柔軟なリーダーシップ FLEX (フレックス) 権威と協調を自在に使い分ける
ジェフリー・ハル
ディスカヴァー・トゥエンティワン
柔軟なリーダーシップ FLEX (フレックス) 権威と協調を自在に使い分ける(ジェフリー・ハル)の要約
現代は脱英雄型リーダーが求められ、FIERCEフレームワークに基づくFLEX能力が重要視されています。柔軟性・意識力・感情的知性・真正性・協調性・積極的関与という6つの資質をバランスよく育てることで、誰もが立場や肩書きに関係なく、自分らしいスタイルでチームに貢献し、リーダーシップを発揮できる時代が始まっています。
新しいリーダシップの形とは?
アルファは勝利を希求し、ベータは成長を希求する。アルファは支配したがり、ベータは何度でも協力し、分かち合い、関与しようとする。(ジェフリー・ハル)
時代の流れとともに、私たちの働き方や価値観は大きく変化しています。それに伴い、リーダーシップの在り方も、過去の常識から脱却しつつあります。かつては、一人のカリスマ的な人物が先頭に立ち、明確な指示を出して組織を導く「英雄型(ヒーロー型)」のリーダーが理想とされていました。
しかし現代は、そうしたリーダー像が時代遅れになりつつある「脱英雄型」の時代です。 今、必要とされているのは、時代の変化に素早く対応し、自らのスタイルを柔軟に切り替えられる敏捷性を備えたリーダーです。つまり、状況に応じてスタイルを変化させ、周囲に良い影響を与え、人々の意欲を引き出し、元気づけることができる存在が求められています。
その中で注目されているのが、「ベータ型」のリーダーシップです。これは、常に学び続け、成長を心地よく感じる一方で、出世や支配に執着せず、それでも必要なときには自然体でリーダーシップを発揮する姿勢のことを指します。こうしたベータ的なスタイルは、助け合いや共感を大切にし、経済や社会の流れが「所有」から「共有」へとシフトしている今の時代と強く結びついています。
現代のキャリア観も大きく変わってきました。一つの職場で一つの役割を全うする時代は終わり、複数のキャリアを並行して築く人も増えています。ある人は本業のかたわら副業に挑戦し、またある人は複数のプロジェクトに関わりながら自分のスキルを広げています。
もはや「一つの道を極めること=成功」ではなく、「多様な場で柔軟に価値を発揮できること」が新しい成功の形なのです。 リーダーシップも同じです。出世して役職に就くことだけがリーダーシップではなく、どんな立場にあっても、チームやプロジェクトの中で周囲に良い影響を与える行動こそが、今求められているリーダーシップです。
これにより、より多くの人がリーダー的な振る舞いを求められるようになり、それによって新たなチャンスが生まれる一方で、混乱や迷いも生まれやすくなっています。
だからこそ、今の社会で本当に必要とされているのは、ただ「強い」だけではなく、変化に応じてスタイルを切り替えられる「柔軟性」と「敏捷性(アジリティ)」を持ったリーダーです。
いわば、リーダーとしての能力を鍛え、状況に応じて「アルファ型」でいくか「ベータ型」でいくかを選び取れる柔軟な対応力(FLEX能力)がカギとなります。
経営コンサルティング会社Leadershift Inc.のCEOのジェフリー・ハルの柔軟なリーダーシップ FLEX (フレックス) 権威と協調を自在に使い分けるは、まさにこのFLEX能力を高めるための実践的な知識と考え方が詰まった一冊です。
著者は、長年にわたるエグゼクティブコーチとしての経験と、最新の神経科学や心理学の知見を掛け合わせ、脱英雄型のリーダーの必要性を丁寧に解説しています。
かつてのように、ひとりのカリスマが圧倒的な力で導くリーダー像は、すでに現代にはフィットしません。今のリーダーは、文化的背景も世代も価値観も異なる多様な人々とつながりながら、Slackなどのテクノロジーを活用し、オンラインとオフラインを使い分けて活動しています。こうした環境では、相手の個性を尊重し、共感力や柔軟性を駆使してチームを導く力が欠かせなくなっているのです。
ベータ型リーダーの6つの資質
私が「脱英雄型」あるいは「ベータ型」と呼ぶスタイルの基盤には、敏捷性のあるリーダーに不可欠な6つの資質があることだ。
著者は、ハーバード医科大学やニューヨーク大学ビジネススクールでの講義を通じて、FLEX能力を効果的に発揮するための6つの要素を導き出しました。それが以下の「FIERCE」フレームワークです。
・思考態度面(マインドセットの力)
①Flexibility(柔軟性)
焦点とスタイルを自在に調整する。状況に応じてアルファ型とベータ型のモードをスムーズに切り替える力
②Intentionality(意志力)
集中力を持って、コミュニケーションする力
・感情面(感じる力)
③Emotional Intelligence(感情的知性)
感情をコントロールし、健全な人間関係を築く能力
④Realness(真正性)
冷静沈着でありながら、謙虚さや弱さを見せられる能力
・身体面(肉体の力)
⑤Collaboration(協調性)
実証済みの手法を用いてコーチング、メンタリング、エンパワーメントを行う能力
⑥Engagement(積極的関与)
職場のエネルギーをうまく調整して、チームワーク、創造性、パフォーマンスを最大限に引き出す能力
オンライン会議の普及、ビジネスのグローバル化、そしてプロジェクトベースでの働き方が当たり前となった現代において、求められるのは「どこにいても、誰とでも協働できるスキル」です。地理や時間、文化を越えてつながり合う時代には、従来のヒーロー型リーダーシップに固執していては、チームも組織も前に進むことはできません。
今、真に必要とされているのは、自分の価値観や行動スタイルを一つに固定せず、変化し続ける状況に柔軟に適応しながら、多様な人々を巻き込み、共に成果を生み出すリーダーシップです。
著者が繰り返し指摘しているように、脱英雄型の時代を生き抜く鍵は、「敏捷性」と「柔軟性」にあります。 FLEX能力を意識的に育てていくことこそが、これからのリーダーにとって最も重要な挑戦だといえるでしょう。
著者は、FLEX能力を鍛えるための具体的なアプローチとして、次の3つの方法を紹介しています。
・忍耐強く耳を傾ける
相手の話に最後まで丁寧に耳を傾けることで、相互理解と信頼関係が生まれます。リーダーが「聞く力」を発揮することで、チーム内の対話も深まり、メンバーの声が自然と届く環境が育まれます。
・ペースを落として集中する
忙しい日常の中でも、目の前の人や課題にじっくり向き合うことで、質の高い判断ができるようになります。焦らず、一つひとつ丁寧に取り組むことが、ブレないリーダー像をつくり上げていきます。
・好奇心を活かして、他者の長所を引き出す
リーダー自身が新しい視点や考え方を歓迎する姿勢を持つことで、チーム内に安心と刺激が生まれます。メンバーの強みに目を向け、それを引き出すことができれば、組織はより自律的で強いチームへと成長します。好奇心は、リーダーにとって最大の成長ドライバーなのです。
このように、FLEX能力とは、ただ知識として知っているだけでは意味がありません。大切なのは、日々の実践を通して、自分のあり方を問い直しながら少しずつ鍛えていくことです。まさに、変化に対応するための筋肉のようなものです。 そして忘れてはならないのは、リーダーシップとは「二者択一」ではないということです。
謙遜する姿勢と、前に出る行動は矛盾しません。 謙虚でありながら、大きな成果を生み出すことも可能です。 さらに重要なのは、「弱さを見せること」と「強さを持つこと」も、同時に成り立つという事実です。 リーダーが自分の不完全さや迷いを隠さず、リアルな姿を見せることで、共感と信頼が生まれます。
そしてその上に、決断力や推進力といった強さがあるからこそ、人はそのリーダーとともに進んでいきたいと感じるのです。
また、著者は、リーダーシップの本質には、「感謝のマインド」が欠かせないと述べています。感謝を言葉にして伝える、日々感謝を習慣にする、感謝の手紙を書く――こうした小さな行動が、リーダーとチームの信頼関係をより深く、豊かなものへと導いていきます。
さらに、リーダーとして協働を成功させるには、目的の共有と目標の明確化が不可欠です。特に有効なのが、SMARTな目標設定です。これは以下の5つの要素から構成されています。
S Specific(具体的であること)
M Measurable(測定可能であること)
A Achievable(達成可能であること)
R Relevant(関連性があること)
T Time-bound(期限が明確であること)
うまく協働できたとき、頭(思考)・心(感情)・体(行動)が三位一体となった、すばらしいリーダーシップが現れます。 つまり、コラボレーション能力こそが、すべての人の長所を引き出す鍵なのです。 アルファとベータを自在に行き来しながら、人と状況に応じて最適なスタイルを選び取っていく。 それこそが、脱英雄型の時代における、しなやかで力強いリーダーの姿なのです。
そして著者は、「誰もがリーダーとして活躍できる世界を目指すべきだ」と語っています。 この考え方には、私自身も強く共感を覚えました。 特別な肩書きやポジションがなくても、自分らしい方法で周囲にポジティブな影響を与えることは、すべての人に可能なリーダーシップの形です。
いま私たちに求められているのは、他者を支配する力ではなく、共に前に進む力。 そして、その力を育てるのは、誰か「特別な人」ではなく、自分自身かもしれないのです。
















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