書籍:ビジネスモデル3.0図鑑
著者:近藤哲朗
出版社:KADOKAWA
ASIN : B0GFPWXFLD
30秒でわかる本書のポイント
【結論】:ビジネスモデルは、固定された儲けの仕組みではありません。社会や顧客、社員、地域との関係の中で、絶えず更新され、進化し続ける動的な構造として捉えるべきです。つまり本書は、「何を売るか」よりも「どんな関係をどう組み替えるか」が、これからの競争力を決めると教えてくれます。
【原因】:従来のビジネスモデル論は、どうしても“完成した成功事例”を切り取る静止画になりがちでした。そのため、企業がどんな課題に直面し、なぜ構造を変え、誰と共創しながら次の形へ進化したのかという変化のプロセスを十分に捉えられなかったのです。変化の激しい時代ほど、この欠点は致命的になります。
【対策】:本書は「共創性」と「適応性」を新しい軸に据え、各事例をBEFORE/AFTERの図解で比較しながら、そのあいだにある構造の差分を読み解きます。これにより、読者は成功企業の表面的な真似をするのではなく、自社の現場で何を変えるべきか、どこを再設計すべきかを考えるための実践的な視点を持つことができます。
本書の要約
ビジネスの進化が、「みつける」「ひろげる」「ふかめる」「ふみだす」という4つの変化の型で整理されています。これによって読者は、企業の成長を単なる拡大や改善としてではなく、どの方向にビジネスモデルを動かしたのかという視点で捉えられるようになります。本書は単なる成功事例集ではありません。読者自身が自分の現場に引き寄せながら課題を構造で捉え直し、次の一手を考えることができるようになります。
おすすめの人
・ビジネスを数字の羅列だけでなく、仕組みや関係性で構造的に理解したい人
・新規事業担当者、起業家、経営者
・多様なステークホルダーを巻き込む共創や、社会課題解決型のビジネスに関わる人
・既存事業の行き詰まりを感じ、再設計に悩むマネジャー
読書から得られるメリット
・複雑な事業を「構造」として捉え、客観的に分析する力がつく
・変化の4類型を知ることで、自社の次なる打ち手を戦略的に整理できる
・共創と適応を前提にした、現代に不可欠な戦略設計のヒントが得られる
・短期的な利益だけでは測れない、パーパス視点での企業価値の新しい見方が手に入る

「ビジネスモデル3.0」とは何か?
「ビジネスモデル3.0」とは、現代のビジネスモデルのあり方をとらえ直した概念だ。これは、「共創性」と「適応性」の2つのキーワードが軸になっている。(近藤哲朗)
大学で講義をしていると、学生たちは「完成した企業」よりも「いま発展している企業」に強い関心を示します。できあがった企業より進化中の企業のほうが学びが多いのは、結果ではなく「変化のプロセス」が見えるからです。さらに、リアルタイムでその企業の変化を追体験できること自体が、学生にとって大きな学びになっています。
どんな前提のもとで、何を課題として捉え、どこをどう組み替え、どんな試行錯誤を経て現在地に至ったのか。そこにこそ再現性の源泉があります。完成形は美しい反面、意思決定の迷い、打ち手の優先順位、捨てた選択肢、失敗の回収といった“肝心な部分”が見えにくい。
だから学生は、変化の途中にある企業に惹かれるのだと思います。 この視点は、ビジネスモデルを読む姿勢にもそのまま当てはまります。学ぶべきは「正解」ではなく「差分」です。何が変わり、なぜ変え、変えた結果として何が起きたのか。変化の設計原理を掴めるかどうかで、読み物は教材に変わります。
一方で従来のビジネスモデル本は、成功企業の「完成形」を提示し、その“答え”を学ばせようとする構成が多かったように思います。完成形は分かりやすい反面、「なぜその形になったのか」「何を捨て、何を残し、どの順番で変えたのか」といった設計思想や時間軸が抜け落ちがちです。
結果として、読者は見える部分を真似し、見えない部分――顧客やパートナー、ステークホルダーとの関係性、前提条件、制約、タイミング、アップデートの仕方――には気づけません。表面的には真似できても、同じ成果を得られない理由はここにあります。
だからこそ、図解総研の代表取締役・近藤哲朗氏のビジネスモデル3.0図鑑が扱うテーマは明確です。完成形ではなく「変化そのもの」を扱っていません。ビジネスは絶えず止まりません。環境が動けば、ビジネスも変化に適応するために動きます。本書が提供するのは、その動き方を理解するための一目でわかるマップだと言えます。
本書の読みどころは、各社のBEFORE/AFTERが、丁寧に示されている点にあります。読む側は「どんな課題があったのか」「どこをどう変えたのか」「結果がどう変わったのか」を、連続したプロセスとして追えます。
成功事例をただ単に真似しても、それが再現できるわけではありません。重要なのは、変化を生み出したビジネスモデルの原理原則をつかむことです。つまり、成果ではなく“差分”に目を向ける。ここに本書の価値があります。
本書は前作『ビジネスモデル2.0』の3軸――「社会性・経済性・創造性」――を土台にしつつ、現代の複雑さに対応するために「共創性」と「適応性」を加えます。言い換えるなら、ビジネスを“関係”と“時間”の観点から捉え直す提案です。
①共創性
企業が単独で価値を提供する時代は終わり、顧客、社員、パートナー、地域、行政、市民など多様な主体と価値を共に育てることが前提になりました。従来の「社会性」がステークホルダーに配慮しながら良い関係を築く姿勢だとすれば、「共創性」はさらに踏み込み、ステークホルダーと一緒に価値を生み出すことを主題に据えます。
ただし、誰とでも共創できるわけではありません。自ら主体的に動く「自律的なステークホルダー」と、外側から支える一方的な関係である「他律的なステークホルダー」を見極め、どの関係を中心に置き、どの関係を緩やかに接続するかを設計する必要があります。本書の文脈で言えば、共創性とは「関係の設計」を実践する力です。
②適応性
これは「時間の設計」に関わる視点です。「創造性」が既存の構造を反転させて新しい価値を生み出す力だとすれば、「適応性」は、その変化を時間の中でどう持続させ、どう更新し続けるかという力です。ある時代の“逆説”がやがて“定説”になるように、変化は一度きりのイベントではなく、前提そのものを塗り替えながら続いていきます。
適応性とは、変化に反応する力ではなく、環境変化を前提に自社の構造をアップデートし続ける力です。変化を「受け入れる」のではなく、自社の意思で「生み出す」ことにシフトすることで、変化にポジティブに対応できるようになります。
本書では、パーパスを「自社の目標」ではなく、「社会がどうあるべきか」から出発する枠組みとして説明します。社会起点で目的を定めることで、多様なステークホルダーが同じ目的で連携しやすくなります。結果として、共創は理念ではなく、関係をどう組むかという設計の問題になります。
制度の前提そのものが変わる瞬間には、すべてのロジックが組み替えを迫られるということだった。法律や税制、教育や福祉といった制度は固定的に見えて、実際には時間の流れの中で絶えず再設計され続けている。
法律や税制など制度の前提が変わると、企業の個々の工夫はそのままでは機能しなくなります。前提が変われば、ビジネスモデルを組み替える必要が出るからです。
だからこそ、将来を一つに固定して備えるよりも、「前提は変わる」ことを織り込んで、構造を更新できる状態を保つことが重要になります。ここから「適応性=時間の設計」という考え方が導かれます。
ビジネスを理解を助ける仕掛けとして、本書は「ビズグラム」というフレームワークで各社を解説しています。型が統一されているため、業種が異なっても比較ができます。読み進めるほど、見るべきポイントが揃い、理解が速くなります。
もちろん、複雑なビジネスモデルを一つのフレームだけで完全に表現することはできません。本書はその限界を踏まえ、図解だけで終わらせず、「どんな変化を経て現在に至ったか」も丁寧に追っています。
さらに「課題→構想→結果」の順に整理されているため、背景と打ち手と成果を同じ粒度で確認できます。読み物としての流れと、図解により要点を素早く把握する実用性が両立しています。
アンゾフのマトリクスから事業を分析する!
既存価値 × 既存領域:みつける
既存価値 × 新規領域:ひろげる
新規価値 × 既存領域:ふかめる
新規価値 × 新規領域:ふみだす
さらに本書は、変化の捉え方を「みつける」「ひろげる」「ふかめる」「ふみだす」の4類型として提示します。これはアンゾフのマトリクスを、現代の価値と領域という視点で実践的にアップデートしたものです。この4つのレンズを通すことで、「自社はいま、どの方向に構造を動かすべきか」が見えやすくなります。今日は本書からわかりやすい4つのケースをピックアップし、紹介していきます。
1. 既存価値 × 既存領域:「みつける」――コミュニティナース
日本の地域社会では、高齢化・核家族化・過疎化が同時に進み、医療や介護の制度だけでは支えきれない現実が生まれています。独居高齢者が増え、「見守り」や「相談」の担い手が不足する一方、家族や近隣とのつながりは弱まり、小さな不調が放置されて重症化するケースも増えています。
国は「地域包括ケアシステム」を進めてきましたが、専門職が担える範囲には限界があります。制度の枠内で拾える課題がある一方、制度の外にこぼれる「小さな困りごと」が増えているのです。臨床看護が「病気になってから治療とともに支える」役割だとすれば、地域では「病気になる前から暮らしを支える」働きかけが必要になります。
しかし、未病の人の生活を支えることは、制度として十分に整っているわけではありません。 そこで「暮らしのそばにいる人が、ちょっと気付いて声をかけ合う」という小さな関係を社会の力に変えようと生まれたのが、「コミュニティナース」です。
医療機関の枠を越えて地域に関わり、住民の健康と幸福を支える存在として、日常から支え合いの文化を再構築していきます。重要なのは、専門職に限定せず、誰もが関わり手になれる余地を広げている点です。地域全体が緩やかに支え合う仕組みを、関係性の設計としてつくり直しています。
発祥の島根県雲南市では、郵便局の一角を拠点に交流が生まれ、健康相談にとどまらず、住民の「つぶやき」から活動が立ち上がります。移動販売に同行して声をかける、喫茶店やガソリンスタンドで相談に乗るなど、身近な場所で信頼を積み重ねる工夫も共通しています。派手な新規価値ではなく、足元にあった価値を見つけ直し、現代の条件で成立する形に組み直した点で「みつける」の典型です。
2. 既存価値 × 新規領域:「ひろげる」――タイミー
日本では慢性的な人手不足が続き、飲食業などの現場では急な欠勤や繁忙期の波に人員計画が追いつきませんでした。求人広告や派遣は手続きが重く、学生・主婦・高齢者など「短時間だけ働きたい」層と、現場の「今すぐ欲しい」をつなぎにくい構造がありました。
求職者の「今日すぐ働きたい」「すぐお金が欲しい」という即時性のニーズにも、従来型は応えにくかったのです。 この非効率に対し、タイミーは「働きたい時間」と「人手が欲しい時間」を即時に結びつけました。
アプリで最短1時間単位、履歴書や面接なしで現場に入れる体験を提供し、既存の「働く/雇う」という価値を、当日・短時間という新しい領域へと広げています。
ただし強みはマッチングだけではありません。同社は短時間就労を社会的に成立させるため、雇用契約・報酬決済・評価データの三層を整えました。制度面では行政との対話を重ね、最低賃金や労災などの適用関係を整理し、制度の内側に新しい就労単位を定義しました。
データ面では実績と評価を蓄積し、履歴書では測りにくい「働きぶりの信頼度」を可視化します。資金面では即日報酬を成立させるために立替を行い、体験品質を守る代わりに金融リスクを引き受ける設計を採りました。結果として、求人アプリというより、労働市場に新たな接続点をつくるインフラを生み出したのです。
3. 新規価値 × 既存領域:「ふかめる」――星野リゾート
星野リゾートは温泉旅館として創業し、1991年以降、家業から企業経営へと転換しました。観光業が低迷し、多くの旅館が資産と負債を抱える中で、同社は早くから「資産を持たず運営に特化する」方向を明確にします。市場変化を見据え、スピード感ある展開で規模の経済を確保するための構造転換でした。
運営特化はトレードオフを伴います。所有利益を取りにいかない代わりに、運営の質で勝ち切らねばならない。星野リゾートはこの選択を、組織・人材・ブランド・運営の全体に貫き、相互に連動させて機能させています。
戦略面では勝ち筋を「経験価値」に定め、販売面でも直接予約を軸に、宿泊・食事・体験を一体で設計して滞在全体をブランド体験として組み立てました。資本面ではREIT等を活用して所有と運営を分離し、外部資本を取り込みつつ運営思想に基づく拠点拡大を可能にしています。
観光という既存領域にいながら、価値の定義を「宿泊」から「経験」へ深く組み替えた点が「ふかめる」の本質です。
4. 新規価値 × 新規領域:「ふみだす」――バリューブックス
古本業界は対面取引から、2000年代以降「送料無料の宅配買取」が標準になりました。しかしこのモデルは、買取できない本まで大量に集まり、物流費や在庫リスクが増大して経営を圧迫するという構造的課題を抱えます。
バリューブックスは2018年に送料有料化へ踏み切り、1箱あたりの送料を差し引く代わりに買取金額を引き上げる方式を導入しました。単なる負担増ではなく、利用者とコストを分かち合うよう仕組みを再設計したのです。Webで事前に買取価格がわかる「おためし査定」や明細提示など透明性を高め、納得感をつくることで体験を成立させています。
さらに買取と販売に閉じず、提携した出版社への売上還元や寄付循環などを通じて、本の価値の流れを社会へ拡張しました。「売れない本」を廃棄ではなく循環の資源として扱い、物流・中古販売・寄付を統合した新しい領域をつくり出しています。これが「ふみだす」の変化です。
Not A Hotelや、森林再生に取り組む検索エンジンのEcosiaなど、以前から気になっていたビジネスモデルを今回あらためて深掘りできました。まさに本書を通じて、いま動いている最新のビジネスモデルを“リアルタイム”に学べた感覚があります。
完成形のケーススタディ集では、どうしても「結論」だけが先に見えてしまいます。一方で本書は、各社の変化の過程(何を課題と捉え、どこを組み替え、どんな結果が出たか)を差分として追えるため、Not A Hotelのような新しい滞在体験の設計も、Ecosiaのように事業と社会的インパクトを両立させる設計も、「なぜ成立しているのか」が腹落ちします。読み終えたあとに残るのは、事例の知識というより、変化を読み解くための視点そのものです。
コンサルタント 徳本昌大のView
多くの企業は事業を「商品」と「市場」の話として語りがちですが、実際に競争力を左右するのは、顧客・社員・パートナー・地域といったステークホルダーとの関係をどう再設計するかです。その際に重要なのが、ステークホルダーの力をパーパスで束ね、目的を同じ方向に揃えることです。
ビジネスが停滞すると「新しい商品」や「新しい市場」を探しにいきますが、本書が示すのは、既存の要素でも“つなぎ方”や役割分担を変えるだけで価値は再構成できるという事実です。だから重要なのは完成形の模倣ではなく、BEFORE/AFTERの差分を観察し、課題→構想→結果の流れで変化の設計原理を掴むことになります。
自社がいま動かすべきは、商品なのか、関係なのか、時間なのか。その判断を感覚ではなく構造として行うために、本書の4つの型――既存価値×既存領域(みつける)/既存価値×新規領域(ひろげる)/新規価値×既存領域(ふかめる)/新規価値×新規領域(ふみだす)――が有効です。
変化が加速する時代に求められるのは、現状維持ではなく、ステークホルダーとパーパスを基軸に関係を再構成し、時間軸で更新し続けるビジネスモデルの再設計力です。
🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー
















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