PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント(ジョージ・セラフェイム)の書評

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PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント
ジョージ・セラフェイム
ダイヤモンド社

本書の要約

地球環境は待ってくれないのですから、企業と投資家はパーパス経営とESG投資に積極的になるべきです。そして、パーパスと利益についての分析を駆使して、可能な限り我々と地球にとって良いことを生み出していくべきです。今から50年後、企業が人間と地球に対して責任を果たしていくためには、持続可能な経営を実現する必要があります。

ニューアライアメントを実現できた会社が時価総額をアップできる理由

パーパスと利益の両立は可能であり、それは莫大な見返りをもたらし得る。ただし簡単ではなく、成功の保証もない。(ジョージ・セラフェイム)

パーパスと利益を同時に追求することは十分に可能ですが、それが簡単であるわけではありませんし、成功が保証されているわけでもありません。ESGの必須項目に対応することで、実績を向上させてきた企業は、競合よりも毎年3%以上の高い株式リターンを達成しています。

特に新型コロナウイルス感染症の大流行中にしっかりと対応して、顧客や社員、サプライヤーを守った企業は、2020年3月の株式市場の大暴落を含む1ヶ月間で、競合よりも2%高い株式リターンを上げました。このようなデータは、社会的・環境的責任に力を入れることの価値を明らかにしています。

セラフェイム教授の調査では、パーパスを明瞭にしている企業は、一般に競合よりも優れた業績を上げています。この調査では、400社以上の大企業と約50万人の社員からのデータを基に、「パーパス明瞭度」という指標で高得点を獲得した企業が、リスク調整後の年間株式リターンで約6%という高い利回りを達成していることが示されました。

セラフェイム教授による「新しい調和(ニューアライアメント)」の概念は、パーパスと利益を調和させることが可能であり、それが企業にとっても社会にとっても多大な利益をもたらすという考えに基づいています。この新しい調和は、企業が単に利益を追求するだけでなく、社会的・環境的目的にも責任を持つというバランスを取ることに関連しています。

ニューアライアメントを実践するパーパス型の企業が、業績を上げる理由の一つは、パーパスを共有する優秀な人材を引き寄せることができることです。企業の目的に共感する人々は、その企業で働きたいと考える傾向があります。パーパスを共有することで、社員のモチベーションが高まり、仕事に対する意欲も増します。

そして、高いモチベーションが業績向上につながります。 また、パーパスを明確にすることで、企業の目的に共感する顧客も増えます。顧客は、企業のパーパスに共感することで、その企業とビジネスをしたいと考えるようになります。価格が高くても、パーパスに共感する顧客はそれを受け入れる傾向があります。

企業がパーパスを明確にし、それを共有することで、優秀な人材を引き寄せ、顧客の共感を得ることができます。これにより、企業の業績が向上し、時価総額も高まるのです。

この数年で企業のパーパスに注目が集まるようになり、目的と利益の関係を再形成されています。企業には以下の力が働くようになっています。

・社会的認識の変化
公衆の間で環境、社会、ガバナンス(ESG)問題に対する認識と関心が高まっています。

・規制の変更
厳格な規制により、企業はESGの観点から経営を再考しています。

・投資家のプレッシャー
社会的に責任ある投資が増えており、投資家は企業にESG問題に焦点を当てるよう要求しています。

・従業員の期待
優秀な人材はますます、自分自身の価値観と一致する企業で働きたいと考えています。

・技術革新
テクノロジーは社会的および環境的な影響の透明性と測定を高めます。

・消費者行動
消費者はより良心的になり、社会的に責任があり持続可能な製品とサービスを求めています。

企業がパーパスと利益を統合するための「5段階のフレームワーク」

セラフェイム教授による研究から、企業がパーパスと利益を統合するための「5段階のフレームワーク」が明確になっています。

1、戦略的になろう!ESG関連の戦略的行動を特定して導入
企業は初めに、社会的および環境的な影響に対する戦略的な取り組みを見つけ出し、それを事業活動に取り込む必要があります。

イノベーションとサステナビリティ実績向上の両方を一度に実現できるような戦略的チャンスを見つけることは、成功に不可欠である。

イケアは、従来の安価な家具メーカーのイメージを払拭し、環境に配慮した取り組みを積極的に行うことで、ブランドイメージをポジティブに変えることに成功します。再利用やリサイクルを推進することで、廃棄物の削減に努めており、また修理して再び使えるような製品設計にも力を入れています。これにより、使い捨ての家具ではなく、長く愛用できる商品を提供しています。

また、イケアは大量の廃棄物に対しても前向きな対策を取っています。世界が廃棄物問題について注目し始める前に、イケアはモジュール組み立て方式の家具に切り替えました。これにより、廃棄物を最小限に抑えることができるため、環境への負荷を軽減することができます。

さらに、イケアは太陽光発電などの新たな事業にも取り組んでいます。持続可能なエネルギー源を活用することで、環境に優しい商品開発にも力を入れています。これにより、エネルギーの使用効率を高めるだけでなく、再生可能エネルギーへの転換にも貢献しています。

2、目標を設定し、経営責任を問う仕組みをつくる。適切なESG目標の設定と責任制度の導入
企業は明確なESG目標を掲げ、その達成に対する責任機構を確立することが求められます。トップが経営責任を負うことで、パーパスと利益の調和を図れるようになります。幹部報酬をサステナビリティ実績と連動させるというやり方も効果があると言います。

3、パーパス中心の企業文化の醸成

組織の上から下に至るまで、パーパスこそが決定的に重要なのだ。そして、適切なパーパスを見つけることが本当の違いを生み出すための大部分を占める場合さえある。

組織文化をパーパスに根ざしたものに育て上げることで、従業員のモチベーションとパフォーマンスが高まります。

4、重要な業務運営の改革:信頼のためのデザイン。効果的なESG目標達成のための業務プロセスの見直し
目標に沿った実践的な業務プロセスと慣行を確立することで、ESG目標の達成がスムーズに進むようにします。サステナブルな企業になるには、あらゆる行動にサステナビリティを組み込む必要があるのです。

その際、著者は信頼が鍵を握ると述べています。信頼を得るためには、企業が透明性を持ち、正確かつ効率的な情報開示を行うことが重要です。また、企業内部でも、経営者や従業員がサステナビリティに関する理解を深める必要があります。

経営者は、サステナビリティを経営戦略の一部として位置づけ、それを実行するための体制やルールを整備する必要があります。同時に従業員も、サステナビリティに関する意識を高め、行動に反映させることが求められます。

5、投資家と全世界へ向けた情報発信。外部ステークホルダーへの効果的なコミュニケーション
これらの努力と成果を投資家や一般に対してうまく伝える手段を確立する必要があります。経営者がサステナブルな組織を育てるためには、短期的な利益追求に囚われることなく、持続可能な成長を追求する視点を持つことが重要です。長期目標を設定し、それに向かって組織を導くためには、リーダーがビジョンを明確に伝えることが不可欠になります。

組織のメンバーは、そのビジョンに共感し、目標達成のために努力することができます。 しかし、単にビジョンを語るだけでは十分ではありません。リーダーは、組織内外のステークホルダーとの関係を築くことも重要です。ステークホルダーとの信頼関係を築くことで、組織はより持続可能な成長を遂げることができます。

セラフェイム教授のこのフレームワークは、企業がパーパスと利益を効果的に調和させ、その結果を外部に効果的に伝えるための明確な指針を提供しています。当然、企業だけでなく、投資家や消費者にとっても非常に有用です。投資家は、このフレームワークを用いて企業のESGパフォーマンスを評価できる一方で、消費者はより社会的に責任のある選択を行うための指針として利用できます。 

企業文化と信頼が重要な理由

ESG問題を各自のリストの最優先事項にしてもらうESG責任者のリストだけでなく、社内のさまざまな部門の責任を負っている人たちみなのリストでも最優先 させることは、とてつもない大仕事であり、結局は企業文化と信頼に行き着く。重要事項の権限委任は、信頼感の低い職場環境では起こり得ない。裏切りや欺隔に満ちた企業文化でも起こり得ない。これは、有意義なパーパスが組織全体に浸透することによって生じる副産物なのだ。そして、そのような進歩こそが本物の競争優位につながっていく。競争優位は、簡単に真似できないことからしか生まれない。それを巧みに行える会社が、素晴らしい会社になるのだ。

企業におけるESG(環境、社会、ガバナンス)への取り組みは、単なる一部門の役割に留まるべきではありません。全社一丸となって、ESG問題を最優先事項とする必要があります。その実現には、企業文化と信頼の構築が不可欠であることは間違いありません。

そのためには、以下の3つの改革が欠かせません。
①組織全体の意識改革
パーパス経営を実現するするためへの対応は、経営者や担当者だけの仕事ではありません。各部門、各レベルの社員がパーパスの実現を最優先事項として認識する文化を作ることが求められます。

②信頼関係の構築
信頼が不足している組織では、部門間の連携が妨げられ、ESG目標達成は厳しくなります。逆に、信頼が確立されると、社員のモチベーションも高まり、組織全体でより効果的なESG対策が可能になります。

③持続可能な競争優位の構築
パーパス実現への真剣な取り組みは、企業独自の価値観や文化に根ざしているほうが効果的です。これが真の競争優位につながり、顧客や投資家からの支持も集まります。

結局のところ、パーパスの取り組み成功の鍵は、企業文化と信頼にあります。それを築くことで、全ての社員がパーパス経営に対する意識を高め、企業は社会的責任を果たしながら、競争優位も確立できるのです。 企業のリーダーから一般社員まで、誰もがを最優先事項として考え、行動する文化が求められます。そうすれば、企業はただの「ビジネス」でなく、社会に対しても貢献できる「素晴らしい企業」へと進化していくでしょう。

サステナビリティで差をつける方法を見つけた企業は、競合他社より年3%以上も優れた株式リターンを達成できると言われています。しかし、それは簡単なことではありません。なぜなら、戦略と結果責任、企業文化、業務運営、そして効果的な情報伝達の全部を合わせた取り組みが必要だからです。

これらの要素を組み合わせることで、大企業でも零細企業でも、「パーパスと利益が調和して両立するニューアラインメント」の恩恵を手に入れることができ、さらに業界の先導役として世界に貢献することができるのです。

価値創造の6つのパターン

著者は価値創造の6つのタイプをまとめています。これらは、企業がESG(環境、社会、ガバナンス)問題に取り組みながらも利益を上げるための多角的なアプローチを提供します。

1. 新モデルと新市場
環境や社会問題に対応した新しいビジネスモデルや新市場を開拓することで、既存の市場では手に入らない収益の機会を掴目ます。このタイプは、新しい市場でリーダーになる機会をもたらし、企業ブランドを高めます。

2. ビジネスの変革
環境や社会と調和していない従来のビジネスを、新しい製品やサービスに変革します。これにより、企業は社会的責任を果たしながらも、より持続可能な収益構造を築くことができます。

3. 専業によるニューアラインメント
環境や社会問題に直接対応した全く新しいビジネスモデルを基盤に、新たな事業を創出します。これは、社会的インパクトと商業的成功が両立する事業モデルを生み出します。

4. 製品代替
既存製品が突如として社会的な課題解決に貢献する特長を持つと認識される場合、その製品は市場で競合より優位に立つチャンスが出てきます。

5. 業務運営の効率性
ESGを重視した新しい業務運営モデルによって、環境負荷の削減や社員の生産性向上を実現し、結果としてコスト削減や資本利益率の向上を達成します。

6. 価値認知
業界でESGの先導役となる企業が設定したスタンダードや評価倍率(マルチプル)を活用し、自社の企業価値を高めます。このような先導企業の背後から表舞台に出ることで、信頼と評価を勝ち取ります。

これら6つの価値創造のタイプは、企業が社会的責任を果たしながらも持続可能なビジネスモデルを構築するための多様な手段を提供しています。成功した企業は、これらの方法を巧妙に組み合わせて、社会とともに成長しています。

例えば、メガネ販売のワービー・パーカーのケースは、社会的責任とビジネス戦略がどのように相互補完的であるかを非常によく示しています。同社の取り組みは、価値創造の6つのタイプの中でも特に「新モデルと新市場」と「価値認知」に当てはまると言えるでしょう。

ワービー・パーカーが発展途上国にメガネを提供することで、新しい市場を開拓しています。これは新しい顧客層にアプローチをかけると同時に、現地の人々に明確な社会的価値を提供しています。

社員が発展途上国での活動に参加することによって、社会的使命を体験し、その結果として会社に対するロイヤリティや誇りが高まるという効果もあります。これが外部に伝わると、顧客や投資家からの評価も高まります。 社会的使命が企業のパーパスと一致していると、それは競争優位にもつながります。

CEOのデビッド・ギルボアも指摘しているように、このような社会的使命は、顧客や社員が企業を「特別なもの」として認識する大きな要因となります。

今日の社会では、消費者が企業の社会的責任にますます注目しています。そのため、ワービー・パーカーのような企業が社会的価値とビジネス価値を同時に高める戦略を採ることは、顧客ロイヤルティの向上と長期的なビジネス成功につながります。

このような取り組みは、社会全体の意識が高まるにつれて、企業にとって選択肢ではなく必要条件になっていくでしょう。そして、このような企業文化とパーパスの一致が、企業が持続的に成長と価値創造を行う上で非常に重要な要素となります。

今こそ、本書で学んだ知識を行動に変えるべきときです。地球環境は待ってくれないのですから、パーパス経営とESG投資に積極的になるべきです。そして、パーパスと利益についての分析を駆使して、可能な限り我々と地球にとって良いことを生み出していくべきです。今から50年後、企業が人間と地球に対して責任を果たしていくためには、持続可能な経営を実現する必要があります。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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