人の真似をすることに時間を使うのではなく、自分自身が本当にやりたいことに全力を注いでいます。道を極めながら、顧客とのコミュニケーションを継続し、自身の可能性を追求しているのです。
ウルトラニッチな人々にとって、「成功」や「失敗」といった言葉は重要ではありません。彼らは、自分自身が満足する人生を全うするために、独自のストーリーを紡いでいます。他人の評価や期待に影響されず、自分の情熱を追求していく過程に、共感するファンや支持者が自然と集まるのです。
無競争による長期利益を獲得するには、単に市場が小さいだけでなく、「高く売れるモノ」であることが重要です。普通の競争のなかでは、コストを下げるより価格を上げるほうが何倍も難しい。多くの企業がコスト競争に走るのは、そのほうが簡単だからです。ウルトラニッチの本領は、高価格でも売れるものをつくることにあります。
特定の領域で熱狂的なファンを持つ彼らは、少量生産の製品に対しても、喜んで高額を支払う傾向があります。ここでは「値下げ」という概念は存在せず、むしろ高価格での販売が可能なのです。
本書のスプーン作家の宮薗さんの思い切った値上げ戦略がとても参考になります。ハーゲンダッツやマカロニグラタンのためのスプーンというアイデアとそれを生み出す好奇心が彼女の強みになっています。
具象と抽象の行き来が重要な理由
①具象と抽象を行き来することで絞り込む。 ②プロセス自体が価値を持つ。
具象とは、具体的な情報や事例に基づいて考えることであり、抽象とは一般的な法則や概念を抜き出すことです。具象と抽象を行き来することで、ニッチプレイヤーは類稀な集中力を発揮し、自社の課題解決に最短距離でたどり着くことができます。
具象と抽象を行き来することで、ニッチプレイヤーは様々な情報や事例を分析し、共通のパターンや法則を見つけ出すことができます。これにより、ニッチプレイヤーは自社の強みや競争力を明確に把握し、効果的な戦略を立てることができます。
ウルトラニッチは独特の経歴を持ち、彼らの興味や経験が彼らのキャリアに大きく影響しています。 独立時計師の菊野さんは、子供の頃からレゴやミニ四駆に夢中になるなど、物をいじることへの情熱がありました。この興味は彼を自衛隊の武器整備の職に導き、その後、時計製造の学校での学びを経て、独立時計師としての道を歩むようになりました。彼のキャリアは、「ものをいじるのが好き」「シンプルな作業に物足りなさを感じる」「一人で製品を作り上げたい」という思いから次のステップへと進んでいったのです。
路上博物館館長の森さんは、コスプレの趣味から出発し、豚のマスク製作、標本制作、解剖といった様々な分野を経験しました。このプロセスを通じて、彼は最終的に「造形をしたい」という元々の願望に回帰し、3Dプリンタで成型した動物の骨格標本をミュージアムグッズとして販売します。
手術トレーニングの朴さんの場合は、ファミコンという具体的なメタファーから、ハードウェアとソフトウェアを分離した独自の手術トレーニングシステムの概念を生み出しました。起業家、発明家、パイロットでもある朴さんはハードワークとさまざまな体験からイノベーションを起こしています。
彼らのように、具体的な経験と抽象的な思考の間を行き来することで、独創的なアイデアやコンセプトが形成されるのです。これらの事例は、特定の分野での深い探求と、広範な興味の融合がいかに創造性を促進するかを示しています。
これらの例から、集中することがアイディアやネットワークを引き寄せることが分かります。また、プロダクトを作るプロセス自体が価値を生み出すことも重要です。例えば、菊野さんの時計は手仕事によるプロセスに価値があるため、1800万円という高価格になっています。
プロダクトとプロセスは密接に結びついており、これがニッチな分野で成功する鍵だと楠木氏は指摘します。作り手のプロセスを明らかにし、思いやこだわりを発信することで、熱狂的なファンとの出会いをデザインできるのです。
SNSを使うよりも前に、唯一無二の商品があって、知られている範囲では強力なブランドを確立している。つまり、「ブランディング」ではなく、振り返るとブランドができているという「ブランデッド」です。これこそがブランドの本質です。多くの人に認められるいいモノが先にあるからこそ、SNSが有効になる。この順番が大事です。SNS自体にブランドをつくる力があるわけではありません。
強いブランドになるとファンがSNSで応援し、拡散力が高まります。まずは、ニッチな分野で商品力を磨き、熱狂的なファンを獲得しましょう。ブランデッドな状況を作れば、SNSが効果を発揮します。
本書には好きから始まる起業のストーリーが満載で、元気をもらえます。自分を喜ばすこだわりのプロダクトを作れば、それに共感するファンが見つけてくれる時代。ウルトラニッチという選択肢が、起業家の可能性を広げてくれるのです。
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