書評 福田康隆氏のTHE MODEL

ITツールを活用する最大のメリットは「スケール」できることだ。どれだけ優れたリーダーやコンサルタントがいても、他部門やグローバルへの展開を人間だけでスピーディに実現することは難しいし、その人自身がやがてボトルネックになってしまう。また、ITツールの良さはマーケティングの手法なり、パイプライン管理の手法なり、そのツールを通じてノウハウや考え方を素早く関係者に共有できることにある。ツールそのものが「コミュニケーションチャネル」なのだ。(福田康隆)

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営業が接点を持つ前に勝負がついている?

テクノロジーの進化で、マーケティング領域のスケールが日々拡大しています。マーケティングはモバイル、ソーシャルメディア、AIを活用することでスケールを拡大し、売上アップにスピーディに貢献しています。そして、ITツールは顧客と社員のコミュニケーションを劇的に改善していることを経営者は理解すべきです。

先日来、マルケト代表取締役の福田康隆氏のTHE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセスを再読していますが、彼の著者の経験や知識からは多くの学びを得ています。本書のアイデアを日本の企業が取り入れることで、アメリカとの差が広がっているBtoBマーケティングの世界を変えられるはずです。

ヤンケロビッチ・パートナーズの調査によると、人々が目にする企業からのマーケティングメッセージは、1970年代には1日当たり500程度でしたが、2004年には10倍の5000にまで増加したと言います。最近では、その数は最大1万にものぼると言われ、企業からのマーケティングメッセージは増加の一途をたどっています。

当然、私たちは1日5000ものメッセージを消化できませんから、その大半をスルーしているはずです。マス広告やアナログな広告が中心だった時代は、限られたスペースを押さえることで勝負が決まりましたが、デジタルの時代には、コミュニケーションの量に制限はなくなり、日々増加しています。

そして量が増えれば増えるほど、顧客はそれを消化できなくなる。顧客が目にする5000ものマーケティングメッセージの中で、「どうすれば顧客に届くメッセージのーつに残れるか」は企業にとって死活問題となる。人間は誰しも、「自分が誰か」「どんな状態か」をわかったうえで接してほしいと考えているし、「自分が関心を持っている情報を提供してほしい」と思うものだ。

顧客は、送られてくるメッセージやコミュニケーション手法を見て、その企業が顧客視点に立っているか否かを判断しています。自分に関係ない、役に立たないと思われないようにコミュニケーション設計をする必要があります。顧客にスルーされてしまうと、せっかくの施策が大量の情報の中で埋もれ、無駄になってしまうのです。

ワンダーマンの調査によると、アメリカの消費者の79%は「購入検討前でも、企業は『あなたを理解し、気にかけていますよ』ということを積極的に示すべきだ」と考えています。顧客の6割以上は「購買の意思決定において、価格以上に顧客体験が重要であると考えている」という調査データもあります。

だからこそ、メッセージやコンテンツが顧客の関心にマッチしていること、顧客にとって最適なチャネルとタイミングで届けることが求められる。これはB2Cだけの話ではない。B2Bにおいても資料請求したとたん、営業から電話がかかってきて「この営業はスピード感がある」と感心する人もいれば、「とりあえず資料請求しただけなのに、いきなり電話がかかってきて面倒だな。メールを送ってくれれば、後で読んでおくのに」と思う人もいるはずだ。つまり、マーケティングから営業、購入後に至るまで、あらゆる接点において顧客体験を高め、エンゲージメントを深めることが重要になる。

2012年のシリウス・ディシジョンの調査で、情報収集、比較検討、意思決定といった購買プロセスのうち、前半の67%は営業担当者が接触する前に終わっていることがわかりました。また、2015年のフォレスターのレポートによると、B2Bバイヤーの75%は営業担当者から買うよりも、ウエブサイトで買うほうが便利だと考えています。

情報収集から比較検討まで、その大半を顧客が独自に行い、その結果選ばれた企業だけに問い合わせがいくのです。これは製品・サービスの導入検討の主導権が売る側の営業担当者から、買う側の購買担当者に移ったことを意味しています。

つまり、顧客は購買のプロセスを、自分が決めたタイミングで、自分が信じられる有益な情報を好みの方法で入手し、営業担当者に売り込まれることなく自分のペースで進めたいと考えているのです。彼らは自分のことを理解してくれる企業から購入する傾向が強くなっています。優れた顧客体験は、価格や商品そのものよりも重要な意思決定の基準になっているのです。

営業が接触する前の「顧客による調査・評価」のプロセスが重要度を増しており、商談になって以降のプロセスを細かく管理していくだけでは不十分なのです。

マーケティングオートメーションを活用すれば、オンラインの行動をトラッキング可能となり、ウェブサイトの訪問履歴、クリックの情報、動画の視聴履歴、メールの開封・クリック、モバイルアプリの閲覧情報など様々な行動データを取得することができる。顧客のデジタルシフトが進めば進むほど、集まるデータが増加し、より精度の高い顧客プロファイル分析が可能となる。流入したリードを素早くフォローするだけのやり方から、一人ひとりの顧客とのエンゲージメントを高め、営業が接点を持つ前に顧客に選ばれる存在に進化するために、マーケティングオートメーションは欠かせない武器なのだ。

MA(マーケティングオートメーション)ツールを導入し、的確に活用することで、営業とマーケティングのプロセス管理の精度を高められ、顧客体験を改善できます。顧客のエンゲージメントを高めることで、商談前に顧客に選ばれる存在になるのです。

 

新規リードのからの受注が落ちるのは当たり前。マーケターは何をすべきか?

新規リードからの受注は、会社が成長するにつれ、決定確率が下がります。 リードから商談になる過程で「今は商談にはつながらない」と判断され、商談にならなかったリード、商談として進めたが失注したロスト商談、顧客になったがフォローが漏れているためにアップセルの機会を失っている既存顧客の分類されます。これらのリストを有効活用することで、売上が改善します。

これらを再度検討プロセスに戻す、つまり「リサイクル」することによって新規獲得では追いつかない、必要なリード数を補うことが可能になる。しかもこのリサイクル対象の箱にたまっていくリードは、事業年数が経てば経つほど加速度的に増えていく。このたった1本の新しい線を意識するかしないかで、まるでビジネスの組み立てが変わってくるのだ。

獲得したリードのリサイクルや既存顧客の関係をしっかりと構築することが、マーケターの重要な仕事なのです。新規リード獲得だけを目標値に設定するのをやめ、過去のリードのリサイクルに意識を向けるようにしましょう。

これまで多くの企業では「機能別組織」、つまり顧客視点ではなく、社内の業務プロセス視点で作られた部門が個別最適で動くモデルでした。営業が売上の責任を一手に背負い、マーケティングとの連携は薄く、マーケティングが売上にどう貢献しているかがわかりませんでした。最近では、マーケティング、インサイドセールス、営業の分業体制を導入することによって、売上に至るプロセスが明確になり、どこに問題があるか可視化できるようになってきましたが、新規リードにばかり目を向けたり、インサイドセールスがアポが取りやすい顧客を営業に紹介するなど、達成しやすい目標を担当部門が追うことで受注率を下げてしまうのです。

目標達成できない企業は、各部門が異なるグループとして分断され、異なる指標を与えられ、それを追求していくミッションを与えられています。協力するより、敵対的な行動をとることで、結果を出せずにいるのです。

チームであろうが個人であろうが、自分が何で評価されるかによって人の行動が変わるのは万国共通だ。組織の間にある見えない壁を越えるには、各部門のメンバーが共同作業で目標を達成するという意識を徹底するしかないだろう。会社組織には、利益、キャッシュフロー、株価など、追い求める指標がいくつかある。しかし、すべての始まりは売上である。そうであるなら、社員や各部門が売上を上げるためのプロセスをいかに正しく理解し、それに向けて共同作業をする組織づくりができるかが鍵になる。

カスタマーサクセスは顧客と接する中で、何に困ることが多いのかを研究し、製品開発やマーケティングメッセー シに反映させることで、組織の分断をなくせます。また、顧客満足を高めるためにはどのようなリソースやプログラムが必要かといった情報を営業にフィードバックすることで、顧客との関係が変わります。それぞれの部門が売上にフォーカスし、そのプロセスを共に改善することが重要なのです。

営業はインサイドセールスに対して、実際に訪問した時の内容をフィードバックし、インサイドセールスの商談作成時のコメントと乖離があればフィードバックする必要があります。インサイドセールスは実際にリードと会話して、顧客がコンテンツやイベントに対してどのような感想を持っているか、どのようなキャンペーンを実施すると効果的かなどをユーザーの生の声としてマーケティングにフィードバックすべきです。こうした双方向の流れが実現した時に、売上向上という共通目標に対して共同作業をする感覚が芽生え、会社が強くなるのです。

チーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)がリードする時代

企業の分断を避け、会社を強くするためには、強力なリーダーシップが必要です。この数年、アメリカで増えつつある「チーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)」という役職はその解決策になるかもしれないと著者は指摘します。CROは会社全体の売上に責任を持つ立場であり、マーケティング、営業、インサイドセールス、コンサルティング、カスタマーサクセスなど、売上を生み出すプロセスに関わるすべての部門を率います。

大切なのは顧客のライフサイクル全体を傭撒して、関連部門をどのように機能させるかだ。人を採用してカバーするのか、テクノロジーの力で自動化するのかなど、常にチューニングしながら全体最適を図る役割が必要となる。売上(レベニュー)を生み出すモデルを創造し、実践するリーダーがCROという存在である。

まず、ターゲット市場に対して「認知拡大」するところからビジネスはスタートします。ウェブサイトでのフォーム入力や名刺の獲得などを通じてコンタクト情報を取得すると、「リード獲得」のステージに移ります。リード獲得できたものは、すべて等しくフォローしなければと考えがちですが、ターゲットから外れるものに関してはパワーを割かないようにすべきです。

情報提供を通じて育成されたリードは、リードスコアリングやインサイドセールスによって、商談につながるかどうかのクオリフィケーション(購入可能性の高い見込み顧客を選別すること)が行われ、「有望リード」に絞り込まれます。 その後、実際に営業が「アポイント・訪問」を実施し、クオリフィケーションが正しいことを確認して「商談」のステージに移ります。

契約後は「オンボーディング」と呼ばれるサービス提供や活用のフェーズに入ります。顧客になってからは、コンサルティング、カスタマーサポート、トレーニング、コミュニティ、カスタマーサクセスなどが一体となって顧客体験を支えていくことで、顧客をファンにできるのです。

顧客の解約リスクを減らし、満足度が高まった顧客を増やすことで、契約更新や「アップセル・クロスセル」につながります。ロイヤルカスタマーを増やすことで、ブランディングにつながる評判をクチコミで伝え、それが新しいリードや市場への認知に貢献してくれるのです。「リード育成」から「有望リード」へのクオリフィケーションで落ちてしまったもの、アポイントに至らなかったもの、商談まで進んだが失注したものなどをすべて「リサイクル」というステージに格納し、再度検討プロセスに戻すようにします。直線型のマーケティングをやめ、循環型のモデルを構築することができれば、ビジネスは雪だるまのようにどんどん大きくなっていくのです。

オンラインで製品や業界の情報があふれる現在、情報の収集と選択の主導権は顧客に移行しています。

マーケティングコミュニケーションの目的は、見込客を次のステージに進めることである。顧客ステージを定義した後に、次のステージへ動かすためには、どのようなチャネルが有効なのかを考えるのが正しい順序である。

見込み客を次のステージに動かすことにマーケターはフォーカスすべきです。商談のステージごとに有効なチャネルをマッピングし、適切な施策を実行します。セミナーというチャネルひとつとっても、事前の案内、申し込み、参加、不参加、セミナー実施後のフォローアップというプロセスに分解されます。どのセグメントに案内を行い、それぞれどのステージまで進んだのかを計測し、施策を確実に運用します。

セミナー案内のメール、参加リマインドのメール、フォームでの登録などのコンバージョンを調べることによって、その施策の効果が検証できます。このように顧客ステージ、チャネル、施策の関係が理解できるとマーケティングを可視化できるようになり、何を改善すれば、結果が出るかがわかるようになります。MAツールを使うことで、プロセス管理をスームズに行え、社員間のギャップを埋められるようになるのです。

まとめ

営業が顧客に初めて接触するとき、すでに商談プロセスの半分以上は終わっていることが多いのです。それを防ぐためにコミュニケーションのプロセスを的確に設計・運用する必要なあります。マーケティングコミュニケーションの目的は、見込客を次のステージに進めることですが、そのために、マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスが協力し、顧客体験を高めることが求められています。

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