ヘイミッシュ・マッケンジーのINSANE MODE インセイン・モード イーロン・マスクが起こした100年に一度のゲームチェンジの書評

INSANE MODE インセイン・モード イーロン・マスクが起こした100年に一度のゲームチェンジ
著者:ヘイミッシュ・マッケンジー
出版社:ハーパーコリンズ・ ジャパン

本書の要約

テスラに勤務した経験のあるジャーナリストのヘイミッシュ・マッケンジーは、テスラによる電気自動車の革命の歴史を本書にまとめました。環境を守るというビジョンを示し、持続可能エネルギーを使った車を大量生産したテスラは、世の中を確実によい方向に変え始めています。

テスラ車は車輪のついたコンピュター

インターネット方面へ向かう起業のエネルギーや投資はいくらでもあるが、自動車や太陽光や宇宙といった部門には、新たな参入が見られない。(イーロン・マスク)

テスラ出身ジャーナリストのヘイミッシュ・マッケンジーが、イーロン・マスクの実態を本書で明らかにしました。マスクはジョブズとは違った形でイノベーションを起こしています。彼は移動手段や宇宙旅行のあり方を根本から変えようとしているのです。

著者はテスラ車を車輪のついたコンピュターと表現します。デジタル制御装置、インターネット接続、ソフトウエアのアップデート、タッチスクリーンなどテスラは既存の自動車メーカーとは異なるアプローチで車を開発しています。

テスラのモデルSは発売時から熱狂的なファンに支えられ、人気になりましたが、走行距離と充電という課題がユーザーには付き纏いました。電気自動車は長距離移動には向かないという常識をテスラは車を売るために、壊さなければなりませんでした。

テスラは電気自動車をより多くの人に販売するために、バッテリーチャージという課題を解決します。同社は世界規模の「スーパーチャージャー」のネットワークを作るというコンセプトに思い至ったのです。モデルSを家庭でフル充電しようとすれば、電力容量が限られるせいで何時間もかかってしまいますが、スーパーチャージャーは120キロワットの電力をじかにバッテリーに注入するので1時間もかからずにすみます。このスーパーチャージャーを需要のありそうな場所すべてに設置するのがテスラの目標で、最近では街中でテスラを充電できるようになっています。テスラはガソリン車に対抗するために、2017年1月以前にテスラのSモデルとXモデルを買ったユーザーにスーパーチャージャーでの充電を無料にしています。

2017以降の購入者は、年間400キロワット時(約1600キロメートルに相当する)が無料になり、それを超える分だけ料金の支払いを求められます。テスラはまた、スーパーチャージャーを店やレストランの近くに配置し、車のオーナーたちが充電を待つあいだに買い物や食事を楽しめるように配慮しています。離れた場所にいても、ユーザーはテスラのスマホアプリを使えばどこまで充電が進んだかをチェックできるようにしたのです。テスラはテクノロジーを進化させることで、電気自動車の課題を次々解決し、顧客体験をアップしていったのです。

BMWやトヨタ、メルセデスなどの競合の既存自動車メーカーはテスラにこの分野で追いつけるのでしょうか?電池のテクノロジーについては、他の自動車メーカーがテスラに追いつくのは難しいと著者は指摘します。テスラは自前の生産施設を持ち、少なくとも4年早く他社よりも開発のスタートを切っており、この差は埋まりそうにありません。

他の自動車メーカーがワイヤレスで顧客のソフトウェアをアップデートするのにも時間がかかりそうです。モデルSが2012年に売り出されて以来、全車両からデータを集めて学んできたテスラを向こうに回して、既存のメーカーが簡単に優位性を発揮できるとは思えません。

EVの全輪駆動車はまだ、テスラ以外のどこからも生産されていません。充電スタンドのネットワークに2012年から取り組んできたテスラに対し、他メーカーの準備は整っていません。アメリカでは、消費者に直接販売を行ったり、アップルに似た自前の店舗を作ったりしてきた会社もありませんし、テスラほどEV関連のサービスの知識を広く持っている会社も存在しないというのが現実です。

明日かりにテスラがなくなったとしても!

この株を持ってはいけません!信用取引もしてはいけない!借りるのももってのほかです!この会社はまだ1063台のクルマしか売っていないのだ。(ジム・クレイマー)

テスラの歴史は資金ショートとの戦いでした。リーマンショックで資金調達の方法が限られる中、2009年はテスラにとって、最大の危機と言える1年でした。今では世界2位の資産家になったイーロン・マスクはテスラに投資した大量のマネーを溶かし、倒産の危機に怯えながら、ダイムラーやトヨタからの出資でなんとかテスラの経営を維持します。

テスラが最初の株式公募を行った2010年6月29日の前日、CNBCの番組「マッド・マネー」のホストのジム・クレイマーは視聴者に向かって、テスラ株には手を出さないようアドバイスしました。しかし、投資家たちはクレイマーのアドバイスを無視し、テスラ株を購入します。市場が閉まるまでにテスラの株価は23.89ドルまで上がり、2億2600万ドルという資金の調達に成功します。

モデルSを生産するあいだテスラは赤字続きで、工場での車を大量生産する道筋をつけられずにいました。IPOからの1年間に1億5850万ドルの株を売却し、2013年には資金が底を突きかけ、グーグルへの身売りも検討されたほどです。

2013年には初めて四半期決算が黒字になり、モデルSがコンシューマーリポートで最高の車だと評価されます。翌年には中国やイギリスでもテスラが販売され、7万台を超える車が路上を走るようになっていたのです。その結果、テスラの株価は291ドルをつけ、テスラの経営は落ち着き始めます。

テスラ・モーターズはよちよち歩きのスタートアップから、巣立ちした伝説へと姿を変えた。マスクは破産寸前の状態から一躍テック業界の英雄となった。

未来は太陽光を活用することで、無料で長距離旅行を楽しめるようにするのが、イーロン・マスクの野望です。ガソリンに頼らぬ移動手段を人類が獲得するというイーロン・マスクのビジョンと現実を動かす力が、多くのファンを引き寄せ、テスラは不動の地位を手に入れました。

アメリカ最大の自動車マーケットであるカリフォルニア州で、2020年の第1四半期に最も売れた車は、テスラのモデル3でした。 3カ月間の販売台数は1万8856台で、2位のホンダシビックが1万8001台でした。 さらに驚くべきことに、モデル3はアメリカ全体でも同時期のベストセラーカーの8位にランクインしていたのです。

マーケットもこの現実を評価し、2020年にはテスラの株価は1年間で7倍あまりになり、この12月にはS&P500にも採用されました。いまだにテスラの株価の評価はウォール街でも割れています。しかし、2010年のIPOからの投資リターンは1万8000%という驚異的な数字になっています。

かりにテスラが明日死んだとしても、この会社は所期の目的をすでに成し遂げている世界の持続可能な移動手段への移行を加速させることを。電気自動車のすばらしい可能性を世界に納得させた。航続距離への不安、不十分なインフラ、コストへの心配にからんだ昔ながらの反対論を乗り越えた。従来の自動車メーカーに電気推進へ舵を切る必要性を示し、そしてマスクの会社がやってきた仕事の上に何かを築こうとする新世代の起業家たちを奮い立たせた。

著者はイーロン・マスクがいたからこそ、電気自動車が日の目を見たと言います。マスクの存在が新たな起業家を奮い立たせ、環境ビジネスやロケットビジネス、電気自動車の世界を広げたのです。持続可能なエネルギーを使った車を大量生産し、環境を守るというビジョンを示したテスラは、世の中を確実によい方向に変えています。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
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「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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