パランティア・テクノロジーズはなぜ強いのか?変貌する未来 世界企業14社の次期戦略 新しい世界の書評


変貌する未来 世界企業14社の次期戦略 新しい世界

著者:クーリエ・ジャポン 
出版社:講談社

本書の要約

パランティアのソフトウェアによって、クライアントは膨大なデータを統合し、分析することで人間でも見落としてしまうパターンを見つけ出せるようになります。政府や企業はこの技術を評価していますが、一方、人権派はプライバシー保護の観点から同社への批判を強めています。

謎めいた会社のパランティアの実態とは?

この会社を作ったのは西側諸国を支えるためでもあるんです。(アレックス・カープ)

「未来を加速させる世界企業の戦略を読み解くことで、コロナ後の世界の輪郭が浮かび上がってくるはずだ」とクーリエ編集部は考え、世界の14企業の戦略を世界の主要メディアから厳選された記事から集めます。今日はこの中から、あのピーター・ティールが創業したパランティア・テクノロジーズを取り上げます。

パランティア・テクノロジーズ (PLTR)は得体の知れない会社だと言われています。昨年、アメリカの株式市場に上場した時も、同社の技術は評価されましたが、CIAやトランプとの関係が批判されていました。しかし、株価は順調に推移しています。

パランティアはいまだ黒字になったことのない会社でしたが、今回上場を果たしたのは、バイデン政権が発足すると連邦政府との仕事が減るのではないかという懸念があったからだと言われています。

同社は2003年にスタンフォード大学ロースクールの同期であったピーター・ティールアレックス・カープによって設立されたデータ分析企業です。社名はトールキン『指輪物語』の遠見の石に由来しています。CIA、クレディ・スイス、エアバスなどの有名企業がクライアントとして同社のソフトウェアを活用しています。

ピーター・ティールはペイパルの創業者でしたが、ペイパルの詐欺対策アルゴリズムを使えば、米国政府の対テロ戦争に役立つかもしれないと思いつきます。2001年9月11日の米国同時多発テロ事件後、ティールはPayPal出身者のソフトウェア・エンジニアにプロトタイプを作ってもらいました。ティールの直感と、この3人組のプログラミング能力から生まれたのがこのパランティアだったのです。出資金の一部はCIAのベンチャーキャピタル部門「インキューテル」の出資で賄ったため、革新派から批判を受けるようになっています。

ウサマ・ビンラディンの所在地を突き止めたのがパランティアの技術だったという噂が広く知られていますが、その噂の真相はこれまで一度も明らかにされていません。それがこの会社に謎めいた雰囲気を持たせています。パランティアを使って。テロ対策をしている西側諸国は複数あり、これまでに数件のテロ攻撃を阻止するのに貢献してきました。

「ゴッサム」と「ファウンドリー」というソフトウエアによって、パランティアは膨大なデータを統合し、分析することで人間でも見落としてしまうパターンを見つけ出せるようになります。個人情報を扱う面もあるために、プライバシー保護の観点から問題視されることが多くなっています。

「この会社を作ったのは西側諸国を支えるためでもあるんです」とCEOのカープは発言していますが、パランティアは、米国とその同盟国に敵対するとされる国々、つまりロシアや中国とはビジネスを行なっていないといます。

最近では、新型コロナウイルス感染症対策にも同社の技術が使われています。2020年4月の時点で、世界の十数ヵ国がウイルスの追跡を封じ込めのためにパランティアの技術を利用していました。パンデミック対策に迅速に取り組めたのは、同社のソフトウェアが、あらゆるタスクに融通が利くという特徴があったからです。

主なクライアントと利用目的は以下になります。
■米国の陸軍→兵姑に活用
■投資銀行クレディ・スイス→マネーロンダリング対策、
■製薬大手メルク→新薬開発のスピードアップ
■スクーデリア・フェラーリ→F1カーのスピードアップ

パランティアの従業員はパランティリアンとも呼ばれていますが、彼らは世の中のデータ統合に問題があると考え、これを解決することに注力しています。一方人権派は同社を批判します。CIAと繋がりや医療データなどさまざまな個人データを解析しているため、プライバシー保護の観点から問題ありだと思われています。パランティアはビッグデータ革命における代表的な悪役として、メディアや人権派から叩かれています。

トランプ政権との関係の深さも同社への批判につながっています。米国では保健福祉省がパランティアのソフトウェアを使ってウイルス関連のデータを分析してきました。革新陣営の活動家や連邦議会議員に言わせれば、トランプ政権が保健福祉省のデータを利用して移民の取り締まりを強化するおそれがあると言います。また、パランティアが競争入札ではなく随意契約で約2500万ドルのこの契約を結べたのは、ピーター・ティールがトランプ大統領の支持者だったからという指摘もあります。米国のリベラル派の問では、パランティアはトランプ大統領との結びつきがある胡散臭い会社だという見方が根付いているのです。

しかし、創業者の一人であるカープは、ティールとは対照的に、「革新陣営の闘士」を自負してきました。カープは2016年の大統領選ではヒラリー・クリントンに投票し、トランプに対する批判も口にしてきました。カープはファシズムの台頭を抑えたいと考えていますが、同社は逆な印象を持たれています。そのため、革新派の多くはこの会社を有害だとみなすようになっています。

パランティアの強みは何か?

パランティアのソフトウェアを使えば、「世界の難題」も解ける、というのが同社の謳い文句です。同社のソフトウェアがするのは、組織が集めたデータを1つにまとめあげることです。

統合するデータは5~6種のときもあれば、数百種に及ぶこともあります。電話番号、取引履歴、帳簿書類、写真、テキストメッセージといった、さまざまなタイプの情報が、それぞれ異なる形式で、別々のデータベースで保存されています。

パランティアのエンジニアは、それぞれのデータベースを結び合わせるバーチャルな水道管を組み立て、これらの情報を一つのプラットフォームにスピーディにまとめあげています。

米保健福祉省のC10(最高情報責任者)を2020年8月まで務めたホセ・アリエッタによると、パランティアは新型コロナの流行に関連する約20億のデータ要素を3週間足らずで統合できたと言います。データが統合できれば、その情報は表、グラフ、タイムライン、ヒートマップ、Aーモデル、ヒストグラム、レーダーチャート、空間分析ツールなどですぐに表示できます。同社のインターフェースはとても優れていて、使いやすくなっています。

パランティアはそれほど大きい会社ではありません。従業員は約2400人でクライアントの数も上場時の資料によると同社のクライアントはたったの125でしありません。パランティアの利用料は決して安くありません。クライアントは同社に毎年、1000万ドルから1億ドルを支払う必要があります。

パランティアを支持する会社もあれば、離れる会社もあります。利用をやめた会社には、ホーム・デポ、ハーシー、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレスなどがあります。

しかし、パランティアのソフトウェアなしではやっていけないと考えるクライアントもいます。航空宇宙産業の大手エアバスはその代表格です。同社は2016年、新型の旅客機「A350」の生産強化のため、パランティアを使いはじめました。組立ラインの航空機の数が1機から10機に増えると、複雑性が指数関数的に増え、それに振り回されてしまうことが多くなると言います。部品の欠損や不良部品、生産のミスやコミュニケーションの行き違いなどの問題が生じると、組立プロセスに遅れが出て、数百万ドルのコストが余計に出てしまつののです。航空会社への引き渡しが遅れれば、違約金やら損害賠償やらの支払いも求められますが、パランティアを使うことで、そのリスクを下げられます。

アレックス・カープとピーター・ティールは、パランティアの創業初期に2つの大きな目標を掲げました。
①米国をテロから守るソフトウェアを作ること。
②テクノロジーを使えば、治安と市民的自由のバランスをどうとるかという問題を解決できると示すこと。
ティールとカープは、プライバシーを保ちながらも人命を救えるソフトウェアを作りたかったと言います。

パランティアのソフトウェアには2つの主要なセキュリティ機能があります。1つは、ユーザーがアクセスできるのは、見てもいいと許可されている情報だけに限られること。もう1つは、誰かが見る権限を持たない情報を見ようとしたらそれがわかるように追跡記録を作りだすことです。

データは、クラウド・サービスや顧客のサーバーに保管され、そのデータを管理するのは顧客自身で行わなければなりません。パランティアは、自社のプロダクトがどのように使われるのかを監視しません。また、プライバシー保護も完璧というわけではないということを忘れてはいけません。

最近では、パランティアは米国の警察に同社のソフトウェアを売り込んでいますが、もともと対テロ戦争用だった兵器が、米国の市街で使われるようになったのです。対テロ用のツールが米国で暮らす一般市民に向けられているのです。

同社のソフトウェアを使用する側は、パランティアを積極的に支持します。パランティアは、クライアントにとっては、仕事を効率的に進め、利益をもたらすツールであることは間違いありません。一方人権擁護派からは、人権を侵害する加担者にしか見えません。

2020年10月にノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画に言わせれば、パランティアのテクノロジーは、今回のパンデミックで、食料や物資を必要とする人に分配するうえで鍵となる役割を果たしたと言います。このようにパランティアがしていることは複雑であり、謎の部分も多いのです。「ソフトウェアと難局が重なり合うところにパランティアの居場所はある」とカープは指摘しますが、世の中が複雑になることで、同社のソフトウェアの役割は高まっています。プライバシー問題への批判は避けては通れませんが、同社は2025年までに30%の成長を果たすと予測されています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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