「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点(前野隆司, 菅原育子)の書評

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「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点
前野隆司, 菅原育子
青春出版社

本書の要約

多くの人々は60歳を超えると幸福感を感じるようになります。老年的超越とは、年齢を重ねるにつれて、物質的な欲求や成功の追求から離れ、家族や友人との絆など人生の意味を追い求めるようになります。この老年的超越によって、高齢者は人生の充実感や幸福を感じることができるようになります。

高齢者が幸せな理由。老年的超越とは何か?

若い頃に感じていたような物質的な幸せとは違って、高齢になると別の種類の幸せが待っているというわけです。こうした「老年的超越」が、高齢期の幸福感と深く関係しているのだと考えられます。(前野隆司, 菅原育子)

「老年幸福学」という言葉を私は本書で初めて知りました。これは、幸福学を専門とする前野隆司氏と老年学の研究者である菅原育子氏が、お互いの知見を踏まえながら議論を重ねる中で生まれた造語です。

本書では、これまであまり知られていなかった意外な事実も紹介されています。例えば、「幸福感」が高齢者の健康や寿命に深く関わっていることや、人のためにお金を使うと自分も幸せになること、さらには健康寿命を超えても幸せな老後を過ごせることなどです。これらは、幸せに生きるための一例です。 

人生の初期段階、10代から20代前半には、私たちの幸福度は比較的高いことが多いです。この時期は新しい経験や冒険に満ち、将来への希望に満ちています。しかし、時間が経つにつれて、中年時代、特に40~50代に入ると、多くの人々が幸福度の低下を経験します。仕事のプレッシャー、子供の教育、親の健康との向き合い方、経済的な負担など、さまざまな要因がこの低下を引き起こすとされています。

しかし、人生のこの「谷」を乗り越えると、60代を迎えるとき、多くの人々が再び幸福感を感じるようになります。この年代は、孫との時間を楽しんだり、趣味や旅行に没頭できる時期となり、生活の質が向上します。 興味深いことに、この年齢と幸福度の関連性は、日本だけでなく、世界中で共通しています。

心理学の研究は、高齢者が若い時代よりも不幸であるという一般的な考え方を覆すものであり、実際には、彼らは中年の頃よりも幸福を感じていることが示唆されています。 この事実は、年齢とともにくる挑戦を乗り越え、人生の後半には新しい喜びや満足が待っていることを私たちに思い出させてくれます。

スウェーデンの社会学者ラルス・トルンスタムが1989年に「老年的超越」という概念を提唱しました。この概念によれば、85歳を超えると、人々の価値観が変化し、物質主義的で合理的な考え方から宇宙的で超越的な世界観へと変わっていくとされています。

具体的な変化の一つとして、老年的超越では物事に対して楽観的になることが挙げられます。自分の欲望や欲求から離れ、自己中心的な考え方がなくなり、寛容性が高まるとされています。これは、人々が他者や環境に対してより理解を深め、共感することができるようになることを意味しています。

さらに、老年的超越では時間の区別が曖昧になります。過去や現在、未来といった時間の概念が薄れ、自分自身と宇宙との一体感を感じるようになります。また、人々は人類全体や先祖子孫との一体感を強く感じるようになるとも言われています。これは、個人の存在が大きな流れの一部であることを自覚し、自己の存在意義をより広い視野で捉えることができるようになるということです。 

前野氏は「幸せの4つの因子」を明らかにいています。
・やってみよう因子
・ありがとう因子
・なんとかなる因子
・ありのままに因子

この4つの因子は、すべてが相互に関係しています。例えば、何か新しいことに挑戦しようとする「やってみよう」の気持ちがあれば、失敗しても「なんとかなる」と思えるようになるかもしれません。また、周りの人に感謝することで、自分自身を大切にできるようになるかもしれません。

お金だけでは幸せになれない?利他の行為が重要な理由

何よりも重要なのは、地位財による幸福感が長続きしないのに対し、非地位財による幸福感は長続きするという点です。

地位財は、資産や収入、所有品、社会的評価など、外部との比較で得られる満足感をもたらす要因を指すものです。一方、非地位財は、他者との比較を必要とせず、愛情や友情、自分の生きがいや人とのつながりなど、内面からの満足感をもたらす要因を指します。

地位財を手に入れた際の幸福感は一時的で、その興奮や喜びは短期間で薄れてしまいます。例えば、高給取りとなったり、昇進した際の喜びも一時的なものです。常に次のステージ、次の成功を求める欲望が終わりなく湧き上がるため、心の中に常に満足のない状態が続きます。

それに対して、非地位財に関する幸福感は持続的です。競争や他者との比較を背景に持たないこの幸福感は、愛する人との関係や日々の生活の中での小さな喜びから生まれるものです。 簡単に言えば、地位財は短期的な喜びの源であり、非地位財は長期的な満足感の源となります。

真の幸せを追求するためには、両方の要因を適切にバランスさせることが大切です。過度に地位財ばかりを追い求めるのではなく、非地位財の価値を理解し、その重要性を忘れないことが、心豊かな人生を築く鍵となります。

高齢者がお金を通して幸せになるコツは、お金を目的にしないことです。退職後、苦労したくないからと、お金を貯めることばかりに集中して、何に使うかを考えないでいると幸せになれません。ここで大切なのは、幸福になるための「なんとかなる因子」です。お金のことは「なんとかなる」と考えて、生きがいややりがいのあることを見つけるのです。

お金は目的ではなく手段です。お金は、生活を豊かにしたり、夢を実現したりするために必要なものです。しかし、お金がすべてではありません。お金だけでは、幸せになれません。 お金を貯めることだけに一生懸命になり、趣味や生きがいをなくしてしまうと、定年退職後、人生が空虚になってしまうかもしれません。

定年退職後も、仕事や勉強をしたり、ボランティア活動をしたり、趣味に没頭したりすることで、充実した人生を送ることができるのです。 お金は人生を豊かにするための手段です。お金を貯めることも大切ですが、お金だけに縛られるのではなく、人生の軸となる生きがいや仕事を意識することが大切です。

「他人や社会のためにお金や時間を投資する人は、自分のためだけにそれを使う人よりも幸せである」という事実が研究で明らかになっています。利他的な行動は、単に他者の幸せを促進するだけでなく、自身の心の満足感や充実感にも寄与します。

内閣府の調査によると、「社会的な問題解決の活動に参加している」と答えた人たちは、幸福度が最も高いと報告しています。それに次ぐのは、「参加したいとは思うが、方法や手段がわからない」とか「参加の意欲はあるが、時間や資源が足りない」と感じている人々です。一方で、社会的な取り組みに参加する意欲が全くないと答えた人々は、幸福度が最も低いことが示されています。

このデータからは、他人や社会のために行動することが、個人の幸福感を高めるキーとなっていることが伺えます。言い換えれば、自分の幸福を追求するための有効な方法の一つとして、ボランティア活動などの社会貢献を考えることができるのです。

感謝日記を習慣にしよう!

個人差はあるにしても、幸福度は70歳になっても80歳になっても上昇していきますが、体力は落ちる一方です。体力と幸福度が、年齢に対して逆の傾向を示すことはおわかりでしょう。むしろ、体力がかなり落ちてからのほうが幸福度が高くなるのです。

高齢になると、体力は落ちる一方ですが、幸福度は上昇していきます。これは、体力と幸福度が年齢に対して逆の傾向を示すことを意味します。実際、体力がかなり落ちてからの方が幸福度が高くなるのです。 しかし、幸福度は体力だけに関係しているわけではありません。

高齢になると、持病や障害が増えることが一般的です。薬を飲んでいる人も多くいます。若い人から見れば、これは不健康な状態ですが、実際には幸せだと感じている人が多いのです。年齢によって、幸せや健康の定義も変わるのです。 高齢者が不幸だと思われるのは、若い人の思い込みです。若い頃は、健康診断の結果に一喜一憂していますが、高齢になると血圧が上がるなどの自然な変化が起きます。これだけを健康の指標として考えるのは間違いです。

高齢者は、「ありのままに因子」で幸せを感じているのです。 また、人の寿命は病気の数や薬の量と関連しているように思えますが、実際には「主観的な健康」が強く関係していることが調査結果から示されています。 つまり、体力の衰えや持病、障害があっても、高齢者は幸せを感じることができます。

心理学では、感謝日記を書くと幸福度が上がるという研究結果があります。数カ月も続ければ間違いなく大きな効果が出てくると著者は指摘します。私もこの感謝日記を毎朝書いていますが、間違いなく幸福度がアップしています。

感謝日記の本当の意義は、「感謝したい」という気持ちを常に心の隅におくことであり、感謝すべき出来事を探しはじめることにあります。
「今日は何かいいことあったかな?」
「そうだ、あれはよかったな」
「あんな心遣いをしてもらったっけ」など1日を感謝の気持ちを持って、振り返ることで、日々の恩恵に気づけます。小さな幸せ体験を見つけることで、幸福度がアップします。他者の心遣いに気づくことで利他の気持ちも育めます。

感謝日記を書くことで、以下のような効果が期待できます。
・ストレスや不安を軽減する
・ネガティブな感情をポジティブな感情に転換する
・自尊心を高める
・幸福度を高める
・免疫力を高める
・寿命を延ばす

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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