アレックス・カーの観光亡国論の書評

最近の日本は観光客が急激に増加したことにより、いたるところで「観光公害」ともいうべき現象が引き起こされるようになりました。それらの実情を見るにつれ、「観光立国」どころか、「観光亡国」の局面に入ってしまったのではないかとの強い危機感を抱くようになっています。「観光公害」を最も顕著に見ることができるのは、日本を代表する観光都市、京都です。(アレックス・カー)


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オーバーツーリズム(観光過剰)の原因は何か?

観光庁の「旅行・観光消費動向調査」では、17年のインバウンド旅行消費額も含めた、日本における旅行消費額は26.7兆円となっています。これは、トヨタの総売上高と拮抗する数字で、観光が重要な産業であることを示しています。しかし、その観光業に暗雲が立ち込めています。

アッレクス・カー観光亡国論の中で、日本の観光業界の問題点を炙り出しています。観光立国を目指しているはずの日本が、観光公害を撒き散らすことで、観光亡国の局面に入っているというのです。観光は人口減少社会を救う日本の切り札になりえるはずですが、政策を間違えることで、観光業の未来を暗くしているのです。

日本は「ものづくり大国」からそろそろ「もの誇り大国」」へ、スローガンを変更する時期に来ているとアレックス・カーは述べてます。 そのために、現状の観光の課題を関係者全員で明らかにし、解決策を考えなければなりません。実は、観光公害は京都だけでなく、世界中で問題になっています。「観光立国」の先駆けヨーロッパでは、バルセロナ、フィレンツェ、アムステルダムなどで「オーバーツーリズム(観光過剰)」や「ツーリズモフォビア(観光恐怖症)」が起こっています。次の3つ要素がオーバーツーリズムの原因として挙げられます。
・新興国からの観光客の増加。
・LCC(格安航空会社)の台頭で、海外旅行体験のハードルが著しく下がったこと。
・SNSなど、言語の壁を超えた情報の無料化が進み、そこに「セルフィー(自撮りごという新しい自己顕示のトレンドが生まれたこと。

オーバーキャパシティは観光地を破壊します。
■町には交通渋滞が引き起こされ、市民生活に支障が出る。
■ホテル代の高騰。
■寺社、聖地が混雑し、落ち着いて拝観できなくなる。
例えば、京都であれば、神社仏閣の本来の魅力を損ないます。神社仏閣の境内には深い精神性が宿っています。しかし、神聖な場所にも関わらず、看板やゆるキャラが氾濫し、その奥深さを体験出来なくなっています。偽の着物を楽しんだり、SNS映えする写真を撮る観光客が多く訪れることで、京都は落ち着きを失ってしまったのです。

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ゾーニングで観光資源を守ろう!

すでにオーバーキャパシティに直面している世界の観光地の多くは「総量規制」と「誘導対策」という、二つのアプローチで対応を探っています。「総量規制」とは文字通り、観光客の数そのものを規制、抑制しようとするものです。「誘導対策」とは、ともかく観光客は押し寄せて来るものという前提に立って、数の分散を図る方策です。

有名な観光地では「入場制限」が当たり前のように行われています。ペルーのマチュピチュ、インドのタージマハル、ガラパゴス諸島などは入場制限は入場制限によって観光資源を守っています。京都の伏見稲荷は朝一番で行かなければ、もはやあの美しい鳥居を楽しむことはできません。銀閣寺や三十三間堂などの有名な寺院も同じ状況で、インスタ映えのために、観光客が大挙して訪れ、京都らしさを破壊しています。

宮内庁が管理する京都の桂離宮や修学院離宮は観光ブームが始まる以前から入場規制を行っています。的確なコントロールを行うことで、観光公害を免れたのです。オーバーキャパシティに悩む観光地もこの姿勢を見習い、入場規制を考えないと観光資源を失いかねません。

現在の日本では高齢化と少子化に伴う人ロ減少、地域の過疎化、空き家問題・経済停滞といった社会課題が山積しています。その状況の中で観光とは、地方はもちろん都会も含めて、日本という国を救う可能性を持つ一大産業です。 ヨーロッパやアメリカなどは、今も町や州のレベルで、それぞれに独自の観光戦略を設けて、自分たちの考えをいろいろと試しています。そしてそこから新しいアイデアや・観光公害への対策が生まれてきています。

日本は、都市も地方も中央集権的に観光を捉え、観光地の資源を毀損しています。民泊新法を一律に実施することで地方のチャンスを奪ってしまいました。ホテルや旅館のない小さな離島や小村に民泊があれば、外国人がそこに長期滞在しお金をおとすだけでなく、魅力を発信してくれます。しかし、年間180日の一律の規制が新たなビジネスチャンスを奪っているのです。

一方で公共事業への投資は旺盛で、ホテル建設や開発を優先していますが、これが古い街並みを破壊しています。建物中心の公共事業によって景観が劣化し、観光産業の土台はますます脆弱になります。伝統的な商店街や街並みを守るためには、観光客が増え始めた初期の段階で、商店街のオーナーたちや行政が対応策を打ち出す必要があります。

日本は観光過剰で観光地が深刻な状態になっています。その認識が遅れていることは、大きく危惧されるところです。今のうちにマネージメントの視点を定め、コントロール技術を高めていかないと、観光公害、観光汚染は悪化し、ひいては最も大事な資産である日本という国の魅力を失う事態になりかねません。それは誰にとっても最悪のシナリオです。

日本の観光地もゾーニング(分別)を意識すべきです。観光という見地から文化の価値を見据えて、「どこに何を作るのか、作らせないかを決めていくこと」も重要です。古い街並みに新しいホテルを建てることが、本当に正しい選択なのでしょうか?今こそ観光資源を守るためのゾーニングを考えるべきです。あえて駐車場を離れた場所に設置するのもありだと思います。歩くエリアを増やすことで、観光客の滞在時間も伸び、古い商店街も活性化します。

大型バスやクルーズ船を使った観光客は、観光地ではあまり消費しないことがわかっています。名所をただただ回るだけで、観光地での体験はほとんどありません。お金は使われず、トイレや道路、駐車場の整備の支出が増え、下手をすると赤字が生まれます。この大型観光をやめ、体験を重視した小型観光を実施すれば、その街に興味を持つ観光客が長期滞在してくれます。大型の駐車場や道路整備も不要になり、その街を本当に楽しみたい旅行者だけが来てくれるようになります。

観光客が増加し、日本が豊かになることは日本にとって嬉しいことですが、観光資源を破壊することは見逃せません。日本という魅力ある国家を未来に残すために、量ではなく質を追求すべきです。それぞれの街の個性を見極め、適切なマネージメントや情報発信を行うことで、日本好きな観光客を呼び寄せることができます。日本らしい宿泊施設や体験を用意することで、長期滞在者が増え、日本は観光収入をアップできるようになります。

まとめ

日本が観光で成功するためには、以下の3つの考え方を取り入れるべきです。1、質を追求する「クオリティ・ツーリズム」への転換、2、「分別」のあるゾーニング、3、「適切なマネージメント(管理)とコントロール(制限)」を目指す。自分たちの観光資源を見出し、観光客を喜ばす施策を考えれば、日本は観光立国を実現できます。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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