隔離されたエコーチェンバーが信頼という概念を変化させている。

1970年代、ウォーターゲート事件とベトナム戦争後の時代には、政府と軍に対する信頼が損なわれた。調査会社のギャラップが、銀行やマスコミ、学校、宗教、議会といった大組織をどのくらい信頼しているかをアメリカ国民に聞きはじめたのがこの頃だ。当時アメリカ10人のうちおよそ7人は、国の柱となる組織や制度がほとんどの場合は正しいことをしてくれると信じていた。

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エリート組織が信頼を失う3つの理由

レイチェル・ボッツマンTRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか書評を続けます。この40年で、政治家やメディアへの信頼が失墜しています。多くのエリート組織が今同時に崩壊し、「信頼」の概念が揺れ動いているのです。

2016年ギャラップ調査によるとアメリカの14の組織を信頼していると答えた人は、平均でわずか32パーセントでした。どの組織に対する信頼度も史上最低でした。調査がはじまったとき、国民の75パーセントは、ワシントンの連邦政府が国際問題に正しく対処してくれることにかなりの信頼を持っていました。また70パーセントは、政府が国内問題に正しく対処すると確信していたのです。

このふたつの点への現在の国民の信頼度はそれぞれ49パーセントと44パーセントに低下しています。議会に対する信頼度はさらに低くなっています。1973年の42パーセントから今では9パーセンに急落しています。最高裁に対する信頼度も、1973年の45パーセントから現在の36パーセントへと下落しています。

信頼が崩れたのは政府機関だけではありません。
■銀行 60パーセント→27パーセント
■大企業 26パーセント→18パーセント
■教会 65パーセント→41パーセント
■新聞 39パーセントから20パーセントになっています。

年齢別で見ると、ミレニアル世代がもっとも疑り深いことがわかっています。2015年にハーバード大学の政治研究所が行った調査によると、ミレニアル世代の86パーセントは金融機関を信じていませんでした。4人のうち3人は、連邦政府が正しいことを行うと信じたことは「ときどき、または一度も」ないと答え、88パーセントがマスコミを「ときどき、または一度も」信じたことがないと答えていました。

制度に対する信頼度の低下は、西欧やイギリスにも広がっています。大手調査会社のイプソスはイギリスで30年以上にわたって政治家から美容師まで24種類の職業に対する信頼度を調べていますが、もっとも信頼度が高かったのは看護師で、国民の93パーセントが看護師を信頼すると答えています。

イプソスの調査のなかで、誰よりも信頼されなくなったのは、なんと聖職者でした。1985年にこの調査がはじまったとき、回答者の85パーセントは聖職者は正直だと信じていましたが、2016年の1月には18パーセントに低下していたのです。今の平均的なイギリスは、バスやスーパーで出会う見知らぬ人間のほうが、懺悔室で話を聞く聖職者よりも信頼できると考えているのです。

多くのエリート組織が今同時に崩壊している理由は3つあると著者は指摘します
1、責任の不平等(悪事に対して罰を受ける人もいれば、罰をまぬがれる人もいる)。
2、エリートと権力の終焉(デジタル時代の到来で階層がなくなり、専門家や金持ちや権力者へのやみくもな信仰が薄れた)。
3、隔離されたエコーチェンバー(文化的な同類が寄り集まり、反対意見に耳を貸さなくなった)。
今日はエリートと権力の終焉と隔離されたエコチェンバーについて、トランプを題材に考えてみたいと思います。

なぜ、トランプはアメリカ大統領選挙で勝てたのか?

確立した制度への「信頼の喪失」が今の時代の合言葉であり本物の危機だということは、誰でも知っている。ただし、わたしたちの多くが、「同じような考えを持つ人たち」に囲まれ、同じ情報のエコーチェンバーに囚われ、同じ話を何度も何度も聞かされることで、問題はさらに増幅する。

ソーシャルメディアの普及、その後のアルゴリズムの変更で私たちは同質な意見に囲まれるようになりました。2016年6月にフェイスブックはニュースフィードのアルゴリズムを友人中心に変更しました。ニュースサイトのコンテンツの41パーセントはフェイスブックのフィード経由であることを考えれば、この変更によってマスコミ報道へのコメントとその拡散の範囲が大幅に減ったのです。

この新しいフェイスブックのアルゴリズムが、意見の多様性とわたしたちが目にするニュースを一変させてしまいました。似た者同士の投稿によって、目に付く情報が制限され、自分とは異なる意見を目にしなくなったのです。

つまり、自分と違う考え方や世界観を広げてくれる情報が制限されることになる。人間に本来備わった、似たもの同士が関わりを持ち結び付こうとする傾向を、社会学者は「同類性」と呼ぶ。「似たもの同士」と言っても、民族、年齢、性別、教育、政治的志向、宗教、職業、住む地域など、さまざまな切り口がある。アルゴリズムの改変によって反対意見を目にする機会は減る。それが大統領選挙であろうと、気候変動であろうと、予防接種の安全性であろうと、イスラム過激派組織ISであろうと同じだ。

エコー・チェンバーの中には、異なる視点や自分の信条に反する情報はなかなか入ってきません。私たちはほとんどいつも、賛同できそうな考え方やニュースしか目にしなくなっています。

もし、あなたがトランプの当選なりブレグジットなりに驚いたとしたら、おそらくそれは「フィルターバブル」のなかに生きているのが理由です。「フィルターバブル」とは、作家でバイラルメディアのアップワージー共同創業者であるイーライ・パリサーが提唱した概念です。彼は次のようにフィルターバブルによって、世の中の情報が選別されると述べています。

あからさまな政党偏向、拡大する経済の地域の格差、ニッチな嗜好に合わせたメディアの枝分かれなど、こうしたすべてが情報の選別を自然にし、むしろ避けられないものにしている。(イーライ・パリサー)

マイ・ソサエティの共同創立者でイギリス人インターネット活動家のトム・スタインバーグは、自分自身の例をあげてフィルターバブル現象を説明しています。彼はブレグジット派の勝利を祝っている人を、フェイスブックで必死に探しましたが、見つからなかったそうです。フェイスブックのアルゴリズムは彼がブレグジット派でないと判断しました。フィルターバブルはものすごく強力で、フェイスブックのカスタム検索の中に入り込んでいるのです。実際には、イギリス国民の半分が歓喜していたにも関わらず、彼らを見つけることができなかったのです。

恐ろしいことに「自分に似た人」をもっとも信頼できる情報源だと考える人が増えていいます。エデルマン信頼指標によると、友だち、たとえばフェイスブックの友だちは国家元首より2倍も信頼されているのです。一般人のほとんどは新聞や雑誌に頼らず、自分の意見を裏付けてくれるようなオンラインコミュニティを選んでいるのです。わたしたちは自らの偏見の餌食となっているばかりか、自身の怒りをさらに燃え上がらせるような情報を見るようになっています。制度への不信はさらなる不信を呼び、ぞっとするような情報が繰り返し拡散され、信頼という概念が変わってきています。

伝統的な権威への信頼が危機に陥った2016年に、トランプが大統領選で勝利したのは偶然ではありません。リアリティ番組「アプレンティス」のボスであり、ツイッターでデマを流して恥じないトランプは「社会を揺るがし」、オバマのやり方を変えると宣言しました。

イスラム教徒のアメリカ入国を禁止し、オバマケアを廃止するとぶち上げ、今アメリカを率いている「とても、とてもバカなやつら」(オバマやクリントンの民主党)の正反対の存在になると約束したのです。選挙期間中「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(偉大な国家アメリカを取り戻す)」というスローガンを繰り返しました。「思ったことをそのまま口にする」というトランプの「裏表のなさ」に多くの人が惚れ込み、実際に当選してしまったのです。多くのメディアは開票途中までこの当選を信じませんでした。トランプは「正しそう」な感じを示すことで、アメリカ国民の信頼を勝ち得たのです。

一方、前大統領夫人であり、上院議員であり、国務大臣だったエリートのシンボルのヒラリー・クリントンは、信頼を武器に戦いました。しかし、彼女は、多くの人がもはや信頼を置けなくなった権威を象徴する存在でしかありませんでした。上院議員時代のイラク戦争への賛成票、ベンガジ攻撃の際の対応、クリトン財団のあやしげな人脈、個人の電子メールサーバーの利用(とメールの消去)、彼女が規制すると約束したウォール街の投資銀行から、多額の講演料を何度ももらっていたこと、それらすべてが、ヒラリーをいかにも古臭い政治家に見せていたのです。権威が失墜する時代に、その権威で勝負したのが、ヒラリーだったのです。

映画監督のマイケル・ムーアは選挙の12ヶ月も前に、ヒラリーの敗北を予測していました。

正直に言おう。一番大きな問題はトランプではない。ヒラリーだ。ヒラリーは嫌われている。有権者の約7割は彼女を信用できない嘘つきだと思っている。「ヒラリーは古い政治のやり方を体現している。選挙に勝つことしか考えてないってことだ。(マイケル・ムーア)

専門家とは正直で、誠実で、人々の利益を一番に考える人物でなければなりません。しかし、最近の専門家は既得権益につながっていると考えられ、著しく信頼を失っています。ブレグジットとトランプ当選という2つの変化が、史上最大の信頼の転換だったのです。信頼と影響力は今、制度より個人に置かれるようになったのです。

しかし、あなたのフェイスブックに表示される情報は自分の好きなものに偏っています。あまりに友人の投稿を信じると痛い目に会うことを忘れないようにしましょう。タイムラインの情報を鵜呑みにせずに、自分の情報源を確認し、自分の頭で考えるようにすべきです。

まとめ

フェイスブックのアルゴリズムの変更で、文化的な同類が寄り集まり、私たちは反対意見に耳を貸さなくなりました。同じ情報のエコーチェンバーに囚われ、同じ話を何度も何度も聞かされることで、自分の情報が正しいと考えがちです。しかし、全く違う意見が世の中には存在します。反対意見もしっかりと見るように自分の情報ソースを広げ、失敗を防ぎましょう。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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