なぜ働いていると本が読めなくなるのか(三宅香帆)の書評

woman sitting on brown ledge while holding book

なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆
集英社

なぜ働いていると本が読めなくなるのか(三宅香帆)の要約

「半身で働く社会」の実現により、仕事だけでなくプライベートを充実できます。このアプローチにより、「働いていても本が読める社会」を実現することが可能になります。仕事だけに焦点を当てるのではなく、趣味や個人の成長にも時間を使うことで、より充実した毎日を送ることができるでしょう。

日本人の読書はどう変化してきたか?

「ああ、働いていると本が読めなくなるのは、私だけじゃなかったんだな」そう感じました。そもそも日本の働き方は、本なんてじっくり読めなくなるのが普通らしいのです。そういう働き方がマジョリティなのです。たしかに週5日はほぼ出社して、残りの時間で生活や人間関係を築いていたら、本を読む時間なんてなくなるのが当然でしょう。 しかし――私は思うのです。 「いや、そもそも本も読めない働き方が普通とされている社会って、おかしくない!?」(三宅香帆)

三宅香帆氏は本書で、現代社会で働く人々がなぜ本を読むことが難しくなっているのかについて詳細に考察しています。「大人になってから読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて趣味が楽しめない」「疲れていると、ついスマホを見て時間をつぶしてしまう」という悩みを抱える人が多い中、三宅氏は歴史的な視点から労働と読書の関係を分析し、労働環境の変化が読書へどのように影響しているのかを明らかにしています。

三宅氏は、現代人が読書から遠ざかっている現象を指摘し、これが多くの人にとって共感を呼ぶ問題であることを強調しています。仕事や家事の他、スマートフォンやSNSなど、日常生活のさまざまな要素が読書時間を奪っており、この状況が読書離れや情報の浅い消費につながっている可能性を指摘します。

そして、労働と読書の両立を模索する必要性を提唱し、日本の近代以降の労働史と読書史を並べて俯瞰し、歴史上日本人がどのように働きながら本を読んできたのか、そしてなぜ現代の私たちが働きながら本を読むことに困難を感じているのかについて考察しています。

江戸時代までの読書は音読が基本で、明治時代に黙読革命が起こり、読書文化が変わったのです。これにより、日本人は自分の読みたい本が読めるようになったと言います。また、活版印刷の普及により、本は急速に読みやすくなったと言います。

明治から戦後にかけて、立身出世には教養や学問など、社会に関する広範な知識が求められていました。しかし、現代では成功に必要なのは、その瞬間に自分に必要な情報を効率的に得て、不必要な情報は排除し、自己の行動を適応させる能力です。

そのため、多忙な労働環境下では、自分にとって直接的に役立たない情報を含む読書が避けられがちになりました。1980年代以前の長時間労働をしていた人々が読書を楽しんでいたのは、それが直接的なキャリアアップや社会的地位向上に役立つからでした。

しかし、1990年代以降は、労働や成功に必要なのは即座に関連する情報を見つけ出し、それに基づいて行動を変えることとされるようになりました。それがインターネットの普及と相まって、読書時間を減らしていったのです。

著者は、AI時代だらかこそ、人間らしい働き方が求められていると指摘します。AI時代には「労働」と「文化」を両立させる方法を探求し、どうすれば働きながら本を読むことが可能になるのかを問いかけています。

テクノロジーの進化により、私たちの大切な時間がいつの間にか奪われている現実があります。著者は、「21世紀、実は私たちの敵は自分の内側にいる」と述べ、働きながら本を読むためには自分自身の働き方や時間の使い方を見直す必要があると指摘しています。私たちには、余裕のない働き方から脱却し、余白の時間を作ることが欠かせません。

半身こそが社会の理想である理由

仕事のノイズになるような知識を、あえて受け入れる。 仕事以外の文脈を思い出すこと。そのノイズを、受け入れること。 それこそが、私たちが働きながら本を読む一歩なのではないだろうか。

インターネットはノイズのない情報を瞬時に届け、ユーザーが求める情報だけを提供します。一方、書籍はしばしば予期せぬ知識や展開を提供することがあります。この違いは、情報が「ノイズのない知識」であるのに対し、伝統的な読書では読者が偶然に出会う情報も含まれるため、「ノイズ」が存在することによります。

現代の働く人々にとって、インターネットが読書に取って代わっている理由の一つは、情報を効率的に入手でき、不必要な内容(ノイズ)を避けられるためです。忙しい日常では新しい文脈に触れる余裕がなくなることがあります。私たちは、仕事という限られた文脈に囚われがちで、自分にとって不必要な情報は「ノイズ」として切り捨ててしまいます。そのため、仕事以外の新しい文脈を受け入れる余裕がなくなり、読書から遠ざかることが多くなります。

しかし、このノイズを受け入れることにこそ、働きながらも豊かな教養を培う価値があるかもしれません。そのため、働く現代人が教養や人文知を摂取し続けるためには、仕事のノイズを受け入れつつ、読書を通じて異なる文脈や知識に触れることが重要です。

読書は、その時の私たちの関心や生活の文脈によって変わるものです。例えば、書店で何気なく手に取る本も、その時抱えている仕事の悩みや家庭の問題によって選ぶ本が変わるかもしれません。私たちは、仕事という限られた文脈に囚われがちで、自分にとって不必要な情報は「ノイズ」として切り捨ててしまいます。そのため、仕事以外の新しい文脈を受け入れる余裕がなくなり、読書から遠ざかることが多くなります。

読書をすることで他者の文脈に触れ、自分自身の視野を広げることができるため、忙しくても読書の時間を確保し、新しい文脈を受け入れることが重要です。これにより、自分の知らない世界を知り、新しい発見や成長を遂げることができます。私は書店や新聞の書評、翻訳書の関連書籍などから、多くの良書に出会うことにより、自分の人生を豊かにしてきました

半身こそ理想だ、とみんなで言っていきませんか。 それこそが、「トータル・ワーク」そして「働きながら本が読めない社会」からの脱却の道だからである。

今日では、男女ともに「半身で働く」ことが求められる時代となり、もう半身は育児、介護、副業、趣味など自己実現に向けた活動に充てることができます。これにより、仕事とプライベートのバランスを取ることが可能になり、より充実した生活が送れるようになります。

現代社会で働く私たちは、多忙になるほど新しい「文脈」という名のノイズを受け入れる余裕を失っています。長時間労働や家庭の責任に追われる中で、未知の情報や読書を楽しむ時間が削られがちです。本書では、働きながらも他の文脈を受け入れることができる社会、つまり「半身」で働き、もう半身を個人の成長や趣味に使うバランスの取れた生活が理想とされています。

「半身で働く社会」を提案することで、仕事に全身を投じるのではなく、別の文脈を持つ余裕を作り出すことができます。これにより、「働いていても本が読める社会」を実現することが可能になります。仕事の文脈のみに集中するのではなく、生活の中で様々な興味や趣味に時間を割くことができれば、より充実した毎日を送ることができるでしょう。このような社会では、仕事だけでなく個人の成長や精神的な満足感にも重点を置くことが重要です。

この新しい働き方は、現代の多様な生活ニーズに対応し、男女共に豊かな人生を送るための鍵です。 社会全体で「全身全霊で働く」従来の働き方や価値観の見直しが必要です。労働のみならず、生活の質や充実感を重視し、必要に応じて労働時間を削減して自己実現や趣味に時間を割くことができる社会を目指すことが求められています。

著者は、新自由主義社会において自己決定や自己責任が強調されることが、私たち自身の過剰な競争心を煽り、結果的に心身の疲労を招いていると指摘しています。これに対し、仕事だけでなく、読書や他の興味に時間を割く「半身」の働き方を提案し、そうすることで新しい知識や文脈に触れ、充実した人生を送ることが可能になると述べています。

このような働き方は、仕事と個人の両方において持続可能なバランスをもたらし、私たちが社会の複雑さを受け入れつつも疲労せずに活動できるようにするための手段となります。働きながら読書が楽しめる社会こそが、現代人の理想なのですが、新資本主義やSNSなどのテクノロジーがこれを阻害しているのかもしれません。

 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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