武将たちのPR戦略 – すごすぎる!- (殿村美樹)の書評

書籍:武将たちのPR戦略 – すごすぎる!
著者:殿村美樹
出版社:ワニブックス
ASIN ‏ : ‎ B07TJWD15M

【書評】『すごすぎる!武将たちのPR戦略』家康と武蔵、ねねに学ぶ正しいPRメソッドとは?

世の中の不確実性が極まり、テクノロジーが指数関数的な進化を遂げる現在。日々のコンサルティング業務や、ベンチャー企業の支援、そして大学での講義などを通じて私が強く感じるのは、「変化の激しい時代にこそ、人間の普遍的な行動原理に立ち返り、物事を構造で考える必要がある」という事実です。

私たちは今、生成AIの台頭やデジタルシフトによって、これまでのビジネスモデルや社会の前提が根底から覆るパラダイムシフトの只中にいます。私自身、毎日の読書からのインプットや知的生産において、ClaudeやNotebookLMといった最先端の生成AIツールを息をするように使いこなしていますが、これらはもはや現代のビジネスパーソンにとっての「前提条件」にすぎません。

どれほどテクノロジーが進化し、業務が圧倒的に効率化されようとも、ビジネスにおいて最後に勝敗を分けるのは「人間同士の信頼関係」であり、「他者からどう見られ、誰と組むか」、そして「人の心をどう動かすか」という極めて泥臭く、アナログな戦略に帰結します。

今回手に取った殿村美樹氏の著書『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(ワニブックスPLUS新書)は、まさに現代の経営者が直面する本質的な課題に対して、歴史というレンズを通して極めて実践的な解答を提示してくれる一冊でした。

本書が対象としているのは、群雄割拠の戦国時代から近代に至る日本の変革期です。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、伊達政宗といった名将たちがいかにして自らの勢力を拡大し、勝利を収めたのか。私たちは往々にして彼らの「武力」や「戦術」にばかり目を奪われがちですが、本書はそこに「PR(パブリック・リレーションズ)」という全く新しい光を当てています。

さらに今回深く掘り下げられているのは、人間の「情」や「本能」に訴えかけるビジュアル・コミュニケーションの真髄です。関ヶ原の戦いの裏で決定的な役割を果たした「北政所ねね」の冷徹なロビィ活動。東京遷都の危機を脱した「京都」の長期的なリブランディング。そして、宮本武蔵の『五輪書』がなぜ現代まで読み継がれているのかという「情動へのアプローチ」。

ここには、個人的な感情や過去の成功体験に騙されず、組織や都市の存続という最大目的のために「何をすべきか」を構造で捉え、相手の脳裏に映像を浮かばせるという究極の意思決定と伝達手法が隠されていました。 本記事では、本書が提示する「歴史上のPR戦略」を単なる教養として終わらせるのではなく、現代のビジネス、とりわけ実務における組織戦略、アライアンス構築、そして意思決定にどう活かすべきかという視点で深掘りしていきます。

この記事でわかること

・戦国武将が生き残りを賭けて実践した「PR戦略」の本質と構造
・北政所ねねの「ロビィ活動」から読み解く、感情を排した冷徹な意思決定
・東京遷都の危機を乗り越えた「京都」に学ぶ、過去の遺産に頼らないリブランディング戦略
・宮本武蔵『五輪書』に隠された、人間の本能と情に訴えかける「映像化」の技術
・AI・デジタル時代において、人間ならではの「泥臭い関係構築」が競争優位を生む理由

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・戦国武将や歴史的都市の真の強さは武力だけでなく、自らを魅力的に見せ、味方を増やす「PR戦略」にあった。
・現代の経営においても、自社の見えない価値を言語化し、周囲に認知させる戦略的PR(見える化)が生き残りの絶対条件である。
・人は純粋な損得勘定だけでは動かない。相手の脳裏に映像を浮かばせ、本能と情に訴えかけるコミュニケーションが必要不可欠である。
【原因】
・単独の軍勢だけでは限界があり、「誰と組むか」という同盟関係が合戦の勝敗を根本的に決定づけていたため。 ・パラダイムシフトの際、前任者の影響力を視覚的・制度的に上書きし、新たなルールを大衆に示す必要があった。
・人間には合理的な利益だけでなく、嫉妬やプライドといった「情動」で動く本能が備わっているから。
【対策】
・ねねのように、理想と現実を両立させる中長期的なヴィジョンを持ち、相手に「ウィン・ウィン」の未来を提示する。
・京都が実践したように、過去の栄光に依存せず、地道な新しいブランディング戦略を継続する。
・武蔵の『五輪書』に学び、現在進行形で「情」と「ビジュアル」に訴えかける情報発信を意図的に設計する。 

本書の要約

『すごすぎる!武将たちのPR戦略』(殿村美樹 著)は、戦国時代の名将たちや歴史的都市が、いかにして広報活動(PR)を駆使し、過酷なサバイバルレースを勝ち抜いたかを紐解く画期的なビジネス書です。

合戦の勝敗を決定づける「同盟関係」を築くため、武将たちは自陣営の「見える化」に腐心しました。特に秀吉の正室・北政所ねねは、明確なビジョンとリアリズムに基づく高度なロビィ活動を展開し、関ヶ原の戦いの勝敗を裏で決定づけました。

また、明治維新における東京遷都によりブランド崩壊の危機に瀕した「京都」が、半世紀に及ぶ博覧会の開催を通じて「学問と国際交流の街」へと見事にリブランディングを果たした史実や、宮本武蔵の『五輪書』が読者の脳裏に映像を喚起させることで本能に訴えかけているメカニズムも詳述されています。綺麗事では済まされないリアルな生存戦略を通じ、現代の経営や意思決定に通じる普遍的な「勝者の法則」を提示しています。

こんな人におすすめ

・自社の見えない価値をうまく言語化・視覚化できず、マーケティングやPRにもどかしさを感じている経営者・マネジメント層
・AIやデジタルの進化に取り残されず、人間ならではの「関係構築力」や「心を動かす伝え方」を磨きたいビジネスパーソン
・ 精神論や過去の成功体験という思い込みを捨て、リアルで合理的な「意思決定の軸」を求めている方
・歴史からコミュニケーション本質を学びたい人

本書から得られるメリット

・自社の見えない価値を「見える化」し、ステークホルダーを巻き込む戦略的PRの視座を獲得できる
・ねねのロビィ活動から、認知バイアスを排除し、構造的に未来を予測する「判断の質」の高め方を学べる
・京都の復活劇を通じて、過去の遺産に頼らず、ゼロから都市や企業をリブランディングする本質的な手法を習得できる
・宮本武蔵の執筆手法から、機能的価値にとどまらない、顧客の本能と情を動かす情報発信(プレゼンテーション)の極意を学べる 

「武力」だけでは勝てない。戦国時代と現代ビジネスに共通する「生存戦略の構造」

自分の魅力をアピールし、自分が伝える情報は相手にとってもメリットとなることを理解させて仲間に加え、自分の思い描くプロジェクトが実現しやすい環境を整備していく。たとえば、社内の企画会議で自分の立案したアイデアが通るように根回しすることもPR。というよりも、PRの本質を見極め、効果的な展開方法を身につけることで、そういったプレゼンテーション能力も向上していくのです。(殿村美樹)

本書の最も重要な指摘の一つは、「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった名将たちも、自分の軍勢だけの力で勢力を拡大していったわけではない」という歴史の事実です。生き残りを賭けた合戦の勝敗を根本的に分けてきたのは、「どの武将が誰に味方するか」という同盟関係(アライアンス)とそれをきずためのPR戦略です。

これは現代のビジネス環境にそのまま当てはまります。かつては、自社内にある資本、技術力、営業力といった「単独の武力」だけで市場を制覇することが可能な時代もありました。

しかし、テクノロジーが高度化し、あらゆる製品やサービスが瞬時にコモディティ化しやすくなった現在、一企業のリソースだけで市場の覇権を握ることは極めて困難です。 今の時代に求められているのは、自社の強みを核としながら、他社とどのようにエコシステム(生態系)を築くかという「同盟の戦略」です。

たとえば、現代の巨大ITプラットフォーマーも、自社だけで全ての価値を提供しているわけではありません。無数のサードパーティ、デベロッパー、クリエイターを自陣営に引き入れることで、圧倒的な競争優位を築いています。現代の経営者やマネジメント層は、自社の「武力(技術や資本)」を磨くことと同等以上に、「誰と組み、どのような陣営を形成するか」というマクロな視点を持つ必要があります。

戦国武将たちが血眼になって援軍を仰ぎ、同盟関係を結んだように、現代の私たちもまた、オープンイノベーションや戦略的提携を駆使して「数の論理」を味方につけなければならないのです。 そして、その同盟相手を惹きつけるための武器こそが「見える化」によるPRです。

自社の理念や強みを視覚的・心理的にデザインし、相手に「組むメリット」を明確に提示できなければ、厳しい競争環境を生き抜くことはできません。 

今回、本書のなかで私の目を最も強く惹きつけたのが、豊臣秀吉の正室である「北政所ねね」の存在です。彼女は単に「内助の功」で夫を支えた女性ではありませんでした。秀吉の死後、関ヶ原の戦いが避けられないと悟った彼女は、まるで現代の大統領選に裏から影響を与える凄腕のロビイストのように、自ら天下の未来像を考え、高度な政治的根回しを展開したのです。

歴史の教科書では、秀吉は死の間際、五大老・五奉行による「集団指導体制(合議制)」を遺言として残したとされています。しかし、ねねはその遺言を事実上反故にし、関ヶ原の戦いへ向けて東軍(徳川家康)の勝利を裏から支援しました。

加藤清正や福島正則といった自らが手塩にかけて育てた子飼いの武将たちを東軍につかせ、自らの子のように可愛がった小早川秀秋に対しても「伏見城を攻略したあとで内府(家康)に寝返りせよ」と厳しく命じたと本書は指摘しています。 なぜ、彼女はそこまで冷徹な判断を下せたのでしょうか。

本書では、ロビイストに求められる資質は「権力よりも勢力」であり、仲間を得るためには「中長期的な未来に対する明確なビジョン」と「不可欠な揺るぎないリアリズム」の両輪が必要だと説いています。 ねねは、単に過去の業績に対して褒美を与えるのではなく、「ウィン・ウィン」の関係を前提として未来を切り開いていくネットワーク(北政所ブランド)を構築しました。

カリスマを失った後の集団指導体制がいかに機能しないかを過去の経験から熟知していた彼女は、「亡き夫の遺言だから」「豊臣家への義理があるから」といった個人的な感情を完全に排除し、「武力と知謀の両面で家康が抜きん出た存在である」という事実のみに基づき、最適な同盟相手を選択しました。

彼女の指示に従った武将たちは結果的に大幅な加増を得て大出世を果たし、彼女自身も皇族並みの扱いで高台寺に安置されることになります。 これは、現代の私たちが「判断の質を上げる」ための究極のケーススタディです。

私たちはビジネスにおいて、「創業者の遺志だから」「昔から付き合いのある取引先だから」といった感情や、過去の成功体験(認知バイアス)に囚われた意思決定をしてしまいがちです。しかし、真のリーダーは、ねねのように物事を「構造」で捉えなければなりません。

組織の限界を見極め、誰と組むことがサバイバルに直結するのかを、冷徹な論理で判断する。同時に、仲間に対しては誇りや情(ブランド)に裏打ちされた「未来の利益」を提示する。この「思い込みに騙されない思考法」こそが、激動の時代を生き抜くための要諦です。

旧体制を象徴する存在が、神となって豊国神社とともに存続することは、新体制を揺るがす勢力が再結集する事態も招きかねません。家康は、一時代を築いた武将が神となって神社に祀られることの意味を熟知していたのです。

ねねのロビィ活動によって天下の実権を掌握した徳川家康ですが、彼の自己PRの真骨頂は生前だけでなく、自らの「死後」にも及んでいました。それが、彼が行った自らの「神格化」を通じた壮大なレガシーマネジメントです。 家康は生前、朝廷の許可を得て「源氏の末裔」を名乗り、征夷大将軍の地位を正当化しました。

しかし彼は遺言によって日光に祀られ、「東照大権現」という神号を得ます。なぜ「神」になる必要があったのか? それは前任の天下人である豊臣秀吉が「豊国大明神」として神格化されていたからです。 徳川幕府は、豊臣家を滅ぼした直後に豊国神社を廃絶し、人々の脳裏から秀吉を消し去ろうとしました。

そして、神仏習合の風土において「明神(神道の神)」よりも優位性を示すことができる「権現(仏が日本の神の姿で現れたもの)」という神号を選び取ったのです。旧体制の象徴(秀吉)を破壊し、自らをより上位の概念(権現)として再定義することで、徳川の世が永遠に続くことを人々にPRしました。

家康は東海道五十三次の終点を、かつての処刑場であった京都・三条大橋に設定することで、逆らう者への「恐怖のPR」まで視覚化しています。 これを現代の経営戦略に置き換えてみましょう。

企業がM&Aを行ったり、創業社長から新社長へ代替わりしたりする際、旧体制のレガシー(象徴)をどう扱うかは組織再編(PMI)における最大の課題です。家康の手法は、自らのビジョン(新たな体制)を浸透させるために、空間やインフラ、果ては「社内の神話」といった「目に見えるシンボル」を意図的に再定義することの重要性を教えてくれます。

システム、オフィス空間、あるいは事業ドメインの境界線を物理的・概念的に引き直すことで、人々の認識を強制的にアップデートする。これこそが、トップが握るべきブランディングの本質です。

没落の危機を救った「京都のPR戦略」。ビジョンとプライドが導くリブランディング

本書の後半で展開される「京都のブランディング戦略」の史実は、現代の企業変革(コーポレート・トランスフォーメーション)において極めて重要な示唆に富んでいます。

私たちは「京都」と聞くと、千年の都としての揺るぎないブランドを最初から持っていたかのように錯覚しがちです。しかし、明治維新における「東京遷都」は、京都にとって壊滅的なダメージをもたらしました。天皇が東京(旧江戸城)へ移り、それに追随する形で「虎屋」をはじめとする皇室御用達の老舗業者たちも次々と東京へ去っていったのです。

日本の首都という座を追われ、具体的な象徴(天皇や産業)を失った京都の人々にとって、それは受け入れ難い屈辱であり、都市ブランドの根底からの崩壊を意味していました。

しかし、京都はただ歴史的遺産にすがるだけの衰退都市にはなりませんでした。彼らが取った戦略は、過去の栄光への執着ではなく、果敢な「未来への投資とPR」でした。 京都は1871年から1928年まで、半世紀以上にわたりほぼ毎年「博覧会」を開催し続けました。1895年の第4回内国勧業博覧会では100万人を超える来場者を集め、多くの外国人を誘致することに成功します。

さらに京都は「外国人や学生にやさしい街」というブランディングを仕掛け、京都大学をはじめ、同志社、立命館などの大学を育て、「アカデミズムの街」という全く新しい都市ブランドを確立したのです。 多くのノーベル賞受賞者を輩出する現在の京都の地位は、歴史的遺産や観光資源に頼っただけのものではありません。著者が指摘するように、「長期的なビジョンに基づく戦略と、プライドと、実現に向けた戦術的な企み」があったからこそです。

現代のビジネスにおいても、主力事業の衰退によって企業のコア・コンピタンスが突然失われる危機は日常茶飯事です。その際、過去の成功体験にしがみつくのではなく、自らのリソースを再定義し、新たなターゲットに向けた中長期的なPR戦略を地道に実行できるか。これこそが、真のリブランディングの成功条件だと言えます。

 今回、私が最もハッとさせられたのが、宮本武蔵の『五輪書』を「PRの視点」から読み解いた最終盤の考察です。 大阪大学のグループによる研究でも明らかなように、人間は「自分が損をしても相手に得をさせないという『いじわる行動』」を頻繁に起こす生き物です。

つまり、人間は常に合理的な「知」や「利益」だけで行動しているわけではありません。著者は、ニュースリリースやPRにおいて最も重要なのは、論理的な認知を超えて「ヴィジュアルを通じて人間の本能に呼びかける(情に訴えかける)」ことだと断言しています。

武蔵の『五輪書』が現代に至るまで剣術のバイブルとして読み継がれている理由は、読んだ人に強烈なヴィジュアルと満足感を与えるからです。他流派との比較という人間の本能(競争心)に訴えかけ、さらに「霊巌洞にこもって書いた」というエピソードが、読者の脳内に武蔵のストイックな姿をありありと「映像化」させます。

現代のように写真や動画がなかった時代に、言葉の力だけで読者の脳内にビジュアルを記憶させたのです。 著者はこれを現代のPR活動に置き換え、痛烈なアドバイスを送っています。「食べ残しのような冷えた写真では、せっかくのビジュアル要素を盛り込んでも効果は薄い」「『こっちに来るといいことがありますよ』『来ないとダメですよ』という知偏重のニュースリリースにしてしまうことは絶対にやってはいけない」。

大切なのは、文章を現在進行形で表現し、読み手に「いま、一歩を踏み出せば新しい価値に触れることができる」という臨場感を醸し出すことです。 これは、生成AIが当たり前となった私たちの知的生産に対して、極めて重要な警鐘を鳴らしています。AIは論理的でミスのない美しい文章を瞬時に作成できます。

しかし、「ステーキが鉄板の上でジュージューと音を立てるシズル感」や、「今すぐこれを体験したい」と思わせるような、人間の本能と情動に直接アクセスするヴィジュアル喚起力は、意図的に私たちが設計しなければ生まれません。

「正論」や「機能の羅列」といった左脳的アプローチだけでは人は動きません。顧客の脳裏に「自分たちの明日がどう豊かに変わるか」という鮮明な映像(Tomorrowの価値)を描かせること。これこそが、AI時代における真のコミュニケーション能力なのです。

本書が扱うテーマはAI時代にこそ重要である。歴史の泥臭い戦略が競争優位を生む理由 現在、生成AIの進化により、ビジネスにおける情報処理のスピードや知的生産のあり方は劇的に変化しています。市場調査、データ分析、事業計画のドラフト作成に至るまで、AIが人間を凌駕する領域は日々拡大しています。

本書が扱う「人間心理の掌握と戦略的PR」というテーマは、AI時代にこそ圧倒的な重要性を持ちます。AIは過去のデータを論理的に処理し、最適解を導き出すことには長けていますが、「生身の人間をどのように動かし、心を掴み、陣営に引き入れるか」という関係構築の妙や、北政所ねねのような「空気を読み、裏で根回しをするロビィ活動」、あるいは京都の人々が実践した「屈辱をバネにした情念のブランディング」、さらには武蔵のような「言葉で脳内に映像を焼き付ける情動の喚起」までは代替できません。

私たちはビジネスにおいて、「一度同盟を結んだのだから裏切らないはずだ」「技術的に優れたものを作れば必ず売れるはずだ」といった人間の感情や思い込み(認知バイアス)に騙されがちです。しかし歴史上の勝者たちは、冷徹な論理とメリットの提示によって同盟を結び、空間や神話すらもデザインし、最後は人間の「情」に訴えかけて心をコントロールしました。

未来のビジネスにおいて真の価値の源泉となるのは、AIが弾き出した「正解」を、いかにして多様な利害関係者を巻き込みながら社会実装するかという「実行力」です。歴史の構造から人間の本質的な行動原理を学び、最新のテクノロジーを掛け合わせること。それこそが、これからの不確実な時代を生き抜くための最強の武器となるはずです。

コンサルタント 徳本昌大のView

私は出張で年に何度も京都を訪れます。今も京都のホテルで、このブログを書いています。鴨川の流れに耳を傾けながら三条大橋を渡り、ねねが眠る高台寺の周辺を歩きながら、思考を整理する時間を大切にしています。 これまで三条大橋や高台寺は、京都らしい歴史と風情を感じる場所でした。

しかし、本書を読んだことで、その風景に新たな意味が加わりました。 三条大橋は、徳川家康が仕掛けた「恐怖によるPR」の到達点であり、高台寺は、関ヶ原の勝敗を陰で左右し、現実を冷静に見極めながら未来を切り拓いた、ねねという稀代のロビイストが眠る場所です。歴史的な背景を知ることで、見慣れた風景が、戦略と意思決定の舞台として立ち上がってきます。

さらに、京都の街を行き交う多くの大学生の姿も、違って見えるようになりました。東京遷都によって都市としての存在感を失いかねなかった京都が、大学を誘致し、「学問の街」として再生を図った戦略的なPRの成果だと捉えられるからです。 知識が構造化され、過去と現在がつながると、目の前の風景に新しい意味が生まれます。世界を見る解像度が高まり、これまで見えなかった因果関係まで理解できるようになる。これこそが、私が読書を続ける最大の理由です。

日々のコンサルティングで企業の戦略立案に伴走していると、優れた技術やサービスを持ちながら、「伝え方」や「見せ方」で損をしている企業に数多く出会います。「誠実に仕事をしていれば、いつか誰かが評価してくれる」という姿勢は尊いものです。

しかし、情報があふれ、競争が激化する現代において、価値は存在するだけでは伝わりません。相手に届き、理解され、選ばれて初めて、ビジネス上の価値になります。 本書を通じて改めて痛感したのは、戦略とは、状況を読み、目的から逆算し、意図的かつ構造的に仕掛けるものだということです。

信長、秀吉、家康、政宗、ねね、武蔵、そして京都の町衆たちは、偶然や運だけで歴史を生き抜いたわけではありません。自らの立場と環境を冷静に捉え、誰と組むべきかを判断し、相手からどう見られるべきかを考え抜きました。そして、自らの価値や存在意義が正しく伝わるよう、行動と言葉を戦略的に設計していたのです。

本書を興味深い歴史のエピソードとして読み終えるだけでは、その価値を十分に活かしたことにはなりません。重要なのは、武将や京都の人々が実践したPR戦略を、自分の仕事や経営に置き換えて考えることです。
・自分のビジネスを成長させるために、誰と同盟を結ぶべきか。
・ねねのように、感情や過去の成功体験に縛られず、構造から未来を予測できているか。
・武蔵のように、相手の感情を動かし、頭の中に鮮明な場面を描かせる発信ができているか。
・自分や自社の価値を、相手に理解され、選ばれる形で伝えられているか。

AIが大量の情報を整理し、一定水準の答えを瞬時に提示する時代には、「何を知っているか」だけでは差別化できません。重要になるのは、歴史や経験から本質を読み取り、自分の課題に結びつけ、適切な問いを立てる力です。 毎日の読書と学び直しを通じて、こうした問いを持ち続ける。それが私たちの思い込みを減らし、判断の質を高め、AI時代の未来を主体的に切り拓く力になるのです。

FAQ

Q1: 歴史の知識が全くなくても、ビジネス書として理解できますか?

十分に理解できます。本書は歴史の細かい年号や出来事を暗記するための本ではなく、戦国武将やねね、武蔵、そして都市(京都)の「行動原理」や「戦略の構造」に焦点を当てています。現代のビジネス用語(PR、アライアンス、ロビィ活動、ブランディング、ニュースリリースなど)に紐づけて解説されているため、歴史に明るくない方でも、経営戦略やマーケティングの秀逸なケーススタディとして面白く読める構成になっています。

Q2: 大企業の経営者だけでなく、中小企業のマネジメントや個人のキャリアにも応用できる内容ですか?

もちろんです。ねねの「最適な同盟相手を見極める眼力」や、東京遷都で全てを失いかけた京都の「ゼロからのリブランディング戦略」は、そのまま中小企業やスタートアップの生存戦略に直結します。また個人レベルにおいても、組織内で自分の成果をどう「見える化」し、相手の情に訴えかけるコミュニケーションでキャリアを有利に進めるかというセルフブランディングの実践書として極めて有用です。

Q3: AIやデジタルマーケティングが主流の現代において、この本のPR手法は古くないですか?

ツールや媒体の形が変わっただけで、本質は全く古くありません。現代のAI活用も、突き詰めれば「誰に、何を、どう伝えるか」というPR戦略の一部です。情報が溢れ、AIが論理的なコンテンツを瞬時に量産する時代だからこそ、人間の「本能」や「情」を突き、「どう未来のビジョンを映像として見せるか」という歴史に裏打ちされた泥臭い戦略設計が、他社との決定的な差別化要因になります。

関連記事

【書評】「あたりまえ」のつくり方 ——ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書(嶋浩一郎)
PRの本質は、情報を一方的に発信することではなく、社会と対話することにあります。企業が新しい「あたりまえ」を提案し、顧客、社員、取引先、地域社会、多様なステークホルダーの声を聞きながら合意を形成し、共感を広げていく。その積み重ねによって、価値観や行動が社会に根づいていきます。PRとは、単なる宣伝や販売促進ではなく、企業と社会の関係を築き、よりよい未来を共につくるコミュニケーションデザインなのです。
→リンクはこちらから

【書評】話題にしてもらう技術 ~90.5%の会社が知らないPRのコツ(加藤恭子)
広告予算が限られるベンチャーや中小企業こそ、PRを戦略的に活用し、メディア露出を増やすべきです。経営者の考えやプロダクトが記事や番組で紹介されれば、広告とは異なる第三者の評価が加わり、ブランドの認知度と社会的信頼性が高まります。さらに、社外から注目されることで、社員は自社の事業に誇りと自信を持ち、働く意欲も向上します。PRは少ない予算でも社内外に効果を生み出せる、成長企業に欠かせない経営戦略です。
→リンクはこちらから

【書評】イエス・キリストは世界一のPRマンだった。ブルース・バートンにイエスの4つのメッセージのルールを教わる!
広告会社経営者のバートンは、イエスを頑強で快活な「PRの天才」と捉えます。人を惹きつけたのは、寛容さ、質問力、ユーモア、他者への貢献、そして人生を楽しむ姿勢でした。さらに、文章を圧縮し、言葉を単純にし、誠実に、繰り返し伝えることで、メッセージを広げました。人に仕え、求められた以上の「もう一マイル」を進む。その行動原則は、顧客主義やリーダーシップなど、現代のPRや経営にも通じる普遍的な成功哲学です。 →リンクはこちらから

最強Appleフレームワーク


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
徳本昌大 Amazonページ >
 

徳本昌大をフォローする
歴史ブランディング哲学フレームワークコミュニケーション文化戦略書評生産性向上ブログアイデアクリエイティビティマーケティングライフハック
スポンサーリンク
徳本昌大をフォローする
Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました