書評 ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツのamazon「帝国」との共存

1、新事業はすべてフライホイールを支える新たなスポークである。アマゾンの成功は各ビジネスユニットを個別に眺めることだけで単純に測れるものではない。
2、顧客体験の満足度を向上させる機会が、アマゾンの一見不合理ともとれるすべての動向を結合させ、そのプロセスで顧客との結びつきを強化していく。(ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツ)


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アマゾンはなぜ強者になれたのか?

ナタリー・バーグ&ミヤ・ナイツamazon「帝国」との共存を読むことで、今後の小売ビジネスのトレンドがつかめます。アマゾンは創業以来顧客第一主義を抱え、イノベーションを続けています。この20年間でアマゾンは小売業界の姿を一変させ、多くの企業を破壊してきました。今後も同社は変化を続け、顧客を満足させるために、多くの軋轢を生んでいくはずです。

今では大成功をおさめ、投資家から評価されているアマゾンですが、2000年ごろまでは、いつ倒産してもおかしくないと言われていました。顧客満足のために投資を続けるジェフ・ベゾスを批判する証券会社が多かったのです。利益にこだわらずに成長を模索するジェフ・ベゾスは、やがて投資家を味方にし、ここから力を得ます。他の競合が利益を気にし、思い切った投資ができない状況を横目に、アマゾンはIT投資を加速していきます。様々な分野の投資を続けることで、アマゾンは唯一無二の存在となり、圧倒的なプラットフォーマーになったのです。

顧客第一主義の特筆すべき利点は、サービスに対する満足の声が溢れ、ビジネスそのものもうまくいっているように見えるときでも、実はそれ以上の満足を顧客が求めているという点だ。自分でも気づかぬうちに、顧客はより高い理想を描き出す。彼らを喜ばせたいという欲求が、顧客のための創造へと駆り立ててくれるのだ。(ジェフ・ベゾス)

ベゾスは顧客の不満を解消するために、妥協することなく、絶えず変化を追求します。時には携帯電話のような失敗を犯しますが、イノベーションを重ねるうちに、アマゾン・プライム、AWS(アマゾン・ウエブ・サービス)、アマゾン・エコーなどの宝を生み出しました。利益性の高い事業(AWS)が、コアビジネスの小売事業へ再投資する機会を創出し、多くの競合を苦しめています。

ベゾスはAWS開始当初、事業が失敗すると叩かれました。彼はAWSを推し進めることで、プロフィットセンターを獲得し、勝ち組になったのです。ベゾスはAWSの批判を気にせず、事業にフォーカスすることで、成功を手に入れたのです。

「それが本屋と何の関係があるのだ?」と。あるいは、書籍販売だけを続けていた可能性もある。しかし、そうしなくてよかったのだ。

アマゾンは商品の低価格化を実現し、顧客体験を高めることに成功しました。ファンが増えることで、取引が増加します。サードパーティの品揃えも充実し、買い物をするならアマゾンというブランドイメージが定着しました。顧客を満足させるサービスが増えることで、アマゾンは顧客との関係を強化していったのです。

アマゾンのイノベーションによって、顧客は利便性を享受します。アマゾンがリードする現代の小売業界では、現状にあぐらをかくことは死を意味します。アマゾンの多方面による投資が繋がることで、顧客はアマゾンへのロイヤリティを高めています。競合にとって恐ろしいことですが、それは今後も続くのです。

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小売の近未来はどうなる?

アマゾンがそもそも小売業者にあらず、他社と一線を画して当然だということだ。アマゾンの始まりはテクノロジー企業であり、その唯一の目標は、顧客の利益のためにイノベーションを続けることだ。そのゴールを目指すプロセスで、アマゾンは多くの商品を売ることに成功しているのだ。

著者たちはアマゾンの進化を以下のように予測しています。
1、アマゾンの実店舗展開の動きがeコマース専業企業へのとどめの一撃になる。
テクノロジーがフィジカル(実店舗)とデジタル(eコマース)の垣根を取り払えば、実店舗を持たない小売業者は、配送と顧客獲得のコスト相殺に苦戦している状況から、さらに窮地へと追い込まれるはずです。eコマースブランドは、従来型小売の買収も視野に入れつつ、フラッグシップ・ストア(旗艦店)、ポップアップストア(期間限定の店)、コンセッション(運営委託)を足がかりとして、物理的領域へ飛び込む傾向を強めていくことでしょう。

2、「実用的な買い物」と「娯楽的なショツピング」がより明確に区別される。
将来的には、消費者が日用品の買い物に割く時間が少なくなります。アマゾンのホームサービスが日用品の再注文をすべて請け負うようになり、漂白剤やトイレットペーパーを買いにスーパーマーケットへ足を運ばなくなります。食料品を買いに出かける面倒を負担し、スムーズなサービス体験を促進するアマゾンに触発され、競合は「WACD(アマゾンにできないこと)」を追求せざるを得なくなります。

3、現代の小売における勝利とは、アマゾンの傘下にない分野で秀でること。
商品単体では勝てなくなる競合は体験、サービス、コミュニティ、専門技術を強化せざるを得ません。競合は実用的なオンラインショッピングと距離を置くようになり、未来のストアは取引型から体験型に変わっていくはずです。実店舗は買い物だけでなく、食事、仕事、遊び、発見、学び、さらには借用まで、さまざまな目的を果たせる多角的スペースへ発展していきます。

3、テクノロジーによって、アマゾンが生鮮食品のオンラインショッピングを民主化する。
アマゾンがスーパーマーケットの代替として信頼を勝ち獲れば、「エブリシング・ストア」への最後のハードルをクリアします。購買頻度が上がれば、抱き合わせ販売や、多角的エコシステムへの顧客の囲い込みにつながり、アマゾンでのショッピングがデフォルトになっていきます。アマゾンが長期的な得意客を増やせば、スーパーマーケットのみならず、すべての小売業者がいよいよ苦境に立たされます。

4、プライムが実店舗型へ移行すれば、小売はロイヤルティ・プログラムの大幅な見直しを迫られる。
プラスチックのカードをレジで読み取り、ポイントを付与する方法はもはや時代遅れです。次世代のロイヤルティは、顧客の金を節約することから、時間、エネルギー、労力の節約へとシフトし、ポイント還元の概念はやがて廃れていきます。代わって、リアルタイムのモバイル型報酬によるハイパー・パーソナライゼーション(ユーザーの観点により近いコンテンツを提供する)が標準化してきます。経済活動の枠を超え、顧客とのつながりを強化することが急務になっています。

5、従来型小売業者が、その最高の資産である「店舗」をミニ倉庫として活用する。
店舗の役割が変わり、都市部では1時間配送が当たり前になります。小売は実店舗を利用して、現代の顧客の高い要求に品揃えで応えるとともに、オンライン小売の弱点である「返品」の問題にも対処してきます。アマゾンも選択肢に含めた小売のコラボレーションが増え、顧客サービスが向上することが期待されます。未来のストアは顧客体験だけでなく、フルフィルメントの中核も担うようになります。

6、アマゾンは顧客の利益のためにイノベーションを続け、買い物客を驚かせると同時に、より多くのセクターに変革をもたらす。
将来的には、アマゾン・ゴーのようにレジで精算しないことが普通になります。不在配達の選択肢として自宅内や車内に配達するシステムが定着し、衣服をオンラインで購入する障壁(試着して返品する)も大幅に解消されます。その一方で、より高度なAI(人工知能)とアレクサの普及率が高まり、パーソナライゼーションを文字通り体現するショッピングアシスタント時代が到来します。

7、2021年を目途に、アマゾンはサービスベースの企業へ変遷していくだろう。
アマゾンの総売上で占める小売の割合は減少傾向にあります。(2015年の72%から2017年の64%に減少)。サービス事業が自社直販を逆転し、総売上の大部分を占める転換点が、2021年に訪れると著者たちは考えています。コアビジネスの小売にもグローバルな成長機会がいまだ曲豆富に残されているが、アマゾンはサプライヤーやその他の企業(広告、マーケットプレイス、AWS)、顧客(プライム会員制度、音楽・ビデオ配信、ホームセキュリティ、食料品雑貨の定期便など)、あるいはほかの小売業者に向けて、幅広いサービスのポートフォリオを構築しています。アマゾンは商品小売から社会インフラへと移行を始めているのです。

8、今後はより多くの小売業者がアマゾンに追随するようになるだろう。
競合にとってアマゾンは、競争上の大きな脅威から、フィジカルとデジタルの両面で重要なインフラへと立場を変えています。今後は多くの小売が広い販売領域(マーケットプレイス)、集客力(ポップアップストア、クリック&コレクト、店舗返品)、充実した顧客体験(当日配送、音声ショッピング)を求め、アマゾンと距離を縮めていきます。今後は競合であり、サービス・プロバイダであるという、独特の「二役」が定着すると予想される「コーペティション」(開発段階でライバル企業同士が協力し、販売段階で競合する経営戦略)が未来の重要なテーマになっていくのです。

顧客満足を高めるために、やがて、アマゾンは銀行にも進出します。コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーは2018年、アマゾンのバンキングサービスが今後5年のうちに、7000万人超の顧客を抱えることになると予測しています。これは、全米第3の資産価値を誇る金融機関、ウエルズ・ファーゴと同等の規模になります。顧客との接点をもつ、あらゆる企業がアマゾンとの競争に晒されているのです。本書を読むことで、アマゾンと小売業の今後の動きが予測でき、自社の変革のヒントを得られます。

まとめ

アマゾンは顧客体験を高めるための進化をやめません。今後、小売業界はアマゾンを中心に大きく変化していきます。イノベーティブな投資を続けるアマゾンはあらゆる接点で、顧客を喜ばすサービスを開発しています。アマゾンは小売だけでなく、やがては銀行をも打ち負かす存在になるはずです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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