新しいテクノロジーが生み出す分散された信頼は、人間関係のルールを書き換えている。それは、世界やお互いへの見方を変え、ある意味でわたしたちを昔の信頼の形態へと引き戻している。今ではコミュニティの規模がグローバルになり、巨大なインターネット企業が見えざる手でそのコミュニティを支配しているというだけだ。この新たな信頼の時代に何が起きるかを理解しておくことは、決定的な意味を持つ。誰が得をし、誰が損をし、どんな影響があるのかを知っておくことが、かつてなく大切になっている。(レイチェル・ボッツマン)
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デジタル時代になぜ信頼が重要なのか?
レイチェル・ボッツマンのTRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したかをずっと積読状態にしていましたが、ようやく本書を読了しました。前作のシェアで共有型経済の出現を予測した著者が、今回はデジタル時代に何を信頼すれば良いかををテーマにした一冊を書き上げました。いつもながら、もっと早く読んでおけばよかったと反省しています。世の中には本当に良書が多いです。
なぜ、デジタル時代に信頼が重要なのでしょうか?著者は信頼がどう築かれ、管理され、失われ、修復されるかを理解していなければ社会を維持できないと述べています。信頼はほとんどすべての行動と人間関係と取引を土台にし、これがなければ繁栄も叶いません。信頼とは結果の予想であり、物事がうまくいく可能性が高いと期待することです。人が望ましくない結果にはならないと思えるとき、信頼が育まれるのです。
今起きている信頼の大転換は、単なる急激なテクノロジー革新の一部でもなければ、新しいビジネスモデルの出現でもない。それは社会と文化の革命だ。その中心にいるのはわたしたちだ。そしてこの革命は、世界を変えることになるだろう。
私たちは信頼の大転換の時代を生きています。次々に新しいサービスが新たな信頼の元に生まれています。シェア経済を牽引するUberやAirB&Bも新しい信頼の上に成り立っています。革命とも言えるこの状況をしっかりと理解し、自分の生き方をしっかりと考えましょう。
本書はアリババの成功の裏に信頼があったというストーリーから始まります。今日はアリババのケーススタディを紹介し、信頼の重要性について考えてみたいと思います。
ジャック・マーの物語は、無一文から身を起こして大金持ちになった起業家の成功談にとどまらない。それは 、信頼構築という繊細で驚くべき偉業の物語だ。双方が信頼しなければ成り立たないインターネットのマーケットプレイスをうまく構築するのは大変な挑戦だが、マーの物語がさらに非凡なのはそれを中国で成し遂げたという点だ。
アリババは中国のインターネットビジネスの勝ち組ですが、創業者のジャック・マーは中国のインターネットに信頼が欠如していることに気づいていました。この信頼の問題が深刻であるほどビジネスチャンスは大きいとマーは考えていたのです。
アリババが中国で巨大ブランドに慣れた理由
中国は伝統的に「コネ」に基づく社会だ。「人脈」と言ってもいい。商売においても私生活においても、信頼が存在するのは、家族や友人や同じ村の人といった親密な人間関係のなかだけだ。信頼が成り立つのは、長いあいだよく知っている人たちであって、インターネットでつながった遠い地球のどこかにいる他人ではない。中国では個人的な人脈の外の人間は信用しないのが普通だ。親しいコネがなければ新しい関係はなかなか築けない。
ジャック・マーはまずコネという巨大な壁を乗り越えなければならなっかたのです。現在、中国でネットで売買されるすべての物品の8割以上は、アリババ傘下のさまざまなマーケットプレイスを経由しています。まさにジャックー・マーは巨大な成功を手に入れましたが、どのように信頼を勝ち得たのでしょうか?
ジャック・マーはニューヨークに上場した日に、信頼について次のように熱く語っています。
信頼。わたしたちを信頼してほしい。市場を信頼し 、若者を信頼してほしい。新しいテクノロジーを信頼してほしい。この世界はますます透明になっている。あなたたちが今心配していることはどれも、わたしがこの15年間心配し続けてきたことだ。もちろん、信頼は努力して得るものだ。信頼できれば、すべてがシンプルになる。信頼できなければ、物事は複雑になる。 (ジャック・マー)
ほぼすべての商取引には、おのずと信頼の要素が存在し、一定期間取引が継続する場合には必ず信頼が存在します。マーはこのルールを最重視したのです。信頼があればこそ人はリスクをとるのです。心配せずに安心して買い物ができるウェブサイトをアリババは短期間のうちに作ったのです。
この信頼がなければ、イノーベーションも起こせませんし、起業家も成功できません。ベンチャー企業はユーザーに新しいサービスやプロダクトを信頼させなければならないのです。
ジャック・マーも大きな失敗を経験しています。2011年2月、アリババの5000人の最強営業チームのうち100人近くが、詐欺的行為を行なっていました。その結果、怪しげな売り手2326人にゴールドサプライヤーとしての認証が与えられたのです。この詐欺的な行為は2年以上も続きました。
マーは信頼を守るために行動を起こします。不正な口座開設に関わった営業部員と見てみぬふりをした社員は全員解雇されたのです。当時のCEOとCOOも、詐欺には関わっていませんでしたが、不正を見抜けなかったために辞任しました。
わが社のもっとも大切な価値観は誠実さだ。社員も誠実でなければならないし、小規模事業を営む顧客が信頼できる安全なオンライン市場としても誠実でなければならない。この文化と価値観を傷つけることは許されない。その強いメッセージを打ち出す必要がある。
ジャック・マーは事件後このように語り、彼の行動は広い支持を得ました。2016年、アリババグループはウォルマートを抜いて世界一の小売企業となったのです。マーは、コネ社会の中国の人々(と世界)に、信頼の築きかたを教えたのです。知り合いでなくても、親密なつながりがなくても、インターネット取引が成立することを証明しました。
まとめ
デジタル時代が到来し、信頼がその姿を変え、「新しい信頼」がイノベーションの重要な要素になっています。ベンチャー企業はユーザーに新しいサービスやプロダクトを信頼させなければならないのです。アリババはインターネットで買い物習慣のない中国に、信頼という考えを受けつけ、ビジネスを成功させたのです。
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