レスポンシブル・カンパニーの未来――パタゴニアが50年かけて学んだこと(ヴィンセント・スタンリー, イヴォン・シュイナード)の書評

man looking above carrying gray camping backpack

レスポンシブル・カンパニーの未来――パタゴニアが50年かけて学んだこと
ヴィンセント・スタンリー, イヴォン・シュイナード
ダイヤモンド社

レスポンシブル・カンパニーの未来の要約

パタゴニアは地球を救うというミッションを掲げ、そのための具体的な行動に取り組んでいます。責任ある企業は、パタゴニアのように現実の課題をストーリーにし、戦略を展開すべきです。信頼を得るためには、自社の強みと弱みを率直に語ることが不可欠であり、理想と現実のギャップを埋める努力が求められます。

パタゴニアの地球を救うための行動とは?

私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。(イヴォン・シュイナード)

本書は、ヴィンセント・スタンリーイヴォン・シュイナードによる著書であり、責任ある企業の存続に不可欠な要素に焦点を当てています。企業が持続可能な世界を目指すには、企業のパーパスとそれを実現させるストーリーが重要であり、透明性が信頼を得るために不可欠です。パタゴニアが50年にわたって学んできたことを通じて、責任ある企業としての姿勢を守り続ける取り組みが示されています。

温暖化が進み、環境が悪化する中で、パタゴニアはミッションステートメントに掲げた「地球を救うための行動」を強化してきました。彼らは言行を一致させることで、地球環境を保護しながらビジネスを展開しています。

2012年、パタゴニアはベネフィット・コーポレーションに移行し、売上高の1%を環境保護団体に寄付するなど、企業の価値観を会社定款に記載しました。この取り組みにより、創業者の理念を法的に保護し、価値観の一致がない買収者による影響を回避しました。

また、パタゴニアの社会的責任と持続可能なビジネス姿勢は他の企業に示唆を与え、持続可能な社会の実現に向けた前進を促しています。

さらに2022年、シュイナード家は会社の価値すべてをこの新たな目標に捧げ、全株式をパタゴニア・パーパス・トラストとホールドファスト・コレクティブに寄付しました。これにより、パタゴニアの利益は毎年、地球を救う組織に渡り、パタゴニアの株主は地球のみになったと言えます。

パタゴニアが壮大な社会的目標である「地球を救うためにビジネスを営む」と宣言するのには、理由があります。

世界は、いま、砂漠化への道を一直線に進んでいる。すさまじい勢いで生き物が砂へと変わっているわけだが、そうなった一番の原因はグローバル化にある。グローバル化は人間が始めたことだが、人間がコントロールしているとは言いがたい。グローバル化の進展により、人間が使う資源をすばらしいスピードでみつけて収穫できるようになったが、その爪痕は這うようなペースでしか修復されない。

地球は恐竜が絶滅して以来の6度目の危機に瀕していると言われますが、パリ協定が締結されたにもかかわらず、各国の取り組みは遅れているのが現状です。国だけでなく、環境への配慮は待ったなしで、企業の社会的責任という立場からも避けて通れない課題になっています。

著者らが示す提案は、企業や組織だけでなく、市民団体や非営利組織にとっても重要です。持続可能な社会を築くためには、個人の意識改革や行動変革も必要です。パタゴニアの取り組みは、持続可能な成長と環境保護を両立させる指針となるでしょう。地球環境を守るためには、国際協力や企業・個人の積極的な取り組みが不可欠です。

実際、コロナ禍が始まった時、経済活動が低下し、温室効果ガスの排出など汚染が緩和されたことは否定のできない事実です。この時期、人々の移動が制限され、工場の稼働が抑制されたため、大気中の有害物質の濃度が減少し、環境への負荷が軽減されたことが確認されました。

逆に、植物や動物の世界は活性化しました。人間の活動の影響が少なくなったことで、自然界の生態系が改善し、生物の生育状況も良くなったと言えます。

チャンスさえあれば自然は復活するということを、私たちはこの時期に実感しました。我々が行動を変えれば、環境への影響も変わることが確認できたわけです。コロナ禍がもたらした環境へのプラスの影響は、人類に大きな教訓を与えました。今後も持続可能な社会を築くために、環境への配慮を忘れず、行動を変えていかなければなりません。

パタゴニアの責任ある行動という文化が世の中をよくできる理由

パタゴニアに入りたいと思う人は、その理由として、会社と自分の価値観が一致していることを挙げることが多い。このように深い部分で会社とつながっていると社員のモチベーションが高まり、仕事が大変になったときにも冷静沈着な対応が可能になる。毒性染料が使われていない新しい生地を探さなければならないときも、がんばりが利く。

パタゴニアの社員は、正しいことを追求することでモチベーションが高まり、途中であきらめることなく努力するようになります。有意義な仕事とは、自分の好きなことをするだけでなく、世界に貢献するものです。この組み合わせにより、人々は自然に持っている素晴らしい能力を発揮し、成果を上げたいという強い意欲を持つようになります。

責任ある企業として迅速に行動するためには、この優れた点を引き出す環境を整える必要があります。新たな取り組みを始めるたびに、会社の文化が前進し、さまざまな可能性が開かれることを実感できます。パタゴニアの歴史を振り返ると、この哲学がいつも根付いていたことがわかります。

パタゴニアは社会的責任を果たす企業として知られており、その姿勢は社員や顧客にも影響を与えています。社員は自らの行動に責任を持ち、社会や環境への貢献を重視しています。

パタゴニアの従業員は、責任ある行動に向けて一歩を踏み出し、学びながら改善を進めることの重要性を理解しています。このプロセスにはサプライヤーや顧客も多く参加しており、やる気のある仕事を通じて元気で満足した社員が成功につながると信じています。

また、パタゴニアの姿勢に共感した顧客も環境に優しい行動をとるようになります。パタゴニアは4R(Reduce、Reuse、Recycle、Repair)を推進し、顧客もそれを支持しています。私もパタゴニアの製品を愛用していますが、壊れた場合にはショップに持ち込み修理して、着続けるようにしています。

責任ある行動する文化が根付いているため、パタゴニアの社員は常に前向きで、課題に立ち向かう姿勢を持ち続けています。その結果、企業としての成長と世界への貢献が実現しているのです。パタゴニアの哲学は、正しいことを追求し、世界に貢献することの重要性を示しており、多くの人々に影響を与えています。この考え方は先日紹介した山口周氏のクリティカル・ビジネスでも紹介されていたものです。

自然を経験し、愛しているか否かがパタゴニアと、たとえばエクソンなどとの小さくて大きな違いである。道路を離れて山や森に1~2キロも入ると、あるいは、沖合にこぎ出して風や波の力に向き合うと、なにかが変わるのだ。人工のあれこれに守られることのない自然界に身を置くと、自分など小さな存在だと思ってしまう。だが同時に、独立独行の気概が生まれる。自然の大きさに気づくとともに、自分のなかにも自然な部分があることに気づくのだ。

自然界での経験が、パタゴニアの社員の行動をよりよいものに変えています。パタゴニアは、自然とのつながりを重視し、健康な自然環境の重要性を強調しています。健康な自然がなければ、社会や産業も健康であり続けることはできません。自然は私たちにとって自明の理なのです。自然は私たちに多くのことを教えてくれます。

例えば、自然がバランスを保つことで、私たちもバランスを保つことの大切さを学ぶことができます。自然は私たちに謙虚さや共生の大切さを教えてくれます。パタゴニアの考え方は、私たちが自然と調和して生きることの重要性を示しています。私たちは自然と共に生きる存在であり、自然の恩恵を受けながら、自然を守る責任があるということを忘れてはいけません。

我々は、パタゴニアの製品を作っている人、全員に対して責任があるし、パタゴニアのラベルが付く衣料品に投入されたあらゆるものに対して責任がある。

パタゴニアはサプライチェーン全体において社会的責任を果たすことに注力しています。工場で働く従業員の労働環境や福利厚生に配慮し、高い賃金や健康的な食事、保育施設の提供など、従業員の生活全般に気を配っています。これにより、従業員は満足度の高い労働環境で働き、生産性も向上しています。パタゴニアは環境だけでなく、人々にも責任を持つ企業としての姿勢を示しているのです。

社会をよくするティンシェント・ベンチャーズという取り組み

2013年、パタゴニアは、事業を通じて環境被害を削減し、気候変動に対処しようとする企業ほとんどはスタートアップに投資する小さな基金、ティンシエッド・ベンチャーズを創設した。

パタゴニアのティンシェッド・ベンチャーズ(tin shed VENTURES)という取り組みは、環境保護と責任あるビジネスを結びつけた先進的なプロジェクトです。この取り組みは、次世代の持続可能なビジネスへの投資を通じて、環境に配慮したビジネスモデルの構築を目指しています。

パタゴニアは、自社のビジネスやサプライチェーン全体を通じて環境負荷を削減する取り組みを行ってきましたが、それだけでは不十分と考え、ティンシェッド・ベンチャーズを通じて更なる前進を目指しています。

ティンシエッド・ベンチャーズは、リジェネラティブ・オーガニック農法と食品供給、生物多様性の監視と回復、サプライチェーンの改善という3分野に注力しています。この取り組みは、地球環境や食料供給の持続可能性を追求する上で非常に重要です。

特にリジェネラティブ・オーガニック農法は、健全な土壌や自然生態系の再生を目指す革新的な農法であり、食品の生産から消費までのサイクルを改善する効果が期待されます。

また、ティンシエッド・ベンチャーズは、長期的な視点で優れた価値観を持つ企業や経営者に対し、長期投資を行う姿勢を示しています。これは、投資家としての責任を果たすだけでなく、持続可能なビジネスや環境への貢献を重視していることを示しています。

彼らは短期的な利益追求よりも、企業やプロジェクトが持続可能な成長を遂げることを重視しており、5年という短期的な目標に縛られることなく、地球環境や社会への長期的な影響を考慮しています。

パタゴニアは地球を救うというミッションを掲げ、そのための具体的な行動に取り組んでいます。責任ある企業は、パタゴニアのように現実の課題をストーリーにし、戦略を展開すべきです。信頼を得るためには、自社の強みと弱みを率直に語ることが不可欠であり、理想と現実のギャップを埋める努力が求められます。

さらに、企業の使命や志も明確に示さなければなりません。社員が自社に共感し、果たすべき役割を理解することも重要です。社内外で同じストーリーを伝えることが信頼を築く鍵です。一貫性のあるストーリーを伝えれば、利害関係者からの信頼を獲得できます。このような戦略が、企業の事業戦略を強化し、社員、顧客、パートナー、投資家から評価されるようになります。


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