想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか?
ジョン・ケイ
ディスカヴァー・トゥエンティワン

30秒でわかる本書のポイント
結論:大きな目標や利益、幸福といった複雑な成果は、それを直接狙って一直線に進むよりも、別の目的やプロセスに没頭する過程で「結果として」手に入るものである。
原因: 数値を指標化した瞬間に、その数値を上げること自体が目的化し、本来の目的や情熱が失われてしまう。計画や金銭に執着しすぎる組織は、想定外のチャンスを拾い上げる柔軟性も失ってしまう。
対策: あらかじめ完璧な計画を作る幻想を捨て、動いて得られた情報をもとに判断を更新し続けること。偶然や失敗をノイズとして排除せず、次の判断の糧とする「適応的なプロセス」を重視する。
本書の3行要約
大きな成功や幸福は、それを直接の標的にして直線的に突き進むよりも、目の前の仕事への情熱や他者への貢献といった「別の道」を歩む過程で、思わぬ形で手に入るものです。目標を数値や計画で厳密に管理しようとすればするほど、現場は本質を見失い、組織の柔軟性や社会的共感までもが損なわれてしまうという逆説的な現象が起こります。偶然をチャンスへと変えながら進む「回り道」のプロセスこそが、合理的な意思決定を可能にします。
おすすめの人
・目標達成のプレッシャーに疲弊しているリーダーやマネージャー
・緻密な戦略を立てても、なぜか現場がうまく回らないと感じている経営者
・キャリアや人生において、計画通りにいかないことに不安を感じている人
・数値目標(KPI)の導入によって、かえって組織の質が低下していると感じる行政・教育関係者
読者が得られるメリット
・「直線的な思考」の呪縛から解放され、不確実な状況でも柔軟に動けるようになる。
・失敗や想定外の出来事を「資源」として捉え直し、次の成功へつなげる学習能力が身につく。
・利益や幸福といった抽象的なゴールに対し、より確実で持続可能なアプローチを選択できる。
・「指標が目的を食いつぶす」メカニズムを理解し、組織における健全な評価と動機づけのあり方が作れる。
回り道がなぜ有効なのか?
「回り道」とは、目的に直接的に向かうのではなく、無意識のうちに取り組み、やがて達成してしまうというプロセスを指すことになる。(ジョン・ケイ)
幸福は、手に入れに行くというより、すでにあるものに「気づけるかどうか」に近いのだと思います。だから幸福を直接の目標に据えると、かえって手に入りづらくなります。むしろ他人の役に立つことや、何かを磨くことに没頭している人のほうが、結果として穏やかな幸福に近い場所で暮らしています。
ロンドン・ビジネス・スクール教授のジョン・ケイが想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか?(原書 Obliquity)のなかで紹介する「回り道」とは、まさにそうした達成のされ方であり、幸福の現れ方とも重なります。
本書の主題は、回り道の効用を語ることだけではありません。もっと重要なのは、現実では「目的」と「手段」の関係が驚くほど簡単にねじれてしまう、という観察です。目標を掲げ、指標を定め、そこへ一直線に向かうやり方は、合理的で管理もしやすく、説明もしやすいです。
けれども、その瞬間から「目標が目的を食いはじめる」現象が起きます。目的のために作ったはずの指標が、いつのまにか守るべき成果になり、現場は目的ではなく指標に合わせて動きだします。
私たちはビジネスで成果を上げるには、強固なビジョンや戦略、戦術、そして緻密な実行計画が不可欠だと考えがちです。しかし著者は、その常識に異議を唱えます。世の成功の多くは、もともと明確な計画の下で達成されたわけではなく、成功の理由はたいてい後から整えられた説明にすぎない、というのです。
実際には、実行する本人が想定していなかった場所で、思わぬ展開が起き、そこから成功が立ち上がることが少なくありません。
本書は多くのケーススタディを使いながら、「計画がすべてだ」という読者の思い込みを変えていきます。 この視点で金融業界を見直すと、「強欲の時代」の破綻がなぜ繰り返されたのかが理解しやすくなります。
ソロモン、ドレクセル、バンカーズ・トラスト、そしてシティグループ、ベア・スターンズ、リーマン・ブラザーズ。これらに共通するのは、社員個々は莫大な金を稼げても、組織としては長く持たなかったことです。
財務面で一時的に成功しても、長期的なビジネスとして存続できなかった理由は、むしろ単純です。利益だけを最優先にすると、従業員の行動は会社の方針と必ずしも一致しませんし、いざ業績が悪化したときに社会の共感も得られにくくなります。
その結果、破綻の後には救済が議論され、負担が社会全体へと広がっていきます。内輪の論理が外部へツケを回す形になってしまうのです。 そして、ここで浮かび上がるのが「動機」の問題です。
ビジネスを真に支えるのは、金銭への執着ではなく、仕事への情熱や誇り、評判、共同体感覚、職業倫理、チームへの忠誠といった、数字に換算しにくいものです。
こうした土台が崩れると、数字が太っていても組織は折れやすくなります。リーマンが最後まで学べなかった教訓があるとすれば、それはこの点でしょう。
数字や計画に縛られ、個人の利益が前面に出る組織は、計算を超えた偶然を味方につけにくくなります。言い換えれば、思わぬ展開を成功につなげる「回り道」の力を、自分で弱めてしまうのです。
自然管理の事例も、同じ構造を別の角度から見せます。「どんな火事でも消火する」という方針は、一見すると正しく、善意にも満ちています。ところが火災の多くは小規模で自然に燃え尽き、その過程で下草が除去され、防火帯ができ、延焼が防がれていました。
すべてを消してしまうと、その「自然の調整」まで消えてしまい、燃えるべきものが蓄積して、より大きな火に育ってしまいます。最善を尽くしたつもりが、最悪の下地を作ってしまっていたのです。そのため近年のガイドラインでは、消火するか放置するかの判断を現場の経験に委ねています。そして、その判断が偏っていないか、状況に合っているかを、時間をかけて検証し続けます。
回り道とは、こうして試し、確かめ、学んだことを次の方針に反映させながら、目標や行動を少しずつ更新していくプロセスなのだとわかります。
目標が現実を歪める話は、行政の現場でも起こります。救急車が一定時間内に到着するというルールが、到着時間の改善ではなく、データ改ざんを誘発してしまった例が知られています。指標を置いた瞬間に、その指標が達成目標になり、データ操作の対象になってしまうのです。目標至上主義の会社では、注意を払う必要があります。
いわゆるグッドハートの法則が示すとおり、目標が「測られる対象」になった瞬間から、測定値の意味は変質しやすくなります。だから指標は一つに絞らず、目的を高いレベルで共有したうえで、現場の裁量と学習の余地を残しておく必要があります。
回り道的なアプローチは、直線でゴールを目指すことを否定するものではありません。失敗や偶然も材料にしながら、状況に合わせてやり方を更新し、気づけば問題が解けている――そういう到達の仕方を指しています。
不確実性の時代に回り道を選択した方が良い理由
優れた意思決定は、それが試行錯誤の結果であるという意味で、回り道的にならざるを得ないのである。新たな情報を取り入れ、環境への適応をくり返す。さらに、そうした情報も、意思決定をくり返す過程から得られるものであるはずだ。
本書が興味深いのは、「偶然」への態度にも首尾一貫している点です。発見やブレイクスルーは、たいてい計画の直線上には現れません。むしろ、脇道にそれた瞬間、失敗した直後、あるいは「これは本筋ではない」と判断されがちな周辺部で、ふいに芽を出します。
ところが私たちは、計画と実績を一直線で結びたがります。成功は設計図の通りに起きたことにしたほうが、説明がつきやすいからです。その結果、偶然は「なかったこと」にされます。
直線でしか評価しない組織は、計画外の出来事をノイズとして扱い、見なかったことにしがちです。評価指標に乗らない学びは記録されず、会議の議題にも上らず、次の予算もつきません。
しかし回り道的な姿勢は逆で、偶然を「捨てるもの」ではなく「資源」として拾い上げ、当初の目的へ接続し直す力を持ちます。偶然に遭遇したとき、それを単なる例外として捨てるのか、それとも解釈と実装を加えて、次の一手に転換するのか。その差が、長期的には大きな差になります。
この感覚は、キャリア論で知られるクランボルツの「計画的偶発性理論」とも重なります。人生や仕事の重要な転機の多くは、緻密な計画の産物というより、予期せぬ出会いや出来事から生まれます。ただし、偶然に任せるのではなく、好奇心を持って動き、試し、関係をつくり、起きた出来事を学習に変えることで、偶然をチャンスとして増幅させられる、という考え方です。(クランボルツの関連記事)
偶然は降ってくるものであると同時に、行動することで自ら生み出せるものでもあるのです。本書の回り道は、この「偶然のマネジメント」に近い距離感を持っています。
パスツールの逸話が象徴するのも、幸運が降ってくるかどうかではなく、降ってきた幸運を意味あるものとして扱える準備があるかどうかです。つまり、偶然は誰にでも起きるのに、成果になる偶然は、準備のある人のところでしか成果になりません。
答えが突然姿を現すという恩恵に浴せるのは、長いあいだ回り道をたどりながら考え続けた人だけだ、という言い方は地味ですが、現実に近いです。
この視点を意思決定に移すと、話はさらにわかりやすくなります。優れた意思決定は、試行錯誤の結果であるという意味で、回り道的にならざるを得ません。新しい情報を取り入れ、環境への適応を繰り返し、その都度、判断の根拠を更新していきます。
しかも厄介なのは、必要な情報は計画する当初に、揃っていないことが多いのです。本当に欲しい情報は、行動と失敗という反復の途中でしか手に入りません。意思決定の質は、初期の洞察よりも、行動の速度と柔軟性に左右されます。
視野を広げて考えれば、私たちが普段行っている意思決定も、ほとんどが回り道です。選択肢は限られ、情報は不十分で、問題の輪郭さえ動いています。そんな状況で「取りかかる前に完璧な計画を作る」ことは、ほぼ不可能です。
だからこそ、とにかく手をつけ、試行錯誤し、その都度学んだことを吸収して先へ進むのです。最適解が前もって存在するという幻想を捨て、状況に合わせて更新できる仕組みを持つという意味で、回り道は合理的な選択なのです。直線で外したときに致命傷になるのではなく、外しながらも前進しながら、改善することで、欲しかった結果が手に入るのです。それこそが回り道の強さです。
それでも回り道が評価されにくいのは、物語の構造が直線を好むからです。ヒーローは台風を避けて迂回した船長ではなく、台風に突っ込んで乗り切った船長です。
けれども社会が複雑になればなるほど、必要なのは後者ではなく前者かもしれません。知識の限界を知り、判断をアップデートできる人間のほうが、結果として大きな損失を避け、思わぬ成功を拾い上げます。回り道をルールにすることで、不確実性の時代を乗り越えられるのです。
本書のまとめ
本書が私たちに突きつけるのは、「目的を達成したければ、その目的を直視しすぎてはいけない」という逆説的な真実です。 ビジネスにおいて、私たちはつい緻密な計画や数値目標(KPI)という「直線」に頼りたくなります。
しかし、金融業界の歴史的な破綻が示した通り、利益や数値を追い求めるだけの組織は、従業員の乖離や社会的な孤立を招き、結果として最も脆い存在へと変貌してしまいます。
真の成功や幸福は、一直線に引かれた設計図の先にあるのではなく、仕事への情熱やチームワーク、そして目の前の課題への適応といった「回り道(Obliquity)」のプロセスの中に、突如として姿を現すものです。
・「計画」は絶対の正解ではなく、絶えざる学習の仮説である。
・「偶然」は排除すべきノイズではなく、新たな扉を開く資源である。
・「成功」は設計の産物ではなく、情熱を持って取り組んだ結果としての「想定外」のギフトである。
この視点を持つことは、効率性だけを求める現代社会において、一見非合理に見えるかもしれません。しかし、不確実性が増す現代において、外しながらも前進し、思わぬチャンスを確実に掴み取る「回り道」の力こそが、最も合理的で強靭な生き方なのです。
















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