馬田隆明氏の未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則の書評


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未来を実装する
著者:馬田隆明
出版社:英治出版 

本書の要約

社会実装を成功させたければ、徹底的にインパクトにこだわるべきです。デマンドサイドに立ち、以下の4つの原則を取り入れましょう。 ①最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している ②想定されるリスクに対処している ③規則などのガバナンスを適切に変えている ④ 関係者のセンスメイキングを行なっている 

インパクトから始めることが大切な理由

社会実装とは、端的に言えば、新しい技術を社会に普及させることです。(馬田隆明)

テクノロジーをイノベーションとして捉えるだけでは、生活者からの支持を得られず、なかなか普及しないというジレンマに陥ります。よい技術を開発しても、人々にそれを使ってもらえなければ、意味はありません。社会の中で新しいテクノロジーをどう包摂するかという視点を獲れない限り、折角、開発したテクノロジーが宝の持ち腐れになってしまうのです。

テクニカルエバンジェリストとしてスタートアップ支援を行っている馬田隆明氏は、テクノロジーの社会実装プロジェクトで成功した人たちには、以下の共通点があるといます。
■よりよい未来をつくることを目的としている
■社会の仕組みに目を向け、人々とともにプロジェクトを進めている

成功者たちは、テクノロジーを社会に実装しようとしていたというより、テクノロジーが生み出す新しい社会、つまり「未来を実装」することを目指していたのです。

そもそも課題とは、現状と理想のギャップです。理想がなければ、課題は見つかりません。逆に、良い理想があれば、良い課題や良い問いが生まれます。つまり、課題や問いを見つけるためには、理想を定める必要があります。良い問いを「見つける」というよりも、優れた理想を設定することで、良い問いを「生み出し」、理想を「提示する」ことで人々を巻き込むのです。そしてこの理想が、今注目される「インパクト」と呼ばれるものです。

テクノロジーの進化に比べると、社会はゆっくりとしか変化できません。社会を変えるためには、人々を巻き込む必要があります。そのために、起業家はインパクトを提示しながら、イシューを解決できることを人々に伝えなければなりません。

ものよりの発想をやめ、未来をよりよくできることをストーリーにして語りましょう。Whatだけでなく、Howの視点を取り入れ、テクノロジーが変える未来を丁寧に説明すべきです。未来の理想を描き、そのインパクトを人々に提示し、そこから逆算して、普及させることで、人々がそこに向かって動くようになります。

テクノロジーのイノベーションではなく、社会の考え方のイノベーションを人々に伝えることで、共感が生まれ、結果、そのテクノロジーが普及していくのです。社会の仕組みを変えなければ、テクノロジーは人々から受容されません。

成功する社会実装の4つの原則と一つの前提

(1)規制や政治への関わりが増えること、(2)社会的インパクトが重視されるようになっていること、そして(3)社会との調和的な社会実装が求められるようになっていること、という変化が起こる中で、民間企業がソーシャルセクターに学べる点は大きく2つあります。1つ目は社会的インパクトを出す方法、2つ目は規制や政治との関わり方です。

非営利組織は社会的インパクトを達成するための、試行錯誤を重ねながら、サポートを増やしてきました。民間企業は非営利組織のこのやり方を学ぶことで、社会的インパクトを生み出す方法をより効率的に学べると著者は言います。民間企業と政府、ソーシャルセクターの三者が協働することで、よりよい社会を実現できます。

難しい課題に取り組むことで、より多くの応援を得られるようになります。スタートアップもMTP(壮大な変革目標)を設定することで、優秀な人材が集まり、結果、大きな課題を解決できます。テスラは「持続可能なエネルギーへ世界のシフトを加速する」というMTPを提示し、社会課題を解決することで、世の中の仕組みを変えようとしています。社会が環境を意識する中、イーロン・マスクの取り組みが徐々に評価され、この数年でEVを選ぶことが当たり前になってきました。

テクノロジーの社会実装は、テクノロジーそのものだけではなく、テクノロジーと社会とをどう接合させていくかを考えなければうまくはいきません。テクノロジーは確かに社会の姿を変えますが、それと同時に、社会がうまく変わらなければテクノロジーをうまく受容できないのです。

テクノロジーを社会に普及させると、テクノロジーによって様々な人がエンパワーメントされるからだと考えています。 私たちはテクノロジーの力によって、これまで生きるために行っていた仕事を減らしたり、なくしたりすることができています。それが社会実装による人のエンパワーメントの結果です。 そしてテクノロジーが社会に普及するにつれて、多くの人がテクノロジーによるエンパワーメントを受けることができ、その結果、より多くの人たちのウェルビーイングが向上するようになってきたと言えるでしょう。

著者は社会実装で成功するための4つの原則と前提を明らかにしています。
①最終的なインパクトと、そこに至る道筋を示している
②想定されるリスクに対処している
③規則などのガバナンスを適切に変えている
④関係者のセンスメイキングを行っている
社会実装をしようとしているテクノロジーに対するデマンドを前提にし、人々にインパクトを与えることを考えるべきです。テクノロジーで社会を変えるだけではなく、テクノロジーを活かせる社会をつくることで、人々から受容されるようになります。

うまくいかなかった社会実装では、サプライサイドの視点が強かったことがわかっています。逆にうまくいった社会実装では、デマンドサイドであるユーザーに寄り添って、サービスが提供されていました。社会実装をするときに、まず「サプライサイドからデマンドサイドへ」と発想を転換しなければなりません。

成功した社会実装の例では、起業家や事業者はあくまで課題に対して強くこだわり、解決策はどのような手法でもよさそうであれば採用したい、という態度が強く見て取れました。また課題解決を第一として、利用する技術へのこだわりがなかったの も特徴的です。成功した社会実装のプロジェクトの多くは、単一で最新の技術ではなく、すでにある技術の組み合わせや、技術とビジネスモデルとの新しい組み合わせを活用しながら、課題の解決を試みていました。

デマンドサイドの視点に立った社会実装でなければ、顧客に受け入れてもらえません。 デマンドがある前提で、長期的な目的や理想であるインパクトについて考え、それを達成するための適切なガバナンスの方法を示しながら、そのインパクトとガバナンスの在り方を関係者にセンスメイキング(腹落ち)してもらうことが重要なのです。

社会実装のためには、「D × V × F > R」という『変革の方程式』 が有効です。
D=Dissatisfaction(不満)
V=Vision(ビジョン)
F=First Step(最初の一歩)
R=Resistance to change(変化への抵抗)

不満が大きく、 ビジョンが魅力的で、 最初のアクションが明確にならないと、 過去慣性や変化への抵抗を打破できません。
1、ビジョンやインパクトが十分に納得度の高いものでないと、変化への抵抗を超えられず、変革は成し遂げられません。
2、インパクトの特徴である「長期的な」成果に目を向けることで、短期的な費用便益(コストベネフィット)のバランスの合わなさを補填できます。
3、目指すべきインパクトがあることで、関係者に目的を説明できるようになります。目的の説明がないまま何かの社会実装を進めてしまうと、大きな反発を招きます。
4、インパクトを示すことでデマンドを醸成することができます。デマンドとは課題に対する解決の欲求です。課題がなければデマンドは生まれませんが、その課題をはっきりさせるためにインパクトの設定が重要になります!

自社のテクノロジーを普及させるためには、社会からの共感を得ることが欠かせません。ソーシャルセクターが実践しているやり方を見習い、徹底的にインパクトにこだわりましょう。

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