アナロジア AIの次に来るもの(ジョージ・ダイソン)の書評

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アナロジア AIの次に来るもの
ジョージ・ダイソン
早川書房

アナロジア AIの次に来るもの(ジョージ・ダイソン)の要約

ジョージ・ダイソンは、テクノロジーの進化が最終的には自然に近い形に回帰していく可能性を示唆し、未来のコンピューティングの在り方について深い洞察を提供しています。それは単なる技術予測を超え、人類と技術の関係性の本質に迫る哲学的な問いかけになっています。

AIに関する3つの重要な法則

人工知能をプログラムして思い通りに動かすことができると信じることは、神と話すことができる人がいるとか、ある人は生まれつきの奴隷だと信じるぐらい、根拠のないものであることがはっきりするだろう。(ジョージ・ダイソン)

アメリカの科学史家のジョージ・ダイソンアナロジア AIの次に来るものは、テクノロジーの過去と未来を壮大なスケールで描き出す野心的な作品です。ダイソンは学者、自然科学者、冒険家としての多彩な経験を活かし、科学、歴史、哲学、工学、文化評論を巧みに織り交ぜながら、私たちを知的冒険へと誘います。

本書は、1716年のゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツとピョートル大帝の出会いから現代のAIの時代までの重要人物や出来事を巧みに結びつけ、技術の進化と人間社会の変遷を描き出します。

エカチェリーナ2世、J・ロバート・オッペンハイマー、クルト・ゲーデルといった著名な歴史上の人物から、ゲオルク・ヴィルヘルム・ステラーのラッコまで、多様な登場人物が物語に彩りを添えています。これらの人物や出来事を通じて、ダイソンは18世紀のロシア帝国から現代のコンピューター科学まで、幅広い分野にわたる洞察を提供します。

さらに、ダイソンは自身の経験も積極的に物語に織り込んでいます。ニュージャージー州プリンストンの高等研究所での体験や、北西海岸の熱帯雨林での冒険など、個人的な経験が本書に独特の深みと臨場感を与えています。これらの経験は、歴史的な文脈と現代の科学技術の発展を結びつける重要な役割を果たしています。

読者は技術の発展が人類の歴史とどのように絡み合ってきたかを理解することができます。 本書は単なる技術史ではなく、人間と機械の関係、自然とAIの相互作用、そして未来の社会のあり方についてダイソンは幅広い知見を披露しています。彼の独自の視点は、読者に新たな思考の枠組みを提示し、技術と社会の未来について考えるきっかけを与えています。

ダイソンはAIに関する3つの重要な法則を提示します。第1の法則は「アシュビーの必要多様性の法則」で、効果的な制御システムはそれが制御しようとするシステムと同程度に複雑でなければならないと主張します。人工知能が人間の知能と同等以上の能力を持つためには、人間の脳と同等以上の複雑さを備える必要があるのです。

第2の法則はフォン・ノイマンが提唱したもので、複雑なシステムの特徴はそれ自身の最も単純な動作の記述によって規定されるというものです。この法則は、システムの動作をアルゴリズムのような形式的な記述に還元しようとすると、物事はより複雑になるだけで簡単にはならないことを示しています。

第3の法則は、理解可能性と知的振る舞いのトレードオフに関するものです。理解可能な単純なシステムは知的な振る舞いをするには複雑さが不足しており、一方で知的な振る舞いができるほど複雑なシステムは理解するには複雑すぎるというジレンマを指摘しています。

これらの法則は、自ら思考する真の人工知能が、形式的にプログラム可能な制御では決して到達できない可能性を示しています。ダイソンは、人工知能をプログラムして思い通りに動かすことができるという信念が、神と話すことができる人がいるとか、ある人は生まれつきの奴隷だと信じるのと同じくらい根拠のないものであることを強調しています。

テクノロジー発展の4つの時代とそこからの未来予測

ダイソンはテクノロジーの発展を4つの時代に分け、各時代を以下のように整理しています。第1の時代は、人類が自然(アナログ)の中で道具(テクノロジー)を使い、知性(デジタル)に目覚めた時期を指します。第2の時代では、道具の進歩が産業革命を引き起こし、近代社会を形成しました。現在という第3の時代は、デジタル技術が情報を扱い、社会を大きく変革した時期です。

そして本書が最も注目するのは、これから訪れるであろう第4の時代です。この時代では、AI、IoT、社会全体のデジタル化がさらに進展し、テクノロジーが自然を模倣しながら高度化していきます。興味深いことに、ダイソンはこの過程で、デジタル化したはずの社会がより自然に近いアナログな姿に回帰していくと論じています。

ダイソンは、テクノロジーの進化が最終的には自然に近い形に回帰していく可能性を示唆し、未来のコンピューティングの在り方について深い洞察を提供しています。それは単なる技術予測を超え、人類と技術の関係性の本質に迫る哲学的な問いかけになっています。

連続体仮説が正しいとすると、無限にはふたつのサイズ、すなわちふたつの大きさしかなく、中間のサイズの無限は存在しないことになる。連続体仮説の核心は、連続で数えられない無限と、離散値で数えられる無限の間に中間がなく、本質的な違いがあるという予想だ。

連続体仮説は、生物と機械の計算方式の違いを説明する興味深い視点を提供します。 デジタル・コンピューターは離散的な状態を扱い、整数に対応する無限の状態を持ちます。一方、アナログ・コンピューターは連続的な値を扱い、実数の部分集合に対応します。

デジタル・コンピューターは整数や二進数、決定論的論理を扱いますが、アナログ・コンピューターは実数や非決定論的論理、連続的な時間を扱います。 例えば、道の中央を見つける場合、デジタル的手法では細かい目盛りのメジャーを使い近似値を求めますが、アナログ的手法ではひもを折るだけで正確に中央を見つけられます。

アナログ・コンピューティングでは、複雑性はコードではなくアーキテクチャーにあり、情報は連続関数で扱われます。エラーや曖昧さを許容し、むしろそれを利用します。

一方、デジタル・コンピューティングは正確さを求め、エラー訂正が必要です。 自然界は両方の方式を使い分けています。遺伝情報の保存と伝達にはデジタル的な方法を、リアルタイムの知能と制御にはアナログ的な方法を用いています。

遺伝子の組み換えやエラー訂正も、このデジタルな性質によって可能になっています。 一方で、リアルタイムの知能の働きと制御には、アナログ的な処理が不可欠だと言います。

連続体仮説は中間の無限が存在しないことを示唆し、これはデジタル・コンピューターの限界を示しています。どんなに大きく高速になっても、数えられる無限の大きさに制約されているのです。

さらに興味深いのは、生物のシステムがノイズを積極的に利用している点です。例えば、脳の視覚系や聴覚系は、一定レベルの背景ノイズがあることで、かえって効率よく機能することが知られています。これは、デジタルシステムでは通常避けられるノイズを、アナログシステムが有効活用している例です。

このように、自然界は長期的な情報保存にはデジタル的手法を、即時的な環境応答にはアナログ的手法を用いることで、両者の利点を最大限に活かしています。この巧みな使い分けは、生命システムの柔軟性と堅牢性を支える重要な要素となっているのです。

コンピューターの知能が、今や私たちの手を離れて自らの道を歩み始めています。これは、自然界の生物が環境に適応して進化していくのと似ています。 人間社会という「生態系」の中で、最も効率的で有用なコンピューターシステムが生き残り、さらに発展していくのです。

私たちが意図的に設計したわけではありませんが、より優れたシステムが自然に選ばれ、次第に複雑化し、進化しているのです。 例えば、インターネットやSNSのアルゴリズム、AIによる推薦システムなどが、私たちの予想を超えて発展し、社会に大きな影響を与えています。こ

れらは人間が完全にコントロールしているわけではなく、自律的に進化しているように見えます。 このプロセスは、ちょうどダーウィンの進化論のように、私たちの意図とは関係なく、自然に起こっているのです。

著者の視点は、現在のデジタル技術とアナログ技術の間に存在する大きな隔たりを浮き彫りにすると同時に、技術の発展によってこの境界線が曖昧になっていく可能性を示しています。

本書は、テクノロジーの過去と未来を深く考察し、人工知能の限界と可能性を鋭く見抜きながら、読者に新たな視点を提供する貴重な一冊となっています。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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