河合雅司氏の未来の年表の書評。静かなる有事が進行し、日本を蝕んでいる。

人口減少にまつわる日々の変化というのは、極めてわずかである。「昨日と今日の変化を指摘しろ」と言われても答えに窮する。影響を感じにくいがゆえに人々を無関心にもする。だが、これこそがこの問題の真の難しさなのだ。ゆっくりとではあるが、真綿で首を絞められるように、確実に日本国民1人ひとりの暮らしが蝕まれてゆく。この事態を私は、「静かなる有事」と名付けた。(河合雅司)


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静かなる有事が進行中

国会が閉幕しましたが、今の政治への期待値はどんどん下がっています。
数の力で暴走する友達中心の政治家たちはやりたい放題で
喫緊の課題ではない共謀罪や改憲などを押し進めています。
中国や北朝鮮の軍事力増強など、国防に置いても多くの課題がありますが
実は日本国内においても人口減少という「静かなる有事」が進行しています。
この問題を解決しない限り、日本はよくなりません。

産経新聞社論説委員の河合雅司氏は
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること
課題山積の日本の人口減少社会の問題点をわかりやすく整理しています。
河合氏は、日本という国家を滅ぼすためには銃弾一発すら不要だと指摘します。
子供が生まれなくなった日本の社会の行き着く果てに待ちうけるのは
日本という国家の消滅なのです。
本書が示す多くの人口推移のデータを読むと日本の最大のリスクが
人口減少問題であることがわかります。
若年層の減少と信じられないスピードで増え続ける高齢者が
既存の社会システムを破壊し、経済や組織、インフラに打撃を与えはじめています。

人口減少社会の4つの問題点と笑えない未来予測

河合氏は人口減少社会の4つの問題点を指摘します。
1、出生数の減少
2、高齢者の激増
3、勤労世代(20~64歳)の激減に伴う社会の支え手の不足
4、3つの問題が互いに絡み合って起こる人ロ減少
これらの問題が社会のあらゆる場面に影響をもたらし
私たちの生活を破壊していくのです。
最初の問題が起こるのが、団塊世代が高齢化する2025年です。
ここがスタートラインになり、次々に人口減少という爆弾が爆発していきます。
人ロボリュームの大きい団塊世代が75歳以上となる2025年頃には
病人だらけとなり、社会保障給付費が膨張するだけでなく
医療機関や介護施設が足りなくなるはずです。

そして、2021年頃には親の介護のための離職が増え始め
企業や公共団体の人材不足が深刻になります。
2025年を前にしてダブルケア(育児と介護を同時に行う)が大問題となり
フルタイムで働く人の確保が難しくなるはずです。
この年には東京都の人口もついに減り始めます。
2030年には地方都市から大学、銀行などの施設や
デパートやハンバーガーショップの店舗が消え始めます。
人口が減り、店舗の存在確率が低くなることで
地方を中心に多くの店舗が撤退を余儀なくされます。

団塊世代の死亡者が激増する2040年頃は火葬場不足に陥ると予測されています。
また、この頃には地方自治体も消滅の危機を迎えます。
人口が1万人以下の自治体が523に増え、日本の衰退が本格化します。
都市部や地方の各市町村ごとに様々な問題が続発し
個別の解決策を考えなければなりません。
地方が消滅すれば、日本全体が壊れてしまいます。
地方の人口現象のスピードを少しでも遅らせることも必要です。

また、高齢者数がピークを迎える2042年頃には、低所得の老人が増加します。
無年金・低年金の貧しく身寄りのない高齢者が街にあふれかえり
生活保護受給者が激増して国家財政がパンクするのではと心配されています。

少子化は国家や街中の安全・安心にも影響を与えます。
警察官や自衛隊員、消防士といった組織でも人員不足が問題になるはずです。
高齢者だらけの自衛隊や警察では、有事の際に国を守れませんし
街の治安も悪くなる一方で、暮らしづらい世の中になります。

若い力が乏しくなり、国防や治安、防災機能が低下することは即座に社会の破綻に直結する。2050年頃には国土の約2割が無居住化すると予測される。さらに時代が進んで、スカスカになった日本列島の一角に、外国から大量の人々が移り住むことになれば、武力なしで実質的に領土が奪われるようなものだ。

労働力人口が現状のまま落ち込むと、2030年には5683万人
2060年には3795万人と半減に近い数字が予測されています。
ここまで労働力が減ると日本経済が大きな打撃を受けるだけでなく
社会全体が機能不全に陥ると著者は指摘します。

そして、都市部と地方では異なる問題が同時に起こるはずです。
都市部では高齢者向けの介護施設や老人ホームが不足します、
地方自治体の財源が減る中で、老朽化した設備の修繕や人材確保に苦しみます。
地方に医者や技術者が移り住まないリスクも生まれるはずです。
若者が地方にいなくなる中で、高齢者しかいないスカスカの日本は
外国からの移民に乗っ取られるという笑えない話が
今後進行し、日本という国のあり方を変えてしまう可能性もあります。

既存システムの変更とイノベーションが鍵を握る?

これだけの問題を抱えているのに、私たちは人口問題から目をそらしています。
日本の人口を増やすことは、もはや現実的な選択肢にはなり得ません。
「未来の母親」候補が減っていく中で、いきなり少子化は止められません。
過去の人口政策の失敗が日本を徐々に蝕んでいくのです。
今の日本の政策では人口減少スピードを遅くするぐらいしか期待できません。

出生数の減少も人口の減少も避けられないとすれば、それを前提として社会の作り替えをしていくしかないであろう。求められている現実的な選択肢とは、拡大路線でやってきた従来の成功体験と訣別し、戦略的に縮むことである。日本よりも人口規模が小さくとも、豊かな国はいくつもある。戦略的に縮んでいくためには、多くの痛みを伴う改革を迫られるだろう。しかし、この道から逃げるわけにはいかない。国家の作り替えを成功に導くには、社会の変化を先取りし、まず持って人口減少社会の実態を正しく知らなければならない。

人口減少が当たり前になり、税収が増えない(減る可能性の方が高い)中で、
今の硬直的な支出を変えていくことが求められます。
日本の労働力人口は今後十数年で1000万人近くも少なくなる中で
既存のシステムを維持するのは不可能です。
私たちは、過去の成功体験を捨てて、新たな仕組み至急作らなければなりません。
若年層の減少をAIやロボティックスなどのイノベーションや
外国人労働者、高齢者の積極採用などを組み合わせて最適解を作る必要があります。
高齢者がピークを迎える2042年まで残された時間が少ない中で
今すぐ官民が連携してアクションを起こすべきです。
私たちには戦略的に縮んでいくしか、もはや選択肢がないのです。
最悪なのはこのまま何もせずに、滅亡への道を歩むことです。
残念ながら今の政府を見ているとこの問題よりも、改憲の方が重要に見えます。

私たち有権者の声が大きくならない限り、政治や官僚を変えられません。
2042年の近未来の日本を少しでも良くするためには
人口問題に対する意識を高め、社会の仕組みを変えることが肝心です
無策を続けると本当にやばいことになりそうです。 

最後に著者の10の処方箋を紹介します。
高齢者の定義を変えたり、24時間サービスを廃止するなどのアイデアは
今すぐにでも始められます。
この10の処方箋から議論をスタートするのもよいかもしれません。
日本を救う10の処方箋
1、「高齢者」を削減 
2、24時間社会からの脱却
3、非居住エリアを明確化 
4、都道府県を飛び地合併
5、国際分業の徹底 
6、「匠の技」を活用
7、国費学生制度で人材育成 
8、中高年の地方移住推進
9、セカンド市民制度を創設 
10、第3子以降に1000万円給付
ぜひ、本書をご一読いただき、人口減少社会の問題点を理解ください。

まとめ

本書の未来予測は、ほぼ正しいと思います。
50年後には現状の人口の70パーセントになり
現状の日本のシステムが、維持できなくなるはずです。
AIやロボティックスなどのイノベーションが
人口減少社会に中で一定の役割を果たしてくれそうですが
真の決定打になるかどうかは、まだわかりません。
日本という国家が消滅する可能性さえ指摘される中で
政治や国民はこの問題から目をそらすべきではないと思います。
新たな仕組みを至急議論し、新たな施策を組み合わせ
多くの問題点を柔軟に解決していくべきです。

今日もお読みいただき、ありがとうございました。
    

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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