脳は眠りで大進化する (上田泰己)の書評

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脳は眠りで大進化する
上田泰己
文藝春秋

脳は眠りで大進化する (上田泰己)の要約

睡眠中、脳はただ休息するだけで、なく活発に働いていることが明らかになりました。脳は昼夜で役割を分担し、昼は新しい情報を吸収、夜はその整理を行います。夜間に脳は前日の記憶を整理し、重要な情報だけを選別して記憶に定着させます。このプロセスにより、効率的な学習と記憶の形成が可能になるのです。

脳は睡眠で進化する?脳と睡眠の新たな常識。

「睡眠は人間の成長、特に脳の神経細胞の成長に必要不可欠な、極めて大切な時間である」という、私たちの理論的な研究と観察による実験に基づいて導き出されつつある、人体の現実です。(上田泰己)

上田泰己氏は、東京大学大学院医学系研究科の教授であり、理化学研究所の主任研究員も務めています。時間生物学や睡眠科学の分野で世界的に知られる研究者で、特に体内時計のメカニズムや睡眠の機能に関する革新的な研究で高い評価を受けています。

本書脳は眠りで大進化するは、上田泰己氏が睡眠研究の最前線から得た知見をまとめた著書です。この本では、従来の睡眠に関する常識を覆す斬新な視点が提示されています。 

脳と睡眠の不思議な関係について、上田氏たちの研究が新しい発見をもたらしました。 私たちが起きている間、脳の神経細胞同士のつながり(シナプス)は徐々に弱くなっていきます。この時、脳は外からの情報を次々と取り込んでいるのです。

一方で、眠っている間は全く逆のことが起きています。シナプスが回復して強くなり、昼間に集めた情報を整理する作業が行われているのです。

睡眠には大きく分けて二つの段階があります。一つは深い眠りと呼ばれるノンレム睡眠です。この時期に脳はシナプスを強化し、脳全体の働きを良くしています。もう一つは、目が素早く動くレム睡眠です。この段階で脳は昼間に集めた情報を選別します。大切な情報は残し、そうでない情報は捨てるのです。

この研究結果から、睡眠の新しい役割が見えてきました、私たちが眠っている間、脳はただ休んでいるわけではありません。脳は昨日の記憶を整理し、しっかりと覚えるための活動をしています。 つまり、私たちの脳は昼と夜で役割分担をしているようなものです。昼間は外の世界から新しい情報をどんどん吸収します。そして夜になると、その情報を整理して、本当に大切なものだけを記憶に残しているのです。

ノンレム睡眠時には新しいつながりが生まれ、レム睡眠時にはその新しく生まれたつながりが、選択されていくというわけです。もちろん進化は生命誕生後に30数億年をかけて起きてきた現象で、睡眠は時間単位で起きる現象ですから、時間スケールに大きな違いはあります。それでも、想像をたくましくすれば、毎晩私たちの頭の中で、新しい可能性が生まれて選び取られていく、新しい自分ができていく、そんな現象が起きていると考えられるのではないでしょうか。

著者は、人間が睡眠を通じて日々「新しい自分」に生まれ変わっていると主張します。この考えは、睡眠が単なる休息期間ではなく、脳の再構築と更新の時間であることを示唆しています。 興味深いことに、上田氏は睡眠が覚醒時よりもアクティブな状態であると論じています。これは、睡眠中に脳内で活発な処理が行われていることを意味し、従来の睡眠観を大きく変える視点です。

さらに、覚醒の主な意義を「探索」にあるとする見解も示されています。この考えは、覚醒時の経験が睡眠中の脳の再構築に必要な情報を提供するという理解につながります。

上田氏は、睡眠と覚醒のメカニズムを紙のメモ(時計タンパク質)と鉛筆(リン酸化酵素)というアナロジーで説明しています。ここから著者の脳の探求の旅が始まったと言います。 また、人体には眠気を数える機構が存在するという指摘も興味深いポイントです。これは、睡眠のタイミングや質が精密に制御されていることを示唆しています。

カルシウムが細胞の中に入ってくると、結果的に神経細胞は「眠る」と言えます。  

最新の研究成果として、カルシウムと神経細胞の関係について従来の理解を覆す発見がありました。これまで、カルシウムは神経細胞の興奮を促進する「アクセル」のような役割を果たすと考えられてきました。神経細胞が興奮すると細胞内にカルシウムが流入し、それがさらなる興奮を引き起こすという理解です。

しかし、上田氏らの研究は、この常識を覆す結果を示しています。新たな発見によると、カルシウムが細胞内に入ることで、神経細胞は「眠る」状態になるというのです。これは、カルシウムが神経細胞の「ブレーキ」として機能することを示唆しています。

カルシウムは、自己リン酸化酵素を活性化させます。この酵素は、覚醒時の活動を自身に「記録」していくのです。つまり、私たちが日中活動するたびに、「起きている」「頑張っている」という情報が、この酵素に刻まれていきます。 この過程は、まるで私たちの日中の活動を一つ一つカウントしているようなものです。

そして、このカウントが積み重なっていくことで、徐々に眠気へと変換されていくのです。 ここで面白いのは、自己リン酸化酵素の二重の役割です。この酵素は、情報を書き込む「鉛筆」の役割を果たすと同時に、その情報が書き込まれる「紙」の役割も果たしているのです。

つまり、この酵素は私たちの覚醒状態を記録し、同時にその記録を自身に蓄積していくことで、眠気を生み出すカウンターとしても機能しているのです。これは、覚醒と睡眠のサイクルが、分子レベルでどのように制御されているかを示す興味深い発見です。 この理論は、私たちの日々の活動が直接的に睡眠の必要性につながっていることを示しており、睡眠の重要性とそのメカニズムについての理解を深めてくれます。

脳は第二の心臓か?

人間の頭の中では毎晩、脳の回路を構成するシナプスが大きく生まれ変わって脳が大進化しているのだとすると、これはヒトの知性にきわめて重要な働きをしている可能性があります。ヒトだけがなぜ、長らく続いた野生の状態から、家を作り、社会を作り、集団を作り、安全に眠れるようになったのかを考えていくと、そこにはやはり睡眠中のシナプスの進化が大きな意味を持って作用しているのかもしれない、と私は考えます。

睡眠を単なる休息ではなく、脳の成長と進化のための積極的な時間として捉え直すことで、睡眠の質の向上や適切な睡眠時間の確保がより一層重要視されるでしょう。 上田氏の研究は、睡眠が人間の知的能力や創造性にも深く関わっていること明らかにしています。

著者の研究は、脳と心臓の驚くべき類似性を明らかにしました。上田氏は脳を「第二の心臓」と捉える斬新な視点を提示しています。この考えは、ノンレム睡眠時の脳波のパターンが心拍のリズムと類似していることから生まれました。 この新しい理解によると、心臓が血液を全身に送り出すように、脳も睡眠中に全身に脳脊髄液を送っている可能性があります。

脳の深い睡眠は、脳の学習や記憶にとってとても重要です。が、それだけではなく、脳の深い睡眠は、脳のポンピングにも重要かもしれないのです。

著者の研究は、睡眠の重要性について新しい視点を提供しています。睡眠中、脳は心臓のように機能し、全身に脳脊髄液を送り出しています。この過程は、体内の老廃物を除去し、栄養素を供給する重要な役割を果たしていると考えられます。

さらに、良質な睡眠は私たちの知的能力や創造性を高め、アルツハイマー病の予防にも貢献する可能性があることがわかってきました。また、短い睡眠が子どもの発達以上の原因になっていることもわかっています。発達障害への早めの介入が早期の症状改善につながるため、睡眠検診の普及が求められています。

これらの発見は、睡眠が単なる休息ではなく、脳と体の健康維持や成長に積極的に関わる重要な時間であることを示しています。健康な睡眠が生産性を高めるだけでなく、ウェルビーングにも良い影響を及ぼすため、国、医療機関、学校、企業が連携し、睡眠の健康基準を明確にすべきです。その際、ウェアラルブルデバイスによる睡眠データの解析が欠かせません。

睡眠が私たちの日常生活や健康管理、教育、仕事のあり方に大きな影響を与える可能性があります。例えば、学校や職場での睡眠の重要性が再評価され、より健康的で生産的な環境づくりにつながるはずです。

上田氏の研究は、睡眠を通じて脳と体の健康を積極的に維持・向上させる新しい方法の開発につながる可能性があり、今後の医学や生活様式の変革に大きな影響を与えると期待されています。当然、そこにはテクノロジーの進化が寄与していくはずです。

本書は、睡眠に関する私たちの理解を大きく変える可能性を秘めた画期的な著作と言えます。上田氏の研究成果は、睡眠の重要性を科学的に裏付けるだけでなく、人間の成長と進化における睡眠の役割に新たな光を当てています。この本は、読者に睡眠の価値を再考させ、より健康的で創造的な生活を送るためのヒントを提供してくれます。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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