TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル(マーティ・ケーガン)の書評

a close up of a sign

TRANSFORMED イノベーションを起こし真のDXへと導くプロダクトモデル
マーティ・ケーガン
日本能率協会マネジメントセンター

TRANSFORMED(マーティ・ケーガン)の要約

プロダクト・オペレーティング・モデルにより、顧客中心の製品開発にシフトすることで、企業にイノベーションをもたらします。このモデルは、顧客と企業双方の課題に取り組む組織体制を構築し、市場から圧倒的な支持を得られるプロダクトの開発を可能にするだけでなく、組織を持続的に成長させてくれます。

今、なぜ、プロダクト・オペレーティング・モデルが求められるのか?

プロダクト・オペレーティング・モデルはテクノロジーでビジネスを動かすべきだと信じている企業のためのものだ。今日、それは事実上ありとあらゆる業界の非常に幅広いビジネスに当てはまるはずだ。(マーティ・ケーガン)

本書TRANSFORMEDは、、シリコンバレープロダクトグループ(SVPG)の創設者であり、プロダクトマネジメントの第一人者とされるマーティ・ケーガンによって執筆された刺激的な一冊です。

テクノロジー企業が、より顧客中心の製品開発にシフトするための実践的ガイドである本書は、ケーガンのベストセラーLovedInspiredEmpowerdに続く重要な著作として位置づけられています。 この書籍が生まれた背景には、多くのプロダクトマネージャーたちが抱える切実な願いが存在しています。(マーティ・ケーガンの関連記事

彼らは、組織文化を変革し、顧客と向き合う製品作りを望んでいるものの、現実的にはその変革を実行する権限を持ち合わせていないという課題に直面していました。こうしたジレンマに応える形で提唱されたのが、著者の「プロダクト・オペレーティング・モデル」です。

このモデルは顧客価値の創造とイノベーションに焦点を当て、顧客が真に求める価値を提供し続けることを使命としています。著者は、「顧客価値の創造が停止する瞬間、それは競合他社がより優れた解決策を提供するまでのカウントダウンの始まりである」と警告を鳴らし、顧客中心主義を貫く重要性を説いています。

本書の中で提示されるプロダクト・オペレーティング・モデルは、従来のビジネスリーダーの指示に従って動くだけのチームを超え、顧客と企業双方にとっての課題解決に責任を負う組織を目指しています。プロダクトチームには、著者が定義する4つのリスクへの対応が求められます。

①価値(Value)リスク
顧客が実際にそのソリューションを選択するかどうかを判断するものです。

②事業実現性(Viability)リスク
現在の技術力やリソースでソリューションを実装できるかを確認します。(マーケティング販売、サービス、資金調達、収益化のステップなど)

③ユーザビリティ(Usability)リスク
ユーザーがその価値を理解し、簡単に使いこなせるかを評価するもの。

④実現可能性(Feasibility)リスク
ビジネスモデルとしての成立性の見極め。今の人材、時間、技術、データで、そのソリューションを構築し、スケールさせられるだろうか?を確認します。

これらのリスクを重視し、顧客が本当に求める価値を届けることがプロダクトチームの責任であると本書では強調されます。

企業がプロダクトモデルへと転換するには、その規模に応じて半年から2年程度の時間が必要だとケーガンは述べています。組織変革のプロセスにおいては、顧客との密接な関係構築が重要な鍵となります。

著者は週に3回、1時間のプロダクトディスカバリーセッションを実施することを推奨し、これにより顧客の実際のニーズを理解し、製品に価値をもたらすことができるとしています。こうした取り組みが、単に製品を提供するだけでなく、継続的に顧客価値を創出し続ける基盤となるのです。

プロダクト・オペレーティング・モデルに必要な3つの変化

1. 作り方を変える 2. 問題解決の方法を変える 3. 解くべき問題の決定方法を変える

プロダクト・オペレーティング・モデルの導入において、CEOは組織に3つの根本的な変化をもたらす必要があります。これらの変化は、組織の持続的な成長と顧客価値の創造に不可欠な要素となります。

1.作り方を変える
顧客との信頼関係を築くためには、サービス提供の方法を根本から見直す必要があります。従来の大規模リリースモデルから、頻繁な小規模リリースへの転換が求められます。 この変革において重要なのは、テクノロジーの計測可能性です。システムがどのように機能し、顧客にどのように利用されているかをリアルタイムで把握できる体制が必要です。

さらに、積極的な監視体制を整えることで、顧客が問題を認識する前に、組織側で課題を特定し解決することが可能となります。 また、新機能のデプロイメントにおいては、限定的なテストを通じて価値提供の実証を行うアプローチが重要です。これにより、リスクを最小限に抑えながら、確実な価値提供を実現できます。

2. 問題解決の方法を変える
プロダクトディスカバリーの導入は、この変革における重要な要素です。アイデアを素早くテストし、価値あるソリューションを見出すためのスキルセットを組織全体で開発する必要があります。 クロスファンクショナルなプロダクトチームの構築も不可欠です。

プロダクトマネージャーには、顧客理解、データ分析能力、ビジネス知識、業界への深い洞察が求められます。これらの能力を持つマネージャーをエンジニアとプロダクトデザイナーと適切に組み合わせることで、効果的なチーム編成が可能となります。

Time to Moneyの概念は、プロダクトチームの意思決定を加速させます。従来のように全ての機能を完全に開発してからリリースするのではなく、プロダクトディスカバリーを通じて素早く検証を行うことで、効率的な開発サイクルを実現できます。

3. 解くべき問題の決定方法を変える
プロダクトリーダーシップの確立は、新たな重要なコンピテンシーとなります。市場における脅威と機会の中から、どの課題に取り組むべきかを見極める能力が、組織の成功を左右します。 強いプロダクト企業の特徴は、魅力的なプロダクトビジョンとインサイトに基づいた戦略を持つことです。これらは、ビジネス目標達成のために解くべき重要課題を特定する指針となります。

この変革は通常、最も大きな影響をもたらします。機会の選択と投資の最適化に関する意思決定を導き、テクノロジー投資からの最大限のリターンを実現する基盤となるためです。プロダクトビジョンとプロダクト戦略の確立は、この変革を成功に導く重要な要素となります。

これら3つの変革を成功させるためには、CEOのコミットメントと長期的な視野が不可欠です。一朝一夕には実現できませんが、着実な実行により、顧客価値の創造とビジネスの持続的成長を実現することが可能となります。

ケイガンは、これらの要素を軸に、企業が顧客の期待を超える価値を提供するための方針を緻密に解説していきます。

本書は顧客が抱える根本的な問題にアプローチする必要性を強調し、プロダクトチームが課題を真正面から捉え、解決策を顧客と共に探索することの重要性を説いています。プロダクト・オペレーティング・モデルにおいては、プロジェクトの終わりがプロダクトの終わりではなく、顧客と共に成長する継続的なプロセスとして位置づけられているのです。

さらに、ケーガンは「顧客との約束」の重要性を提唱し、デリバリー期限のコミットメントについても新たな視点を提供しています。従来型の組織では、プロジェクトの計画と期限が上層部によって決定され、チームに一方的に割り当てられるケースが多く見られました。

しかし、著者は、このアプローチでは顧客にとって本当に価値ある解決策が生まれにくいと指摘します。プロダクトチームが自ら期限設定に積極的に参加し、コミットメントの準備が整った場合にのみ正式に約束することが、組織文化にとって大きな転換をもたらします。

このアプローチにより、チームの自主性が尊重され、最終的には顧客課題の解決に向けて高いモチベーションを持ったチームが育つと期待されています。

トランスフォーメーションに「ビジョン」と「原則」が重要な理由

プロダクトビジョンは、あなたが創り出そうとしている未来だ。そして最も重要なことだが、そのビジョンは顧客の日々をどのように向上させるかを示すものだ。プロダクトビジョンはプロダクト組織での共有目標となる。期間としては通常3~10年先を見据えたものになる。

プロダクトビジョンとは、単なる目標設定ではありません。それは、組織が創造しようとする未来の青写真であり、顧客の生活をより良くするための具体的な構想です。3年から10年という長期的な視野で描かれるこのビジョンは、組織の「北極星」として全てのチームの道標となります。

小規模なスタートアップであれ、数百のチームを抱える大企業であれ、プロダクトビジョンの重要性は変わりません。職能横断的なエンパワードチームが、それぞれの方法でビジョンの実現に向けて貢献していきます。このビジョンは、高い視点から全体を見渡せる展望台のような存在です。

プロダクトビジョンを共有することで、組織は大きな利点を得られます。まず、ソリューションに関する不必要な議論を避けることができます。チームが同じ方向を向いているため、細かな実装の詳細よりも、目指すべきゴールに焦点を当てることができるのです。

さらに重要なのは、ビジョンを通じて全員が顧客への共感を深められることです。各チームメンバーは、自分の担当する部分が全体にどのように貢献し、どのような意味を持つのかを常に理解できます。これにより、日々の業務に意味と目的を見出すことができます。

このような明確なビジョンがあることで、チームは受動的な実行者ではなく、能動的なイノベーターとして活動できます。日々の業務にワクワクしながら取り組み、継続的な進化を推進することができるのです。

プロダクトモデルの実現には、プロダクトチーム、戦略、ディスカバリー、デリバリー、文化という各要素に関する原則が必要です。これらの原則は、ビジョンを具体的な行動に落とし込むための指針となります。組織全体でこれらの原則を理解し、実践することで、真の顧客価値の創造が可能となるのです。

プロダクトチームを成功に導く4つの核となる原則があります。これらの原則は、顧客価値の創造とビジネスの成長を両立させるための指針となります。

第1に「問題解決へのエンパワーメント」があります。チームには解くべき問題が与えられ、その最適な解決策を見出す権限と責任が委ねられます。

第2に「成果重視の姿勢」があります。単なる機能の実装ではなく、顧客にとって真に価値のあるソリューションを提供することが求められます。

第3に「オーナーシップの徹底」です。プロダクトの発見から提供まで、チームが一貫して責任を持つことで、効果的な価値提供が可能となります。

第4に「真のコラボレーション」です。プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが密接に協力し、価値があり、使いやすく、実現可能で、ビジネスとして成立するソリューションを生み出します。

これらの原則を実践するため、プロダクトディスカバリーでは多くのアイデアを素早くテストし、プロダクトデリバリーでは頻繁なリリースと計測可能性を重視します。 そして、これらを支えるプロダクト文化では、過度な形式主義を避け、信頼関係を基盤としたイノベーション重視の環境づくりが重要です。

失敗を恐れず、そこから学ぶ姿勢が求められます。 最後に、プロダクトリーダーには、このビジョンと戦略を組織全体に浸透させ、継続的な学びと改善を促進する役割があります。真の成果を生み出すためには、組織全体の協力と理解が不可欠なのです。

プロダクト・オペレーティング・モデルの5つの成功要素

以下、私なりにプロダクト・オペレーティング・モデルの5つの成功要素を整理します。 
①エンパワーメントとオーナーシップの確立
組織の成功は、チームメンバー1人ひとりが主体的に考え、行動できる環境から生まれます。経営者が明確なプロダクトビジョンを共有し期待値を示し、各メンバーの強みを活かせる役割分担を行うことで、チームは自律的に動き始めます。

適切な権限委譲と積極的な提案によって、メンバーのオーナーシップが醸成されます。成果に対する適切な認知と称賛を通じて、チームの自主性はさらに高まっていきます。

②戦略的思考とインサイトの重視
効果的なプロダクト開発には、明確な戦略的フォーカスが必要です。重要度と優先度に基づいて取り組むべき戦略を厳選し、各戦略の成功指標を明確にすることで、組織全体の方向性が定まります。 また、ユーザー調査やデータ分析を通じたインサイトの導出も重要です。深い顧客理解を基に、確かな根拠に基づく意思決定を行います。

③実験文化とデリバリーの最適化
小さな実験を素早く繰り返し、その結果から学びを得る文化の確立が求められます。失敗を恐れない心理的安全性を確保し、継続的な改善のサイクルを回すことが重要です。 2週間以内のリリースサイクルの確立や、デプロイ(展開)の自動化により、価値提供のスピードを高めます。各リリースの影響を適切に測定し、次のアクションにつなげていきます。

④データドリブンな意思決定と原則ベースの運営
KPIの設定とデータ収集の仕組みづくりは、客観的な判断の基盤となります。定期的なデータレビューを通じて、戦略の有効性を検証します。 同時に、過度な管理や規則は避け、原則に基づいた柔軟な判断を許容する文化も大切です。状況に応じた適切な意思決定が可能な環境を整えます。

⑤信頼関係と学習文化の醸成
オープンなコミュニケーションを促進し、メンバー間の相互理解を深めることで、強固な信頼関係が築かれます。マイクロマネジメントを避け、チームの自律性を尊重する姿勢が重要です。

失敗を非難せず、学びの機会として捉える文化も不可欠です。定期的なレトロスペクティブ(振り返り)を通じて得られた教訓を、次のアクションに活かしていきます。 これらの要素は、独立して機能するものではありません。相互に補完し合い、組織全体としての成果を最大化します。定期的な振り返りと改善を通じて、より効果的なプロダクト開発体制を築いていくことが可能となります。

著者が提唱するプロダクト中心のアプローチは、従来の「プロジェクト」中心のアプローチとは根本的に異なります。プロジェクト型の手法では短期的な成果が重視され、プロジェクトが完了すると責任も終了するため、顧客の長期的なニーズに応え続けることが難しくなります。

一方で、プロダクト中心のアプローチでは、製品の価値を継続的に高めることにチームがコミットし続けるため、顧客に寄り添った製品作りが可能になります。ケーガンは、自身の豊富な経験に基づき、こうしたプロジェクト型からプロダクト型への転換がもたらす効果を具体的に解説しています。

著者は、プロダクト・オペレーティング・モデルによって、企業全体の目標が一貫性を持ち、各部門が連携しやすくなる点を強調しています。これにより、組織は単なる製品製造の場ではなく、顧客に価値を提供し続けるためのエコシステムとして成長することが期待されます。 

階層的な意思決定に慣れ親しんだ組織にとって、プロダクトモデルへの転換には企業全体としてのコミットメントと長期的な取り組みが不可欠です。デジタル時代の急速な市場変化に適応するためには、こうしたプロダクトモデルの導入が求められています。

ケーガンが繰り返し述べているのは、企業が成功を収めるためには顧客の視点からプロダクトを思考し、解決すべき課題を見極め続けることが必要であるということです。このプロセスこそが、顧客に愛され、競争力を持ったプロダクトを生み出す原動力となります。

組織が実際に変革を成し遂げるには、単なる肩書の変更や人材の集約ではなく、企業全体がこのフレームワークに基づく文化を形成し、積極的に取り組む姿勢が不可欠です。本書は変革を起こしたい経営者のガイドブックとして最適です。

最強Appleフレームワーク

最強Appleフレームワーク

 

 

 

 

 

Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました