生成AI 真の勝者 (島津翔)の書評

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生成AI 真の勝者
島津翔
日経BP

生成AI 真の勝者 (島津翔)の要約

本書は、AIの最新動向を単に技術的な側面から捉えるだけでなく、その背後にある人々や企業の物語を丁寧に描き出しています。GAFAMやエヌビディア、そして数多くのAIベンチャー企業の動きを通じて、AIがもたらす変化を読み解くことができます。読者はAIの技術だけでなく、社会の変化に対する洞察を深めることができます。

生成AI市場の勝者は誰か?

2023年に起こった空前の生成AI(人工知能)ブーム。ChatGPTが鳴らした号砲は、米グーグルや米マイクロソフトなど巨大テック企業が総参戦する大競争時代を告げた。「生成AIゴールドラッシュ」とも呼ぶべきこの時代も、採掘者を採掘する動きが起こり、ピック&ショベル企業が登場し、新たな経済圏が生まれるはずだ。(島津翔)

シリコンバレー駐在記者として活躍する島津翔氏が、注目の新刊生成AI 真の勝者を上梓しました。本書は、急速に進化を遂げるAI技術の最前線を取材し、その革命がもたらす新たなビジネスチャンスと可能性を探る意欲作です。

島津氏は、長年にわたりテクノロジー業界を取材してきたジャーナリストです。シリコンバレーというイノベーションの中心地に身を置き、AIの発展を間近で観察してきた彼の視点は、読者に独自の洞察を提供します。

本書では、AIの最新動向だけでなく、その背景にある人々や企業の物語も丁寧に描かれています。例えば、OpenAIやAnthropic(アンソロピック)など、AIスタートアップのテクノロジーの進化、そしてGoogleやMicrosoftといった巨大テック企業のAI戦略の裏側など、普段は知ることのできない興味深いエピソードが満載です。

2023年は、生成AIの技術が急速に進化し、その利用が爆発的に広がった年として記憶されるはずです。この動きの先駆けとなったのが、OpenAIが提供するChatGPTでした。この高度な自然言語処理能力を持つAIが、一般消費者や企業に与えたインパクトは計り知れません。次第に、グーグルやマイクロソフトといった巨大テック企業もこの分野に注力し、熾烈な競争が始まりました。

生成AIブームの中で、新たに注目を集めたのが「ピック&ショベル企業」です。これは、生成AI技術を直接提供するのではなく、その技術を支えるインフラやツールを提供する企業のことを指します。ゴールドラッシュ時代において、金鉱を掘り当てるための道具や資材を提供する企業が成功を収めたように、生成AIの時代においても、これらの企業が重要な役割を果たすことが期待されています。

生成AIブームにより、新たな経済圏が形成されつつあります。エヌビディアやAMDなどの半導体企業からクラウドプロバイダー、データ管理企業、セキュリティ企業まで、多様な分野の企業がAIエコシステムを支えています。

生成AIの活用は、さまざまな業界に革新をもたらし、新しいビジネスモデルやサービスが次々と登場しています。例えば、生成AIを利用したカスタマーサポート、自動化されたコンテンツ生成、さらには医療や教育分野における応用など、その可能性は無限大です。

著者は、ChatGPTやGeminiを評価する一方で、生成AIのスタートアップ・アンソロピックが注目されている理由を明らかにしています。アンソロピックは高性能な次世代AIモデル「Claude 3(クロード3)」を発表しました。

このモデルはマルチモーダル対応で、テキストと画像の組み合わせが可能であり、数学、プログラミング、大学生レベルの知識、質問に対する回答力など多岐にわたるベンチマークで、OpenAIのGPT-4やGoogleの「Gemini 1.0 Ultra」を上回る性能を誇ります。

クロード3は用途に応じて3種類のモデルを提供しています。最も高性能な「Opus(オーパス)」、応答の速さが特徴の「Sonnet(ソネット)」、コンパクトでコストパフォーマンスに優れた「Haiku(ハイク)」です。これらのモデルは100万トークン以上の入力が可能で、Googleの最新モデル「Gemini 1.5 Pro」と同等の入力トークン長を持っています。

オーパスは特に言語理解の基準であるMMLU(Massive Multitask Language Understanding)など複数のベンチマークでGPT-4やGemini 1.0 Ultraを凌駕し、現行モデル「クロード2.1」と比較しても精度が大幅に向上しています。これにより、159の国・地域でAPIを通じて利用可能となっており、日本のエンジニアからも高い評価を受けています。

さらに、アンソロピックは安全性においても優れており、共同創業者のジャレッド・カプランによれば、過去2年間にわたり安全性の研究をモデルに統合する取り組みを続けてきたと言います。

著者の島津氏もオーパスの有料版を使用し、次のような評価を下しています。アンソロピックは日本語での推論能力が非常に高く、ChatGPTと比較してもより自然な日本語での推論が可能だと言います。アンソロピックは、今後AIモデル競争において有力なプレーヤーとして台頭する可能性が高まっています。

私もアンソロピックを使っていますが、精度が高いため、ChatGPTやGeminiよりも使用頻度が高まっています。今後の生成AI市場がアンソロピックのクロード3、ChatGPT、Geminiの三つ巴の競争状態になるのではと私も考えています。

生成AI市場が急速に拡大する中、グローバルな巨人たちだけでなく、特定の言語や分野に特化したAI企業にも大きな可能性が開かれつつあります。特に日本語に特化した高性能AIの需要が高まっており、この分野で独自の強みを持つ企業の台頭が期待されています。

サカナAIの伊藤COOは、将来的には約10社のAI企業が市場で生き残ると予測しています。この見解は、AI市場が単一のプレイヤーによる独占ではなく、複数の特徴ある企業が共存する多様な生態系となる可能性を示唆しています。

確かに、アンソロピックやOpenAI、グーグルといった大手企業が市場を牽引する一方で、特定の言語や産業分野に特化したAI企業にも大きなチャンスがあります。サカナAIの今後の活躍にも期待したいと思います。

エヌビディアがAI半導体の勝者になれた理由

「赤のフェラーリ」を想像する時、頭の中でそのイメージを作っているわけですから。つまり、思考している時、我々は脳の中でグラフィックを描いているとも言える。そう考えると、思考というのはコンピューターグラフィックスと似ていると考えることができます。(ジェンスン・ファン)

AI半導体の勝者のエヌビディアのCEOジェンスン・ファンは、思考とコンピューターグラフィックスの類似性から、GPUの半導体開発を行い、今のポジションを獲得していったのです。

エヌビディアのGPUが、AI開発の世界に革命をもたらしました。世界シェアの8~9割を占めるこの特殊な半導体は、その並列演算能力によってAI技術の飛躍的な進歩を可能にしました。

・GPU・・・数千の計算ユニットが同時に作業を行う「並列演算」に特化
・CPU・・・1つずつ順番に処理を行う「逐次演算」が得意
この違いを例えるとCPUは1人の天才の頭脳で GPUは数千人が同時に計算する巨大な研究所だと言えます。

2012年、グーグルはAI分野での革命的な一歩を踏み出しました。1000万枚の画像を学習させることで「ネコを認識するAI」を開発したのです。このプロジェクトは、AIが初めて「ネコ」という概念を理解することに成功し、大きな話題を呼びました。しかし、この大規模な計算にはCPUをベースにしたサーバー1000台が必要でした。

CPU(中央演算処理装置)は、「逐次演算」に適しており、1つの計算の後に次の計算を行うための設計となっています。これは非常に高度な計算を必要とするAIプロジェクトにおいて、多くのリソースを消費する手法でした。

その翌年、2013年6月に米スタンフォード大学人工知能研究所は、エヌビディアと共同で新たなAIネットワークを構築しました。彼らはGPUを用いて、わずか3台のサーバーでグーグルの6.5倍の規模を持つAIネットワークを実現しました。GPUは「並列演算」に優れており、複数の計算を同時にこなす能力が特徴です。GPUは数千人が同時に計算をする研究所のようなものであり、CPUの逐次演算とは根本的に異なるアプローチを取ります。  

スタンフォード大学とエヌビディアのプロジェクトは大きな注目を集め、その後グーグルもGPUを採用するようになりました。この出来事はAI分野におけるGPUの重要性を強調するものであり、現在もその重要性は増し続けています。GPUは高い並列処理能力を持つため、大規模なデータ処理や複雑な計算を必要とするAIプロジェクトにおいて不可欠な存在となっています。

エヌビディアは、技術のパイオニアであり、その計算処理能力を最大限に引き出すための開発環境「CUDA(クーダ)」を提供しています。CUDAは、開発者がGPUを使ったアプリケーションを容易に開発できるようにするためのライブラリとツールの集まりです。これにより、GPUはもはやグラフィック処理に限定されることなく、科学計算や機械学習といった汎用計算にも広く利用されるようになりました。

エヌビディアがAI用途での成功を収めることができたのは、ハードウェアとソフトウェアの両方を手掛けることによるものです。GPUはAIにおけるディープラーニングの訓練において不可欠なツールとなり、CUDAはこれをさらに推進しました。AI研究者や開発者は、エヌビディアのGPUとCUDAを使ってニューラルネットワークの訓練を高速化し、より複雑なモデルを実行することができるようになったのです。

エヌビディアの成功を支えるもう一つの重要な要素は、その営業戦略です。彼らは市場を自ら作り出し、先進的なパートナーを「灯台型顧客」として位置づけるアプローチによって成長しているのです。

これらのパートナーは、製品や技術の導入だけでなく、問題解決の手法も提供し、エコシステム全体の発展を促進します。 エヌビディアはすでに高性能なスーパーコンピューターの分野でエコシステムを確立しており、トップレベルの研究者たちがそのプラットフォームに親しみを持ち、協力しています。

さらに、AI分野にも多大な投資を行い、そのエコシステムを強化しました。これにより、エヌビディアはAI分野でも強力な地位を確立しています。 エヌビディアの技術革新はとどまるところを知らず、次世代のGPUやソフトウェアプラットフォームの開発を続けています。

特に、自動運転、ロボティクスなど、新たな応用分野への進出が期待されています。エヌビディアの戦略は、単に製品を販売するだけでなく、技術の普及とそのエコシステムの拡大を目指すものであり、これが同社の持続的な成長を支える原動力となっています。

AI技術は日々進化を続けており、その中心には常にGPUがあります。エヌビディアは世界シェアの8~9割を占めており、その圧倒的な技術力がAIの進化を支えています。GPUは現在、ディープラーニングや機械学習、データ解析など、さまざまな分野で活用されており、その可能性は無限大です。 GAFAMも半導体メーカーに変身し、競争は激しくなりますが、今後もエヌビディアのGPUがAIの発展を牽引していくと著者は指摘します。

これからもAI分野におけるGPUの重要性は増し続け、新たな技術革新が期待されます。AI技術の未来を切り開く鍵となるのは、まさにこの高性能な演算装置であるGPUなのです。

また、AI開発プラットフォーム市場も急成長を遂げています。この市場の主流はクラウドベースのサービスであり、現在のところ大手3社(Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform)の優位性は揺るぎないものとなっています。 これらの大手プロバイダーは、豊富な資金力と技術力を背景に、包括的なAI開発環境を提供しています。

しかし、それ以外の特定のニッチ領域では、革新的なアプローチを持つスタートアップ企業が台頭する可能性も見られます。これらの企業は、大手にはない柔軟性や専門性を武器に、市場の一角を占める可能性があります。

一方で、AI技術の発展は地政学的な影響も無視できません。特に注目されているのが、中国のAI半導体産業の動向です。現在、高性能AI半導体の設計・製造能力は、主に米国を中心とする西側諸国に集中しています。しかし、中国が自国内で高性能なAI半導体を大量に製造できるようになれば、世界のテクノロジー地図が大きく塗り替えられる可能性があります。

もし中国が米国に匹敵する量と質のAI半導体を生産できるようになれば、現在各国・地域が実施しているハイテク製品の輸出規制を中心とする経済安全保障政策は、再考を迫られることになります。これは単にテクノロジー産業だけでなく、国際関係や地政学、経済政策にも大きな影響を与える可能性があります。

本書は、テクノロジーの専門家だけでなく、ビジネスパーソンや一般読者にも分かりやすく書かれています。AIという複雑な主題を、さまざまな視点から解説しているため、技術的な背景知識がなくても読み進められます。現在から未来のAIの動向や勢力地図を知りたい読者におすすめです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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