中国古典「一日一話」―――世界が学んだ人生の参考書
守屋洋
三笠書房
中国古典「一日一話」―――世界が学んだ人生の参考書(守屋洋)の要約
守屋洋氏は、中国古典の精髄を「応対辞令」「経世済民」「修己治人」の三要素に集約し、その永遠の価値を現代に甦らせています。著者の鋭い洞察は、古来の知恵が現代社会に与える示唆を巧みに描写し、読者に古典の深遠さと実践的意義を再発見させます。私たちはここから多くの気づきをもらえます。
中国古典から私たちが学べる3つのこと
応対辞令 経世済民 修己治人 (守屋洋)
毎日の仕事に追われる中、私は本を読む習慣を続けています。中国の古典を読むことが、私の読書生活の中で重要な役割を担っているのです。毎日、大量にビジネス書を読む中で、自分の頭を切り替えたいと感じる時、私は中国の古典を読むようにしています。
この習慣は、単なる気分転換以上の価値を持つものとなっています。 ビジネスの世界は日々進化し、最新の情報や戦略を常に吸収し続けることが求められます。そんな中で、何千年も前に書かれた古典の言葉に触れると、不思議と心が落ち着きを取り戻します。
『論語』や『老子』といった書物は、時代を超えて私たちに深い洞察を与えてくれるのです。 古典を読むことは、現代のビジネス環境での成功と、内面の充実のバランスを取るための効果的な方法です。
中国の古典は、数千年にわたる豊かな文化と思想の結晶であり、現代社会においても多くの示唆を与え続けています。日本の中国古典研究の第一人者である守屋洋氏は、この深遠な世界の魅力を「応対辞令」「経世済民」「修己治人」という3つの要素に集約しています。
まず「応対辞令」は、人々の間での円滑なコミュニケーションを可能にする術として捉えられます。古典に描かれる登場人物たちの巧みな言葉遣いや、状況に応じた適切な振る舞いは、現代社会においても重要な社会的スキルとして注目されています。相手の立場を尊重しつつ、自らの意図を巧みに伝える技術は、ビジネスや外交の場面でも大いに役立つでしょう。
次に「経世済民」は、国や社会を治め、民を救済するという理念を表しています。中国古典には、理想的な統治者の姿や、民衆の幸福を実現するための方策が数多く記されています。これらの教えは、現代のリーダーシップ論や政治哲学にも通じるものがあり、グローバル化が進む現代社会における指針としても注目されています。
最後に「修己治人」は、自己を磨き、そして他者を導くという考え方です。これは個人の内面的成長と、社会への貢献を同時に追求する姿勢を示しています。自己修養を通じて得た智慧や徳性を、周囲の人々や社会全体の向上のために活かすという思想は、リーダー育成やチームワーク構築などに役立ちます。
著者は中国古典の中でも特に重要な12冊を厳選し、それぞれから短文を抽出し、解説を加えています。老子、荘子、孫子、韓非子、論語、孟子、荀子、菜根譚、心印語、戦国策、史記、三国志と、中国思想の根幹を成す書物から、厳選された文章と著者の解説から、「応対辞令」「経世済民」「修己治人」を学べます。
例えば、老子の「上善水の如し」や荘子の「人みな有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり」の有名な言葉が紹介されています。
老子と荘子の教えとは何か?
上善は水の如し。(老子)
古代中国の思想家・老子の言葉に、現代のビジネスリーダーが学ぶべき深遠な知恵が隠されています。「上善は水の如し」という格言は、理想的な生き方、そして理想的なリーダーシップのあり方を示唆しています。 水の特質に倣うことで、優れたリーダーとなる道が開かれます。
水は柔軟性に富み、どのような状況にも適応します。同時に、謙虚さを持ち合わせ、自己主張を控えめにします。そして、表面上は穏やかでありながら、内に強大なエネルギーを秘めています。これらの特質を身につけることで、リーダーは組織を効果的に導くことができるのです。
さらに、老子は「大国を治むるは小鮮を烹るが若し」という言葉で、組織運営の要諦を説いています。小魚を調理する際、過度に触れたり混ぜたりすれば、魚は形を崩し、味も損なわれてしまいます。これは組織の管理にも通じる教訓です。 リーダーは細かな管理や過度の干渉を避け、むしろ組織の構成員が能力を最大限に発揮できる環境を整えることに注力すべきです。
日々の業務はそれぞれの担当者に任せ、リーダー自身は大局的な視点から組織の方向性を定めることに専念します。 このアプローチは、組織全体の活力を引き出し、構成員のモチベーションを高めることにつながります。同時に、リーダー自身も本来の役割に集中できるようになり、戦略的思考や長期的ビジョンの策定に時間を割くことができます。
ただし、このような経営スタイルを実現するためには、信頼できる管理者や参謀的役割を果たす人材の存在が不可欠です。彼らと協力しながら組織全体のバランスを保つことが、持続的な成長と発展への鍵となります。 この考え方は、ワンマン経営から脱却し、より成熟した組織運営へと移行する際の指針となります。リーダーが自らの役割を見直し、適切な権限委譲と環境整備に注力することで、組織は新たな成長段階へと進むことができるのです。
人みな有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり。(荘子)
荘子は、紀元前4世紀頃の中国・戦国時代の思想家で、道家の代表的な人物の一人です。彼の思想は、人為的な規範や価値観から離れ、自然な状態に戻ることを重視しています。
荘子の言葉に「人みな有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり」というものがあります。これは、多くの人が目に見える有用性ばかりを追求し、一見無駄に思えるものの価値に気づかないという意味です。この「無用の用」という考え方は、タイパやコスパを重視する現代のビジネス環境において、非常に重要な視点を提供してくれます。
例えば、ホンダでは、「ワイガヤ」と呼ばれる自由な雑談の時間があります。一見するとタイパを下げるような無駄話に思えるこの時間が、実は創造的なアイデアの源泉となっていると言います。また、日々の挨拶や世間話も、ビジネス関係を円滑にする上で欠かせない要素です。
優秀なビジネスパーソンが雑談の達人でもあるのは、まさにこの「無用の用」を体得しているからでしょう。 しかし、多くの企業や個人が、目に見える成果やコスパばかりを追求し、この「無用の用」の価値を見逃しています。
短期的なタイパやコスパだけでなく、一見無駄に思える活動や時間の重要性を認識することが、長期的な成功には不可欠だと私は考えています。
さらに荘子は、「坐忘」という概念も提唱しています。これは、身も心も完全に虚の状態になることを指します。ビジネスの文脈では、固定観念や先入観から解放され、新しい視点で問題を捉え直す能力と言えるでしょう。
『荘子』には、孔子とその高弟・顔回とのこんな会話が紹介されている。あるとき、顔回が「私は仁義を忘れることができました」というと、孔子は「それは結構だが、まだ十分とはいえない」と答えた。その後、さらに顔回が「私は礼楽を忘れることができました」というと、孔子は「よし、よし、だが、まだ十分ではない」と答えた。また何十日かたって、顔回はふたたび師に告げた。「私は坐忘することができるようになりました」。孔子はこのときはじめて、「よくぞそこまで進歩した。私も後れを取らぬようにしなければ」と答えたという。(守屋洋)
「坐忘」の状態に至るには段階があります。まず「仁義」を忘れ、次に「礼楽」を忘れ、最終的に完全な「坐忘」の境地に達するのです。これは、既存の価値観や常識から徐々に離れ、真に自由な思考を獲得していく過程を表しています。
私たちビジネスパーソンにとって、「無用の用」と「坐忘」の概念を理解し実践することは、創造性を高め、より深い洞察力を得ることにつながります。日々のタイパ向上に追われる中でも、一見コスパが悪いと思える時間や活動の価値を認識し、時には固定観念から離れて物事を見つめ直す姿勢が重要です。
老子の思想が主に組織の運営や長期的戦略に活かせるのに対し、荘子の教えは個人の創造的思考や問題解決のアプローチにより適していると言えます。 ビジネスリーダーとして、両者の知恵を状況に応じて使い分けることで、より柔軟で創造的な経営が可能になると思います。
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