機能拡張
坂田幸樹
クロスメディア・パブリッシング
機能拡張 (坂田幸樹)の要約
AIで知識や能力が簡単に拡張できる時代、真の差別化は抽象化能力にあります。具体から本質を見抜き、広い視点で問題を捉える力が重要です。日常的な思考実験を通じてこの能力を磨くことで、AIにはない独自の視点や発想が生まれ、それがAI時代における私たちの真の価値となります。
仕事の5つのステップとAIで置き換えられること
AIの進歩によって人間の「機能拡張」が起きているということである。 AIが進化したことによって、人間側が変化していることがわかる。(坂田幸樹)
人類の歴史を振り返ると、私たちは常に自らの能力を拡張し続けてきました。かつては自動車の発明により移動能力を、インターネットの登場によって情報収集・発信能力を飛躍的に向上させました。このような技術革新による機能拡張は、個人だけでなく組織にも当てはまります。AppleやGoogleは他社のM&Aや業務提携、外部サービスの活用を通じて、自社の機能を一気に拡張してきました。
近年のデジタル革命により、誰もが容易にデジタル技術を用いて自らの機能を拡張できる時代が到来しつつあります。特に注目すべきは、生成AIの台頭です。この新しい技術は、個人や組織の能力を大きく増強する可能性を秘めています。
日本が今後さらなる発展を遂げるためには、この生成AIをはじめとするデジタル技術を積極的に活用し、国全体として機能拡張を図ることが重要です。企業、教育機関、行政など、あらゆる分野でAIを取り入れることで、生産性の向上や新たな価値創造が期待できます。
事業の発展には様々な段階があり、それぞれの段階で求められるスキルが異なります。著者はそのスキルを「アート」「サイエンス」「クラフト」に分類します。
立ち上げ期には、壮大なビジョンを描く「アート」が強く求められます。新たな事業を成功させるためには、創造性豊かな発想と、将来を見据えた大胆な構想が不可欠です。
しかし、この段階でも資金繰りに詰まることがあり、そのような時には「サイエンス」の冷徹な目が必要となります。 事業が軌道に乗って成熟してくると、安定して運営するための「クラフト」が求められるようになります。日々の業務を効率的に遂行し、品質を維持しながら成長を続けるためには、高度な技術と経験に基づいたスキルが重要となります。
そして、事業が衰退期に入ってきたときには、事実に基づいて冷徹な意思決定をするためのサイエンスが重要になります。客観的なデータ分析と論理的な思考に基づいて、事業の方向性を見直す必要があります。
ただし、衰退した事業をピボットするためには、再びアートの力が必要になることもあります。 人が一人でできることには限りがあるため、個人で身につけられないスキルはパートナーと補い合う必要があります。そして、その強力なパートナーとして出現したのが生成AIです。生成AIは、人間の能力を大幅に拡張し、これまで困難だった多くのタスクを可能にします。
どのような仕事も「問いの設定」「インプット」「変換」「アウトプット」「判断」の5つに分けることができます。その中でも特に大切なのが、すべての起点となる「問いの設定」です。間違った問いや、あいまいな問いを設定してしまうと、その後のプロセスすべてが影響を受けることになります。
生成AIの登場により、インプット、変換、アウトプットの多くが代替されることで、問いの設定と判断の価値が相対的に高まっています。これらの能力を磨くことが、今後の仕事において一層重要になってきます。 従来のT型人材では、専門性を表す縦棒が重視されてきました。しかし、生成AIの時代においては、幅広い知識を表す横棒がより重要になってきています。
従来のT型人材では、専門性を表す縦棒が重視されてきました。しかし、生成AIの時代においては、幅広い知識を表す横棒がより重要になってきています。そのために必要なのは、「現代式詰め込み教育による一般教養」と「経験に基づいた一般常識」です。
この2つの違いは、教科書に載っているものと載っていないもの、あるいは形式知化されているものといないものということになります。幅広い知識と経験が、複雑な問題に対する適切な問いの設定と、的確な判断を可能にするのです。
生成AIによる業務の自動化が進む今後は、従来の専門領域は縮小していきます。代わりに、AIを使いこなし、適切な問いを設定し、AIの出力を正しく判断できる人材が求められるようになります。 このような変化の中で、これからの時代に求められる人材像が浮かび上がってきます。それは、幅広い知識と経験を持ち、複雑な状況下で適切な問いを設定し、AIの助けを借りながらも最終的な判断を下せる人材です。
生成AIは強力なツールですが、それを使いこなすのは依然として人間です。AIと協調しながら、人間にしかできない創造的な思考や倫理的な判断を行うことが、これからの仕事において重要になってくるでしょう。
この新たな人材像を育成するためには、教育のあり方も変化する必要があります。単なる知識の詰め込みではなく、幅広い分野の知識を関連付け、応用する力を養う教育が求められます。
同時に、実社会での多様な経験を通じて、教科書には載っていない一般常識や、状況に応じた判断力を身につけることも重要です。 生成AIの時代において、私たちは仕事のあり方や求められるスキルの大きな変化に直面しています。しかし、この変化は脅威ではなく、むしろ人間の可能性を広げるチャンスだと捉えるべきです。
AIと協調しながら、人間にしかできない創造的な問いの設定と判断を行うことで、私たちはこれまで以上に価値ある仕事を生み出すことができるでしょう。そのために、幅広い知識と経験を積み重ね、常に学び続ける姿勢が重要となるのです。
機能拡張時代には抽象度が重要なスキルになる!
業界がなくなっているのだから、1つの業界に特化した知識を身につけることの価値が次第に低下していく。
生成AIの登場により、教育の在り方が大きく変わろうとしています。YouTube動画よりもさらに効率的に、一人一人の理解度に合わせて教えることができるようになりました。これにより、誰でも教科書に載っている形式知化された一般教養を効率的に身につけることが可能になります。
著者が住むシンガポールでは、すでに義務教育にAIを取り入れ、生徒ごとにパーソナライズした教育を提供し始めています。PISA調査の複数分野で世界首位の学力を誇るシンガポールの学生がさらに強化されれば、これからの時代にさらなる機能拡張が期待できます。
生成AIによって質の高いアウトプットが量産されることが予想される中、デジタル革命の結果、業界や専門領域の垣根がなくなりつつあります。
私の大学の授業でも生成AIを使うことが前提になっていますが、学生の問いの力によって、導き出す答えが変わってきます。その際、重要になってくるのが、経験値と広範な知識になってきます。
生成AI時代に他者と差別化するには、業界や専門領域を横断した幅広い一般教養を身につける必要があります。生成AIの力を使えば、学習のパーソナライズの品質を一気に向上させて、一般教養の学習効果を高めることができます。
しかし、あらゆるものがデジタル化された世界では、リアルな経験に基づいたアナログな要素で差別化することが重要になります。メディアが発達して対面以外でのコミュニケーションが増えた結果、空気による支配よりも優れたコンテンツをつくることが重要になっています。 情報のデジタル化が進んだことによって情報の非対称性がなくなっているため、質の高い問いの設定と判断が求められるようになっています。
この中で、思考に大きな影響を与える言語化能力、特に「具体と抽象」の能力が重要になってきます。言語化能力はトレーニングによって習得可能であり、これを高めることで一般教養と一般常識の習得に直接役立ちます。 生成AIの出現によって、人間には到底及ばないレベルでの構想ができるようになり、前提となる情報を与えれば瞬時に解決策を考えてもらえる時代が到来しつつあります。
このような時代だからこそ、より長期的かつ広範な視点で問題を考えるネガティブ・ケイパビリティが重要になると著者は指摘します。ネガティブ・ケイパビリティとは、不確実性や矛盾、曖昧さに耐える能力のことを指します。生成AIが短期的な解決策を瞬時に提示できる時代において、人間にはより深い洞察力と長期的な視点が求められます。
これは、単なる知識の蓄積だけでなく、多様な経験や異なる分野の知識を統合し、複雑な問題に対して柔軟に対応する能力を意味します。 このような能力を育成するためには、従来の教育方法に加えて、実践的な経験や多様な分野との交流が重要になります。生成AIを活用した効率的な学習と、リアルな経験を通じた深い理解を組み合わせることで、より高度な思考力と判断力を養うことができるでしょう。
また、生成AIの時代においては、情報を単に受け取るだけでなく、その情報の質や信頼性を評価する能力も重要になります。クリティカルシンキングや情報リテラシーの育成が、これまで以上に教育の中心的な課題となるでしょう。
さらに、生成AIと人間の協働が進む中で、人間特有の創造性や倫理的判断力の重要性が高まります。AIが提示する解決策や情報を、人間の価値観や倫理観に基づいて評価し、適切に活用する能力が求められるのです。
このように、生成AIの時代における教育は、効率的な知識習得と深い思考力の育成、デジタルスキルとアナログ経験の融合、そして人間特有の能力の強化という多面的なアプローチが必要となります。これらを通じて、学生たちは急速に変化する社会に柔軟に適応し、新たな価値を創造する力を身につけることができるでしょう。
AI時代に人間力と個性が重要な理由
デジタル革命が起きて、誰にでもできることが増えたことは素晴らしいことだ。また、生成AIを使えば、誰にでも一定の品質の解を出すことができる。だからこそ、自ら抽象化して差別化するための方法を考える必要があるのだ。 私たちは日常的に思考実験をしているが、多くの場合唯一解がなく、そうした問題を解くための訓練を意識的に積むことが重要。
特に生成AIの登場により、一定の品質の解を誰もが簡単に得られるようになりました。これは確かに素晴らしい進歩であり、多くの可能性を私たちにもたらしていることは間違いありません。
しかし、このような状況だからこそ、私たちは自らを差別化する方法を考える必要があります。誰もが同じツールを使って同じような結果を出せるのであれば、そこに個人の価値をどのように付加するかが重要になってくるのです。 その鍵となるのが、抽象化能力です。
具体的な事象から本質を見抜き、より広い文脈で問題を捉える力が求められます。この能力は、日常的に行っている思考実験を意識的に洗練させることで培うことができます。 思考実験は、多くの場合唯一の正解がありません。むしろ、様々な可能性を探り、異なる視点から問題を考察することに意義があります。そのため、このような問題を解くための訓練を意識的に積むことが重要になってきます。
思考実験には、主に4つのステップがあります。まず「問いの抽象化」です。具体的な事象から本質的な問題を抽出し、より普遍的な形で問いを立てます。次に「解像度の高い具体事例の書き出し」を行います。抽象化された問いに対して、できるだけ詳細で具体的な事例を考えることで、問題の多面的な理解を深めます。
3つ目のステップは「判断軸の設定」です。問題を評価するための基準を明確にし、異なる選択肢を比較検討するための枠組みを作ります。最後に「問いの再設定」を行います。これまでの思考プロセスを踏まえて、最初の問いを見直し、より本質的あるいは効果的な形で問題を再定義します。
このようなプロセスを通じて、私たちは単なる情報の消費者や処理者ではなく、創造的な思考者になることができます。誰でも知っているプロンプトや問題解決手法を使うだけでは、真の意味での差別化は難しいでしょう。むしろ、独自の問いを立て、出てきた答えを適切に判断するための基礎能力を身につけることが本質的に重要なのです。
生成AIを使えば、誰でも簡単にマーケティング戦略や事業計画を立てることができるかもしれません。しかし、その戦略や計画が本当に自社の状況や市場環境に適しているかを判断し、必要に応じて修正を加えられるのは、人間の洞察力と経験に基づいた判断力です。
また、教育の分野でも同様のことが言えます。生成AIによって、個別最適化された学習プランや教材を作成することが可能になるでしょう。しかし、それらを効果的に活用し、学習者の真の理解と成長を促すためには、教育者の深い洞察と柔軟な対応が不可欠です。
さらに、芸術や創作活動においても、生成AIは新しい可能性を開いています。しかし、真に心を動かす作品を生み出すためには、人間ならではの感性と、独自の視点から問いを立てる力が重要になってくるでしょう。 このように、デジタル革命と生成AIの時代において、私たちに求められているのは、テクノロジーを使いこなす能力だけではありません。
むしろ、テクノロジーが提供する情報や解決策を批判的に評価し、独自の視点から問題を捉え直す能力が重要になっています。 そのためには、日常的な思考実験を通じて、抽象化能力と具体化能力のバランスを取る練習を続けることが大切です。また、多様な分野の知識を積極的に吸収し、異なる視点から問題を考察する習慣が自分をアップデートしてくれます。
デジタル革命と生成AIの時代において、真の差別化を図るためには、独自の問いを立て、多角的な視点から問題を捉え、適切な判断を下す能力を磨くことが不可欠です。これは一朝一夕には身につかない能力ですが、継続的な思考訓練と実践を通じて、徐々に培っていくことができます。この能力こそが、急速に変化する社会において、私たち一人一人が価値を生み出し続けるための基盤となるのです。
この独自の問いを立てることを私も意識していますが、生成AIとの壁打ちを習慣化することで、生産性がアップしています。読書によるインプットと体験というアウトプットから生まれた問いをAIに投げることで、新たアイデアが浮かんできます。
私たちが自らの意思で問いを立て、自ら判断することをやめなければ、無駄な消費行動に終止符を打つことができる。そればかりか、生成AIによる機能拡張を実装できれば、私たちは人間らしさを取り戻すこともできる。
現代社会において、私たちの日常生活は技術に深く浸透されています。特にスマートフォンやソーシャルメディアは、私たちの行動に大きな影響を与えています。パーソナライズされた通知や、SNSに投稿される友人の行動は、私たちの意思決定や消費行動を知らず知らずのうちに左右しています。
このような環境下では、私たちは往々にしてキーワード化された消費行動を繰り返してしまいがちです。例えば、特定のブランドや商品に関する情報が頻繁に目に入ることで、それらへの欲求が人為的に高められることがあります。
また、友人や知人の購買行動や体験談を SNS で見ることで、自分もそれを欲しくなったり、同じような経験をしたくなったりすることもあるでしょう。 しかし、この状況は決して固定的なものではありません。私たちが自らの意思で問いを立て、自ら判断することを怠らなければ、このような無駄な消費行動に終止符を打つことができます。
つまり、テクノロジーに振り回されるのではなく、テクノロジーを主体的に活用する姿勢が重要なのです。 例えば、スマートフォンの通知設定を見直し、本当に必要な情報だけを受け取るようにすることができます。また、SNS の使用時間を意識的に制限し、代わりに自己省察や深い思考の時間を設けることで、他者に人生をコントロールされずにすみます。
このような小さな行動の積み重ねが、私たちの意思決定の質を高めることにつながります。 さらに、生成AI による機能拡張を適切に実装することで、私たちは人間らしさを取り戻すこともできます。生成AI は、膨大な情報処理や複雑な計算を瞬時に行うことができますが、それを活用するのは他でもない私たち人間です。AI を使って情報を整理し、選択肢を広げることで、より深い洞察や創造的な発想が可能になるのです。
例えば、日常的な作業や定型業務を AI に任せることで、人間はより創造的で価値の高い活動に時間を割くことができるようになります。空いた時間を生成AIを活用しながら、クリエイティブなことに使うことも有効です。生成AI を使って様々な視点からの情報を収集し、それらを統合して新しいアイデアを生み出すことができます。
生成AI を上手に活用することで、私たちは情報の洪水に埋もれることなく、本質的な問題に焦点を当てることができます。そして、その過程で自らの価値観や判断基準をより明確にすることができるのです。 しかし、これらの変化は一朝一夕には実現しません。
自らの行動パターンを意識し、必要に応じて修正していく継続的な努力が求められます。また、生成AI などの新しい技術を効果的に活用するためには、それらの特性や限界を理解し、適切に使いこなすスキルを身につける必要があ流のです。
コメント