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自由すぎる公式SNS「中の人」が明かす 企業ファンのつくり方
著者:日経トレンディ(編集)、日経クロストレンド(編集)
出版社:日経BP
本書の要約
SNSの企業アカウントの「中の人たち」は、売り上げを上げるためには、ただ単に宣伝文句を並べていてはダメだと言います。ソーシャルメディアの投稿には雑談的要素が不可欠で、消費者との緩い会話を通じて、ファンを作り、そこから新たな顧客を呼び込むようにすべきです。
SNSの「中の人」が企業と顧客の重要な接点になる!
SNSの「中の人」は、消費者に毎日触れ、このことをひたすら考えている達人です。その試行錯誤から導き出されたノウハウは、SNS運用者だけでなく、マーケターや商品企画、新規事業開発、広報、PR担当など、様々なビジネスパーソンの参考になるはずです。
TwitterやFacebookでの企業アカウントでの活用が始まってから、早10年以上の月日が経過しています。「中の人」と言われるソーシャルメディア担当者の頑張りによって、SNSが消費者と顧客の重要な接点になり、売り上げにも貢献するアカウントも増えています。
SNSマーケティング支援企業のアライドアーキテクツが19年5月~6月に実施したアンケートでは、複数種類のSNSの内、Twitterで最も多く企業公式アカウントをフォローしているというユーザーが、「SNSで見たことをきっかけに企業の商品やサービスを購入したことがある」と答えた割合は76.9%に上りました。企業と消費者のタッチポイントは無数にあるのでTwitterだけを使えばよいとうわけではありませんが、ツイート経由で購入意欲を促進するケースも増えています。
では、ソーシャルメディアで売り上げを上げるためには、どうしたらよいのでしょうか?本書に登場する「中の人たち」は、売り上げを上げるためには、ただ単に宣伝文句を並べていてはダメだと言います。ソーシャルメディアの投稿には雑談的要素が不可欠で、消費者との緩いつながりを作ることが重要なのです。
人気SNSを見てみると、告知やPRよりも雑談やちょっとしたおしゃべりが多いことがわかります。ですが、ただやみくもにコミュニケーションをしているわけではありません。
「中の人」はフォロワーや消費者に対して、「企業よりも近い」絶妙な距離感を保っていることも共通点です。これらはすべて、「中の人」が日々SNSを介して消費者と向き合い、トライアンドエラーでたどり着いた作法です。
セガの担当者は、フォロワーがどう受け止めてくれるかを考え、日々の投稿を行います。例えば、成人の日には、企業アカウントの多くは「当社のこの商品が発売20周年です」と投稿しますが、セガでは、「オシャレ魔女ラブandベリー」のキャラクターに晴れ着を着せた画像を載せて、お祝いのメッセージを投稿しました。17年の成人の日から投稿して3年目になりますが、19年1月はリツイートが2万2000件超、いいね数は5万2000件超と結果を残しました。成人の日に自分の子供の頃の楽しい日々にフォーカスすることで、フォロワーとのつながりを強化したのです。
「中の人」は、もちろん企業人としての意識を持ちながらも、個人の人格を無理に消さず、消費者とコミュニケーションを取っています。この「個」の力がファンを熱狂させ、そして企業を動かす原動力になっているのです。
消費はモノからコト、ヒトへとシフトしています。 消費者から1人の人として見られる 「中の人」が顧客と緩い会話をしたり、ストーリーを語ることで、ファンが増え、応援してもらえるようになるのです。
SNSでファンベースを築こう!
東急ハンズはTwitterの午前10時の挨拶を欠かしたことがありません。投稿を続けることで、フォロワーに「ハンズ、今日も来てるな」と気にかけてもらえ、応援してもらえるようになったのです。投稿ネタは事前に考えるそうですが、予約投稿をあえて使わずに、毎朝投稿するようにしています。リアルタイムに投稿することで、ファンとのやりとりが活性化します。例えば「昨日、ハンズ行ったよI」といったレスがあったら、即座に「ありがとうございます」とお礼を返すことで、ファンに喜んでもらえます。この繰り返しで、マインドシェアが高まり、ハンズの売り上げがアップするのです。
当社の取扱商品は、ハンズでしか買えないオリジナル品は少なく、他店でも売っているものが大半です。どこで買ってもよいものをどこで買うか?そこでいつも目にするハンズのアイコンが思い浮かんで、「ハンズで買ってやろうか」と。そんな感覚、気分がお客さんの中に少しでも芽生えてくれればありがたいと思っています。
東急ハンズの担当者は自分のことを「中の人」ではなく、「そばの人」だと表現します。お客さんのすぐ近くにいる「そばの人」という感覚でコミュニケーションを取ることで、消費者に寄り添えるようになると言います。双方向のコミュニケーションを心がけ、毎日投稿することで、消費者との良好な関係を築けます。
東急ハンズの「企業アカウントの作法10カ条」はとても参考になります。
1.定期的に、時間を決めてお決まりの投稿をする
2.臨場感のある投稿をする
3.自分のキャラを無理に隠ざず、自然体で投稿する
4.自社にまつわるキーワードをエゴサーチして、面白いモノには積極的に返信
5.投稿内容が偏らないように心がける
6.相手の方に合わせ、会話の流れを壊さない
7.自分では解決できない・分からない質問は、必ず該当の窓ロや最寄りの店舗を紹介する
8.SNSでのコミュニケーション・ルールは店頭での接客と同じ
9.メンションやコメントにはできる限り返信する
10.企業アカウントは凹んではいけない
本書の後半には、さとなお氏(佐藤尚之)が登場し、ファンベースの視点で、ソーシャルメディアの価値を解説しています。既存顧客を大事にし、そこから新たな顧客を生み出すファンベース・マーケティングでは、ソーシャルメディアの活用が欠かせません。(佐藤尚之氏の関連記事はこちらから)
SNSは、「ファンベース」の視点で見ても、極めて重要な接点です。ファンベースとは、企業やブランド、商品の価値を熱狂的に支持してくれる「ファン」をベースにして、中長期的に売り上げや価値を高めていく考え方です。「2割のファンが売り上げの8割を支える」というパレートの法則がほとんどの企業で当てはまり、実はファンが売り上げを支えてくれていることが分かっています。今までは新規顧客を狙うことが定石でしたが、日本は人口急減社会に突入し、超高齢化も加速。つまり物理的に顧客の数が減っていく。そんな中での新規顧客の奪い合いはまさに修羅の道です。しかも、情報過多の時代で、キャンペーンは一瞬で”消費”され、一時しのぎにしかなりません。であれば、既に愛してくれ、売り上げを支えてくれているファンに向き合って、支持基盤を固めるほうがずっといい。さらにファンは、自分たちの家族や友人・知人にお薦めし、新たな顧客を連れて来てくれる。新型コロナウイルスの影響で景気の悪化が進む中、今後ますますファンベースの視点が重要になると考えています。(佐藤尚之)
TwitterやFacebookを使い、「共感」「愛着」「信頼」というような感情を高められます。緩い投稿を通じて、消費者と日々接することで、ファンベースが築かれて行くのです。毎朝の挨拶によって、ファン(馴染み客)との交流が生まれます。挨拶という毎日の小さな繰り返しが愛着を育み、常連が集うようになるのです。宣伝やPRではなく日常の何気ないやり取りが、重要になっているのです。
各社の投稿には自社で働く人(社長や開発者)が登場します。企業で働いている人たちが見えてくることは「共感」の獲得に何より重要です。商品やブランドの向こうに企業の中の人たちがしっかり見え、開発の苦労話などのストーリーが透けてくると、人はより共感し、愛着を強く持つようになるのです。ファンを喜ばし、応援してもらうために、自社やプロダクトをストーリにして、SNSで積極的に発信しましょう。
「中の人」の投稿には様々なレスが集まります。これを社員全員が活用することで、新製品が生まれたり、サービスの改善ができ、消費者に喜んでもらえます。「中の人」が活躍すれば活躍するほど、企業と消費者の関係がよくなるのですから、経営者は優秀な人を「中の人」に選び、彼らが働きやすい環境を作るべきです。
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