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無料より安いものもある:お金の行動経済学
ダン・アリエリー, ジェフ・クライスラー
早川書房
本書の要約
未来の誘惑とのあいだに障壁をつくるような取り決めのことをユリシーズ契約と言いますが、これを貯蓄に活用するのです。毎月の収支に関係なく、あらかじめ貯蓄の種類と金額を決めておくことで、自制の失敗を自覚したうえで、毎月望ましい決定を下せるようになり、老後にお金の心配をしないですみます。
お金に自制を働かせる方法
自制は、お金の考え方の問題にとりくむにあたって、特別な注意を要する問題だ。たとえお金の合理的な決定に至るまでの内的・外的ハードルを次々とクリアできたとしても、自制がなければゴールにたどり着くまでにつまずいてしまう。選択肢の価値を正しく判断できたとしても、自分をコントロールできなければ、誤った選択に導かれる。(ダン・アリエリー)
ダン・アリエリーの無料より安いものもある:お金の行動経済学の書評を続けます。お金に対して合理的な判断をするだけでなく、自制を働かすことができないと、私たちは間違った選択をします。お金に失敗したくなければ、自分をコントロールすることが重要になります。
私たちが自制できないのは、(感情的な愛着がないために)未来を軽視してしまうからです。また現代社会は多くの誘惑があり、それに打ち勝つだけの意志力を私たちは持ち合わせていません。
では、お金に自制を効かせるにはどうすればいいのでしょうか?そのためには、未来の自分とつながり、誘惑に抵抗すればよいのです。未来の自分は、どこか他人のように思えてしまうため、 将来のために貯蓄することは、自分自身にというより、見知らぬ人にお金を分け与えているような気がすることがあります。これに対抗するには、未来の自分を身近に感じられるようにするとよいでしょう。
ハル・ハーシュフィールドは、簡単なツールを使って、未来の自分をより生き生きと、具体的に、共感できる姿で描き出すとよいと指摘します。歳をとった「自分」と架空の会話をしたり、年老いた自分に手紙を書いてみるのです。65歳、70歳、95歳、100歳の自分をイメージし、不満や後悔を書き出せば、今やるべきことが見えてきます。
ある研究で、未来を一定期間後として提示されるより、具体的な日付として提示されるほうが、未来を軽視する傾向が薄れることがわかりました。「20年後」の退職ではなく、「2042年1月3日」の退職に備えると考えたほうが、お金を貯めやすくなるのです。
また、コンピュータで生成された、老人になった自分とやりとりをすると、貯蓄額が増えるそうです。未来の年老いた自分とつながり、共感と感情をもち、この人の暮らしを楽にしてあげようと思うようになります。年老いた自分との対話を想像するだけでなく、実際に対話することで、貯蓄や投資だけでなく、健康にも気を使うようになります。
貯蓄にユリシーズ契約を活用しよう!
拘束力のある自制の取り決めるために、ユリシーズ契約を用いるのもよいでしょう。ホメロスの叙事詩に謳われたユリシーズのように、未来の誘惑とのあいだに障壁をつくるような取り決めのことをユリシーズ契約と言います。自分に選択の余地を与えず、自由意志を剥奪するのです。
金融のユリシーズ契約
■クレジットカードの利用限度額をあらかじめ設定する
■プリペイドのデビットカードだけを使う
■力ードをすべて解約して現金だけを使う
401kのユリシーズ契約
毎月の収支に関係なく、あらかじめ貯蓄の種類と金額を決めておくのだ。こうすれば、自制の失敗を自覚したうえで、毎月望ましい決定を下す助けになる対策を、少なくともとっていることになる。401k(や類似の金融商品)は、もしかしたら理想的な戦略ではないかもしれないが、なにもしないよりはましだ。重要な点として、この手法では一度きりの簡単な決定が、長期にわたって効果を発揮する。1年に12回ではなく、加入時に一回だけ誘惑を克服するだけですむ。
退職年金を自動加入にすれば、自分の意志力に頼ることなく、自動的にお金をためられます。ナバ・アシュラフ、ディーン・カーラン、ウエズリー・インによる実験では、銀行口座に制限を設定した(一定金額を貯蓄口座に自動振替することを選択した)協力者は、一年間で貯蓄額が81%も増加したそうです。
別の研究は、将来の昇給の一部を自動的に貯蓄に回す方法に着目しました。研究の協力者は、将来昇給したらその一部を自動的に貯蓄することに同意しました。この手法は現在の収入は影響を受けませんし、 将来の昇給も使うことができます。この方式も貯蓄を増やす効果があったのです。
取り分け(イヤマーキング)と呼ばれる方法も、あらかじめ貯蓄することを決めておき、計画を守れるよう手助けする方法の一つです。取り分けとは、一定の金額を特定の口座や心の勘定に振り分けることを決めておく方法です。
給与が振り込まれたら、すぐに子供の口座に移し、その口座の存在を忘れてしまうのです。
ディリップ・ソーマンとアマール・チーマの研究では、取り分けられたお金にわが子の名前を記したラベルをつけた場合は、子どもとは無関係にした場合に比べて、お金が浪費されにくいことが示されました。子どもの名前を書いた封筒に現金を入れておくと、親の出費は減り、貯蓄が増えたのです。
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