人口は未来を語る: 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題 (ポール・モーランド)の書評

people walking on street under cloudy sky

人口は未来を語る: 「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題
ポール・モーランド
NHK出版

人口は未来を語る(ポール・モーランド)の要約

世界の人口は、都市部から変化が起こり、人口減少という課題に直面しています。人類は「多産多死→多産少死→少産少死」という人口転換の過程を経てきました。人口動態は未来に確実に影響を及ぼしますから、この問題の解決策を真剣に考えるべきです。人口問題を先送りしたことが、現在の日本の低成長につながっています。

人口動態が未来を形作る理由

人口動態の力によって「今日の人々」は「昨日の人々」とはまったく違った状況に置かれているし、「明日の人々」も「今日の人々」とはまったく違う状況に置かれることになる。 それにもかかわらず、人口動態が未来をどう変えていくかを理解している人はほとんどいない。(ポール・モーランド)

人口学者のポール・モーランドは、人口の動向が将来の社会や国家の運命に与える影響を追求しています。彼の著作では、経済活動、少子化、環境問題などに関する予測を通じて、読者に未来志向の視点を促しています。著者の研究により、人口動向が社会や国家の未来に与える影響が明らかになり、人口問題の重要性が浮き彫りになっています。

人口の変化は、経済活動や社会構造に大きな影響を与えるため、その動向を正しく理解することが重要です。本書では、著者が提示する10の数字から人口について学ぶことができます。例えば、「40億」という数字は、サハラ以南のアフリカの人口の予測を示しており、国家の命運が人口に左右される可能性を強調しています。

さらに、「121」という数字は、中国における100万人以上の都市の数を表しています。また、「79000」という数字は、日本の100歳以上の高齢者数を示しており、人口問題の幾つもの課題を読者に訴えています。

著者は歴史上の人口動態の大きなうねりが、現在の世界を形成し、未来を予測できると言います。ヨーロッパが世界を植民地化し、19世紀末にはその地位を確立したのも、人口の急増とそれに伴う人口流出が一因でした。同様に、アメリカ合衆国とソビエト連邦が20世紀に超大国になったのも、人口急増が背景にあります。さらに、中国やインドの人口が多ければ、世界の覇権を争う大国としての地位を得ることはなかったでしょう。

歴史の発展と人口動態は切り離せません。各社会はまず、ペルーのように乳幼児の死亡率を減らす取り組みを行います。その結果、アフリカ大陸のように人口が急増します。この急激な人口増加は、農村地域での食糧や資源の不均衡などの課題を引き起こし、中国のように農村から都市への移動が増加します。

都市化は経済成長に寄与しますが、都市の過密化や環境問題が発生します。この過程で出生率が低下し、高齢化社会への移行が進行します。日本のような少子高齢化社会では、経済を支える若者が減少し、一方で高齢者の数が急増します。これにより、経済成長が鈍化し、医療や介護などのニーズが増大します。その結果、税金や社会保険料の負担がアップします。

日出ずる国は今日、世界の大半の国々の未来を見せてくれる案内人的存在となっている。

日本も1990年代には若者が多く活力に満ち、人口増加傾向にあった時期があり、経済は成長していました。しかし、現在の日本は人口減少と高齢化に苦しむ「課題先進国」として見られています。

少子化や高齢化などの人口構造の変化は、将来の社会に重要な課題をもたらす可能性があります。少子化の進行により労働力不足や社会保障の問題が深刻化し、さらには環境問題にも影響を及ぼすことが懸念されます。

著者は、近代の人口動態を「プロセス」と捉え、それは小家族化と長寿化を目指す旅であると述べています。このプロセスは経済、技術、教育の進歩、産業の成長、交通の発展、識字率と教育の普及と密接に関連しています。多くの国がこの旅の途上にある中、その旅を終えた後の未来が問題です。

彼は未来を「増加するグリーン」「増加するグレー」「減少するホワイト」の3つの色で表現しました。
▪️増加するグリーン
人口増加の減速により、環境が回復する可能性が高まっています。

▪️増加するグレー
高齢化社会や先進国における人口の増加を指し、医療や福祉などの負担が増大することを示しています。

▪️減少するホワイト
民族的変化、つまりアフリカの人口急増とヨーロッパ系人口の減少を意味しています。

人口動態の変化は社会全体に影響を与える重要な要素です。例えば、高齢化社会では医療や介護の需要が増加し、経済構造や社会保障制度にも変化が生じます。また、少子化が進むと労働力人口の減少や経済成長の鈍化といった課題が生じる可能性があります。

現代社会において、人口動態の変化を適切に捉え、将来を見据えた政策を策定することが重要です。例えば、働き方改革や教育制度の見直し、高齢者や若者の支援策の充実など、様々な分野での施策が求められています。

日本の人口が減少している本当の理由は何か?

出生と死亡によって今の状況を説明すると、平均寿命の延長(年々死者数が減る)と高い出生率(多くの人が生まれる)というふたつの推進力が失われつつあり、増えるのは超高齢者だけになっている。もう何年も前から世界の多くの地域で合計特殊出生率が人口置換水準を下回っているので、人口慣性の力もすでに使い果たされている。寿命の延びはまだしばらく期待できるだろうが、推進力としてはわずかなものでしかない。

現在の人口の状況は、平均寿命の延長による死者数の減少と、高い出生率による多くの人の出生という2つの要因が失われつつあることで説明されます。これにより、増えるのは超高齢者だけという状況が生じています。

世界の多くの地域で、合計特殊出生率が人口置換水準を下回っているため、人口慣性の力も既に使い果たされています。寿命の延長はまだしばらく期待できますが、推進力としてはわずかなものになっています。

人口の変動は、歴史的には農村から都市への移動が大きな要因となってきました。農村の人口が都市に流出することで都市部の人口が増加し、都市化が発展してきたのです。この流れは現在のアフリカでも見られ、都市部への人口集中が進んでいます。アメリカやヨーロッパでは移民が人口増の要因になっています。

 一方、人口減少も同様に地方から始まり、都市部へと波及していきます。地方の集落での人口減少が進むと、都市部への移住や出生率の低下などが影響し、やがて中心部でも人口が減少していくことが明らかになっています。

この現象は東京郊外の廃墟になった集合住宅やパリの中心部でのパン屋の閉店などの結果として表れ、長期的な人口減少の実態を示しています。

人口の流動は地域間や都市間のバランスを変化させ、社会全体に影響を及ぼします。

結局のところ人口減少の根源は低出生率にあるので、地球を空にしたくなければ、出生率を上げるか、あるいは最低でも低出生率がすべての地域に広がらないようにするしかない。

現代社会では、平均寿命の延長や若い世代の死亡率の減少により、世界全体の人口数が急速に増加しています。しかし、都市部を中心に子供を持たない人々も増えているため、増加率は下降傾向にあります。都市化の進展や高齢化、教育水準の向上、栄養状態の改善など、さまざまな要因がこの状況を形作っています。

世界各地の人口動態は地域によって異なり、人口動態の近代化が進んでいない国も存在します。人口増加を最終的に阻むものは、食料不足や他の外的要因ではなく、人間自身が行う選択であると著者は指摘します。ここには文化的・社会的な側面が鍵を握り、地域ごとに解決策は異なります。

持続可能な人口成長を実現するためには、教育や啓発活動によって適切な家族計画を促進し、将来の世代に責任を持つ意識を高める必要があります。人口問題は量だけで考えるのではなく、教育や地域の社会経済状況、文化、環境などの質とも密接に関わっていると捉えるべきです。

社会の中で、個人の自由な選択と多産奨励が両立するよう促進することが重要ですが、このバランスをとることはとても難しい課題になっています。

しかし、政府がいくら人口増加策を実践しても、先進国においては、人口増は期待できなくなっています。なぜなら、近代後の世界においては、個々人および各家族が何を好み、どう行動するかがものを言うからです。

日本は、経済力を犠牲にして、民族性とエゴイズムを維持している。

多くの日本人は移民を受け入れる準備ができておらず、多文化主義を歓迎しない傾向があります。同時に、仕事と子育ての両立が難しい文化や、家事や介護を女性に押し付ける文化が子供を持つことを妨げています。

このような状況下で、多くの女性は自立を優先し、結婚や子育てを後回しにする傾向があります。 この民族性とエゴイズムの選択は、日本が経済成長を犠牲にし、政府債務を増やしてきた原因の一つです。

生産年齢人口の減少とそれに続く総人口の減少が経済成長を阻害しており、移民を受け入れても所得が上がるわけではなく、経済成長を促進するのは困難でだと著者は主張します。

グローバルにおいては左派・右派ともに考えを修正する必要があります。左派の一部は、すべての出産奨励策を拒否し、個人の目標の追求を優先する姿勢を取っています。

しかしこれは、低出生率が続く中で現代的な社会が生き残れるかどうかについて考える必要があります。富裕国は一時的に移民を受け入れることができますが、移民が自身の伝統的な価値観を捨てなければ、富裕国の価値観に影響を与える恐れがあります。逆に、移民が同化すれば、出生率も下がり、少子化問題が解決されなくなります。

右派の人々には、移民に国を乗っ取られると考えるだけでなく、自らの立場や主張を客観的に見つめ直すべきです。他者との共通点や理解を深める努力が求めなければ、国家が衰退していきます。過去の栄光や優位性にとらわれるのではなく、未来に向けて建設的な対話と行動を展開することが、社会全体の調和と繁栄につながるのです。


 

 

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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