森川潤氏のグリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かすの書評


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グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす
森川潤
文藝春秋

本書の要約

新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた欧米のグリーン・ジャイアントたちは、世界のエネルギーが転換期を迎えることにいち早く気づき、10~20年前から再エネへと一気にシフトしました。彼らは最新のテクノロジーを活用しながら、カーボンニュートラルを目指しています。

グリーンジャイアントとは何か?

新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた企業たちを「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼ぶ。いずれも、世界のエネルギーが転換期を迎えることにいち早く気づき、10~20年前から再エネへと一気に舵を切った企業である。そして、今、ようやく時代が追いつき、彼らはすでに世界のエネルギー変革の主役となっている。(森川潤)

欧米で「脱炭素」の動きが加速する中で、日本でもようやくカーボンニュートラルへの取り組みが動き始めました。5年以上も前から、欧州を中心に、政治、経済、金融システム、ライフスタイルまでがカーボンニュートラルを前提にした仕組みに再構築され、世界各地に広がっています。最近では、テスラのイーロン・マスクはカーボンニュートラルではなく、カーボンネガティブを目指すと宣言しているほどです。

各国の目標は「産業革命前と比べ、平均気温の上昇を1.5℃以下に抑える」ことであり、そのために2050年までに「温室効果ガス(GHG)の排出を実質ゼロにする」というのが、一つの大きな流れとなっています。 

グリーン・ジャイアントの一社のネクステラのCEOのジェームズ・ロボは今後、さらに再エネや電気自動車、水素を通じて、エネルギー業界の「再構築」が進んでいくと予言しています。 ネクステラはすでに、クリーンな電力を提供しながら、低コストを両立し、経済的にも成功できることを証明してきました。同社はクリーンで安価な『サステナブル・エネルギー時代』の構築の先頭を走っており、米国経済のあらゆる領域で起きている『破壊』の最前線に立ち続けているのです。

現在、ネクステラは、米国の約20州とカナダの4州に再エネの発電所を持ち、合計2200万キロワットの発電能力を備えています。これはギリシャー国分を上回っていると言います。そして2001年には、米国の電力会社で30位の時価総額に過ぎなかったのですが、今やダントツの1位に位置しているのです。

ネクステラは「再エネ専業」ではなく、天然ガスによる発電も行っています。例えば、まだ独占供給が続くフロリダ州では、子会社を通じて原発や天然ガス発電から稼ぎ、その利益を再エネにつぎ込むことで、他にはないレベルの投資を実現しています。

現在、世界最大の売上高をもつ電力会社は、イタリアのエネル(Enel)です。半世紀以上前の1962年に誕生し、国営の電力会社となったが、その後民営化されています。紆余曲折を経ながら、2014年に再エネ部門のトップがCEOに就くと、エネル・グリーン・パワーの一部を速やかに買い戻し、再エネのイノベーションを活用しながら、補助金のない地域にも進出しました。今や、イタリア国内や欧州だけでなく、南米に北中米、アジアも含め、再エネの発電容量は4860万キロワットに上っています。このように欧米のグリーンジャイアントは、再エネ活用を進め、カーボンニュートラルを実現しようとしています。

テクノロジーが変える再エネの未来

2021年5月18日、国際エネルギー機関(IEA)が発表したロードマップは衝撃的でした。2050年までのカーボンニュートラルを念頭に、世界で初めてエネルギー変革を包括的に研究した行程表「Net Zero by2050」では、エネルギー業界を始め、あらゆる産業界の形を根本的に変えかねないポイントが列挙されていました。
●新規の化石燃料供給プロジェクトへの投資を即時取りやめる
●CO2削減対策のない石炭関連プラントへの投資決定を行わない
●2030年までに世界の自動車販売の60%を電気自動車にする
●2035年までにガソリン駆動の乗用車の新規販売を停止する
●2040年までに世界の電力部門におけるCO2排出のネットゼロを達成する
●2050年までに発電の約90%を再生可能資源由来にする
●2050年には太陽光と風力を発電の70%にする
●総エネルギー供給で現状5分の4を占める化石燃料を、2050年に5分の1に縮小する

もし、宣言各国がカーボンニュートラルを実現したとしても、2050年にはCO2が220億トン分排出され、2100年には世界の平均気温が50%の確率で2.1℃上昇すると言います。IEAは「これ以上取り組みが遅れれば、2050年までのネットゼロ達成は困難になる」と指摘しています。石油界の権威ともいえるIEAが、新規の化石燃料プロジェクトへの投資の即時停止を求めていることに注目すべきです。

2021年は、再エネへの投資額が化石燃料を超える初の年になるとゴールドマン・サックスは予測します。2024年には再エネによる発電が、石炭、そして石油・ガスを抜く見通しとなっています。太陽光発電と風力発電が今後主力となることは間違い無いのですが、東日本大震災でエネルギー政策を変えた日本は、この分野で完全に出遅れてしまっています。

気候変動というのは、テクノロジーの問題である。(パトリック・コリソン)

2021年3月に時価総額10兆円を記録し、アメリカ最大のスタートアップ企業となった金融決済インフラ、ストライプ(Stripe)の創業者であるパトリック・コリソンが指摘するように、気候変動対策が次なるテクノロジーのフロンティアとなりつつあることは間違いありません。投資家もESG投資の観点から、この分野への投資を増やしています。

グリーンテクノロジーのイノベーションの担い手はミレニアル以下の若い世代となります。日本と異なり、アメリカはミレニアルやZ世代の人口が多く、この世代がグリーンテクノロジーを牽引しています。日本は若い世代の人口が少なく、再エネに関する空気が醸成されていないことも、グリーンテクノロジーの普及を妨げています。

アメリカはつい昨年まで、気候変動自体を否定していたトランプが大統領をしていましたが、バイデン政権に変わった途端グリーンシフトをしています。テクノロジー先進国のアメリカが、政権交代をきっかけに、一気に気候対策にシフトする中、日本に残された時間は少なくなっています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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