人を導く最強の教え『易経』 「人生の問題」が解決する64の法則(小椋浩一)の書評

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人を導く最強の教え『易経』 「人生の問題」が解決する64の法則
小椋浩一
日本実業出版社

人を導く最強の教え『易経』 「人生の問題」が解決する64の法則(小椋浩一)の要約

『易経』は、陰と陽という二つの要素を基に、六段階の変化を組み合わせることで六十四の状況を描き出します。さらに各卦には、時間・空間・成長段階・立場といった視点が重ねられ、合計三百八十四通りの意思決定のシナリオが想定されています。これにより、幸運や不運の流れをあらかじめ捉え、その時々にふさわしい行動を準備することが可能になります。

私たちの人生を豊かにする易経の魅力とは?

人ができるのは、幸運をできるかぎり長持ちさせ、不運をできるかぎり最小化することだけなのです。不運を「天災」、その後のまずい対応が招く不幸を「人災」と呼んで区別するならば、天災は避けられないが人災は避けられる、という考え方です。(小椋浩一)

どうすれば、私たちは素晴らしい人生を送ることができるのでしょうか。古代中国の叡智『易経』は、まさにその答えを示してくれる書物です。

『易経』では、陽と陰という二つの要素を基に、6段階の変化を組み合わせて、64通りの状況パターンを想定しています。 さらに、それぞれのパターンには、時間や空間、成長段階、立場の違いといった多様な視点が組み込まれており、合計で384通りの意思決定シナリオが描かれています。これにより、幸運や不運の流れをあらかじめ予測し、それぞれにふさわしい行動を準備することができるようになります。

私たちにできるのは、幸運をなるべく長く保ち、不運をできるだけ小さく抑えることだと、易経研究家の小椋浩一氏は語っています。不運を「天災」、その後の対応のまずさによって生じるさらなる不幸を「人災」と呼ぶ考え方に立てば、天災は避けられなくても、人災は回避することが可能です。

そのためには、日頃から幸運や不運の兆しに敏感であること、そしてそれに応じた的確な判断と行動を選び取る力が求められます。 本当の幸せを手にするためには、その評価を他人にゆだねないことが大切です。どれだけ成果が上がったとしても、他人のものさしで自分を測っている限り、心からの充足感は得られません。

そのためにも、自分自身と対話する習慣を持つことが重要です。そして、まさにその自問自答の習慣を支えてくれるのが『易経』なのです。『易経』が用意している問いに日々向き合うことで、未来への備えができ、過去の失敗を繰り返すことなく、成功の型を自分の中に築くことができるようになります。

『易経』が採用した陽と陰の二進法は、現代のコンピューターが用いる0と1の構造とも重なり、その一致に神秘的なつながりを感じる人も少なくありません。実際に、『易経』の精緻な論理体系は、現代の物理学者にも大きな影響を与えているといわれています。 この二進法に基づく考え方を人生に応用すると、「常に勢いがある」「勢いが衰えていく」「常に低調である」「低調だったものが勢いを取り戻す」といった四つの流れに分類することができます。

今、自分がどの流れの中にいるのか、そしてその先にどのような変化が待っているのかを見極めるためのヒントが、『易経』には詰まっています。 小椋氏の人を導く最強の教え『易経』 「人生の問題」が解決する64の法則は、『易経』の本質を現代のビジネスパーソンにも理解しやすく伝えてくれる一冊です。この書では、人生における64の問題に対し、問いを通じて答えを導き出す思考法が紹介されており、経営者がブレない判断軸を持つための強力なサポートになります。

易経からベンチャー経営者が学べること

火水未済 未完成で終わる時。反省で終えよ、の意。「六四卦」の最後にこれが位置付けられている。

『易経』の六十四卦の最後に置かれているのが「火水未済」です。 この卦は、「未完成で終わる時。反省で終えよ」という意味を持っています。完成ではなく、あえて未完成で終わる。ここに『易経』という書物の、きわめて深い思想が凝縮されています。

私たちはつい、「きちんと終わらせること」「完成させること」をゴールだと考えがちです。しかし『易経』は、そこに立ち止まりません。なぜなら、この世界は終わることなく変化し続けるものだと捉えているからです。終わりがない以上、完成もまた一時的な状態にすぎません。だからこそ最後に置かれているのが、「完成」ではなく「未完成」なのです。

この考え方は、アメリカの哲学者ジョン・デューイの思想とも重なると著者は指摘します。デューイは、「私たちは経験から直接学ぶのではない。経験を内省するときに学ぶのだ」と語りました。経験そのものよりも、その経験をどう振り返り、意味づけるか。そのプロセスによって、学びの質は大きく変わるという考え方です。

火水未済が示しているのも、まさにこの点です。うまくいったか、失敗したかよりも、その出来事をどう振り返り、次につなげるかが大切なのだと教えています。反省で終えるからこそ、次の成長が始まる。未完成とは、停滞ではなく、次の循環への入口なのです。

『易経』の根本にある陰陽の思想も、同じく循環を前提としています。陰と陽は固定されたものではなく、互いに入れ替わりながら移り変わっていきます。六十四卦も、この未済で終わって完結するわけではありません。

また最初の卦へと戻り、変化の循環が続いていきます。成長とは、直線的に上に伸びることではなく、循環の中で少しずつ視野と器を広げていくことなのだと、『易経』は語りかけてきます。

火水既済 すでに整って完成する時。完成は乱れのはじまりでもある、「未済」とは対の関係にある。

「火水未済」と対をなす卦が「火水既済」です。こちらは、すでに整い、完成している状態を表します。一見すると理想的な状態に思えますが、『易経』はここにも厳しい視線を向けています。完成とは、同時に乱れの始まりでもある。達成感の裏に潜む油断や慢心こそが、次の失敗の種になると警告しているのです。

「終わり良ければすべて良し」という考え方は、『易経』にはありません。世界は止まらずに変わり続けます。ある時点では最適だったやり方も、環境が変われば通用しなくなります。ビジネスで言えば、過剰に最適化されたモデルほど、変化に弱くなります。だからこそ、仕事が完成したとしても、心まで完成させてはいけない。常に未完成の心でいることが、長く成長し続けるための条件なのです。

変化の激しい時代には、柔軟に変わる力と、どんな状況でも揺るがない軸の両方が求められます。『易経』は、この一見矛盾する二つを、循環という視点で結びつけます。すべてをコントロールしようとするのではなく、幸運と不運を天の巡りとして受け止める。そのうえで、幸運の流れには素直に乗り、不運の兆しには早めに気づいて備える。これが『易経』の現実的な知恵です。

「前もって後悔することができれば、後悔しない行動が取れる」という考え方も、ここから生まれます。最悪の事態を想定し、心の中で一度反省を済ませておく。そうすることで、感情に振り回されず、冷静な判断ができるようになります。

水雷屯 雪の下で春を待つ芽が顔を出そうと伸び悩む時。小さく動け、の意。「四大難卦」の一つ。 新しい価値の創造には陣痛が伴うが、「諦める」以外に失敗はない

物事が始まろうとしているにもかかわらず、前に進もうとすると抵抗があり、思うように動けない。水雷屯は、そんな状況を描いた卦です。だからこそここには、「大きく踏み出すな。小さく動け」という教えが込められています。

水雷屯が六十四卦の中でも「四大難卦」の一つとされるのは、それだけ人の心が折れやすい局面を正面から描いているからでしょう。

新しい価値を生み出すときには、必ず陣痛のような苦しみが伴います。アイデアはある。志もある。しかし結果が出ない。周囲にも理解されない。不安だけが積み重なっていく。ベンチャー経営者であれば、こうした時間を何度も経験するはずです。そんなときに支えになるのが、「諦める以外に失敗はない」という言葉です。これは気休めの精神論ではありません。

水雷屯が示しているのも、途中で止まっている状態は失敗ではなく、成長の過程そのものだという視点です。 雪の下にある芽は、止まっているように見えて、実は確実に根を張り、力を蓄えています。外から見れば停滞ですが、内側では変化が進んでいます。この段階で無理に結果を求めたり、一気に状況を変えようとしたりすると、かえって芽を折ってしまいます。

だからこそ、水雷屯は「小さく動け」と語りかけます。できることを一つずつ積み重ねる。派手さはなくても、確実に前に進む。その姿勢こそが、この時期を越える鍵になります。

ここに重ねて考えたいのが、「坎為水」です。この卦は、「一難去ってまた一難」という状況を示します。ようやく抜けたと思ったら、すぐ次の困難が現れる。まさにどん底の連続です。しかし坎為水が教えているのは、そんなときこそ誠を貫け、という一点です。

環境がどれほど厳しくても、ごまかさず、逃げず、正しいと信じる行動を積み重ねる。その姿勢が、人と組織を鍛え上げていきます。 リーダーもチームも、修羅場でこそ成長します。順風満帆なときに本質は磨かれません。水雷屯で耐え、坎為水で誠を貫いた経験が、後になって組織の背骨になります。

だからこそ、逆境を「避けるべきもの」と捉えるか、「成長の素材」と捉えるかで、その後の景色は大きく変わります。 苦しいときほど、自分はいま雪の下で春を待っているのだと理解できれば、心の持ちようは変わります。

言葉で人を励ます前に、自らが困難の中でどう振る舞うか。焦らず、小さく動き続け、誠を手放さず、諦めずに進む。その背中こそが、周囲に安心と勇気を与えます。

ビジネスは、いつも未完成でいいのです。完成に安住することなく、学び続け、問い続け、備え続ける。その姿勢こそが、変化の時代をしなやかに、そして力強く生き抜くための智慧なのだと、『易経』は静かに語りかけています。

本書における著者の解説からは、経営者が日々の意思決定や組織づくりに活かせる多くの学びが得られます。『易経』は古典でありながら、決して過去の思想ではありません。

むしろ、不確実性が高まる現代の経営環境においてこそ、その教えは現実的な指針となります。今回、著者を通じて、易経の思想が現代経営にどのように接続できるのかを改めて学ぶことができました。

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