アマゾンプライムがアマゾンの最高傑作である理由

プライムというビジネスモデルはアマゾンの最高傑作だ。顧客第一主義と長期的な成功の象徴といえるだろう。(ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツ)


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アマゾンプライムが変える顧客体験

ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツamazon「帝国」との共存書評を続けます。アマゾンプライムは様々なサービスを組み合わせた優良な商品であると同時に、アマゾン商品の購入の入り口になっています。アマゾンは自社製品(PB)の幅を広げ、その多くをプライム会員限定で提供してきました。これがプライムの特別感を一層高め、競合との差別化要因になっているのです。

ウォルマートは同社のPBの「グレートバリュー」を特定の買い物客にだけ提供できません。 しかし、アマゾンはデジタル技術を活用することで、顧客を選別しています。顧客に高い価値を提供し、競合にさらに大きく差をつける手段として、PBの品揃えを強化しています。 また、プライムが、アマゾン・フレッシュ、アマゾン・パントリー、プライム・ナウなど、追加料金が発生するほかのサービスへの入り口にもなっています。

アマゾンUSAで食料品を購入するには、まずプライムへの入会が絶対条件になります。傷みやすい食品の配送料を加味した追加料金として、アメリカでは月額15ドル(約1500円)を支払わねばなりませんが、これが消費者に広く受け入れられています。アマゾンで生鮮食品を買い求める利用者の全員が、プライム会員になり、アマゾンは顧客を囲い込んでいます。プライムのデータを分析することで、アマゾンは顧客のニーズを把握し、絶えずサービスを改善しています。

プライムのサービスが充実した現在では、プライムに入会する経済的なインセンティブも高まっています。メインの配送サービスのほかにも会員特典が用意されています。アマゾンや買収したホールフーズでの買い物にプライム専用Visaカードを利用すれば、キャッシュバックの特典が受けられます。

アマゾンの実店舗化がさらに進めば、店舗の商品をより低価格で購入できるようになることが予測されます。今ではアマゾンプライムの会員は1億人となり、アマゾンの売り上げに日々貢献しています。

「ロイヤルティ・プログラム」の多くは、プラスチック製の会員カードを発行し、顧客が買い物をするたびにレジでポイントを付与する(ポイントは現金化できないことが多い)。しかし率直にいって、このようなロイヤルティ・プログラムはもはや時代遅れだ。

最近では顧客の行動が変化し、会員向けのロイヤルティプログラムも変わり始めています。イギリスでは、週ごとにまとめ買いをする消費者が減少傾向をたどり、頻繁に買い物に出かけ、さまざまな店で少しずつ購入する習慣が主流になりつつあります。特定の店や贔屓のスーパーだけを利用すること自体が、すでにめずらしくなっています。

ロイヤルティプログラムは今後、お得から体験や利便性を重視したものにシフトしていくはずです。アマゾンはその最先端にいるのです。

低下していく「買えば買うほどお得」の価値現代社会で、顧客ロイヤルティを獲得するためには、「買えば買うほどお得」という概念を捨て、利便性、サービス、体験を重視したサービスヘシフトする必要がある。アマゾンのプライムはその最先端を行くプログラムだ。

今後はより高度なパーソナライゼーションと、店内で楽しめるサービスを通して、顧客ロイヤルティを高めることが求められます。イギリスのスーペーマーケットチェーン、ウェイトローズでは、会員力ード保有者にコーヒーと新聞の無料サービスを提供しています。まるで自宅にゲストを招待するように、店内へ買い物客を招き入れているのです。

今後、会員カードのデジタル化はさらに進みます。アマゾン・ゴーなどの自動精算システムが普及すれば、カードを読み取るレジ自体が店内から姿を消します。ロイヤルティ・プログラムは幅広いサービスの一部として組み込まれ、買い物客の愛顧に対する見返りだけでなく、パーソナライズされた提案をリアルタイムで届けることが可能になります。顧客はアプリーつでスムーズに商品を見つけて、ストレスなしに精算できます。

結局のところ、ロイヤルティ獲得の鍵となるのは、自らの顧客価値を理解することなのだ。アマゾンの場合、「手軽さ」と「便利さ」がそれにあたる。つまり、すぐに得られる満足感だ。そして最近では、そこにエンターテインメント性も加わった。

アマゾンがより顧客体験を高め、ロイヤルティをアップすれば、幅広いビジネスに甚大な利益がもたらされると著者は指摘します。 プライムは、きわめて高い顧客ロイヤルティと、消費者との永続的な相思相愛の関係をもたらしたのです。顧客はプライムに満足し、ほかの小売サイトに目移りすることがなくなりました。顧客にとってアマゾンは、たとえ商品が最安値でなくても、最初に訪れるべきストアとして定着しています。プライムが提供する利便性が、価格に対するハードルを下げているのです。

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アマゾンプライムによって、顧客体験が高まり、購買頻度が向上する!

競合のロイヤルティ・プログラムが上客に狙いを定める一方で、アマゾンはできるだけ多くの買い物客をエコシステムへ誘い込み、最大級の顧客価値を永続させる戦略をとっている。

モルガン・スタンレーの調査によると、平均的なプライム会員は、非会員のおよそ5倍にあたる2486ドル(約24万8600円)の買い物をしています。会員制の特徴として、入会者は支払った会費の元を取ろうという心理が働き、ときに非合理な意思決定をしてしまうのです。つまり、プライム会員は年会費の支払いを正当化したいがために、アマゾンでの購入機会を増やしているのです。

米市場調査会社のカスタマー・インテリジエンス・リサーチ・パートナーズ(CIRP)は、プライム会員がアマゾンで買い物をする頻度(年25回)は非会員の2倍だと明らかにしています。「購買頻度を向上させるツールとしてプライムを育てる」というベゾスのビジョンは実現し、アマゾンの売り上げに貢献しています。

また、入会者の会員継続率は90%以上と推定されています。 顧客データという宝の山を手に入れたアマゾンは、得意客のオンライン購買行動を把握し、商品やサービス、UI・UXの改善を行なっています。電子商取引分析を行うプロフィテロによると、アマゾンは1日250万回も価格を変更しているといいます。

プライムは高額商品の販売機会も創出するだけでなく、買い物客をアマゾンのエコシステムの中へ誘導するという重要な役割も担っています。アマゾンが学生を厚遇したり、プライム会員に紙おむつやベビーフードを20%オフで提供するのには、正当な理由があります。アマゾンは消費者が人生の局面を迎えたタイミングで心をつかむことで、LTVを高めています。実際、アマゾンブックスなどの実店舗型ストアは売上への貢献がほとんどないと言います。彼らは実店舗をプライムの利点を広く宣伝し、プライム入会の足がかりを作る場だと捉えています。

顧客の買い物体験を高めるために、アマゾンはプライムを強化していきます。2017年はドライブスルー型スーパーマーケットのアマゾン・フレッシュ・ピックアップがスタートしましたが、これはプライム会員限定のサービスです。 ファッションサービスのプライム・ワードローブも2017年から始まっています。プライム会員は、衣服、靴、アクセサリーなど最大15アイテムを注文し、自宅で試着することができます。顧客は無料返送用の住所ラベルと、再利用できる箱を受け取り、買い取りたいアイテムの料金だけを支払って、残りの商品を返品できます。衣料品のオンラインショッピングでは、サイズや返品が障害になりがちですが、プライム・ワードローブはそれらの問題を解消する画期的なサービスです。サイズの問題の解決策として、アマゾンは3Dスキャニング技術を保有するベンチャー企業、ボディ・ラブズの買収も実施しました。

資産管理サービス会社のパイパー・ジャフレーが行った調査によると、 アメリ力では年収11万2000ドル以上の世帯の82%がプライム会員になっています。つまり、アマゾンは富裕層をほぼ独占した状態にあり、裏を返せば、新たなターゲット層の開拓なくして今後の成長はないということです。

逆に、年収4万1000ドル未満の世帯では、アマゾンの利用率が最低レベルであることも明らかになりました。プライムの年会費、インターネット環境の不備、クレジットカードの非保有などが原因となり、アマゾンの利用率が低くなっているのです。全米の世帯の4分の1以上が、当座預金や定期預金の口座を保有していませんが、彼らの預金額はほぼ0に近い状態です。

ここ数年、アマゾンは低所得者をターゲットとした取り組みを進めています。2 016年にはプライムの月会費プランを導入しました。年会費を一括で支払うことが難しい消費者も、月払いの導入によって、プライムを利用できる可能性が広がりました。

また、アマゾンはアンバンクド世帯(銀行口座を持てない世帯)やアンダーバンクド世帯(小切手換金サービスなどを利用する世帯)を対象に、政府から生活支援を受ける人たちへのプライム会費の割引制度と、アマゾンでの買い物にのみ利用できるデビットカード「アマゾン・キャッシュ」を導入しました。

アマゾンキャッシュは、提携する店舗でバーコードをスキャンしてもらい、アマゾンのアカウントに入金するものです。これは、ウォルマートをはじめ、老舗の実店舗型小売が長らく独占してきた客層を取り込もうという試みです。

ウォルマートでは、顧客のおよそ20%が、「フードスタンプ」(低所得者を対象とした食料費補助対策)を利用して食料品を買い求めていると見積もられ、数年前からオンライン購入の支払いを実店舗(ウォルマートの店舗)で現金払いできる「ペイ・ウィズ・キャッシュ」というサービスを実施しています。今後アマゾンは銀行業に参入し、そこでもシェアを取ることが予想されています。

アマゾンは今や日常と切り離せない存在に成長し、この先プライム会費が引き上げられたとしても、消費者はそれを受け入れるだろう。アマゾンは今後も高い顧客価値を提案すべく、デジタルコンテンツと配送サービスに投資を続けるとともに、ロイヤルティの新しいあり方を探求することになる。

アメリカでも日本でもアマゾンプライムが値上げされました。しかし、値上げの影響はあまり見られませんでした。プライムはアマゾンにとって、小売というマシンを動かすエンジンであり続けるはずです。そして、アマゾンプライムは体験型支出へシフトし、実店舗での新たなサービスを生み出すはずです。顧客体験を高めるために、アマゾンはプライムで得た情報を最大限に活用し、成長を続けるはずです。

まとめ

アマゾンはアマゾンプライムによって、できるだけ多くの買い物客をエコシステムへ誘い込み、最大級の顧客価値を永続させる戦略をとっています。アマゾンプライムの会員はアマゾンへのロイヤルティが高く、売り上げや利益に貢献しています。アマゾンは顧客データを分析することで、商品、サービスの改善を行い、顧客体験を高める努力を続けています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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