入山章栄氏の世界標準の経営理論の書評

理論の主な目的は、『何が』(what)を叙述するものではなく、『どのように』(how)『いつ』(when)そして『なぜ』(why)に応えることである」(サミュエル・バチャラク)


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世界標準の経営理論が必要な3つの理由

入山章栄氏の世界標準の経営理論は、価値ある一冊です。たった2,871円で経営学の理論が学べ、MBA並みの知識が得られます。久々にROIが良い本に巡り合えました。まず、著者は理論を『「経営・ビジネスの
how、when、whyに応えること」を目指すものである』と定義します。経営の真理を探究するためには、まず経営の理論を身につけなければなりません。

「なるべく多くの企業、経営者、従業員、ビジネスパーソン、組織などに、普遍的に当てはまりうる、ビジネスの真理法則(how、when、why)」を見つけたいのだ。少なくとも、世界の経営学はそうなっている。したがって世界の経営学は、「一社だけ、一人だけに当てはまる法則」には関心がない。(入山章栄)

トヨタ自動車がいくら素晴らしくても、そこで得られた「トヨタの法則」がトヨタだけにしか当てはまらないのなら意味がありません。経営学では様々な企業データ、経営者のデータ、質問票調査、心理実験、事例調査、コンピュータ・シミュレーションなどの実証分析を通じて、その理論が現実のビジネスの真理に本当に肉薄しているのかを検証する必要があります。

本書で取り上げられた「世界標準の経営理論」は、この実証研究の検証をくぐり抜けてきた理論で、これを自分のビジネスと掛け合わせることで、競争相手へのアドバンテージを得られます。経営理論には「説得性」「汎用性」「不変性」があり、理論を学び、ビジネスを組み立てることで、一生食うにこまらなくなります。

理由1:Whyの「説明」「納得」がなければ、人は動かない

経営理論によって説明が与えられ、人が納得・腹落ちすれば、それは人の「行動」を促す。人は腹落ちしなければ、行動しない。

経営理論はビジネスのwhy(なぜそうなるのか)に、一つの切り口から明快な説明を与えます。結果、理論は人を説得・納得させ、人を動かします。経営理論の切り口があれば、複雑なビジネス課題を一つの角度から鋭く説明することができ、whyに応えることができます。経営理論は人を行動させるためにあるのです。

理由2:「理論ドリブンの思考」の方が、圧倒的に汎用性が高い

「理論→現象」の思考軸で経営学を学ぶことこそ、はるかに効率的で、応用可能性も圧倒的に広がるのだ。日々ビジネス事象に取り囲まれているビジネスパーソンの思考は、当然ながら現象ドリブンだ。その皆さんが逆に理論ドリブンの思考軸も持てば、まさに双方向のベクトルによる理論と現象の「知の往復」が可能となる。

理論と現象の両方からアプローチできれば、ビジネスを一段も二段も深くします。そして圧倒的な思考力によって、目の前の課題を難なく解決できるようになります。

理由3:経営理論の説明力は、時代を超えて不変である

理論は古びない。理論は、組織と人間の行動・意思決定の本質を、根本原理から説明し、そこにwhyの思考の軸を与えるからだ。ビジネス事象が時代とともに変わっても、それを行うのはいつも人間と組織だ。

「理論ドリブン」の考えを身につければ、それはこれから20年、30年にわたって「理論と現象の知の往復」をするための思考の軸になります。

本書の経営理論の多くは、我々が死ぬまでの問は古びないと著者は言います。フレームワークだけでなく、経営理論によって、ビジネスパーソンは開花します。経営理論を思考の軸とすることで、唯一無二の存在になれるのです。

ソーシャルネットワーク理論の「『弱いつながりの強さ』理論」は、スタンフォード大学のマーク・グラノヴェッターが1973年に発表しました。半世紀後の今、Facebookのデータアナリストがこの理論を活用しているのを見れば、理論が古びないことがわかります。

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弱いつながりの強さ

「弱いつながりの強さ」(strength of weak ties:以下SWT)は、現代経営学のソーシャルネットワーク研究の核心を成す理論です。スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッターの打ち立てた理論を、私はソーシャルメディアと出会った時に学び、今でも様々な勉強会やセミナーで紹介しています。

彼が1973年に『アメリカン・ジャーナル・オブ・ソシオロジー』に発表した論文「Strength of Weak Ties”という)は、社会学ディシプリンの経営学者は必読の論文で、実際グーグル・スカラーの引用数は5万以上にも及んでいます。

弱いつながりは(ちょっとした知り合い)と強いつながり(家族や親友)はどちらが大事でしょうか?普通であれば、つながりが大事と考えますが、両方が必要です。「信頼関係が築ける」「深い意見交換ができる」「いざとなったら助けてくれる」など、強いつながりは直感的にわかりやすいのが特徴です。

弱いつながりの効能はわかりづらいですが、SWT理論がそれを明らかにしています。
SWT理論のエッセンスは、グラノヴェッターの1973年論文に集約され、3つのロジックで構成されています。
①ブリッジという概念とその特性
②ブリッジの効能
③ソーシャルネットワーク上での弱いつながりの意義

SWT理論を理解する上で欠かせない概念が、「ブリッジ」(bridge)です。ブリッジは、ソーシャルネットワーク上に伝播の効率性という大きなメリットをもたらすカギとなります。ブリッジは弱いつながりでしか成立しないことがわかっています。一般に「2つの点をつなぐ唯一のルート」がある時、それをブリッジと呼びます。

ソーシャルネットワーク上で、あるつながりがブリッジとなりうる条件は、つながりが弱い時に限られます。その理由は以下の3つになります。
■交流の頻度:人と人が強いつながりにあれば、両者が接触する頻度は多くなります。例えばAとCが強いつながりを持っていれば、ともにいる時間が80%、同様に強いつながりにあるCとBもともにいる時間が80%だとします。すると、AとCがともにいながらAとBもともにいる確率は80%×80%=64%と、かなり高くなります。64%の確率でAとBがともにいれば、両者は結局つながってしまうのです。

■心理的効果:Cと親友関係にあるAは、同じくCと親友関係にあるBに対して、親近感を持ちやすくなります(psychological constraintという)。結果、AとBが互いの存在を認識すれば、両者は親しみやすさを持ってつながる可能性が高いのです。

■類似性:人は本質的に「自分と似た人とつながりやすい」傾向があります。AとBが親友(強いつながり)であれば、両者は似たことに関心がある可能性が高くなります。親友同士のCとBも同様です。したがって、AとB同士も同じことに関心がある可能性が高く、結果、両者はつながりやすくなります。

強いつながりの関係では、ブリッジが存在しなくなります。一方の弱いつながりでは、この状況は起こりにくくなります。AとC、BとCがそれぞれちょっとした知り合い(弱いつながり)にあるとすれば。AとCはただの知り合いなので、交流する割合は20%程度だとします。BとCも同様になれば、AとBが知り合ってつながる確率は20%×20%=4%と、極めて低くなります。先ほどの心理的効果と類似性についても、同様のことが言えます。

弱いつながりのすべてがブリッジとは限らないが、「ブリッジはすべて弱いつながりになる」のだ。

このように、3人以上がいるソーシャルネットワーク上で、ブリッジは人と人の弱いつながりから構成されます。「強いつながり上にブリッジが存在する」ことはあり得ないのです。グラノヴェッターも1973年論文で、”no strong tie is abridge”(強いつながりは、ブリッジになりえない)と述べています。

強いつながりからなるソーシャルネットワークは、ブリッジが乏しくなります。「閉じた」三角形が多いネットワークは、ネットワーク全体が濃密になります。(dense network「高密度なネットワーク」)一方、弱いつながりから成るソーシャルネットワークは(ローカル)ブリッジによって、一辺が欠けた三角形のような形でつながり合います。見た目がスカスカしているので、sparse network(「希薄なネットワーク」)と呼ばれます。

ソーシャルネットワークの役割の一つは、情報・アイデア・知をネットワーク全体に伝播させることだ。そして「幅広く、多様な情報が、遠くまでスピーディに伝播する」のに向いているのは、弱いつながりからなる希薄なネットワークになるのだ。

希薄なネットワークにはブリッジが多いのですからから、情報を伝播させるのに効率的です。 第2に、ブリッジが多いネットワークはルートに無駄がないので、遠くに延びやすいのです。ブリッジは弱いつながりからなるので、強いつながりよりも簡単につくれます。

誰かと親友になるのは大変ですが、メールやメッセージをやりとりするくらいの弱い関係になるのは、とても簡単です。結果、弱いつながりからなる希薄なネットワークの方がますます遠くに延びやすくなるのです。一方、強いつながりである高密度なネットワークは遠くに延びないので、距離的に近く、似たような人としかつながらず、結果として似たような情報だけが、閉じたネットワーク内でグルグルと回りがちになります。情報の伝播という意味で強いつながりは効率が悪くなります。

SWT理論の中心命題は、「多様な、幅広い情報を、素早く、効率的に、遠くまで伝播させるのに向いているのは、弱いつながりからなるソーシャルネットワークである」ということなのだ。グラノヴェッターはこれをもって「弱いつながりの強さ」と呼んだのである。これこそがSWT理論の核心だ。

人は弱いつながりの人脈を豊かに持っていれば、「遠くにある幅広い情報を、効率的に手に入れる」という面で有利になります結果として、ビジネスの様々な局面で優位に立てます。

強いつながりにいる人はネットワークの範囲が狭く、同じような企業・業界情報しか手に入れられません。逆に弱いつながりを持てば、ブリッジの多い希薄なネットワークに入り込むことができます。このネットワーク上では、様々な業界・企業についての多様な就職情報が遠くから、速く、効率的に流れてきます。

1973年の論文でグラノヴェッターは、ボストン郊外で就職先を見つけたばかりの若者54人への質問調査を行いました。そして彼らが就職の決め手になった情報をどのような人から得たかを聞いたところ、「頻繁に会う」相手から情報を得た人はわずか9人(17%)で、残りの45人(83%)は、「たまにしか会わない、あるいはほとんど会わない」弱いつながりの相手から得ていました。

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弱いつながりがイノベーションの起点になる!

ビジネスにおいて弱いつながりが決定的に重要なのは、イノベーションへの起点になるからです。

イノベーションの起点は新しい知(アイデア)を創造することであり、そして新しい知は「既存知と既存知の新しい組み合わせ」で生まれる。人はゼロからは何も生み出せないからだ。しかし、人は認知に限界がある(=限定された合理性)。したがってそのまま放っておくと、人は目の前の知だけを組み合わせがちになり、やがて組み合わせは尽きる。

新しい知を生み出したい企業・ビジネスパーソンがなすべき第一歩は、「自分の目の前ではなく、自分から離れた、遠くの知を幅広く探索し、それをいま自分が持つ知と新しく組み合わせる」ことになります。この「exploration(知の探索)」に向いているのは、弱いつながりのソーシャルネットワークを持つ人です。

弱いつながりを持つ人は、ブリッジの多い希薄なネットワーク上にあり、遠くから多様な情報が、速く、効率的に流れてきます。結果、弱いつながりを持つ人は幅広い知と知を組み合わせて、新しい知を生み出せます。エモリー大学のジル・ペリースミスが2006年に『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』(AMJ)に発表した論文では、米研究所の研究員97人が対象になりました。ペリースミスは研究員の人脈を精査し、その統計解析から「弱い人脈を多く持つ研究員の方が、創造的な研究成果を出しやすい」ことを明らかにしてます。

ロート製薬会長の山田邦雄氏は企業外に豊富に弱いつながりを持っているそうです。元々は目薬の会社だったロート製薬は、2001年から機能性化粧品分野に参入し、オバジや肌研(ハダラボ)などのヒット商品を生み出し、いまや製薬以外の売上げ比率の方が高い企業になっています。同社がこういった革新を起こしてきた背景にも、山田氏が持つ豊富な弱い人脈が影響している可能性が高いと著者は指摘します。

チャラチャラした社員は社内外に弱いつながりの人脈を豊かに持ち、そこから流れる情報がイノベーションを起こすきっかけになります。革新的なビジネスを生んでいる経営者には、朝食会、ランチ、勉強会、夜の飲み会などを通じて、弱いつながりをつくっています。私も日々弱いつながりを意識することで、面白いアイデアが浮かぶようになりました。

 よく「イノベーションは辺境からやってくる」とことわざのように言われるが、実はこれはソーシャルネットワーク理論と整合的なのだ。

最近であれば、ロボット掃除機「ルンバ」を開発したのは、パナソニックでも日立でもなく、シリコンバレーのスタートアップ企業、アイロボット社でした。1979年に携帯音楽機器「ウォーク マン」を開発したのは、当時の電気機器ビジネスでは「辺境」だった日本のソニーだったことを忘れないようにしましょう。同業界のコアだったRCAは、ウォークマンと同じものをつくれる技術を持っていたにもかかわらず、イノベーションを起こせませんでした。

優れた技術があっても、創造性・アイデアがなければ、革新は起こせません。そしてそのようなアイデアは、往々にして辺境の弱いつながりからなる希薄なネットワークにあります。 イノベーションにはこの弱いつながりと行動させるための仕掛けの強いつながりが必要になるのです。

自分の企業・組織にクリエイティブなアイデアが足りないのなら、それはその企業・組織のメンバーに弱いつながりが足りないということである。「チャラチャラしている人が足りない」ということだ。そうであれば、まずは組織のメンバーがもっと外に出て、弱い人脈をつくることが課題になるはずだ。 一方、「クリエイティブなアイデアは社内から出てくるにもかかわらず、それが最終的に実行されない」ことに問題があるのなら、課題はむしろ、社内の強い結び付きを活かして創造的なアイデアをサポートすることになるだろう。

弱いつながりを持った創造性の高い人を「アイデアの実現」まで橋渡しする施策こそが必要です。例えば、開発チーム内で「弱いつながりを持つ開発者は、社内で強いつながりを持ち、根回しができて、稟議書を上げられる上長とペアを組ませる」といった工夫をすることで、イノベーションが起こるようになります。イノベーションを起こすのに必要なのは「チャラ男・チャラ娘と根回しオヤジの組み合わせ」だと入山氏は指摘します。 イノベーションには知の探索も 深化も、アイデアの創造も実行も必要なため、「両方のつながりが重要」です。

2012年にフェイスブックのイーサン・バクシーらが発表した論文を読むと SWT理論の価値がわかります。この論文でバクシーらは2008年9月から130日間にわたって、フェイスブック上にフィードされるニュースについて、「フェイスブック上のどのようなつながりにある人が発信・シェアしたニュースが、さらにシェアされやすいか」を、約340万の観測データから解析しました。結果、以下の2つの事象がフェイスブック上で日々起きていることがわかりました。

発見① 人は、フェイスブック上で頻繁に交流している「友だち」(例えば、相手のフィードに頻繁にコメントするような関係の友だち)が発信した情報を、シェアしがちな傾向がある。 これは、強いつながりの効果である。自分と近しい人が「発信した」情報は、心理的に周囲にシェアしたくなるからだ。
発見② フェイスブック上の「友だち」がある情報・ニュースを「シェア」した場合、そのシェアされたニュース・情報をその「友だち」の友だちがさらに周囲にシェアする確率は、両者が頻繁に交流している場合より、両者に普段はほとんど 交流のない場合の方が、はるかに高い。

強いつながりの友だちが「みずから発する情報」は、周囲に知らせたくなります(発見①)。一方、強いつながりの友だちが「シェアした情報」は、(これまで説明したメカニズムからわかるように)同じようなものである可能性が高いのです。よって目新しさはなく、そこからはシェアされにくいのです。一方、弱いつながりの友だちがシェアする情報は、これまで説明したメカニズムより、シェアされた人にも「目新しい」ことが多く、したがってさらに別の人にもそれをシェアしたくなりますい。

フェイスブックなどのSNS上で「シェアがシェアの連鎖を呼ぶ」のは、SWT理論の主張そのものです。 現代では、一度人と知り合えば、SNSを使ってそのまま弱いつながりを維持できます。弱いつながりがそのままSNS上で維持され、結果として以前より弱いつながりが、世界中で爆発的に延びるようになっています。

同社のラース・ベックストルムとミラノ大学研究チームの共同研究では、全世界7.21億人のフェイスブックユーザーから全組み合わせのペアをつくり、「友だち」の「友だち」としてつながるまでの経由数を計算しました。その結果、世界中の人は、Facebook上では誰とでも平均で4.7人を経由すればたどり着くことがわかったのです。リアルなつながりでは「6次の隔たり」だったが、Facebookでは「4.7次の隔たり」に縮まったのです。弱いつながりが人生やビジネスを面白くしてくれるのです。このように経営理論をビジネスに活用することで、イノベーションを起こせるのです。

まとめ

「多様な、幅広い情報を、素早く、効率的に、遠くまで伝播させるのに向いているのは、弱いつながりからなるソーシャルネットワークである」ことをマーク・グラノヴェッターが明らかにしました。イノベーションには知の探索も 深化も、アイデアの創造も実行も必要なため、強いつながりだけではなく、弱いつながりも必要です。

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