インフォーマル・パブリック・ライフ――人が惹かれる街のルール (飯田美樹)の書評

square brown wooden table

インフォーマル・パブリック・ライフ――人が惹かれる街のルール
飯田美樹
英治出版

インフォーマル・パブリック・ライフ (飯田美樹)の要約

カフェは幸せの象徴であり、偶然の出会いやリラックスできる場所として人々に親しまれています。世界的な都市では、都市改革によって魅力的な空間が整備され、多くの人々が訪れる場所に変貌しています。その中心にはカフェ文化があり、インフォーマル・パブリック・ライフを楽しむことができます。

魅力のある住環境に必要なこととは?

「インフォーマル・パブリック・ライフ」を一言で表すと、気楽に行けて、予期せぬ誰かや何かに出会えるかもしれない、あたたかみのある場所である。(飯田美樹)

都市には、人々が大切にされる街とそうでない街が存在します。人々が大切にされる街では、共通のルールや価値観があり、それが街の魅力を形成しています。一方、人々が大切にされない街では、これらの要素が欠如しており、住民の生活や満足度が低下しています。

カフェ文化、パブリック・ライフ研究家の飯田美樹氏はインフォーマル・パブリック・ライフが盛んな場所ほど人で溢れ、人が集まる場には世界のどこであれ共通点があるのだと気づきます。この違いを通じて、著者は都市計画やコミュニティ形成の重要性を強調しています。

例えば、街全体で緑を大切にし、公共の場所を整備するなど、住民が共有する理念や行動がある街は、住民同士の結びつきが強く、生活の質が向上します。一方で、ルールや価値観が曖昧で、公共の場が整備されていない街では、住民同士の交流が少なくなり、孤立感や不満が広がる傾向があります。

インフォーマル・パブリック・ライフが盛んな場所は、人々が自然に集まる場所であり、そこには共通の楽しみや交流が生まれます。このような場所では、人々が自然とつながり、コミュニティが形成されます。そして、そこには人々の幸福感や満足度が高まる要素が豊富に含まれています。

本書はヴェネチアのサンマルコ広場のカフェ・フローリアンの居心地の良さから始まります。私は奥さんが隣町ののパドヴァに住んでいたため、なんどかここを訪問していますが、著者が指摘するようにこのカフェがなければ、サンマルコ広場には何も残らないかもしれません。ここで著者はインフォーマル・パブリック・ライフとカフェ文化の2つの研究がつながったと言います。

住環境というのは、単に静かな住宅地とスーパーやコンビニが徒歩圏にあればよいというわけではない。私たちの周辺環境は、日々確実に私たちの思考や行動に影響を及ぼしている。だからこそ、自分たちの幸せな未来のために街のあり方を問い直すこと、それが重要なのである。

住環境は単なる利便性だけで評価されるものではありません。人との交流や出会いがない場所は、魅力に欠けます。人とのつながりやコミュニケーションは、私たちの心に豊かさをもたらします。 街には、公園やカフェ、図書館など、人々が集まり交流できる場所が必要です。

これらの場所での出会いや交流が、私たちの生活に活力や喜びをもたらしてくれます。同じ場所にいることで心が温まり、大切なことを共有できる場所が、私たちには必要です。

いろいろな人が集い、他者との偶然の出会いが起こるソーシャルミックスやカフェセラピーによって、人はいつの間にか悩みを解決できるのです。

カフェなどのサードプレイスでリラックスして口を開くと、次第に自分を責めていた個人的問題が、実は自分以外の人たちも抱えている社会的問題であったと気づき、まるで白黒が反転するかのように視点が変化することがある。実はそれが自分一人の特殊な問題ではなかったのだと気づいたとき、その問題について共に議論し、状況を改善しようという勇気も湧いてくる。

本書では、ヴェネチア以外にもさまざまなサードプレイスが取り上げられていますが、その中には私が訪れたことのある場所もあります。

友人が住んでいたシエナのカンポ広場や奥さんが住んでいたルッカのアンフィテアトロの広場などを思い出すと、そこにあった印象的なカフェでの食事や交流が広場の景色と共に蘇ります。

20年以上前のイタリアでの思い出が、著者が指摘するインフォーマル・パブリックなスペースの力を実感させてくれました。このような場所は、私たちの記憶の中に深く刻まれ、それぞれの人生や体験を豊かに彩ります。

クリエイティブクラスの人たちが求める3つのこと

今すぐ家に帰りたくない、今すぐ仕事に行きたくない、そんな気持ちを抱えたままで、そこでしばらく過ごしていると、さっきまでの悩み事が消えていく。自分の知っている狭い世界だけが世界ではない、もっと広い世界があったはずだ。誰かと言葉を交わさなくても、ちょっと前向きな気分になり、「よし、頑張ろう!」と思える場、それがインフォーマル・パブリック・ライフなのである。

インフォーマル・パブリックな空間は人にエネルギーを与えます。特にクリエイティブクラスや優秀な若者たちが集まる街からは、新しいアイデアやプロジェクトが生まれ、活気に満ちています。

彼らが求めるのは、自由な表現や交流ができる環境であり、そこでのインスピレーションを受けることです。自己表現がしやすく、異なる意見や考え方も肯定的に受け入れられる場所であれば、彼らは自信を持ち、新しいアイデアや挑戦に取り組みます。このような街では、変化が許容され、イノベーションが生まれ、地域全体にポジティブな影響を与えます。

ここに移住する他者が増えることで、アイデアの交差が起き、イノベーションがますます起こるようになります。まさにアイデアは交差点から生まれる イノベーションを量産する「メディチ・エフェクト」の起こし方(フランス・ヨハンソン著)から生まれるが指摘したことが、インフォーマル・パブリックな都市で生まれるのです。(アイデアは交差点から生まれるの書評

クリエイティブクラスの人々が求めるのは、単なる居心地の良い場所ではありません。彼らはリラックスできる場所を求める一方で、異なる経験やアイデアを受け入れられるオープンな環境も望んでいます。

人が自由に生きるためには、自分らしくあることを許容してくれる場と、そこで過ごす時間のかけ算の積が重要である。

自分らしくあることを許容してくれる場所を見つけ、そこで過ごす時間を大切にすることは、自由な生き方を実現するための重要なステップです。そのような場所が自分の周りにあるかどうか、そして自分がその場所を見つけるために何をすべきかを考えることで、より充実した人生を送ることができるでしょう。

他者を否定するのではなく、その人たちを優しく包み込み、歓迎する場所に人は移り住みます。優秀な人材が集まる都市が、経済的にも発展していくことは自然の成り行きです。

彼らは忙しい日常から離れ、気分転換できる場所を探し求めています。 それはカフェや公園、美術館など、心地よい空間が提供されている場所であり、そこでの滞在時間は短くても、心身をリフレッシュできる重要な時間となります。彼らが求めるのは、自分らしさを表現できる場所でかつリラックスできる場所なのです。そのような場所が生まれることで、街全体が活気づき、成長していくのです。

また、クリエイティブクラスは「経験の開放性」も求めます。自分の価値観とは異なる経験が得られる場所であり、新しいアイデアや視点に触れることができる環境を望んでいます。そのため、彼らが自由に表現し、異なる文化や考え方と交流できる場所が必要です。このような場所では、自分の価値が尊重され、新しい挑戦やアイデアが生まれやすくなります。

さらに、クリエイティブクラスが集まる街は、他では受け入れられなかった人々を歓迎する優しさと包容力を持っています。これらの街では、多様性が尊重され、異なるバックグラウンドや意見を持つ人々が受け入れられます。その結果、多様性がもたらす創造性やイノベーションが促進され、街全体が活気づきます。

将来の街の発展を考える際には、「経験に対する開放性」を促すインフォーマルな公共空間を充実させることが鍵となります。

カフェはほとんどいつでも開かれていて、仕事もできるため、そこで生まれたアイデアが具現化される可能性も高い。

カフェにはクリエイティブクラスや優秀な人材が集まり、新しいアイデアやプロジェクトが生まれ、経済的な発展が促進されるでしょう。その結果、街全体がより魅力的で活気ある場所になることが期待されます。

街に温かいカフェが一軒あると、クリエイティブな人が集まり、周辺に新しい店が生まれ、訪れる人も増えて、そのエリアが活気づく可能性があります。クリエイティブな人々が集まることでアイデアが交差し、新しいプロジェクトやイベントが生まれ、周囲の店舗や住民にも良い影響を与え、街全体の魅力が高まります。

居心地のよいカフェが街に与える影響は大きく、人々の心を癒し、交流を促進するだけでなく、地域の文化やアイデンティティを育む役割も果たすことができます。

心地よい街の7つのルールとは?

そこに来た人を歓迎し、彼らが心地よいと思う場のデザインを提供することである。そこで安心でき、その場所での滞在時間が長くなると愛着や信頼感が増していく。その街に対する愛着が湧けば、そこで何かを買いたい、また訪れたいという気持ちになる。その街の雰囲気が唯一無二のものになれば、街の人はより誇りをもち、遠くの人はお金を払ってでもその場所を訪れたいと思うだろう。その街がそこにしかない魅力を見出せば、街自体がブランドとして機能していく。

著者は、インフォーマル・パブリック・ライフを生み出す7つのルールを明らかにしています。
①エリアの歩行者空間化。
歩行者空間化は、ヴェローナやヴェネチアのような街でよく見られます。車が通行できないエリアでは、歩行者が優先されます。この取り組みにより、街全体が安心感に包まれ、歩行者が自由に移動できる環境が整います。

その結果、街を気軽に散策することができ、人々がコミュニケーションを楽しむ場となっています。 さらに、車の通行が制限されることで、移動にかかる時間が短縮されます。そのため、ショッピングや観光を楽しむ余裕が生まれます。これにより、地元の商業活動が活性化し、経済的な効果も期待できます。

ヴェネチアを1日中歩き回ることで、自分との対話の時間を持てたことを思い出しました。車がない街歩き続けることで、歩く瞑想も行えます。車のない街では、人とのコミュニケーションを増やせるだけでなく、自分も取り戻せるのです。

②座れる場所を豊富に用意する。
座れる場所を豊富に用意することは、街の魅力を高める重要な要素です。特に、東京ではこの点が課題となっています。街中に座れる場所が少ないため、人々がゆっくりと過ごす機会が制限されています。実際、人々が落ち着いて滞在できる場所がなければ、都市は訪れる価値が減少し、人々の関心を失ってしまうでしょう。

オープンカフェの増加は、都市の魅力を向上させる素晴らしい方法です。特に東京の気候は比較的暖かいため、オープンカフェが活躍する環境が整っています。街中に広がるオープンカフェが増えれば、人々は外でくつろぎながら飲食を楽しむことができ、街の活気が一層高まるでしょう。

③ハイライトの周りにアクティビティを凝縮させる。
ハイライトとは、エリアで重要な歴史的建造物や、その地名を聞いて思い浮かぶ場所のことです。例えば、パリのエッフェル塔や凱旋門、ヴェネツィアのサン・マルコ広場、ニューヨークのタイムズ・スクエアなどがそれに該当します。

ハイライトの周りには商店やオープンカフェなどの魅力的な要素を集め、観光客や地元の人々に活気を与えることが重要です。人が集まる場所をさらに魅力的にすることで、より多くの人々が集まるようになります。

オープンカフェが重要なのは、そこからハイライトを眺めることができ、ハイライトを囲む街との一体感を感じていられるからである。どんなにハイライトから近い場所でも、日本の喫茶店のように閉ざされた店内しかない場合、そこにいながら街との一体感を感じることは難しい。

ハイライトは歴史的建造物だけでなく、新たに創造することも可能です。都市設計の際には、ハイライトとアクティビティを意識して配置することが重要です。

④エッジから人々を眺めている場所をつくる。
人々が集まり始めるのは常に空間の中心からではなく、むしろエッジからです。エッジには通行人を引き寄せる魅力的な要素や活動が配置されることで、街の活気や魅力を高めることができます。人は実は人の動き・活動を見たいという欲求があるという著者の指摘に共感を覚えました。

人は自分らしくリラックする人がいるところに集まるのです。オープンカフェのような場所では、人々が集まっている様子を見て、街の活気や魅力を感じることができます。そのため、エッジにオープンカフェを配置することで、通行人が立ち寄りやすくなります。彼らは街と一体感を感じることができるのです。オープンカフェにより、街は活性化し、ますます人を引き寄せるのです。

⑤歓迎感を感じられるエッジをつくる。
「統一感」と「歓迎感」を感じられるようにすることで、そこを通る人々は、自分は場違いではなく歓迎されているという印象を持つことができます。本来は未気質である丸の内の高層ビル街は、1階部分にアートやリラックスできる花々を置くことで、歓迎感や統一感を生み出しています。一方都庁に向かう新宿地下街には歓迎感がなく、街の魅力を半減させています。

⑥朝から夜まで多様な用途を混合させる。

⑦街路に飲食店があること。

社会の中で、カフェという場が重要なのは、ただそこに居続けられるだけでなく、人との出会いや深い語り合いを通じて、人生が変わっていくからだ。パリやウィーンでカフェが新たな文化の発信地となっていったのは、ただ美味しいコーヒーが飲めたからでも、一人でゆっくり読書ができたからでもなく、こうした出会いが頻繁に起こり、人々が深く語り合い、人生が変わる場として機能していたからなのである。

カフェは単なる飲食店ではなく、幸せの象徴として私たちの日常に深く根付いています。著者が指摘するように、カフェには様々な楽しみ方があります。誰かとの偶然の出会いを楽しんだり、旅の途中でふらりと立ち寄る憩いの場として利用したり、日常の喧騒から離れてリラックスする場として活用することができます。

カフェで過ごす時間は、私たちの幸福を確認する重要な時間の一つでもあります。そのため、健康であることがカフェに行くための条件とも言えるでしょう。カフェ時間は自分自身の健康を大切にし、自分を癒す時間でもあります。

世界的に人気のある都市の中には、都市改革に取り組んできた街が多くあります。コペンハーゲン、ニューヨーク、パリ、ボルドー、フィレンツェなどはその代表例です。これらの街は、魅力的な都市空間を整備することで、多くの人々が訪れる価値のある場所に育て上げました。

その結果、観光客や地元住民が一堂に集う活気溢れる街となり、その魅力は世界中に広がりました。 これらの都市は、歴史的な建造物や美しい公共スペースだけでなく、エッジやカフェなどの要素を活用して、人々が集まる場所を生み出しました。

カフェは飲食店以上の存在として、街の一部として愛され、支持されることで、街全体の魅力を高めることができます。良いカフェがあることで、通りや広場が人々で溢れ、新たな出会いや交流が生まれ、街全体が活気づいています。その成功は、都市改革における優れた取り組みと、人々が訪れる魅力的な空間を創り出したことに起因しています。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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