Love the Problem 問題に恋をしよう ユニコーン起業家の思考法
ユリ・レヴィーン
日本実業出版
Love the Problem (ユリ・レヴィーン) の書評
起業家にとって特に重要なフェーズは、PMF(Product Market Fit)です。これは、顧客が製品を継続的に使用し、高い顧客維持率を維持しているかどうかで評価されます。PMFを達成できれば、企業が正しい方向に進み、成功する証拠となりますが、達成できない場合、事業は大きな困難に直面することになるでしょう。
起業家が成功するためのステップ・PMFが重要な理由
「恋をする」サイクルへと突入したら、新たな冒険の旅について複数の観点から検討する。つまり、問題、解決策、市場、ビジネスモデル、資金、市場進出戦略(GTM Go To Market)といった観点だ。すべてを頭の中で整理すれば、すぐに計画を立てられる。その次は、人に会いに行く。(ユリ・レヴィーン)
イスラエルの起業家のユリ・レヴィーンは、自らの経験から、新しいビジネスアイデアを成功させるためのプロセスを提唱しています。彼が説くプロセスは、ペイン=個人的な問題の認識から始まり、それに恋をして新たな冒険に着手するというものです。
このプロセスでは、問題の特定から解決策、市場調査、ビジネスモデルの構築、資金調達、そして市場進出戦略(GTM=Go To Market)までの複数の観点から検討を行います。 最初のステップでは、友人や同僚、経営者など、周囲の人々にアイデアを共有し、フィードバックを受けます。
この「全体像フェーズ」と呼ばれる段階では、多くの人からアイデアを否定されることが多いですが、それぞれの否定には理由があります。これらのフィードバックを元に、アイデアの実行可能性を検証し、反対意見に対処する方法を模索します。
次に、自分のアイデアを支持する証拠を集め、問題の実証、解決策の確立、市場の潜在性、ビジネスモデルの検証を行い、競合分析を加えるステップへと移ります。この段階で、投資家にアプローチする準備を整えます。
レヴィーンは、理論と現実の間に大きな隔たりがあることを強調し、理論だけでなく、現実的な検証を進めることの重要性を説いています。初期の検証を通じて得られる結果を基に、次のステップの検証へと進むべきだと説いています。
この反復的なプロセスを通じて、PMF(Product Market Fit)、GTM戦略、ビジネスモデル、スケールアップ、成長、海外展開などの課題に対する解決策を見出すことができます。
投資家に、「これが私の計画で、PMFで、ビジネスモデルで、成長で、5年後に海外展開します」と言うべきだ。
起業家が投資家を説得するには、自身が何をしているかを明確に示し、計画通りに実行することが重要です。具体的には、初期段階で「全体像フェーズ」を終えることが必要です。このフェーズでは、自分のビジョンや計画に対する確信を持ち、提案されたビジネスモデルや市場進出戦略(GTM)、予算計画などに対して、投資家が持ちうる疑問に答えられる準備をします。
たとえば、競合について質問された場合は、競合企業の名前を挙げて、自社のビジネスモデルがどう異なるかを説明します。 また、プレゼンテーション資料やエクセルシート、その他の必要書類の準備が重要で、これによってビジネスプランの信頼性を高めます。
問題や解決策の具体的な検証は、投資を受けた後の段階で行うことが多いため、初期の段階では確固たる確信を持って進めることが肝心です。この確信が投資家に安心感を与え、プロジェクトへの投資を促します。
しない経営がスタートアップに必要な理由
スタートアップが成功するためには、唯一の正しいことだけを行なう必要がある。それができるようにするためには、しないことを決める必要がある。
スタートアップが成功するためには、フェーズごとに「最重要事項(MIT=Most Important Thing)」を特定し、その事項に集中する必要があります。
たとえば、資金調達のフェーズでは、他のどの活動よりもそれが最優先されますが、資金が確保された瞬間から、焦点は次の重要なフェーズに移ります。 具体的には、最初に製品開発が中心であれば、その段階ではプロダクトリーダーがチームで最も重要な人物になります。
しかし、製品が完成し、市場適合(PMF)を達成した後は、焦点がマーケティングや新しい事業開発に移るべきです。これは、プロダクト開発が一段落ついた後でも、継続的な改善と進化が求められるということを意味しており、スタートアップにおいては、常に次のフェーズを見据える柔軟性が必要です。
このように、スタートアップは「フェーズごとの取り組み」を通じて、各段階での集中を高めることが求められます。戦略やリーダーシップの段階では、どのMITに焦点を当てるかを決めることがカギとなり、実行段階ではそのMITの達成に向けて努力が集中されるべきです。この方法により、スタートアップは目前の課題を効率的にクリアしつつ、次のステージへとスムーズに移行することができます。
スタートアップにおいて、事業の成長と進化はフェーズに応じて異なる部門やメンバーが最も重要になることが特徴です。例えば、収益化を考えている際にはCRO(Chief Revenue Officer)が中心となり、スケールアップを進める段階ではCMO(Chief Marketing Officer)が重要な役割を果たします。
各フェーズが終了すると、その時点で重要だったポジションの重要性が変わり、関連するメンバーは新たな役割に移行することが一般的です。
特に重要なフェーズは、PMF(Product Market Fit)です。これは顧客が継続的に製品を利用し、高い顧客維持率を示すことで測定されます。PMFを達成することができれば、企業は正しい方向に進んでいると言えますが、達成できなければ事業は困難を極めるでしょう。
グーグル、アマゾン、ネットフリックス、テスラ、フェイスブック(メタ)を含む、約50社の成功したIT企業の全体価値を考えた場合、その価値の大部分は企業設立後の初めての10年間で形成されたわけではありません。実際には、その期間で創出された価値は全体の約4%に過ぎません。
残りの96%の価値はPMF、ビジネスモデルの確立、そしてその後の成長フェーズを経て生み出されたものです。このデータは、長期的な視点での事業戦略の重要性と、初期段階を超えた持続的な成長の必要性を浮き彫りにしています。
会社の発展において最も重要なフェーズは、PMFです。このフェーズでは、ユーザーに価値を提供し続けることが極めて重要で、その成否が企業の生死を分けます。PMFは顧客維持率や月間アクティブユーザー数(MAU)などの指標を用いて測定されます。
この段階では、ユーザーに最大の価値を提供することに全力を尽くし、他の事業活動は最小限に抑えるべきです。プロダクトのロードマップは、主に顧客維持率の向上に焦点を当て、事業開発やマーケティングのような活動は控えめにすべきです。こうすることで、組織はスリムで効率的な運営が可能となり、予算の節約も期待できます。
一般的に、PMFを達成するのには2~3年かかります。その後、通常はスケールアップや収益化に関するフェーズに移行します。初期段階で複数のフェーズに同時に取り組むのは避けるべきです。PMF達成前に多くのタスクに資金を投じ過ぎると、マーケティングやセールスの強化にプレッシャーを感じ、不必要な支出が増加し、資金の燃焼率が高まります。
それまで10人だったメンバーが20人になれば、毎月のバーンレート「資金燃焼率:会社経営でーカ月あたりに消費するコスト」は2倍になる。現金が続く期間は半分になる。
これは組織のリソースを消耗させ、ランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を危険に晒します。 従って、PMFに達していない状態で資金が底をつくと、新たな資金調達は極めて困難になります。
スタートアップ初期の投資家はCEOやビジネスのストーリーに魅力を感じて投資するかもしれませんが、企業が成長するにつれて、投資家はCEOがストーリーを実現できると信じることが求められます。したがって、フェーズごとに焦点を絞り、必要なタイミングでのみ資金を使うよう心掛けることが、企業成長の鍵となります。
スタートアップが最も危険な瞬間は、実際にはPMFに達していないのに、達したと誤解してしまう時です。この誤解から、営業活動に早急に移行し、営業組織を拡大することで、経費が急激に増加し、現金が急速に減少します。また、顧客が満足していない製品を販売しようとすると、営業スタッフも士気が低下し、販売が難しくなります。
この結果、再び製品開発に戻る必要が生じ、多くの時間と資本を無駄に消費することになります。 そのため、スタートアップではPMFをしっかりと確認し、実際に顧客からの肯定的なフィードバックを得てから、次のステップへ進むことが重要です。
その際、CEO自身が最初の顧客と直接交渉し、市場から直接フィードバックを受け取ることが理想です。営業組織の拡大は、顧客との初期の取引が成功してからでなければ、考えるべきではありません。 さらに、プロダクトの使いやすさを極めることが重要です。
複雑すぎるプロダクトは顧客に受け入れられにくく、簡潔で直感的な操作が求められます。例えば、ユーザー登録が煩雑であると、多くの潜在的な顧客を失うことになります。プロダクトがシンプルであればあるほど、顧客はそれを使い続ける可能性が高まります。
製品の使用頻度は多くの理由から非常に重要です。まず、製品が頻繁に使われることは、ユーザーに価値を提供している明確な証拠です。これにより、顧客維持率が向上し、PMFの達成可能性が高まります。
さらに、頻繁な使用はクチコミによる自然な宣伝効果を生み出し、新しい顧客の獲得につながるため、企業の成長に大きく寄与します。 製品の使用頻度が高い場合は、PMF達成後に成長フェーズに移るのが自然です。
一方で、使用頻度が低い場合は、成長を目指す前にビジネスモデルを再考するべきです。なぜなら、使用頻度が低いと、クチコミを通じた顧客獲得が期待できず、新規顧客の獲得コストが増加するためです。また、成長を実現するためには時間がかかり、その間に資金が尽きる可能性があります。
資金のランウェイが3年あれば、使用頻度が低くても成長を目指すことは可能ですが、クチコミが期待できない場合、新しい顧客獲得のための出費が増えるため、成長は難しくなります。もし資金のランウェイが12~18ヶ月しかない場合は、まずビジネスモデルの見直しから始め、それによって追加の資金調達が可能になれば、その後で成長フェーズに進むのが望ましいです。
マーケットリーダーやユニコーンになるための5つの要素
市場のリーダーやユニコーン企業になるためには、以下の5つの要素が重要です。
①必要とされるプロダクトの提供
プロダクトは市場から求められ、実際に頻繁に使用されるものである必要があります。顧客の問題を解決し、その利便性が高いものであれば、長期的な成功が見込めます。
②大きな市場の存在
成長を続けるためには、製品やサービスが対象とする市場が十分に大きく、拡張可能であることが必要です。広い市場をターゲットにすることで、より多くの顧客を獲得し、ビジネスのスケールを大きくできます。
③高い顧客生涯価値(LTV)
効果的なビジネスモデルは、顧客一人ひとりから得られる生涯価値を最大化します。高いLTVを実現することは、持続可能な成長と利益の確保に直結します。
④ユーザーの増加と海外展開
国内市場だけでなく、国際市場にも進出し、ユーザーベースを拡大することが重要です。多様な市場への展開は、リスクの分散と収益の増加につながります。
⑤成功に不可欠な未知の要因(カッコよさ)
商品やサービスが持つ独特の魅力やイノベーションは、顧客の関心を引き、市場での成功を左右します。この「カッコよさ」は、製品がトレンドになり、競合他社との差別化を図る要因となります。
ビジネスモデルを構築する際には、顧客がどのような価値に対してどれだけの金額を支払うのかを明確に定義することが重要です。
具体的には、提供する製品やサービスが生み出す価値の10~25%が、理想的な収益の範囲となります。たとえば、あなたの製品が企業のコストを年間100万ドル削減する場合、その10万ドルから25万ドルがあなたの収益となるべきです。
この価値提案は、シンプルで説明しやすく、時間が経過するにつれてユーザー数や使用頻度が増加することで成長するよう設計されていることが望ましいです。収益モデルを設計する際には、以下の重要な質問に答える必要があります。
・市場規模
提案されたビジネスモデルで対象となる市場は十分に大きいか?そして、その市場は成長しているか?
・収益性
提供する価値に基づいて、持続可能な収益を生み出すことが可能か?
・ユニットエコノミクス
顧客一人あたりのコストと収益のバランスは取れているか?
これにより、各顧客が経済的に意味のある貢献をしているかがわかります。 顧客が製品に興味を持つかどうかは、提供される価値とその価格が適切なバランスにあるかに依存します。顧客が価値とコストの比較を行い、価格が妥当であると感じた場合には、製品を試す意欲が高まります。
このプロセスには、顧客に約束する具体的な価値(収益の増加、コストの削減、市場投入までの時間の短縮など)を明確にし、それを達成するための戦略が必要です。これらの価値が明確であればあるほど、ビジネスモデルは成功しやすくなります。これらの要素を兼ね備えた企業は、市場での強い地位を築き、持続的な成長を達成する可能性が高まります。
結局のところ、スタートアップにとって重要なのは、顧客から直接学び、フィードバックをもとにプロダクトを磨き上げることです。市場のニーズに合致したプロダクトが確立された後に、ビジネスモデルを構築し、収益化へと進むべきです。この一連のプロセスを正しく実行することが、スタートアップの成功に不可欠です。
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