中原圭介氏のAI×人口減少 これから日本で何が起こるのかの書評

「AIによる自動化」は今のところ、生産性を引き上げるのに加えて、人手不足を解消する手段として大いに歓迎されています。とりわけ日本では、目先の経済上のメリットが強調されるあまり、AIの爆発的な普及がもたらす雇用への悪影響は軽視さ一れる傾向が強まっているようです。早くも2020年代半ばには人余りが顕著になることなど、多くの国民が気づいていないのではないでしょうか。(中原圭介)


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2042年問題とは何か?

経済アナリストの中原圭介氏のAI×人口減少 これから日本で何が起こるのかを興味深く読みました。AIの普及による影響を短期・長期の両面んから見る必要があると中原氏は述べています。新しいテクノロジーAIによる自動化が動的な波となり、少子化による人口減少問題は、国民には気づきにくいため、静的な波と言えます。この2つの波が重なるこれから20年ほどのあいだに、日本の経済や社会の仕組みは激変し、私たちの仕事や給料生活は大きく変わっていくはずです。この未来を正しく認識して危機意識を持ったうえで、しっかりと対策を考える必要があるのです。

これから続く人口減少は凄まじいもので、2040年以降は毎年90万人づつ人口が減少し、和歌山県や香川県が毎年なくなるぐらいのインパクトがあります。出生率が低下することで若年人口も減少し、超高齢化社会になり、日本の社会や経済に深刻な影響を及ぼします。過去の政治の先送りが今の悲惨な状況を招いていますが、このなんでも先送りの体質が続く限り、なかなかこの危機を脱出できないと著者は指摘します。

25年後の2042年には団塊ジュニアが高齢者となり、全人口の3人に1人以上が高齢者になるという世界が未だかつて経験したことのない社会で私たち日本人は生きることになります。医療費・介護費用などを賄うためには(財政を破綻させない)最終的には消費税を33から39%にする必要があるのです。この試算は現実的ではないかもしれませんが、2042年問題を乗り切るためには、多くのお金がかかり、日本の財政は自転車操業に陥っているかもしれません。消費税だけでなく、所得税、社会保険料もアップする中で、国や市町村から受けられるサービスはどんどん低下していくはずです。

この暗い未来を打開するためのアイデア3つが本書に紹介されていました。
①社会保障を現状維持のままで、消費税を40%に引き上げる(正確な試算では33%~40%だが、わかりやすい選択肢とするために40%にしている)
②社会保障サービスを3割削減して、消費税を30%に引き上げる(正確な試算では29%~35%だが、わかりやすい選択肢とするために30%にしている)
③定年を75歳に引き上げて、消費税を20%に引き上げる(正確な試算では22%~25%だが、生活困窮者の減少や健康寿命の上昇を加味して20%にしている)
この中では、3番目の定年延長のアイデアがもっとも国民に納得してもらえそうです。

定年の75歳への引き上げは、働き手を増やすことで膨らむ年金支給額を抑えると同時に、健康寿命を延ばすことで医療費や介護費の膨張も止められます。実際、高齢者の労働参加率が高い地域では、高齢者一人あたりの医療費や介護費が少ないという因果関係が明らかになっています。また、高齢者が社会的つがなりを持つことで認知症も防げます。

東京商工リサーチによれば、日本では2017年に8405社が倒産し、会社の平均寿命は約24年にまで縮まってきています。大学を卒業して75歳まで働くとすれば、会社員生活は50年あまりになります。会社の平均寿命がその半分以下に落ち込んでいることから、1つの会社だけで50年を過ごせると考えるのは無理があります。

人間の寿命がわずかながらでも延び続けているのに対して、会社の寿命は着実に縮み続けてきています。双方のあいだに広がるギャップが大きくなればなるほど、特定の会社や仕事に頼り過ぎるリスクが高まっていくというわけです。

それでは、定年が消滅していく時代に、私たちはどのように働けばよいのでしょうか?

会社員のなかには老後のための資産運用に励む人々が多いですが、それ以上に重要となるのが人生の後半に向けて自らの技術や能力の向上に努めることです。技術革新の伝播のスピードが速く、ビジネスの多様化が進行しているなかで、人生の前半と後半でまったく違う道を歩むこともありえます。いかに自己研鐙を積み人生後半も仕事を維持できるかという視点が、会社員の人生設計には重要となってくるのです。

今後の高齢者の定義は代わり、「高齢者は75歳以上」となる可能性が高まっています。65歳から74歳までの人々は、むしろ経済を元気にする存在になると中原氏は指摘します。定年が75歳になると、年長者の持つ技術力やノウハウを若い世代に継承できるメリットがあります。高齢者の積極的な雇用は、日本の総体的な技術力が衰退するのを防ぐ手段にもなりえるというわけです。

 

AIやロボティックスによって、未来の雇用はどうなるか?

AIやロボティックスなどのテクノロジーの進化も私たちの働き方を変えています。パソコンを使ったデータ入力などの繰り返し作業を担う「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」によって、ホワイトカラーの仕事はどんどん減っていきます。RPAに作業の手順を覚えさせておけば、「ネットの検索→データの取得→データの入力→入力内容の確認」といった具合に、人と同じ手順で作業可能です。コンピュータは休まず黙々と動いているので、作業する速度は10倍、20倍にスピードアップし、生産性は高まります。 日本の企業におけるホワイトカラー業務の6割は定型業務化でき、そのうち8割をRPAで代替できるとされています。

RPAは定型業務の48%(60%×80%=48%)を担うことができるというわけです。それは裏を返せば、ルール通りに働いている仕事のおよそ半分はなくなるだろうと思ったほうがよいということです。RPAによる事務作業の効率化に加えて、AIが担う仕事の分野も確実に広がっていく見通しにあります。

RPAの導入が進むだけでも、事務作業のおよそ半分がなくなるだろうといわれています。そのうえ、AIの導入までも進むことになれば、RPAとAIの組み合わせによって、単純な事務作業の6割~7割は減らせるという試算もあります。

アメリカのマッキンゼー・グローバル研究所の調査研究によれば、2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者の仕事をRPAなどの自動化ソフトが代替するということです。さらには、2030年までに全世界で最大3分のー、通常の推計で15%の雇用がAIやロボットに置き換えられてしまうというのです。この動きは当然日本にも波及します。

その他の様々な調査研究でも、単純作業に従事する労働力は自動化によって5割〜7割減らせるといった分析がなされています。テクノロジーの進化によって、やがては高度な知識が求められる仕事も置き換えられてしまうのです。

これから10年後、20年後の大きな時代の流れでは、AIやロボットの普及はブルーカラーやホワイトカラーの仕事だけでなく、高度な知識を必要とする仕事さえも大いに奪っていくということなのです。

優秀な経営者は企業のコストを引き下げると同時に、業務を効率よく改善することを考えています。AIやロボットへの投資を進めれば進めるほど、経営者は人件費を削減します。外国人労働者もここに加わり、日本人の人件費も今後削減されるはずです。

技術力や生産性が上がることによってモノやサービスの価格が下がっていくなかで、人々の生活の利便性や快適さは向上していくのかもしれませんが、その代わりに労働分配率が低下し続けていくようなことがあれば、余暇が増えて生活が豊かになるということは決してありえないことです。実質的に所得が増えないことには、生活が豊かになるということはないからです。

多くの経済学者は、イノベーションこそが停滞する経済を再び活性化させる推進力になると言いますが、中原氏はこれは誤りだと述べています。今後はGAFAなどの一部のIT企業によって市場が独占され、失業率が高まり、人件費も抑制されるはずです。IT先進国アメリカでは格差の拡大が史上最悪のレベルにまで進んでいますが、この先さらにAIやロボットが本格的に普及することで、アメリカの失業率は2018年の4.0%前後から2020年代後半には、 10%を超えるまでに悪化する可能性があります。

日本の労働力人口は2040年には2015年と比べて1751万人も減少します。AIやロボットはこの人手不足を解消するだけでなく、経済の生産性を大幅に高めてくれると期待が高まっています。しかし、AIやロボットが人手不足を補うというレベルを超えて、人手が大幅に余るという状況をつくりだしてしまう可能性も否定できません。

AIの活用は大企業だけでなく、中小企業のあいだでも広がってきています。アマゾンのAWSを活用し、ベンチャー企業が生産・販売・会計などのサービスを低価格で提供しています。日本の雇用の約7割を占める中小企業にAIの活用が広がり始めたことで、人手不足も意外と早く解消されるかもしれません。

AIやロボットの普及があまりに速いペースで広まれば、新たな雇用の受け皿が整う前にホワイトカラーを中心に次第に余剰人員が膨らみ、失業率が上昇傾向に転じる時期は思ったより早まることになるでしょう。日本の労働力人口の減少率だけを見れば、10年後も20年後も失業率が上昇する可能性は極めて低いと考えられるのですが、企業が一斉にAI・ロボットの導入を加速する流れのなかで、2030年までに労働力の2割がAIやロボットに徐々に代替されていった場合、東京オリンピック終了後の2020年代初めには失業率が上昇傾向へと転じ、2020年代後半には5.0~6.0%程度(2018年前半の失業率2.4%の2倍を超える水準)まで上がり続けることも想定すべきです。

リクルートワークス研究所によれば、AIやロボットによる代替が進むにつれて失業率が上昇に転じることになり、2025年には最大で5.8%まで上昇する可能性があります。過去最悪だった2009年7月の5.7%を上回り、オリンピック後は雇用が悪化していくというオプションBを考えていた方が良さそうです。

経済がグローバル化して、ITが世の中を変える中で、頼れるのは自分だけかもしれません。AIやロボティックスに置き換えれないように自分の価値を高めておく必要があります。会社に頼るのをやめ、予測される変化に対応し、クリエイティブな存在になれるよう、自分を鍛えていきたいと思います。

まとめ

日本は人口現象社会に突入し、労働者不足が顕在化し、成長の足を引っ張ることが予想されています。高齢者の定義を75歳以上に変え、働き方を改革する必要があります。一方AIやロボティックスの進展で2025年以降は労働者不足が解消する可能性も指摘されています。自分の生活を守るためには最新のテクノロジーに置き換えられないように、自分の価値を高めて行く必要があります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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