Coaching A to Z (コーチングエートゥジー) 未来を変えるコーチング
ヘスン・ムーン
ディスカヴァー・トゥエンティワン
Coaching A to Z (コーチングエートゥジー) (ヘスン・ムーン)の要約
ヘスン・ムーンが提唱する「リスニングコンパス」は、時間軸と感情を活用するコミュニケーションのマトリックスツールです。相手の話が「辛かった過去」「望ましくない未来」にある場合、「望ましい未来」「充実した過去」へと導きます。その際、日常的な言葉を使うことで、相手のポジティブな変化を引き出せるようになります。
コミュニケーションをよくするリスニングキャンパス
対話によるストーリー作りの基本は、「ごくふつうの言葉をポジティブに使う」という、いたってシンプルなことなのです。(ヘスン・ムーン)
コミュニケーションの力は、私たちの人生を大きく変える可能性を秘めています。ある人との会話で心が軽くなったり、新しい気づきを得たり、また困難を乗り越える勇気をもらったりした経験は誰にでもあるでしょう。そんな効果的な対話の本質に迫る研究を10年以上続けてきたのが、コミュニケーション科学者のヘスン・ムーンです。
トロント大学でコミュニケーション科学を教えるムーン博士は、日常の言葉を意識的に使うことで非凡な対話を生み出すコーチングメソッドを提案しています。著者は、AlreadyやDifferenceといったアルファベット順の26の言葉を使って、効果的なコーチングの方法をアドバイスしています。
特に注目すべきは、著者が提唱する「リスニングコンパス」という画期的なマトリックス・ツールです。時間と感情を軸に「望ましい未来」「充実した過去」「辛かった過去」「望ましくない未来」として4象限に分類します。
この手法を用いることで、会話の中で相手がどの時間軸で、どのような感情をともなって話をしているのかを理解しやすくなります。「辛かった過去」「望ましくない未来」から「望ましい未来」「充実した過去」へナビゲートすることで、相手にポジティブは変化をもたらせます。
例えば、相手が辛かった過去について話している時は、その経験から得られた学びに焦点を当てることで、望ましい未来への展望を開くことができます。
また、望ましくない未来への不安を語る相手に対しては、その懸念を具体的な課題として捉え直し、解決への道筋を共に探ることができます。
効果的な対話において重要なのは、相手の物語にじっくりと耳を傾けることです。私たちは皆、自分自身の価値観や経験、願望によって形作られた固有の物語を持っています。
その物語に寄り添い、共に新しい可能性を見出していく過程こそが、真のコーチングといえます。 ムーンの研究が示唆することは、効果的な会話とは特別な技術ではなく、むしろ日常の中にすでにある言葉の力を再発見し、活用することだということです
効果的な対話は人々の間に信頼関係を築き、相互理解を深め、共に成長する機会を生み出すからです。 さらに重要なのは、この対話の手法が他者との会話だけでなく、自分自身との対話にも応用できるという点です。私たちは日々、自分の内なる声に耳を傾け、自己との対話を重ねています。
リスニングコンパスを活用した内省は、自己理解を深め、個人の成長への道筋を示してくれます。普段何気なく使っている言葉を、より意識的にポジティブな方向で活用することで、自分自身の物語をより建設的に紡いでいくことができるのです。
この対話によるストーリー作りの手法は、ビジネスでのコーチングや日常の人間関係だけでなく、自己啓発や目標設定、問題解決など、さまざまな場面で活用することができます。それは単なるコミュニケーションの技術ではなく、より豊かな人生を創造するための羅針盤となるでしょう。
日々の何気ない会話の中に、実は大きな可能性が眠っているのかもしれません。相手の話にじっくりと耳を傾け、その物語に寄り添い、望ましい未来への道筋を共に探っていく。そんな対話の実践が、私たちの人生をより豊かなものへと変えていく力を持っているのです。
今日からの会話で、相手の言葉に込められた思いに、これまで以上に意識を向けてみてはいかがでしょうか。そして同時に、自分自身との対話にも新しい視点を取り入れてみてください。そこには、きっと新しい発見と可能性が広がっているはずです。
自分自身を信じ、小さな一歩を踏み出そう!
対話の相手自身が、目指す方向に向かって自分がすでに実践している取り組みに気づくよう、そっといざなうのが良い聴き手なのです。
私たちが人生の中で本当に得たいものを手にするためには、自分自身が既に持っている力に気づくことが重要です。多くの人は、目標を達成するために新たなスキルや知識を得る必要があると考えがちですが、
ムーンが説くコーチングのA(already)の概念は、必要なものはすでに自分の中に存在しているという視点を提供します。この考え方は、内面の力を信じることが、持続的な行動変容の鍵であることを教えてくれます。 私たちはしばしば、外部の情報や他者と比較して不足を感じ、自分にはまだ足りないものが多いと考えてしまいます。
たとえば、新しい趣味や目標に挑戦する際も、まずは外部からの刺激や助言を求めがちです。しかし、本当の変化をもたらすのは、外部の影響ではなく、内なるリソースを活用する力です。自分自身の価値観や情熱を見つめ、それに基づいた目標を設定することで、その目標に向かう道筋が自然と見えてくるのです。
行動を継続するためには、自分の本質的な動機に気づくことが不可欠です。たとえば、運動を習慣化したいと考える場合、「健康を維持する」「体力をつける」といった表面的な目標は確かに有効ですが、それだけでは長続きしないことがあります。
しかし、「家族ともっと楽しい時間を過ごしたい」「情熱を持って仕事を続けたい」といった個人的で深い理由に結びつけると、運動そのものが単なる作業ではなく、目的達成のための重要な手段となります。
このように本質的な動機を見つけることで、行動に対する意味が増し、自然と取り組む姿勢が生まれるのです。 さらに重要なのは、自分が既に歩んできた道のりに目を向けることです。目標に向かう際、つい到達点ばかりを意識してしまいがちですが、これまでに積み重ねてきた小さな成功にも目を向けることが、さらなるモチベーションにつながります。
たとえば、運動の取り組みで以前は困難だったことが今ではできるようになった、日常生活での体力の余裕を感じられるようになったといった具体的な進歩を振り返ることが、自分の成長を実感するきっかけとなります。 このような気づきを促すためには、コーチの役割が重要です。
コーチは、単なる励ましや指示ではなく、相手が既に持っている力や進歩に目を向けさせる働きかけを行うべきです。「これまでどんな努力をしてきましたか」と問いかけ、相手が自分自身の成果を実感できるようにサポートすることが求められます。このアプローチにより、相手の自己効力感が高まり、外部からの助けに依存することなく、自らの内なる力を糧にして前進することが可能になります。
著者が指摘する通り、「人は誰しも望む未来を創造する力を持っている」のです。その力を信じることが、新たな可能性を切り開く第一歩となります。特に情報が溢れ、他者との比較が容易な現代社会では、自分に足りないものばかりに目を向けてしまいがちですが、
本当に必要なのは、自分の可能性を信じ、それを活用する勇気です。 目標に向かって進むために必要なものはすでに自分の中にあります。これまでの経験や知識、そして小さな成功の積み重ねが、その証拠です。その事実を受け入れ、現在の自分を肯定することで、持続可能な成長が可能になります。焦りや自己否定からではなく、自分の可能性への信頼から始まる変化こそが、真の成長をもたらします。
ムーンの教えに基づき、すでに備わっている力を信じて活かすことで、私たちは持続可能な成長と真の変化を実現できます。望む未来を切り開く鍵は、すでにあなたの手の中にあるのです。その力を信じ、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
著者はアルファベットのCではCareを取り上げています。
対話の相手にとって「何が大切なのか」に関心を持てば、その人を、本当に大切なものや夢中になれるものを発見する旅にいざなえるのです。
人との対話には、単なる情報交換以上の可能性があります。言葉を通じて、相手の内面をケアすることができるのです。その中でも特に重要なのが、「関心の方向性」です。私たちは無意識のうちに、何に注目するかによって相手の思考や感情に影響を与えています。
例えば、「問題」に焦点を当てる場合を考えてみましょう。これは往々にして、何が不足しているのか、どこに課題があるのか、といった視点からの質問になります。「なぜうまくいかないのですか?」「この部分に問題はありませんか?」といったやり取りが中心となるでしょう。このアプローチには、課題を明確化し解決策を見つけるための利点があります。
しかし一方で、相手を否応なく「問題」の渦中に引き込む可能性もあります。そうなると、その人の注意は自然とネガティブな側面に向かい、視野が狭くなるリスクがあります。 反対に、「何が大切なのか」に関心を寄せるとどうなるでしょうか。
このアプローチでは、相手が情熱を注ぐこと、意味を感じること、心を満たす要素に焦点を当てた質問が生まれます。「何が一番心に残っていますか?」「この中で特に大切だと思うのは何ですか?」といった問いかけが自然と出てきます。
このような対話は、相手にとっての価値や希望を探る旅路へとつながります。これにより、相手は自分にとっての本質的な願望や目標を再発見しやすくなり、結果としてポジティブなエネルギーが生まれるのです。 こうした対話の効果は、単に相手を気分よくさせるだけではありません。深い気づきを引き出し、その人の行動や意思決定にまで影響を与えることがあります。
例えば、リーダーシップの場面では、メンバーが何に価値を置いているかを知ることで、彼らのモチベーションを高め、共通の目標に向かって進む力を引き出すことができます。また、個人のカウンセリングやコーチングでは、クライアント自身が本当に望んでいる未来を見つけ、それに向かって前進するための道筋を描けるようになるのです。
関心の持ち方ひとつで、対話の質は大きく変わります。問いかける内容によって、相手の思考や感情の流れをどの方向に向けるかを意識すること。それが、より実りあるコミュニケーションの鍵となります。
未来をポジティブに捉えよう!
未来をポジティブに変えたい気持ちにスイッチを入れ、過去のポジティブな経験にもスポットライトをあてよう。
私たちが直面する課題や目標に対するアプローチは、どの視点から物事を見るかによって大きく変わります。未来に目を向け、ポジティブな変化を求める姿勢を持つことは、自分自身を新たな方向に導く第一歩です。しかし、その出発点として忘れてはならないのが、自分がこれまでに得てきた成功体験や喜びの瞬間です。
未来をポジティブに変えたいと願うとき、私たちはしばしば「これから何をしなければならないか」に集中しがちです。もちろん、目標を設定し計画を立てることは重要です。しかし、未来を築くうえで過去の経験は単なる思い出以上の意味を持ちます。
過去の成功や幸せを感じた瞬間を振り返ることで、自分が何を大切にしているのか、どのような状況で力を発揮できるのかを再確認できます。
たとえば、過去に達成感を感じたプロジェクトや心から楽しんだ活動を思い出してみると、そこには自分の強みや価値観が隠れています。そのような経験は、未来への希望を育むだけでなく、新たな挑戦に取り組む際の自信をもたらします。そして、その自信が未来をポジティブに変えるための原動力となるのです。 それは、未来への道しるべとなり、モチベーションの源泉となるのです。
著者はDのアプローチ(Difference)違った聞き方をすることで、相手との関係を変えられると言います。私たちは往々にして、自分の内側やいつも使っている方法に頼りがちです。しかし、視野を広げ、周囲に目を向けると、新しいインスピレーションやサポートが得られることに気づくでしょう。
その際、EのElse=身近な人々、経験の異なる仲間、さらには今まで気づかなかったリソースが、新たな発見をもたらします。そこには、これまでにはなかった解決策やアイデアが眠っているかもしれません。 たとえば、同じ目標に向かっている仲間の意見を聞いたり、異業種の人との交流から新しい視点を得たりすることで、自分だけでは思いつかなかった方法が見えてくることがあります。
あるいは、家族や友人のサポートが、予想外の形で自分の挑戦を後押ししてくれることもあります。そのようなリソースを積極的に活用することで、自分一人では難しかった未来への一歩が確実に近づいていくのです。 未来と過去、内面と外部リソース。この双方を行き来することで、私たちはバランスの取れたアプローチを築くことができます。それは単なる目標達成にとどまらず、人生そのものを豊かにするための鍵となるのです。
過去の出来事を呼び起こし、ポジティブな視点で再評価しよう!
「意外と簡単そう」という認識を持たせて、新しい行動を促そう。
新しいことに挑戦する際、多くの人が抱えるのは「難しそうだ」という先入観です。この感覚は、まだ見ぬ未来に対する不安や、過去の失敗体験からくるものかもしれません。しかし、実際に行動を起こしてみると「意外と簡単だった」と感じることがよくあります。ちょっとやってみるという「Just」の感覚を大切にするとよいと著者は言います。この気づきが、次の挑戦への大きな後押しとなるのです。
人は往々にして、自分が持っている力や資質を過小評価しがちです。これまでに積み重ねてきた経験やスキルは、意識的に振り返ることで初めてその価値に気づけることがあります。「最近、何か上手くいったことがあったかな?」と考えるだけで、新しい行動を起こすヒントが見つかることもあるのです。
「Recent」という言葉には、こうした過去の出来事を呼び起こし、ポジティブな視点で再評価する力があります。たとえば、ここ最近うまくいった小さな成功体験や、思いがけず充実感を得られた瞬間。これらは、自分自身が思う以上に大きな価値を持っています。
見過ごしていた成功や成長を振り返ると、「自分にはこんな力があったんだ」と気づき、次の一歩を踏み出す自信につながります。 私たちは、新しい挑戦の前に立ち止まることがあります。それは当然のことです。しかし、過去の成功や満足感を再確認することで、気づかないうちに「これならできるかもしれない」という思考に変わる瞬間があります。
そしてその変化が、新しい挑戦への扉を開くのです。 意外と簡単だと思えること、それは過去の自分がすでに築いてきた力の上に立っています。その力に気づくためには、自分の記憶を巻き戻し、些細なことでも成功や満足感を得た瞬間を再評価することが重要です。そして、その小さな気づきが大きな変化を生み出す第一歩となります。
今の自分が持つ力を信じて、新たな挑戦を始めてみましょう。「意外と簡単そうだ」と思える瞬間が、きっとあなたの行動を後押ししてくれるはずです。
本書が提案するアプローチは、これまでのコーチングの常識を覆します。著者のメソッドの特徴は、相手やその過去への深いリスペクトにあります。変化を求めるのではなく、まずその人自身を受け入れ、その中にある価値を見出す。この姿勢が、相手の心にポジティブなエネルギーを生み出し、自発的な行動を促す原動力となるのです。
多くの場合、人は過去の失敗や不足にばかり目を向けがちです。そして、それを克服するために「何かを変えなければならない」と思い込んでしまいます。しかし、本書はその考え方に一石を投じます。
過去の経験や今の自分を否定するのではなく、むしろそこにある「価値」に目を向けるべきだと著者は説きます。過去の成功体験や自分が大切にしてきたものを再認識することで、自然と未来に向かうエネルギーが湧き上がってきます。そのプロセスをサポートするのが、本書の提供するコミュニケーションの技術です。
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