黒船特許の正体 (松倉秀実)の書評

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黒船特許の正体
松倉秀実
インプレス

黒船特許の正体 (松倉秀実)の要約

アップルの知財戦略は、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、顧客体験にも焦点を当てており、製品の設計から販売まで一貫して行う垂直統合管理を採用しています。特にスティーブ・ジョブズは、アップルストアの店舗デザインにおいてもイノベーションを推進し、これらを知財として活用することで優位性を高めています。

アップルの成長は知財戦略に支えられている!

アップルの特許を検証するときにも、ハードウェアメーカーであるとともに、このハードウェアに提供されるサービスをすべて統合管理することによる収益モデルを企図した「ハード&サービス複合企業」であることを第一に考えなければなりません。 (松倉秀実)

本書は、弁理士で知財の専門家である松倉秀実氏によって書かれた著書で、Apple、Amazon、Googleといった米国の大手企業が日本市場に進出する際の知財戦略を深掘りしています。著者はこれらの企業が日本で新しいビジネスモデルを展開する上での収益生成方法に注目し、特に「黒船」という比喩を使って、彼らがどのような戦略を用いて日本市場で影響力を拡大しているかを詳しく解説しています。

アップルやアマゾンなどの企業が展開する知的財産権に基づく戦略は、彼らの独自技術やサービスを保護し、市場での競争力を維持する方法を具体的な事例を用いて丁寧に説明してくれています。

3社の競争優位性は、特有のビジネスモデルによるものだけではなく、そのビジネスモデルを裏で支える知的財産権によって保護されているという事実です。本書により、知的財産権がどのように企業のイノベーションと成長を支え、競争上の優位性を保持するのかについて、深い理解を得ることができます。10年以上前の少し古い本ですが、知財戦略の知見は十分得られます。

例えば、アップルを特許の観点から検証する際、まず理解すべきは、アップルが単なるハードウェアメーカーではなく、「ハード&サービス複合企業」としての収益モデルを採用している点です。このモデルでは、ハードウェアに統合されたサービスを通じて利益を生み出すことが重視されています。

さらに、アップルはこの収益モデルを守るために、ハードウェアの品質を決して犠牲にすることなく、外観やユーザーインターフェイス(UI)のデザインに非常に強いこだわりを見せています。

特に、アップルの製品が成功を収めているのは、ネットワーク配信サービスがすでに存在していた中で、ユーザーが魅力を感じるようなデザインやUIを備えた端末を提供したことにあります。アップルは、使いやすさと魅力的なデザインを融合させることで、消費者に新しい価値を提供し、市場での差別化を図っていたのです。

このようなアプローチは、アップルやスティーブ・ジョブズの特許戦略と密接に関連しており、ハードウェアとソフトウェア、サービスの全体的な統合を通じて、独自の収益モデルを確立し保護しているのです。

iPhoneの知財戦略とは?

アップルのビジネスモデルは、ハードウェアのデザインやユーザーインターフェイスでコンシューマーを惹きつける魅力的な製品を市場に投入して、そのハードウェァ上に提供されるコンテンツサービスを統合管理して利益を得るというものでした。つまり、ハードウェアの販売量に牽引されてコンテンツサービスの利益も増大するというモデルです。

アップルが製品の購入につながる心地よいユーザーインターフェイスを提供するために、タッチパネル構造などの技術を伝統的な特許取得手法を用いて保護していることは、その知的財産戦略の核心部分を示しています。この戦略により、アップルはユーザーに魅力的な体験を提供しつつ、その独自技術を競合他社から守ります。

ユーザーインターフェイスに関する権利を積極的に確保することで、アップルは市場での独自性と競争力を保持し、消費者からの高い評価を獲得しています。

このアプローチは、単に技術的な側面だけでなく、消費者がどのように製品を体験し、その使い心地をどう感じるかという点にも焦点を当てています。アップルの知財戦略は、製品の機能性だけではなく、ユーザー体験の質を高めることにも重きを置いており、これが同社の成功の鍵となっています。このように、アップルは知的財産権を通じて、技術的な保護と市場での差別化を同時に追求しているのです。

アップルのiPhoneに関する特許戦略は、携帯電話業界におけるイノベーションの象徴となっています。2007年1月にスティーブ・ジョブズによって発表されたiPhoneは、「電話を再発明する」という宣言のもと、アップルのメイン商品に成長しました。

iPhoneの成功の背景には、開発前に進められていたタッチパネル式のタブレットコンピュータ(現在のiPad)の研究があります。この研究が2005年にマルチタッチiPhoneのアイデアへと発展しました。当時、ブラックベリーが市場を席巻していましたが、小さな画面の欠点を持っていました。

アップルはこの問題を解決するために物理キーボードを採用せず、スワイプ起動や角の丸い四角形のデザイン、そしてゴリラガラス(強化ガラス)の開発に至るまで、ジョブズ自らが深く関与しました。

アップルの垂直統合管理は製品の設計から販売までを一貫して行い、ジョブズのイノベーションはアップルストアの店舗デザインにまで及びました。ジョブズは「顧客体験もコントロールしたい」という願望を持ち、その思いからアップルストアの階段構造や照明設計にまでこだわりを見せました。

アップルが顧客体験やユーザーインターフェイスに焦点を当て、これらを特許で保護する戦略は、日本のベンチャー企業でも取り入れることが可能です。私はベンチャー企業の取締役やアドバイザーとして活動しており、経営陣に対して知的財産を重視した経営戦略の採用を推奨しています。

私は、くじら綜合知財事務所の代表弁理士である緒方昭典氏とパートナーシップを組んでいます。緒方氏はベンチャー企業の知的財産を専門に扱うエキスパートで、彼から「知財ミックス」という手法を含む多くの貴重な知見を得ることができました。

この「知財ミックス」は、異なる種類の知的財産を組み合わせることで、企業の競争力を高める戦略で、私はこれをベンチャー経営に積極的に取り入れるようアドバイスしています。

読者は、この本を通じて、グローバル企業が展開するビジネス戦略と知的財産権の活用の重要性について深い洞察を得ることができます。経済やビジネスに関わる専門家だけでなく、広く一般の読者にも関心を持ってもらえる内容が提供されています。『黒船特許の正体』は、現代ビジネス環境における重要な議題を扱い、読者に多大な価値をもたらす一冊です。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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