経営中毒 社長はつらい、だから楽しい (徳谷智史)の書評

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経営中毒 社長はつらい、だから楽しい
徳谷智史
PHP研究所

経営中毒 社長はつらい、だから楽しい (徳谷智史)の要約

不確実性の中で決断し前進し続けることが、経営者の道であり人生の真理です。経営者は、ハードシングスを恐れず、経営の羅針盤を持つことで、未来を変えられます。様々な困難を成長の機会として受け入れ、行動を続けることで、ビジネスと人生を豊かにできます。

経営者の重要な仕事とは?

問題が起こっても、失敗をしても、どう対応するかの「羅針盤」を持っておくことで、困難の荒波を越えていける可能性は圧倒的に高まります。(徳谷智史)

エッグ・フォワードの代表の徳谷智史氏の経営中毒は、経営者やビジネスパーソンに向けた興味深い一冊です。本書は、経営に携わる人々が直面する困難や苦労を描きながらも、その中で楽しさややりがいを見出すことの重要性を説いています。

徳谷氏は、経営者が持つべき姿勢や考え方について独自の視点を提示しており、読者に新たな気づきをもたらします。特に、経営者にとっての苦悩やプレッシャーをリアルに描写している点が特筆されます。経営者としての責任や決断の重さ、日々のストレスや不安など、多くの読者が共感するであろうテーマが綴られています。

著者は、ハードシングスを乗り越えられた理由として、常に次の打開策を考え、行動し続けたことを挙げています。問題の原因と構造を丁寧に分析し、改善を重ねることで活路を見出してきたのです。

会社経営には必ず苦しい時期があります。社長は深い孤独を感じながら悩み抜きますが、それを乗り越え続けてきたからこそ、現在の成功があるのです。 著者は、成功への「魔法の法則」は存在しないと明言しています。しかし、多くの社長との関わりを通じて、企業経営の「原理原則」は困難との向き合い方にこそあると感じています。

誰よりも孤独であり、誰よりも仲間と喜びを共有できる。何よりもつらいことと、何よりも楽しいことが混在する。

「経営中毒」という言葉が示すように、社長の日常は苦楽が入り混じる独特な世界です。経営者として直面する課題や責任の重さは、時に耐え難いプレッシャーとなることがあります。

しかし、その中で得られる成長や達成感は、他では味わえない特別なものです。 社長という立場は、孤独と共有が絶妙なバランスで共存する世界です。重要な決断を下す際、最終的には一人で判断しなければならない孤独があります。その孤独は、自らの信念を貫き通す強さや決断力を育む土壌となります。

一方で、仲間たちと共に歩み、成功を分かち合う喜びも存在します。従業員や取引先、顧客との信頼関係を築き、共に目標に向かって進んでいく過程は、社長としての醍醐味といえるでしょう。この共有の喜びが、孤独な決断の時間を乗り越える力となるのです。

スタートアップの経営者にとって、ゴールから逆算して経営戦略を立てることは極めて重要です。「ヒト、モノ、カネ」といった経営資源に関する課題を事前に予測し、適切な対策を講じる必要があります。これは単なる現状対応ではなく、将来を見据えた先手を打つことを意味します。

経営原資のマネジメントと成長の実現という、「時間軸」が違う両者のつじつまを合わせなければならないわけですから、これは非常に困難です。

経営においては、短期的な経営原資のマネジメントと長期的な成長の実現という、時間軸の異なる二つの課題を同時に解決しなければなりません。この両立は非常に困難を伴います。経営原資は日々の運営に不可欠ですが、成長のための投資も欠かせません。この二つの要素のバランスを取ることが、スタートアップの経営者に求められる重要なスキルの一つです。

スタートアップにとって資金繰りは常に大きな課題です。特に赤字経営の場合、資金枯渇のリスクが常につきまといます。この問題に対処するには、ゴールまでの道筋を詳細に計画し、各段階で必要な資金をいつ、どのように調達するかを事前に検討することが重要です。これにより、キャッシュフローの安定化を図ることができます。

一方で、会社の舵取り役である社長が資金繰りにばかり奔走してしまうと、別の問題が生じます。本来、経営者の役割は会社の長期的なビジョンを描き、戦略を立案し、組織全体をリードすることです。しかし、日々の資金繰りに追われると、これらの本質的な仕事に集中できなくなります。その結果、事業の推進が滞り、会社の成長が止まってしまう可能性があります。

経営者は資金調達の重要性を認識しつつも、自分が本来の役割に集中できる環境を整えることが、企業の持続的な成長には不可欠です。

シード期の経営者に必要なのは諦めない力

投資家が、SEED(シード)と呼ばれる創業初期のスタートアップを評価する基準は、ビジネスモデルよりも、圧倒的に「起業家」本人です。 「この人は本気なのか」「本当に目指している世界があるのか」「しんどいときにブレないか」といった志の部分を見て、「人」に投資をしているのです。

投資の世界において、シード段階のスタートアップへの投資は独特の様相を呈しています。VCやエンジェル投資家にとって、シード期のスタートアップへの投資判断において、経営者の人柄は極めて重要な要素となっています。

初期段階のスタートアップでは、ビジネスモデルや市場環境よりも、経営者自身の資質が事業の成否を左右するからです。 経営者のビジョンとリーダーシップは、企業の方向性と成長を決定づける要因です。明確なビジョンを持ち、それを実現するための強いリーダーシップを発揮できる経営者は、チームを鼓舞し、困難を乗り越える原動力となります。

投資家たちは、経営者との対話を通じて、そのビジョンの深さと実現可能性を見極めようとします。 シード期のスタートアップでは、ピボットが頻繁に起こります。当初の事業計画が市場の現実と合致しないことも多く、柔軟に戦略を変更する必要があるのです。このような状況下で、経営者の情熱や信念、諦めない力が重要となります。

市場の変化に柔軟に対応しつつも、核となる理念を失わない経営者の姿勢が、投資家の信頼を勝ち取るのです。 スタートアップの道のりには多くの予期せぬ障害が待ち受けています。財務的な困難、人材の問題、競合の出現など、様々な危機に直面したとき、冷静に状況を分析し、適切な対策を講じられる経営者の能力が、企業の存続と成長を左右します。

投資家たちは、経営者のパーパス(存在意義)にも注目します。単に利益を追求するだけでなく、社会に真の価値をもたらそうとする高い志を持つ経営者は、長期的な視点で事業を展開し、持続可能な成長を実現する可能性が高いと考えられています。

スタートアップの成功への道のりは決して平坦ではありません。幾度となく訪れる挫折や失敗の中で、諦めずに前進し続ける力が、最終的な成功を導くのです。投資家たちは、経営者の過去の経験や、困難に直面したときの対応を慎重に見極めようとします。 

私自身も個人投資家としてベンチャー投資を行っていますが、最も重視しているのが、経営者のパーパスと諦めない力になります。

売上が立つのもお客様がいてくれるからであり、本来はコストであっても、給与や外注費もかかわってくれる他者や会社がいるからこそ生じるわけです。給料日や支払い日とは本来、社長にとって最も感謝すべき瞬間なのだと私は思います。

ビジネスは単なる金銭のやりとりではありません。それは人と人とのつながりであり、価値の交換です。給料日や支払い日を感謝の日として捉え直すことで、経営者は自社の真の強みを再認識し、持続可能な成長への道を見出すことができるでしょう。

数字の向こう側にある「人」を大切にする。それこそが、これからの時代に求められる経営の姿勢なのかもしれません。顧客、従業員、パートナー、投資家など、全ての関係者への感謝の気持ちを忘れずに日々の経営に臨むことが、長期的な成功につながるのです。

経営者には魔法の手段などないと考え、会社を成長させる行動を続けよう!

結局は、即効性のある「魔法の手段」などありません。シナリオを複数持ちながら、いかに先んじて資金の手当てをできるか。そのうえで、コスト管理をしながら、事業を力強く成長させ、売上と利益の水準を確保し続けられるか。それをやり切るしかないのです。

ビジネスの世界で成功を収めるには、即効性のある「魔法の手段」など存在しないと著者は指摘します。真の成功は、慎重な計画と持続的な努力によって達成されるものです。経営者が焦点を当てるべき重要な要素は多岐にわたります。

まず、経営環境は常に変化するため、一つの計画だけでなく、様々な状況に対応できる複数のシナリオを準備しておくことが賢明です。これにより、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるようになります。同時に、事業の成長には資金が不可欠であるため、常に先を見越して、必要な資金を適切なタイミングで調達できるよう準備しておくことが重要です。これには、投資家との関係構築や、信用力の向上などが含まれます。

利益を確保するためには、収入を増やすだけでなく、支出を適切に管理することも重要です。ただし、過度の節約は事業の成長を妨げる可能性があるため、バランスが鍵となります。徹底したコスト管理は、企業の健全性を維持する上で欠かせません。

企業にとって、優秀な人材は企業の最大の資産であり、ビジョンを実現し、戦略を遂行するのは彼らの力です。だからこそ、企業は従業員に対して適切な報酬を支払い、彼らの貢献に見合った待遇を提供する責任があります。

いくら強いビジョン、確かな戦略があっても、お金がなくなれば人はついてこなくなるのが現実です。  多くのスタートアップも資金が枯渇するにつれて、人が離れていきます。会社にお金がないのはわかっていても、給料が未払いなら、社員から「自分が働いた分は払ってください」と言われます。生活があるのですから、当然のことです。

残念ながら、資金難に陥った企業では、給与の未払いや遅延が発生することがあります。これは従業員の生活に直接的な影響を与え、モチベーションの低下や離職につながる可能性があります。従業員にとっては、自身の労働に対する正当な対価を求めることは当然の権利です。 企業が長期的に成功を収めるためには、資金管理と人材管理のバランスを取ることが重要です。

ベンチャー企業が成功を収めるためには、適切な人材の確保と組織づくりが不可欠です。特に、創業者や社長の能力を補完し、組織全体の強みを高める幹部の採用は、企業の成長戦略において重要な要素となります。 社長にはない強みを持った人材を幹部として迎え入れることで、組織はより多角的な視点を獲得し、多様な課題に対応する能力を高めることができます。

例えば、営業に強い創業者がいる場合、マーケティングや財務に精通した幹部を採用することで、ビジネスの各側面をバランスよく発展させることが可能になります。このような補完的な関係性は、イノベーションを促進し、市場での競争力を高める上で大きな役割を果たします。

しかし、優秀な人材を採用するだけでは十分ではありません。ベンチャー企業にとって、従業員の定着率を高めることも同様に重要な課題です。高い離職率は、知識やスキルの流出、チームの生産性低下、採用・育成コストの増加など、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。 従業員の定着を図るためには、自社のビジョンやミッションを明確に伝え、共感を得ることが欠かせません。

ベンチャー企業で働くことは、しばしば不安定さや高いプレッシャーを伴います。しかし、会社の目指す方向性や社会的意義を理解し、自身の仕事がそれにどう貢献しているかを実感できれば、従業員のモチベーションは大きく向上します。

市場での競争力を維持するためには、常に事業を成長させる努力が必要です。新製品の開発、市場拡大、顧客サービス向上、社員の定着など、様々な面で継続的な改善を行うことが重要です。力強い事業成長の追求は、企業の将来を左右する重要な要素となります。

さらに、一時的な成功ではなく、長期的に安定した売上と利益を確保することが、企業の持続可能性につながります。そのためには、顧客との強固な関係構築や、リピート購入を促す戦略が効果的です。安定した経営基盤を築くことで、将来の不確実性に対する耐性も高まります。

これらの要素を総合的に実践することが、経営者にとって重要な課題となります。即効性のある解決策を求めるのではなく、長期的な視点を持ち、着実に事業を成長させていくことが、真の成功への道筋となるのです。

不確実な中で悩み葛藤し、進み、意思決定の精度を上げ続けていく。これが社長の葛藤でもあり、醍醐味でもある。私は、そう思うのです。

不確実性の中で悩み、葛藤し、それでも前に進み続ける。そして、その過程で意思決定の精度を高めていく。これこそが、真の経営者としての道であり、同時に人生における普遍的な真理でもあるのです。困難や挑戦を恐れず、むしろそれらを成長の糧として受け入れる姿勢が、ビジネスと人生の両面において、より豊かな実りをもたらすことでしょう。

著者は、経営者としての道のりは決して平坦ではありませんが、その中で自らの成長や楽しみを見つけることができると説いています。 本書は単なる経営論や成功哲学にとどまらず、人生観や価値観についても深く掘り下げています。困難や挑戦を避けるのではなく、それらを楽しみや成長の機会として捉える姿勢は、ビジネスの枠を超えて、人生全般に適用できるのではないでしょうか?

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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